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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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大墓地

 俺らがブラックバジリスクを討伐してから3日後、つまりレアが言っていた終との決闘の日がやってきた。


「やあやあ、よくぞノコノコやってきたね。リュウ」


「……まあな」


 俺らが大墓地に行くと、終が一際大きな墓の傍で腕を組みながら待ち構えていた。


 4番目の街の東にあるという大墓地。

 そこは以前までとある魔王が支配していた区域だったらしい。


 しかし大墓地にはもうその支配者はいない。

 なぜなら『攻略組』というパーティーが中心となってその魔王を撃破したからなんだそうだ。


 『攻略組』、ユウ達のパーティーだ。

 更に4番目の街で石化が解除された人間に聞いた話だと、ユウ達は大墓地にいた魔王のみならず、4番目の街の周辺で知られている魔王を全て討伐したのだという。


 つまりユウ達はここでも最前線で魔王との戦いに明け暮れていたということだ。

 そんなユウ達はブラックバジリスクが暴れだすほんの3日前に5番目の街へと旅立っていったらしい。


 だから俺はまだユウ達に追いつけていない。

 ユウ達は常に俺らの前にいる。

 そう思うたびに俺は前へ前へと行かなければという気持ちに駆られてしまう。


 けれど、それでも俺はここにいる。

 この大墓地に、終に会うために。


「おれがここで罠を張っているとは思わなかったのかな?」


「思わねえよ」


 そうさ。こいつはそういうことはしない。

 というかそんな回りくどいことをするくらいなら今までもチャンスはあった。


 それでもコイツはしなかった。


 ただ遊んでいるだけなのかもしれない。俺らをおちょくって楽しんでるだけなのかもしれない。


 だが、それでもコイツの行動には何か意味があるんじゃないかと思えてならない。

 今回こうして俺らを呼び出したのも、何かしらの意図があっての事のように思えてならない。


 しかし、それは俺らを一網打尽にするとかそういう類の意図ではないと感じられる。

 確かな確証は無い。断言できる証言もない。断定できる証拠もない。


 けれど、それでも俺は来た。

 この大墓地に、終が何を考えているかを知るために。


「でもたったの6人で来るとは思わなかったよ。おれはてっきり3番目の街の時みたいに、おれを袋叩きにしようと考えてプレイヤー連中を率いてくると思ってたのにさ」


「てめえ相手に数の暴力が効かねえことくらい俺だって理解してんだよ」


「そうかい?」


「ああ」


 そう。

 こいつにはプレイヤーを数十、数百と集めたところで敵わない。俺はそう思っている。


 この男、終はあまりにも強すぎる。

 レベル、スキル、装備、プレイヤースキル、戦闘における重要な要素が凡百のプレイヤーを圧倒的にしのいでいると、俺はそう判断している。



 だからコイツには俺しか対抗できない。俺はそう確信している。



 『オーバーロード』が使える俺、ただ腕っ節だけは強い俺にしか目の前の男を屈服させられる奴なんていないのだと。 


「てめえを倒せるのは俺くらいのもんだって理解してんだよ」


「……なるほど。大きくでたねえ。おれはうれしいよ」


 終はそう言って何も楽しいことないといわんばかりに無表情で笑い出す。


 そしてそんな笑いもすぐに止み、終は組んでいた腕を大きく広げて声を出す。


「ありがとう。そんなことを言ってくれたのは君が初めてだよ、リュウ。これでおれと君は完全に倒すべき敵同士となったというわけだ」


「んなの今更だろうが。俺はずっとてめえのことを敵だと思ってたんだからよお」


「そう言ってもらえるとありがたい。これで心置きなく君の敵として戦う事ができるんだからね」


「そうかよ…………!? だれだ!」


 俺と終がそんな会話をしていると、終の背後にある墓の裏から4人の女が現れた。


「ギャハハ! 久しぶりだなぁ? リュウにクリスぅ?」


「3日ぶりですねー。元気にしておりましたかー?」


 その4人の女の内の2人には見覚えがあった。

 キルとレアだ。


「……よう。てめえらも来てたとはな」


 あんまり会いたくなかったが、まあコイツらが来ることは予想の範疇だ。


「キルさん~……」


「クリス。前に出るな。オレ達はリュウの決闘を見守るためにきているんだからな」


 クリスとヒョウが俺の後ろでそんな会話をしていた。


「それで? その4人はなんなんだよ。てめえは俺とサシでやりあうんじゃなかったのか?」


 俺は終にドスの効いた声で問いかけた。

 数的には6対5で俺らが勝っているとはいえ、もし乱戦にでもなったらマズイ事になる。


 一応ここに来るまでの3日間で俺らはできる限りのパワーアップを施した。

 レベル上げ、スキルの見直し、それに職人街と呼ばれるほどの4番目の街での装備品の更新。


 それによって俺らは以前よりもかなり強くなったはずだ。


 しかしそれでもこいつら全員と戦ってタダで済むとは思えない。

 レアは3日前の出来事から決して油断をしてはいけない少女である事は理解させられたし、キルも自身の運のよさを武器にして、花火玉を初めとしてどんな攻撃をしてくるか予想が付けづらい。


 そして何よりコイツらは女だ。キルを殴るのには躊躇を抱くだろうし、レアに攻撃を加えることすら俺にはできないだろう。

 だから、できることならコイツらとの戦闘は避けて通りたいところなのだが。


「ああ、安心してくだせえ。あっしらはただの立会人でさあ」


「そうですニャン♪ ニャルルちゃんたちはあなたたちが変な事をしない限りは見ているだけなのニャン♪」


 ……そしてキルとレア以外の残り2人が俺らに向かってそう答えた。


 最初に発言したほうはキルの隣にいて、キルよりも背が高い高身長の女。右目に黒い眼帯をつけ、黒い着物を着た、どこか血の匂いがしてきそうな鋭く赤い左目と僅かな赤みのある黒髪を持つ、左側の頬から首筋にかけて刺青が彫られた奴だった。

 そしてその女の次に発言した女は……メイドだった。ピンク色をモチーフにしたふりふりの衣装を着込み、栗毛色でくせっ気あるセミロングの髪の上には猫耳を装着した、栗毛色の瞳の女性だった。レアの隣にいて身長は若干レアより高いという程度だが、年齢は俺ら以上の雰囲気がある。いろいろとギリギリな奴だった。つかなんだあれは。ふざけすぎだろ。


「おい、2位と7位はどうした。7位まで全員集合だと言った筈だぞ。まさか反逆か? おれは認めないぞそんなの」


 初対面のその2人の女を見て俺が若干顔を引きつらせていると、終が突然そんな事を背後にいる4人に言い出していた。


「いや……終の旦那……、お前さんが適当に遊び呆けてるからいけないんでしょうよ……」


「そうだぜ大将ぉ。2人ともかなり忙しいみたいだぜぇ? 特に神楽はアンタの代わりに組織の運営に奔走してるから来るわけないだろぉ?」


「そうだったか。ごめんごめん」 


「…………」


 ……なんだコイツら。


 どう反応していいかわかんねえ。

 てめえらが漫才すんなよ。

 

「じゃあ今いるメンバーだけでじこ紹介しちゃおうか。まず6位から言って」


「了解ですー」


 そうして俺らに向かって『解放集会』のメンバーが自己紹介を始めてきた。


「ボクは自己紹介しなくてもいいと思いますけど一応しますねー。『解放集会』序列6位、才能値をDEXに全振りした『名工』のレアと申しますー」


 レアは俺らが既に知っている情報をクソ丁寧に言ってからぺこりと頭を下げた。


 今更ではあるがコイツも相当の実力者なんだよな。

 3日前は見た目に騙されて痛い目を見たが、今度はもう騙されねえぞ。


「ニャフフ♪ じゃあ次はニャルルの番だニャン♪」


 次に色々きついメイドが一歩前に出てきた。


「『解放集会』序列5位。クラスは『マスターサモナー』のニャルルですニャン♪ ちなみ才能値はMP全振りニャン♪」


「!?」


「いやみぞれ反応しなくていいから。ホントマジ反応して前に出ようとしなくていいから」


 今のニャルルとかいう女の言葉に反応したみぞれがヒョウとクリスに押さえつけられていた。


 何やってんだよみぞれ。


「なんだい? ここは才能値も言う流れかい?」


 そしてその2人を見て眼帯の着物女がため息をつきながら声を出した。


「しょうがないねえ。あっしは『解放集会』序列4位、『修羅』の赤音(あかね)。才能値はHP全振りでさあ」


 眼帯の着物女は俺らに殺気とも言える雰囲気を出しながらそう自己紹介した。


 ……つかHP全振り?

 初めて見るタイプだ。


「ギャハハ! そしてアタシが『解放集会』の序列3位!!! LUK全振りの『ギャンブラー』、キル様だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 そして次にキルがいつもの調子でそう叫んでいた。


「……つかてめえ、以前は序列4位とか言ってなかったか?」


「あー、リュウさんー。実のところ3位と4位はちょくちょく入れ替わったりするんですよー」


「……そうかよ」


 俺のちょっとした疑問にレアが答えた。


「まあそれだけ実力が肉薄しているということでさあ。……気に入らないことに」


「あぁ!? 負け犬が偉そうな口たたいてんじゃねぇぞダボがぁ!!!」


「……お前さんとはここで今一度決着をつけなきゃいけないかねえ」


「上等だぜぇ? かかってこいやぁ!!!」


「あーきみたち。次はおれの番だから静かにしてよ」


「おっと、悪いねぇ大将ぉ。ついノリに乗っちまったぁ」


「……すいやせん、終の旦那」


「いやいや。わかってくれたのならいいんだよおれは」


「……そろそろ俺ら帰りたくなってきたんだが」


 なんつうか……もういい加減キャラが濃すぎて疲れてきた……


 いやまあ『解放集会』なんていうヤバイ集団の集まりの幹部連中なんだろうからどこかイカレてるのはわかってたんだけどよ。


 しかも終以外の幹部連中4人とも女だし。

 どうなってんだ。


「おっと、リュウがおれたちに恐れをなしてしまったようだね。ではこのじこ紹介を最後にして本題の方へと入ろうか」


 終は見当違いな解釈をして、俺らに向かって静かに言葉を紡ぎだす。



「おれは『解放集会』の教主、終。序列は勿論1位で最強の男だ。クラスは『足枷』。才能値はSTRに全振りしているよ。これからもどうぞよろしく」



 終はそうして俺に軽く頭を下げた。無表情な笑みを維持したまま。


「そして今はいないけど『解放集会』序列7位が――」



「遅れてしまって申し訳ありません!」



 頭を上げた終が俺らに向かって喋っている途中、俺らの背後から女の大きな声がした。









 ……え









「遅いじゃないか。どこに行っていたんだい?」


「すみません! すみません! 寝坊しました!」


「寝坊しましたって、もうちょっとマシな理由は作れなかったの?」


「すみません! すみません! 昨日は夜眠るのが遅かったうえに朝目覚ましが鳴らなかったんです!」


「ふふっ、そうかい。目覚ましが鳴らなかったんじゃしょうがないよね。おれも子供の頃はよく寝坊したよ。それじゃあ今回は特別に許してあげようかな」


「すみません! ありがとうございます!」


「じゃあリュウたちにじこ紹介をしてあげてくれないかな」


「あ、はい! わかりました!」


 終の目の前まで物凄い勢いでやってきたその女は終に平謝りをした後、俺らの方へと顔を向けた。



 そしてその女、くのいち風の服を着た女は俺らに自己紹介を始めた。



「『解放集会』序列7位! AGI全振りの『密偵』! 忍です! お久しぶりです! リュウさん!」



 その女、忍は俺らに向かって自身が『解放集会』のメンバーであることを告げた。

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