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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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真相

「え……」


 俺は絶句するしかなかった。


 目の前で自己紹介をした忍の声が遠く感じられる。

 忍が言った言葉に俺は少なくないダメージを受けていた。



 俺は忍が『解放集会』のメンバーであったという事に、何故かショックを受けていた。



 俺と忍の関係などたかが知れている。

 俺が魔王と戦っている時、毎回いつだってサポートしてくれていた。


 ただ、それだけの関係だった。


 だがその関係は、俺に一種の安心感を与えていたんだ。


 コイツは一体なんなんだ。コイツは今回も魔王の討伐に参加しているのか。やっぱコイツも来ていたか。


 そんなちょっとした積み重ねが忍との仲間意識を育んでいた。


 俺のパーティーメンバーとはまた違う信頼を俺はコイツに持っていた。



 だからこの事実は知りたくなかった。

 忍が『解放集会』のメンバーだったなんて。



 ……いや、まて。

 もしかしたら忍は何か騙されているんじゃないか?

 何か言いくるめられて最近『解放集会』に入ってしまったとかはないか?


「な、なあ……忍……てめえは……いつから『解放集会』なんだ……?」


 俺は震えそうな声をなんとかこらえ、若干たどたどしくではあるが忍に聞いた。


「あ、はい! 私は『解放集会』が出来てすぐにメンバーとなりました!」


「そうか……」


 つまりコイツは……最初から俺らの敵だったってことか……


 はは……なんだよ。


 別にそんな事、大したことじゃねえだろうが……


「……なあ、もしかして2番目の街で捕縛した『解放集会』の連中を逃がしたのは……てめえか……?」


「はい! 魔王討伐後、『解放集会』メンバーの処遇を決めかねている時に逃走させる手筈を整えたのは私です! ただし大蜘蛛襲撃時に起きた脱走騒ぎの時は終さんが直々に指揮を執っておりました!」


「……そうかよ」


 つまり大蜘蛛が出ている時の犯行は終で討伐後の脱走騒ぎは忍が行っていたという事か。

 まあどちらにせよ変わりない。


 コイツは……忍は……『解放集会』として裏で糸を引いていた人間の1人だったんだ。


「今まで騙すようなことをしてしまい申し訳ありません! でも、私がリュウさんを応援しているのは本当の事ですから!」


「…………」


 もはや俺にコイツと話す気力は無い。


 コイツは敵。

 ただそれだけを思うことだけにしないと、コイツとも戦えなくなるから。


「そうだよ、リュウ。この子は君を本当に応援してる――」


 終の声が聞こえる。


 コイツが俺を応援していた?

 そんなこと、どうでもいいだろ。


 そうだろ? なぜならコイツは俺の敵――



「――だって彼女が君に『必中の弓』を授けたんだからね」



































 …………は?







「そ……それは……どういう……」


「リュウさん!」


「あ……?」



「今まで言えなかった事なのですが、アイテムボックスをその辺にほっぽって置くのは無用心すぎるのでやめておいた方がいいですよ!」



「あ……」


 アイテムボックス……その辺に置いていた……


 つまり……つまり……



「始まりの魔王と戦っている時、君はアイテムボックスを出しっぱなしにしていた時があるそうだね。そんなことをしていたら誰かに物を入れられちゃうよ」



「ッ!!!!!」


 つまりこういうことだ。


 あの時俺はブラックゴーレムに超大玉石袋を投げるのに夢中だった。

 そして俺は確か忍が最初に持ってきた玉の分をアイテムボックスに入れて移動し、その玉を魔王に投げる際アイテムボックスを地面に置いたままにしていた。


 そしてアイテムボックスの中に入れていた玉を使い切ってからは忍に手渡しで流れ作業のごとく玉を投げていた。


 その時、俺のアイテムボックスは誰でも触れる状態にあった。

 その時、俺のアイテムボックスは誰でも何かを入れることができていた。



 その時、俺のアイテムボックスに忍が『必中の弓』を入れていた。



 つまりは……そういうことだ……


「な……なんで……そんなことを……?」


「だからリュウさんを応援するためにです! これについては終さんから許可を貰いましたしレアさんが武器作成に協力してくださいました!」


 忍はそう言うとレアの方を向いた。


「もう隠しておく必要はないんですかね終さんー?」


「レアの存在を明かした以上、そしてプレイヤー側の情報もほぼ揃った以上、忍の行動を隠しておく意味も無いさ」


「そうですかー。じゃあネタばらししちゃいますねー」


 レアは一度終にそんなことを訊ね、そして終が頷くとレアは再び俺の方を向いた。


「そうですよーリュウさんー。実のところボクが忍さんに頼まれてその弓を作ったのでしたー」


「な……」


 レアはいつものように間延びした声で、俺に肯定の意を示してきた。


「そ、そんな、だっててめえは……この……!」


 その時俺は、レアと会った日の宿屋でレアが放った言葉を思い出した。


 あの時、コイツは……


「その弓、良く手入れしてくれてありがとうございますー」


 『良くしてくれててちょっと嬉しくなっちゃったのでお礼ですー』


 レアはあの日、俺にそんなことを言っていた。


 あれは……レアについてではなく、弓についてのお礼だったというわけだ。


「は、ははは、何だよ。そんなことかよ。よく考えれば気づく事じゃねえか」


 この世界にドロップアイテムなどない。

 始まりの街の段階で必中の弓などありえない。


 そして必中の弓を作るには相当レベルの高い職人が必要。少なくとも、この弓を直せるくらいの職人が。


 そう考えるとこの結果は当然の事だったのかもしれない。


 あの時必中の弓を手に入れたのは偶然じゃない。

 あの時俺にドンピシャな装備がたまたま手に入ったわけじゃない。


 全ては……コイツらが仕組んだことだったんだ……





































 でもどうして?




































「さて、あと1人はどうせ来ないだろうからそろそろ決闘を始めようか、リュウ」


「あ……あ、ああ」


「どうしたんだい? 顔色が優れないようだけど、お腹でも壊したかい?」


「……そんなんじゃねえよ」


 俺は終を前にして睨みつけながら鋭い声を出す。


「もうお喋りは終わりだ。これ以上てめえらと話したくねえ」


「そう言われると少し傷ついちゃうな。でもお喋りはお終いにするというのには同意かな」


 そうして俺と終は前に出る。

 それと同時に他の奴らは後ろに下がった。


 俺は金色の剣を取り出す。

 それを見て終も銀色の剣を取り出した。


「この剣は今君が持っている剣より数段劣るけれど、おれと君のレベル差を考えたら良いハンデになるとおもうよ」


「……そうかよ」


 相変わらずコイツは俺を舐めている。

 無表情に、無感情に俺をいつだって見下している。


 そんな態度に俺はどうしようもなく不快感を抱く。


「おれと君の決闘は十秒もいらない。そうだね?」


「ああ……そうだな」


 俺は終の言葉に同意して、1つのスキルを発動させる。


 そのスキルは……終も持っている究極のスキル。


 その名も……


「「『オーバーロード』」」






 そして俺は負けた。

 手加減した終に負けた。

 負けて終に見下ろされていた。


 僅かなHPを残し、俺は地面に大の字になって転がっている。


 終はわざと俺を生かしていた。


「……おいおい、ちょっとこれは拍子抜け過ぎやしないかい? リュウ」


「…………」


 俺は終に何も言い返せなかった。


 俺は終に負けた。

 それはもはや事実なんだ。


 そのことにどんな良い訳をしても――



「本気じゃなかったね? リュウ」



 ……終はそんな事を言っていた。


「リュウさん!」


「リュウ!」


 遠くでバルとシーナが俺の名前を呼んでいる。


 俺はその声のする方向を向いた。


「…………ッ!!!!!」


 バルが謎のでかい甲冑の戦士に盾で抑えられていた。


 シーナが忍に地面に組み伏せられて身動きを封じられていた。


 そして、みぞれが倒れていた。


「み、みぞれ!?」


 みぞれの隣にいたヒョウがすぐさまみぞれを抱きかかえていた。


「おい……終……てめえらみぞれに何しやがった……」


 俺は地面に倒れたまま終を睨みつけた。


 すると終は赤音の方を向いた。

 俺もつられてその方向を向く。


「……ああ、驚かせちまってすいやせんねえ。その子にはただ気絶してもらっただけでさあ」


 そして赤音はみぞれの方を向いてそんな事を言っていた。


 ……何故かその赤音の右目の眼帯から赤い血が漏れ出ていた。


「ちょっと『邪眼』を使わせていただきやした。1日ほどで意識は戻ると思いやすんで安心してくだせえ」


 赤音は右目から血を流しながら俺らにそう説明してきた。


 『邪眼』……つまりあの右目の眼帯はそれを押さえ込むための物ってことなのか……?


「くっ! ちょっとあんた! どきなさいよ!!!」


「すみません! すみません! ここで手出しをさせるわけにはいかないんです!」


 シーナが上に乗っている忍と問答を続けながらもがいていた。


「う……うごかない……?」


「ニャハハ、ニャルルちゃんが召還した騎士を動かすことなんて絶対に無理なんだニャン♪」


 バルが謎の甲冑を突破できないでいるとニャルルがそんな事を言い出し始めていた。


 ……つまりあの甲冑はニャルルが召還したものというわけか。


 そしてこれで俺らのパーティーは完全に無効化されたということだ。

 一応ヒョウとクリスは無傷で何もされてはいないが、みぞれが『マジックシェアリング』を使わずに気絶をしているので魔法が一切使えない。


 俺らは完全に詰みの状態に陥っていた。


「ああ、まったくもってつまらない。どうしたんだい? リュウ。2番目の街で見せた怒りはどうした? 3番目の街で見せた冷静さはどうした? 今の君からはそのどちらも感じられないよ」


 終は俺を見下ろしつつ言葉を続ける。


「……まるで心ここにあらずだ。かなしいな。おれはこんなにもリュウのことをおもっているのに」


 終は微塵も悲しいと思っているようでもなく、まったくそんなことを思っていないように言葉を吐き続ける。


「もしかしたらと思っていたのにこんな結果になるとは……一体何が悪かったんだ? ここまでお膳立てしてまだリュウが本気を出せない理由は」


 そして終は俺に問いかける。


「リュウはあれか。もしかして街の外だから本気を出したら俺を殺してしまうんじゃないかとか、そんなことを考えてるんじゃないだろうね?」


 ……痛いところを突かれたな。


 一応俺はさっきまで終を本気で倒すつもりで戦っていた。

 だがそれが殺意の篭ったものであったかといわれれば断定は出来ない。


 俺はこの世界に来るまで平和な世界で生きてきた。

 元の世界では兄の真似事で竹刀を振るった事はあり、この世界でも3番目の街以降もその頃を思い出して剣の鍛錬を行ってはきたものの、それは所詮付け焼刃だ。この世界に来るまで本物の切れ味を持つ剣など振るった事はないんだからな。ましてや人に向けて振るったことも今が初めてだ。


 そんな俺が今全力で剣を振るえたかどうかは疑わしい。

 そして俺は全力で振るったと思っていても、直接剣を交えた終がそう言うのならもしかしたらそうなんだろう。


「だったら自惚れるのもいいところだ。おれはリュウが本気で戦ってでさえ負ける気はない」


 終はそう言うと俺から視線を外して周りにいる人物を順々に見始めた。


「それともここにいる誰かがリュウの心を乱しているのか? おれか? それともおれの仲間か? キルか? レアか? 忍か? それとも……君の仲間か?」


「……てめえ……俺の仲間に手え出すんじゃねえよ……これは俺とてめえの決闘のはずだ……」


「わかっているよ、そんなことは。おれたちは君の仲間に手を出さない。まあそれはきみたちが横から介入しなければの話だけどね」


「……バル……シーナ……大人しくしてろ……」


「! リュウさん!」


「リュウ!」


 俺の言葉を聞いてバルとシーナが俺の名前を呼んでいる。


「あんたわかってんの!? みぞれが倒れてんのよ!? あんた死んだらそれで終わりなのよ!?」


 シーナが俺に怒鳴り声を上げている。


 わかってるさそんなこと。

 みぞれが『マジックシェアリンッグ』を使っていない以上、クリスの魔法『リザレクション』もまた使えない。


 つまり今ここで死んだら生き返れないだろうって事はな。


「それでも……動くな……」


「りゅ……リュウさん……」


 バルがもはや泣きそうな顔で俺を見ている。


 ……ごめんな、バル。

 てめえに黙って守られてやるって、3日目に言ったってのに。こんなに早くそれを反故にしちまってよ。


 俺は心の中でバルに謝罪する。


「はぁ……何だこれ。こんなのがおれの敵? なんだか失望したな」


 そして終はそう言って、俺らから離れていく。


「……殺らなくていいのかよ」


「いいさ別に。そもそも今日は解放ってノリでもなかったしね。ただおれの敵におれたちを紹介したかっただけなんだから」


「……そうかよ」


 まあこうなるとは俺もうすうす勘付いていたさ。

 それで俺が余裕ぶっこいて負けたわけじゃねえけどよ。


 コイツらは平気で人を殺すが、終は何故か俺ら、厳密に言うなら魔王と戦って生き残ったプレイヤーをむやみに殺しはしないように感じる。2番目の街しかり、3番目の街しかりだ。殺そうと思えば殺せたはずなのになぜかコイツは俺らプレイヤーを見逃し続けた。

 それは終がそのプレイヤー達をあえて見逃している。そんな様子がコイツの行動から読み取れるような気がする。


 その思惑が一体どういう意味を持っているのかまではわからないが。


「次は5番目の街で会おう。そして、5番目の魔王を倒せたらまた戦おうじゃないか。リュウ」


「……てめえらが魔王を解き放つのは前提なのかよ……」


「当たり前さ。おれたちはきみたちよりも早く5番目の街に着けるんだからね」


「…………」



「……そしてその時、もしもきみが今みたいに無様な負け方をしたのなら……おれは殺すからな」



 その時、何故だかコイツから感情らしいものが垣間見えた気がした。

 いや、もしかしたらそれは確かにそうだったのかもしれない。


 コイツは今、『殺す』と言った。

 今まで『解放』という言葉に摩り替えていたはずの言葉をコイツは放った。


 つまりコイツも次はそのつもりで俺と戦うということだ。

 今の言葉にはそういった意味が込められていると俺は解釈した。


「それじゃあまたね、リュウ。今度こそはたのしませてくれよ。この世界は娯楽が少ないんだからね」


 そう言って終とその取り巻き4人はその場を去った。


 こうしてこの場には俺ら6人と、バルの動きを阻害している甲冑、そしてシーナを押さえつけている忍が残った。

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