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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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それでも俺は前へと進む

 終との決闘から3日が経った。

 俺ら6人は4番目の街、フォーテスト、職人街といった呼ばれ方をする街の西門にやってきている。


 理由は勿論5番目の街へ向けて旅立つためだ。

 終達の凶行による被害者をできる限り少なくするためだ。


 正直、俺らでは終達より早く5番目の街に到達することは不可能だろう。

 終達が魔王を解き放つのを阻止することは不可能だろう。



 しかし、それでも俺は前へと進む。



 終達を止められるプレイヤーなんていないのかもしれない。

 アイツを止められるのは俺だけだと思っていた俺は3日前、終に惨敗した。


 その時俺がどんな心情であったかなんて関係ない。

 俺は負けた。負けたんだ。


 故に、俺がまたアイツらに戦いを挑んでも軽くあしらわれてしまうかもしれない。


 それでも、それでも、俺は、アイツらにまた会わなくてはならない。


 エイジや他の人達の仇を討つために、数々の疑問を解消するために。




「準備はいいな、てめえら」


「は、はい。問題ありません」


「私も問題ナシ。絶好調よ!」


「オレも大丈夫だ。問題ない」


「大丈夫だ、問題ない」


「ワタシも問題ありませんよ~」


「うし。それじゃあ行くぞ」


 俺の確認に全員が問題無しとの答えが返ってきたところで俺らは4番目の街を旅立った。






 今回出現した4番目の魔王、ブラックバジリスクによる4番目の街、及びその周辺の町の被害は甚大だった。

 プレイヤーは100人以上、この世界の住人にいたっては1000人以上が物言わぬ骸と化した。

 また、この死亡者数は今現在確認されているだけのであり、実際にはそれ以上の数であるということが確定している。


 そして街の建物などの被害も深刻だ。

 街の建築物はおよそ3割が破壊され、今も死者の埋葬と同時進行で復興作業が続いている。

 そしてその作業が終わる目処はついていない。


 そんな4番目の街の被害は3番目の街の騒動よりも圧倒的に大きい。

 被害の規模はどんどん大きくなっていく。


 5番目の街はこれより更に酷い事になってしまうのだろうか。




 だがそれを俺らプレイヤーはなんとしてでも止めなければならない。

 プレイヤーが起こした不祥事だ。プレイヤーが尻拭いをしないといけないだろう。


 だが、そのプレイヤーであるはずの終はそのプレイヤーの枠にさえ収まっているのか怪しいほどに強い。

 また、終と同じくレアも異常な能力を持っている。おそらくは他の幹部連中もそうなんだろう。


 そして、おそらくは忍も幹部連中の1人なのだから強いのだろう。

 その強さの片鱗はシーナを問答無用で取り押さえたことからも既にわかっていることではあるのだが。


 けれど、それでも奴らもプレイヤーである以上、無敵なわけでもないだろう。


 俺らと同じく才能値を全振りしているような奇特な奴らだ。

 自らが特化した部分以外の事で攻められればどこかで必ずボロが出るはずだ。

 そこをなんとしててでも打つことこそが、俺らにできる奴らへの対処法だろう。


 今はその対処法を考えている最中だが、この旅の間中に閃けるといいんだけどな。




 そんな考え事の多いここからの旅は、おそらく1ヶ月近くの長旅になるだろう。

 そこで俺らはこの4番目の街で遂に馬車を買った。


 今までは移動手段より装備品や食料、雑貨類を優先して買っていたために金の都合上どうしてもこういったものは買えなかったのだが、今回はここまで来るまでの旅で相当数のモンスターを狩ったために金がギリギリ足りたので購入する運びとなった。


 まあ馬車と言ってもそれを引くのはでかいトカゲなんだけどな。

 なんでも珍しく温厚なモンスターの種族らしく、荷車を引かせたりするのに重宝するのだそうな。


 そんなでかいトカゲは扱いも容易く、馬に乗ったことすら無い俺でも手綱を握って楽に従えさせられるからとても便利だ。


 それに俺らが購入したトカゲは贔屓目かもしれないがとてもカッコいい。

 きっと将来は女を泣かせるプレイボーイとなることだろう。メスだけど。


 コイツもある意味俺らの仲間ってことでいいのかね。名前でも付けたほうがいいのだろうか。

 まあそれもこの旅の間に考えるとしよう。




 これで移動手段が変化したわけだが、俺らはそれ以外でもかなり変化した部分がある。

 それは装備品についてだ。


 今までは店で売られている最も高い性能を持った装備品を購入して旅立つというのがプレイヤーの中では常識的になっていたために、プレイヤー間の外見的な装備品での差はつきにくかった。

 しかしこの職人街とまで言われる4番目の街では、最高性能と呼べる装備でも全身鎧や格闘着、果てはメイド服やセーラー服、スクール水着といった様々な種類が存在していた。更にいうなれば、この街での装備が実質的にこの大陸で最も性能が高いものなのだとか。


 全身鎧とスクール水着が同じ性能とかとんでもないなと思いつつ、ネタでバルに体操着を薦めてみたがが却下された。まあそれでバルがのってきたら俺もたじろぐところだったが。

 それで結局バルは重量感が違うとかなんとかでいつものように鎧の装備を購入していた。ただし金属部分は今までより少なめかつ銀色で、防御の色である青色を基調とした服を鎧の下に着込んでいるのであまり鈍重というようなイメージが無いスラッとしたイメージだ。


 だが、どういう心境の変化なのかよくわからないが、バルはその装備を店で兜抜きにして買っていた。

 つまりバルは仕方なく兜無しでいるのではなく、意図的に兜を被ることを拒否したということだ。


 どうしてバルは兜を付けることを拒否したのだろうか。

 それはわからない。


 わからないが……多分良いことだ。


 バルは自らの殻を破ろうとしている。

 つまりはそういうことなんだろう。


 だったら俺は見守るだけだ。

 もしそれで動きが悪くても、俺らだったらカバーできる。


 そしていずれはそんな動きの悪さも取れていくだろう。

 そしてバルは兜に頼らない本当の強さというものを手に入れることだろう。

 俺はそう信じている。



 また、装備が変わったのはバルだけじゃない。



 シーナはいつも通りの軽装であるが、上半身は薄い緑色の首元まで詰まったタンクトップで首には頭装備である黒のチョーカー、それに下半身は青のホットパンツ、いかにも動きやすそうな運動靴といった、俺らが元いた世界で普通に見かけられるような服装になった。

 それでいてその服装の性能は今までの比では無いというのだから恐ろしい。


 ちなみにシーナの右手にはあの黒いグローブも付いている。

 左手の分は俺が付けているため、不本意だがペアルックのような形になってしまっている。



 ヒョウは今までの灰色ローブ姿から一変して、何故か白いスーツ姿に灰色のマントといった格好になった。キザ度を上げてどうするんだ。

 だがそんな姿で水色の杖を持つヒョウはなかなか様になっていた。明らかに戦闘向きじゃない気がする服装なんだけどな。



 みぞれはヒョウ以上にアレな格好で、セーラー服に灰色のマントを羽織る姿となった。

 それでも軍服としてのヤツならまだよかったのだが、みぞれは普通に学生用の白いセーラー服をチョイスした。

 また、水色のスカートは譲れないらしく、わざわざ水色のを選んできていた。



 クリスは今までの僧侶風の服装を変えない方針らしく、白い法衣装備を購入していた。

 ただなんか露出が多くなった気がするのは気のせいなのだろうか。

 胸元が見えてるし何故かスリットがあって太ももがチラチラ見えてるし。

 どこにこんな聖職者がいるんだ。



 そして俺は無難な弓兵スタイルだ。特に語ることは無い。

 あえて奇を衒うこともないだろう。こういうのは無難が一番なんだよ。






「リュウさん……このリボン……曲がったりはしていませんか?」


 ふと、隣にいたバルが俺にそんな事を訊ねてきた。


「ああ、大丈夫だ。曲がってなんていねえぞ」


 俺はバルの頭についている大きめの青いリボンを見ながらそう言った。


「そ、そうですか……ありがとうございます」


 そうしてバルは俺に頭を下げてきた。


 この程度の事でそこまでしなくてもいいんじゃねえか?


「いいっつの。そんな事で頭下げなくても」


「いえ……これは……このリボンを買っていただいたことへのお礼も兼ねての事です」


「お礼……か」


 確かにこのリボンは俺がバルに買ってやった頭装備だ。


 これはバルが兜だけを別に買おうとしてどんなものがいいかを俺に相談した時、一緒に防具屋まで行って買ったものだ。

 本当はバルが金を出すはずだったのだが、支払いの時にプレゼントだと店員から勘違いされたことから、俺からバルへのプレゼントとして代金を支払ったという顛末があった。

 別に金が無かったわけじゃなかったからな。俺はシーナみたいに無駄遣いはしないからそこそこ金は持っていた。


 だからバルにプレゼントの1つや2つ、あげてやっても問題ない。


「お礼ならそれを買ってやった時に言ってもらったぞ?」


「それでも……なんとなくもう一度言いたかったんです……」


 バルはそんな事を言って俺の目を見てきた。


「私は……リュウさんに拾われて本当に良かったです……ありがとうございます」


 バルはそう言いながら再び深く頭を下げた。


 そんなことまでここで言うのかよ。

 なんだか気恥ずかしいな。


「別に俺はてめえを拾ってやったなんて思ってねえぞ。俺らは対等。仲間じゃねえか」


「……そうですね……私達は対等……なんですよね」


「おう。これからもよろしく頼むぜ、バル」


「……はい」


 そうして俺らは馬車に乗る。

 6人入るとちょい狭いが、まあなんとかなるだろう。どうせ1人か2人は御者台にいなくちゃなんだからな。


「……リュウさんは……みんなは……私が絶対に守ります。私の命に代えてでも」


 傍にいたバルが何かを言った気がするが、声が小さくてよく聞こえなかった。


「何か言ったか? バル」


「いえ……なんでもありません」


「? そうか」


 そうして俺らは4番目の街を旅立った。


 この先にある5番目の街を目指して。




 終達の凶行を止めるため、この世界に平和を取り戻すために。


 そして、俺らの運命を切り開くため、俺らが全員無事に元の世界へ帰るために。

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