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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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冒険者

「……ドラゴン、か」


 俺の横に座る5人のパーティーメンバー達は全員息を呑んで顔を引きつらせ、体を強張らせている。

 まあドラゴンだからな。こんな反応になるのも頷ける。


 だが俺はドラゴンと聞いてもそこまで緊張はしなかった。

 今まで散々強い魔王と戦ってきたんだ。今更ドラゴンの魔王なんて出てきても俺にはどうでもいいことだ。

 それにドラゴンもどきのバジリスクとも戦ったりしたわけだしな。別に驚いたりしねえ。


「……お前はドラゴンと聞いて驚かないのか?」


「驚かねえよ。どんな魔王だろうが出てきたらやることは一緒だ」


 もしそのドラゴンが街に解き放たれたら問答無用で倒すだけだ。


「俺は魔王を倒す。そのためにここまで来たんだからよ」


 そして俺らが元の帰るためにだ。

 そんなこと目の前にいるフィリップに言ってもわかんねえだろうから言わないけどよ。


「そうか、頼もしいな。だが魔王は我々が絶対に外に出さん。サディアードとフォーテストでは後れを取ったようだが、ここファイブレイブでは絶対に謎の集団の侵入を阻止する」


「謎の集団……か」


 それは『解放集会』の連中の事か。

 つまりアイツらはコイツら騎士団連中を直接相手取った後に魔王を復活させていたということか。

 確かにアイツらが攻め込んできたら街の騎士団連中で敵うような相手じゃねえから、今までの街で魔王が解き放たれるのを食い止めることができなかったのにも頷ける。


 ただ……


「なあ。まだこの街が魔王の被害に会っていないんだったらよ、今からでも外部の人間と手を組んだほうがいいぜ。今ならまだ間に合う」


 外部の人間と手を組む。より厳密に言えば俺らプレイヤーと手を組んだほうがいい。というか組むべきだ。

 終達『解放集会』の幹部連中には敵わなくとも、下っ端の雑兵どもを蹴散らす程度なら普通のプレイヤーでも十分できる。

 だからプレイヤーと手を組んで教会跡地を警戒したほうが良い。コイツらだけで警戒させるんじゃ心配だ。


 ……だが実際のところどうなんだ?

 俺らは全ての魔王を倒し、そして大魔王を倒さない限りは元の世界に帰れない。

 そうなると必然的にこの街に潜むドラゴンの魔王も倒さないといけなくなる。


 まあそれは後でおいおい考えるか。

 どうせ今すぐ倒さないといけないってわけじゃねえんだからよ。


「……それは俺の一存では決められないが、善処しよう」


 だがフィリップはどうとでも取れる言葉を吐いてこの話を終わらせようとしやがった。


「いや善処じゃなく、やれ。じゃねえと魔王の件を街中にバラすぞ」


 弱い言葉を発したフィリップに向かって、俺は命令口調でそう脅した。


「!!! い、いや待て! それは困る! そんな事をしたらどうなるかくらいお前達にもわかるだろう!」


「ああ、わかってるさ。魔王が解き放たれたらどれだけの人間が死ぬのかってことぐらいはな」


「ぐ……」


 俺の言葉にコイツも反論できないようだ。


 反論したくても反論できねえだろうよ。

 だって俺の言ったことは既に他の街で何度も繰り返されてきた事実なんだからな。


「だ……だが……街の住民を無闇に混乱させるわけには……」


「……ハァ」


 ようやく搾り出したセリフがこれか。

 さっき言ったことと同じ事を言ってやがる。


「なあ、てめえはそんなに上に睨まれるのが怖いか? 日和見主義なのか? てめえにとっての騎士団ってのは給料貰うためだけにやってる誇りも何もない仕事なのか?」


「! そ、そんなことはない! 俺はこの仕事に誇りを持っている! 若造がわかったような口を利くんじゃない!!!」


 見た目的に20そこそこなフィリップは俺に向かって怒鳴りつけた。


「てめえも十分若いと思うんだけどな……てのは置いといてだ。てめえはそんなことはないと胸張って言えることしてると、本当にてめえ自身でそう思えるのか?」


「そ、それは……」


「上層部の意向だとかなんとかいって責任逃れしてるけどよ、本当はてめえも今がヤベェ事態だってことに気付いてるんじゃねえのか?」


「し……しかし……」


「本当にヤベェって時に腰が重い連中の判断を待ってたら手遅れになるぞ。現場は待っちゃくれねえんだ。そういう時は現場で判断下せよ」


「…………」


 俺の言葉攻めを受けてフィリップは再び無言となってしまった。


 ……まあコイツは中間管理職みたいなもんだろう。

 上からくる危機意識の無い圧力と現場での予断を許さない危機的現実とのギャップで本心では泣きたい状態だろうよ。


 でもだからといってこのままにしておくわけにはいかない。

 だから俺は一つ、フィリップに逃げ道を与えてみる。


「なあフィリップ。てめえはどうせ外部の人間を頼ることで魔王の情報が流れて混乱を招くと思ってるんだろうから1つ言っておくぜ」


「な、なんだ?」


「遅かれ早かれ街に魔王がいることは住民にもばれるぞ。いくらてめえらが口を閉じていても俺らみたいな流れ者がそういった話を流さないはずがねえだろ? もう4つの街で被害が出てるんだぜ?」


「確かにそうなのだが……」


「だから別に今余所者二、三十人程度にこの事実が知られようが全体で見りゃ大したことはねえんだよ」


「…………」


 俺の言葉に耳を傾け頭を抱えるフィリップは、騎士団の方針に揺らぎを見せ始めているようだった。


「だが……たった数十人外部の人間を取り入れたところで状況が変化するとは思えないのだが?」


 フィリップは一見当たり前なことを俺に言ってきた。

 確かに普通の人間を数十人取り入れたところで大した戦力にはならないだろう。


 だがそれはあくまで普通の人間だったらという場合だ。コイツは俺らの事を忘れている。


「……なあ。てめえはここ数ヶ月でやたらに強い人間が出てきたというような報告は受けてたりしねえか?」


「あ、ああ。確かにそんな報告をファーテスト、セカンディアード付近で多く寄せられた事がある。その強い人間達の発言はデタラメすぎて我々もどう対処していいかわからなかったのだが……もしかしてお前達もその人間の1人なのか?」


 その辺についても一応情報としてはあるわけか。

 だが発言がデタラメか。そう取られてもしょうがないか。


 どこの世界にここはゲームの世界だの現実世界に帰せだの言う連中の発言を受け入れる奴がいるんだってんだ。


「まあそうだな。俺らもそいつらと同じ穴のムジナだ」


「……一体お前達は何者なんだ? 一体どこからやってきたんだ?」


 フィリップは俺らへ向けて、極めて慎重な声でそう訊ねてきた。


「俺らプレ……『冒険者』はこの世界から魔王を討伐せよと神から命じられて召喚された異世界の住人さ。とりあえずそんな感じに理解しとけ」


 今、俺はプレイヤーと言おうとしたが止めて冒険者という名前を使った。


 コイツらにプレイヤーと言ってもその言葉の意味は全然伝わらねえだろうし、新人類という正式名称もなんか旧人類と差別化を図っているようで嫌だったからだ。

 魔王を討伐するのだから『勇者』と名乗るか一瞬迷ったりもしたが、自分で勇者と名乗るのも変かと思いなおしてやめた。


 そして咄嗟に思いついたのが街から街へと渡り歩いて冒険をするというような『冒険者』という名前であるが、この名前自体に意味なんてものは無い。

 ただ頭に浮かんだ単語をそのまま声に出して読みましたと言ってもいいような安直なものだ。


 だが、だからこそ良いのかもしれない。変に気取る必要もない。

 それに流れ者の根無し草同然の存在なんだから、こういう名前がちょうどいいだろう。


「そうか、冒険者か。覚えておこう。ただ神から命じられてきた異世界の住人というのは受け入れ難い内容だから話半分にさせてもらうぞ」


「別にいいさ。無理に信じてもらおうだなんて思っちゃいねえよ。むしろ俺がそんな事を聞く側だったらそんなこと言い出したソイツの頭の具合を心配するぜ」


 だが実際には本当にそんなもんなんだから手に負えない。

 これ以上の説明のしかたもないだろう。


「……それで本題はつまりその冒険者と手を組めということになるのか?」


「そういうことだ。ソイツらなら俺らほどじゃねえけどかなり強いはずだ。それに街の住民でもないから口止めさえすれば情報が漏れにくい。役に立つはずだぜ」


「ふむ……」


 そこでフィリップは右手を顎に当てて考え込んだ。


 しかしそんな時間も長くは取らせず、フィリップは再び口を開いた。


「わかった。この後団長と会議の場を設けて前向きに検討しよう」


「そうか」


「ただ、この案が通ったとしても報酬等は出せないと思うぞ。なにしろ上に無断かつ方針に逆らって動くんだからな」


「報酬はゼロか……」


 それだとプレイヤー連中を説得できるのか微妙だな。

 アイツらも慈善事業で動いているわけじゃねえからな。


「……それにもう1つ。我々にはその冒険者と交渉をする下地がない。また報酬もなく街の住民でもないという人間を説得することは難しいように思える。一応我々でも動いてみるが、その交渉をお前達にもやってもらえないか」


「……同じ冒険者だからある程度話を聞いてくれるかもって事か」


「そういうことだな。頼めないか?」


「いや、元々俺らから振った話だ。ここで知らん振りするのは俺の流儀じゃねえ。やるだけやってみるさ」


「そうか。ありがとう」


「おう」


 そうして俺らは詰所から出た。


 ちょっと安直に頼みごとを聞いちまったような気がするが、まあ乗りかかった船だ。やるしかねえだろ。


「本当にやる気なの?」


 シーナが俺に確認の言葉を投げてくる。


「ああ、やるさ。てめえだってアイツらだけに魔王の管理をさせるのは怖いだろ?」


「まあ確かにそうなんだけど……」


「それじゃあオレ達はとりあえず情報収集から始めるべきか。この街にどれだけのプレイヤーがいるのか確認しないといけないからな」


「そうだな。それじゃあ3組に分かれて情報を集めっぞ」


 そうして俺らは情報収集を開始した。

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