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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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五番目の街

 4番目の街を出発してから2ヶ月が経過した。

 その結果、俺らの進む先に大きな街が見えてきた。


 正直馬車込みで2ヶ月もかかるとは思わなかった。

 距離にしたら3番目の街から4番目の街の間の距離より少し長い距離って程度のはずなのにどういうことだ。


 まあいい。そんな旅路ももはや過ぎ去った過去の話だ。

 『解放集会』の動向が気にかかるところではあったが、急いで移動した結果がこれなのだから仕方がない。


 この2ヶ月は日々移動と戦いの連続だった。

 毎日馬車に揺られ、近づいてくるモンスターを排除し、途中で村を2つ、町を1つ経由した。

 ただ急ぐ身の上な俺らはそういった人里も、1日以上は滞在せずに更に前へと進んでいった。



 この2ヶ月で俺らの戦闘能力は更に向上した。

 この長い旅路で俺らは全員レベル47になった。


 バルは戦闘中何故か目つきが変わり防御に積極性が生まれ始め、もはや全盛期以上の力を発揮できるようになり、シーナも『ファントム』を10人までなら同時に動かしても問題ない領域にまで達した。また、シーナは右手にはめた必中のグローブのおかげで攻撃もできるので、あの超聖剣(以下略)を使って敵に攻撃をする役割も増えた。あの剣は性能がとんでもなく高いため、シーナのSTRでもそこそこ敵にダメージが与えられるから便利だ。それにシーナには念のための石袋を持たせて、ヘイトが上手く集められず俺らの方へと寄ってくるようなモンスターに当てることで数百発分のヘイトを一気に溜めて引きつけるというような荒業も使うようになった。


 ヒョウは単体魔法の命中精度が飛躍的に向上したおかげでMP消費を抑えられるようになり、みぞれは遠くの敵へのバインド成功率が上昇し、状況によってより的確なバフと、新たに敵へのデバフが行えるようになった。


 また、回復役であるクリスは基本的に出番が無かった。常に待機している状態こそが俺らの磐石さをより強固なものにしているといえるのだが、それでは手持ち無沙汰だという事で彼女は全体を見渡し、俺らに注意を呼びかける警戒的な役割もこなしている。


 そして俺はブラックバジリスク時では付け焼刃だった矢の3本打ちから更に1本増え、4本打ちなら走ってでもできる腕前になった。

 それに加えて毎日の練習プラス死と隣り合わせの実戦を行った甲斐あって弓の腕前も向上した。今の俺は、ある程度動きがわかる敵相手になら『ロックオン』なしでも8割以上といった確率で当てられる。

 また、場合によってはシーナから剣を借りて『エクステッドスラッシュ』で敵を一掃するなんて戦い方も有効だと学んだ。



 そんな俺らの旅によって、ようやく5番目の街に到着することができた。 






「……ちょっと予想とは外れてたな」


「良い方に外れてくれたんだから別にいいでしょ」


「まあそうなんだけどよ」


 俺の呟きを拾って隣にいたシーナがそう返してきた。

 確かにシーナの言うとおり、この結果は悪いことではなく、むしろ良いことだ。



 俺らは何事もなく平和な5番目の街、ファイブレイブへと入るために街をくぐっていった。



 そう。平和だった。なぜか平和だった。

 俺らの予想ではどれだけ早く5番目の街に到着したとしても、、3番目の街や4番目の如く、既に5番目の魔王が街で暴れていると考えていた。


 しかし目の前に広がった5番目の街の風景は、どこにもモンスターが蹂躙した後など見当たらず、人もピンピンしているし建物も壊された様子もない。

 つまりこのことから言える事は、5番目の魔王は未だ教会跡地に眠っている可能性が高いということだ。


「しかしどういうことだ? オレ達の方が『解放集会』より早くこの街に到着できたということなのか?」


 ヒョウがもっともな疑問を口にして首をかしげている。

 俺もヒョウと似た感じで頭に疑問符がついてるような感じなんだけどな。


「ありえねえな。アイツらは俺らの一歩も二歩も先を行ってるプレイヤーだ。俺らより足がおせえなんてことはないだろうよ」


 そうだ。

 アイツらは俺よりも数段強い。同じスタートラインから出発したとは思えないくらいにだ。

 そんなアイツらが俺らに遅れを取るなんて事、ありえるのだろうか?


 いや、ありえない。

 アイツら信じていると言っちゃ御幣があるかもだが、俺はアイツらに力があるということだけは確信を持って言える。


 だからアイツらが俺らより遅くこの街に到達するとは思えない。


「なんでこの街が無事なのかよくわかんねえけど、とりあえずこの街の自警団なり騎士団なりといった連中に聞いて教会跡地を散策しに行くぞ」


「りょ、了解です」


「了解よ」


「了解した」


「いえっさー」


「了解です~」


 そうして俺らは街の住民からこの街騎士団が駐屯しているという場所を聞き出し、その場へと移動を行った。






「何? この街の中に魔王が潜んでいるだって?」


「そうだ」


 俺らは街の住民に聞いた騎士団の詰所に到着し、外で見張りをしていた騎士甲冑を着た奴に俺らの名前を告げて街に潜んでいる魔王の事で話があると言うと詰所の中の応接室のような場所に案内されて、今目の前にいる1人の男と話をすることになった。


 その男はここの副団長とかいう肩書きを持つ男でフィリップと名乗っていた。

 俺らの話は一先ずこの男を通して騎士団に伝わるようだ。


「多分てめえらが知らない魔王だ。できるだけ迅速に対処をしたほうがいいぞ。じゃねえといずれこの街は滅茶苦茶になる。もし魔王が出てきたら俺らじゃないとまず対処できねえぞ」


 俺は目の前で訝しげな目つきで俺らを見てくるそのフィリップとかいうやつに淡々と事実を述べた。


「……もしかしてそれはここ数ヶ月でファーテスト、セカンディアード、サディアード、フォーテストを騒がせた魔王の一件と関係があるのか?」


「! 知っているのか」


 なんでコイツはその情報を知っているんだ。


 俺らはここまでできるだけ早く移動したつもりだ。

 それよりも早くコイツらは移動して情報を集めてきたのか?


「ああ。この街では通信魔法ってのが今発展してきててな、遠くにいる人間と自由に情報交換ができるっていう魔法なんだが。それが他の街にも段々と普及し始めてるのさ」


「……通信魔法」


 ……それはつまりチャット機能のようなものか。

 アレがなかったばかりに俺らプレイヤーはかなりの不便を強いられてきたが、もしかしたらそういった魔法でその辺も解決できるようになるのだろうか。


「とはいってもまだ試験段階だからあまり知られていないんだがな」


「…………」


 ……なんてことだ。


 俺はこの時1つの後悔を胸の内に抱いた。


 この通信魔法があることをもっと早く知れていれば、3番目の街や4番目の街の被害を未然に食い止められていたんじゃないか、と。

 たとえ他の街ではあまり知られていなかったような魔法であっても、何処かのタイミングでこの情報を知ることができていれば、犠牲者をより少なくすることができたんじゃないか、と。


 もはや今更のことで取り返しがつかないことであるが、俺はこの事実を悔やんでも悔やみきれなかった。


「まあつまりはその被害にあった街から得られた情報を基にして、既に我々も教会跡地を調べて警戒体制を敷いている。お前に言われる前にな、『ドラゴンロード』」


「!? てめえ、俺の事知ってんのか!?」


 フィリップが発した『ドラゴンロード』という言葉に反応して俺はつい大きな声を出してしまった。


 『ドラゴンロード』、それは言うまでもなく、俺の通称の名だ。


「やっぱり『ドラゴンロード』だったか。ああ、知ってるぜ。むしろ知らないほうがおかしいだろ。お前達はその街の中に現れる魔王を片っ端から討伐していってるんだろ?」


「あ、ああ。確かにそうだが……」


「お前達の事は我々も良く知っている。街を救ったヒーローだとな。ただフォーテストで出現した魔王だけがどうなったのか不明なんだが……それもお前達が討伐したんだな?」


 そういえば4番目の魔王を討伐したことは誰かに言う機会もなかったから俺らと『解放集会』しか知らないのか。


「ああ、そうだ。フォーテストの街の周辺にある2つの町の中間地点辺りから北へ進んだ所の山に魔王の死骸があると思うから余裕があれば確認してくれ」


「やっぱりか……俺の頭で申し訳ないが、人々を襲った魔王を討伐した事に、街の住民全てを代表して礼を言わせて貰う。ありがとう」


 フィリップはそう言いながら席を立ち、俺らに向かって深く頭を下げてきた。


「別に頭なんか下げなくていいっつの。俺らは俺らの目的があって魔王を討伐してるだけなんだからよ」


「そ、そうか。そう言ってくれるとありがたい。本来なら我々の仲間がなんとしてでも討伐しなければならなかったんだからな」


「仲間ねえ……」


 正直コイツらが束になったところであの魔王達を討伐するなんて不可能だろうよ。

 まあそんなことをこの場で言うほど空気読めてねえわけじゃねえから言わねえけどよ。


 ……でもなあ。


「なあ、てめえらもしかして街に出てきた魔王は全部てめえらでなんとかしようとか考えてなかったか?」


「? 我々は騎士。街を守るのが仕事だぞ。なんでそんな事を聞くんだ?」


「……俺らみたいに滅茶苦茶強い連中と連携をとろうとか考えなかったわけ?」


 俺はさっきこの男が発した『本来なら我々の仲間がなんとしてでも討伐しなければならなかった』という言葉に引っかかりを覚えた。

 それはコイツらからすれば正論なんだろうが、それで俺らみたいな強い連中に話を持っていったりはしなかったのだろうかということが気になった。

 もし知らせていたのならば、ユウ達を初めとしたトッププレイヤー達がその魔王らを無視して旅立つはずもなかっただろうに。


 それに通信魔法なんてものがあって3、4番目の街が魔王に蹂躙された事も解せない。魔王が現れる前に教会地下には魔王が眠っているなんてことがわかっていたなら何かしらの対策をしていてしかるべきだろう。


「ああ、そういうことか。それについては上層部でも意見が分かれている。素性の知れない連中に街の守りを任せるのかだとかそもそも外部の人間に街から魔王が出るなんて情報を洩らすべきではないとかな」


「は? 街から魔王が出る情報を洩らさないだと?」


 ……なんだよそれは。


「……我々としても非常に言いにくいことなんだが、街から魔王が出てくると知っている人間に隠しても仕方がないか……」


「いいからさっさと話せよ」


 俺は低い声を出してフィリップに話の先を促した。


「……街の教会跡地から魔王が出るという情報はファーテストが被害にあった時から我々も認知していた。しかしこのことは上層部の意向によって情報規制が布かれ、住民には知らされていないんだ。この事は他の街全てに言えることだ」


「!」


「だからお前達も外ではこのことを他言しないでもらえるとありがたい。魔王を倒してくれている英雄に言う事ではないのだが」


「…………」


 ……そうか。そうだったんだ。


 コイツらは街の住民が被害に会う可能性に目を瞑って魔王の情報を隠匿していたのか。

 そんな事をした理由もなんとなくわかる。


 理由は大きく分けて2つ。

 1つはその街に眠っている魔王を処理できないからだ。

 街に出てくる魔王はどいつもこいつもとんでもなく強い。コイツらが勝てる相手じゃない。

 それにもし教会跡地の地下で眠っている魔王を発見しても、下手な手出しをして魔王を呼び起こすわけにもいかないからそのまま放置せざるを得ない。


 そしてもう1つの理由。

 それは街をパニックに陥れないためだ。

 どうあっても処理できない核弾頭が埋まっていることを知って、その上で生活したがる人間がどこにいる?

 街の地下にそんなものがあったなんてことを住民が知ったらどうなるか。それは火を見るより明らかだ。

 街は大混乱に陥る。そしてそんな事態を街の有力者は看過できない。街の経済が破綻しかねないんだからな。


 だからコイツらは街の魔王の存在を外には洩らさなかった。

 だからユウ達のようなプレイヤー最速攻略連中に街の魔王の情報が流れなかった。



 そして、そんな危機意識の甘さが今までの被害を抑えられなかった。



「…………」


 ……いや、これは責任転嫁だ。コイツらだけが悪いわけじゃない


 コイツらが余所者の力を借りようとしなかったように俺らもコイツらを蔑ろにしていた。

 前者は余所者を信用できないから。後者はどうせコイツらを頼っても役に立たないと思っていたからだ。


 それにもしそんな事情がなく、俺らが手を取り合っていたという未来があったとしてもだ、それで街に眠る魔王をどうやって処理するんだ? どうやって街に混乱を起こさないようにするんだ?

 もしかしたらそうやって手を取り合った誰かがそれを解決する案を出したかもしれない。だが今の俺には何も思いつかない。


 俺には魔王を倒す程度の事しかできない。


「……話はわかった。それで? この街にも魔王が潜んでいるんだろう? ソイツは今どうなってんだ?」


 俺は今までの話を一旦頭の隅に置き、今考えるべき最も重要な案件をフィリップに尋ねた。


「……我々もこの街にある教会跡地の地下は1月前には調査を終えている。そしてそこに魔王とおぼしきモンスターがいる事も確認している」


「……そうか。それでそのモンスターってのはどんなのだ?」


 始まりの街ではゴーレム、2番目の街では大蜘蛛、3番目の街ではヴァンパイア、4番目の街ではバジリスク。


 もうどんなのが出たっておかしくはない。


 俺の問いかけにフィリップは周囲を見回して、俺ら以外に誰もいない事を確認した後、慎重な声でその単語を出した。



「……ドラゴンだ。この街、ファイブレイブの教会跡地の地下には、黒くて巨大なドラゴンが眠っている」



 この世界に来て最上級とも言えるモンスターとの激戦が予感させられた。

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