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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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オーバーロードVSレンタルギフト

「やっぱり『解放集会』かよ」


 俺はそう言いながらため息をついた。


 まあ想像通りの結果ではあるが、それが当たっても全然嬉しくは無い。

 ただただ虚しいだけだった。


 俺はパーティーの代表としてレアとの会話を続けた。


「それで? てめえはなんで俺らに近づいたわけだ? もしかしててめえらの教主様は俺らのファンなの? サインでもいるか?」


「うーん、確かに教主様はあなたたちのことを気にかけてますが、多分サインはいらないと思いますよー」


「そうかよ」


 俺はレアにそんな軽口をしつつ周囲を観察する。

 そしてその結果、おそらくこいつは今1人であることが判明した。


「てめえ、1人でここに来たのかよ。俺らに殺されるとか思わなかったわけ?」


「あははー、面白い事言いますねー。ボクは戦闘特化ではないですが『解放集会』の序列6位なんですよー? ――勝てると思ってるんですか?」


 そしてレアは腰のホルダーから2丁の拳銃を取り出した。


「ッ! 本気でやる気かよ!」


「……あははー。ちょっとイラッとしちゃってつい抜いちゃいましたー。反省反省ー」


 ……レアはそう言って拳銃をホルダーにしまいこんだ。


「……てめえ何がしてえんだよ」


「ごめんなさいー。ちょっと格の違いというものを教えようかと思ったんですけど、それは終さんの今後のお役目でしたー」


「あ? 終?」


 今の格の違いって話もつっつきたいが、ここで終の話を出してくるだと?


「そうですよー。ボクらの教主、終さんですよー。その終さんから伝言がございますー」


「伝言だと?」


「4番目の魔王をちゃんと倒せたら言うようにとのことでしたー」


「……ちっ」


 4番目の魔王をちゃんと倒せたらだと?


 なんだよそれは。

 まるでここまでは終からしたら予定調和だったとでも言いたいような言葉じゃねえか。


「終はなんて言ったんだよ。さっさと聞かせろ」


「はいはいー」


 レアは懐から何かの小箱を取り出した。


「ではでは終さんのお話のはじまりはじまりー」


 そうしてレアはその小箱を開けた。


 するとその小箱からあの男の声が聞こえてくる。


『やあやあこんにちは。それともこんばんわかな? それともまさかおはよう? まあどうでもいいね。こんにちは、リュウ。それとリュウについて来たご一行諸君もこんにちは。久しぶり、終だよ。このメッセージを聞いているということは、どうやら4番目の魔王を倒したとみていいね? とりあえずおめでとうと言っておくよ。今回はちょっと敵の能力が強いからレアにきみたちの手伝いをするよう取り計らったんだけど、ちゃんと役には立ったかな? え? 前置きが長いだって? 本題を話せだって? おいおい。おれから前置きを抜いたら何も残らないことくらいきみたちだって知っているだろう? おれはいつだって演出というものにはこだわりを持って――』


「用件だけ話せよ!!!」


 前置きなげえよ!

 クソッ! 突っ込まざるをえねえよこれは!!


 つか今聞き流せないことをコイツ言ってたぞ。

 今回の魔王は強いからレアが手伝うよう取り計らっただと?


「……てめえは俺らを殺しに来たんじゃねえのかよ。それになんで俺らを助けた後殺そうとしたりしてんだよ」


 そうだ。

 今回の一件はどうもちぐはぐだ。


 レアは俺らに装備を与え、そして俺らを窮地に追いやった。

 それは明らかに矛盾している行為なんじゃないか?


「あははー、ボクらもボクらなりの考えがあって動いてますからねー。こういう事もあるんですよー」


 ……やっぱり肝心な事は喋らないつもりか。


「ただボクがあなたたちを危険な状況に追い込んだのは終さんのご命令で『魔王が簡単に討伐されそうだったらリュウ達のパーティーメンバーを2、3人魔王に倒させるくらいのピンチは作ってね。ヌルゲーはだめだ。ゲームはギリギリの戦いじゃないと面白くないからね』と言われたからですよー」


 ……聞かなきゃよかったな。

 つまりあれか。俺は終にゲーム感覚で一度殺されたという事かよ。


 しかしそれでも俺らが勝つ事もアイツは考えていたのか。


「そうかよ。その話はもういいや。それで? 終は結局俺らに何を伝えたいんだ?」


「一応用件だけならボクも聞いてますからボクが纏めましょうかー?」


「最初っからそうしてくれ。アイツの声を聞いているとムカムカしてくるんだよ」


 だがまずは用件から聞くべきだ。

 レアもそのためにここにいるみたいだしな。


「あははー。あなたの声を聞くとムカムカするって帰ったら終さんに伝えておきますねー」


「おう」


 ……つか俺はコイツを見逃していいのか?


 いやだめだろ。コイツには色々聞かないといけない事がある。

 だがまあとりあえず伝言は聞いておかないとか。

 捕まえるとしてもその後でいい。


「終さんは3日後の朝10時、4番目の街から東にいったところにある大墓地でリュウさんと一対一の決闘がしたいそうですよー」


「は? 決闘?」


「はいー」


 ……何を考えているんだ?


 これは決闘と言って俺らを誘い出す罠?

 いやおかしいだろ。なんでそんな回りくどいことしてんだよ。


 例えば普通にこことかで襲えばいいじゃねえか。

 俺だってその可能性を考慮して『オーバーロード』を温存したってのによ。


「リュウさんは何度も尻を蹴り上げないと動こうとしないタイプだと終さんはおっしゃっておりましたー」


「人の事勝手にそんな風に分析してんじゃねえよ」


 てめえに俺の何がわかるって言うんだよ。

 ふざけやがって。


 つかなんで終は俺らにこんなつっかかってくんだよ。

 確かに俺らは魔王をぶっ倒し続けてて目立ってるけどよ。


「とりあえずこれでボクの用事もすみましたー」


「そうかよ」


「ではではボクはこの辺でー」


「待て」


 コイツを逃がすわけにはいかねえ。

 レアには悪いがどんな手段を用いてでもさっきの終の言葉の意味や『解放集会』についての情報を洗いざらい吐いてもらう。


 そして俺は腰を低くしていつでも走れる態勢を取る。


「てめえをこのまま帰すわけにはいかねえ。ちょっと俺らと街まで戻ってトークしようや」


「おやおやー、せっかくボクが大人しく帰ってあげようと思っていましたのにー」


「つかそもそもてめえは本当にここに1人で来て無事帰れると思ってやがったのか?」


「だからさっきから言ってるじゃないですかー。ボクに本気で勝てる気なのかってー」


「おう。てめえは1人みてえだが俺らは6人いるんだぜ?」


「そんなの関係ありませんよー。リュウさんたちは3番目の街で一体何を学んだんですかー?」


「う……」


 ……確かに3番目の街での事を考えると、数の力でも倒せない敵がいるという不条理があることは身にしみたと思う。

 3番目の魔王を倒した後の終の無双劇。あれは俺の記憶の中でも鮮明に残り続けているシーンだ。


 だが今回は違う。


 今回は終が現れても対処できるように『オーバーロード』を温存したし、そもそも今の敵は終ですらなくバルのような少女だ。比較対象が違いすぎる。


 それに2番目の街でも『解放集会』のメンバーと戦いはしたが、アイツらは2番目の街基準で強い部類に入る高レベルプレイヤー達に惨敗していた。

 つまり『解放集会』は全員が全員終のような化け物では無いということだ。

 いてもキルとかみたいなのが数人だろう。そしてその中にこんな少女が入るわけが無い。

 序列とやらは6位だそうだが、それも生産の腕を見込まれての事だろう。

 そうじゃないとあまりにレアは理不尽な存在になる。また、同時に『解放集会』に所属する上位陣の異常性が際立つことにもなる。まあ今でも十分以上と言えるが。


 ……だが、しかしレアのこの余裕はなんなんだ?

 まるで俺らを怖がっている様子が無い。


 自分は子供だから殺されることは無いとでも思っているのか?

 それとも本当にコイツは俺らが束になっても敵わないような実力者なのか?


 前者であればあまりに愚かしいと言えるが、確かに俺はコイツを殺すことはできないだろうからコイツの観察眼の勝利となる。

 後者であるならばもはや俺らにはどうしようもない。そしてここで引いてくれる行動をとっていたのに引き止めた俺が愚かであったと言わざるを得ない。


「あれー、だんまりですかー? そうじゃあボクはこの辺でー」


「っ! ま、待て!」


「んもー、さっきからしつこいですよリュウさんー」


「…………」


 ……もう考えるのはよそう。

 要は勝てばいいんだ。

 それで今の話は全部けりがつく。


 俺はレアを睨みつけながらゆっくりと声を出す。


「レア、やっぱ俺はてめえをこのまま素直に帰らせることはできねえ。俺と勝負しな」


「……はぁー、いいですよー。どこからでもかかってきてくださいー」


 俺の宣戦布告をレアはいつものように間延びした口調で、どうでもいいというかのような態度で了承した。


「それじゃあいくぜ! 『オーバーロード』!!!」


 俺がスキルを唱えた瞬間、俺の周りの世界がAGIの持つ思考加速によって通常の何十倍にも遅く感じられるようになった。

 それと同時に俺の体から黄金色のオーラが吹き荒れる。


 そして俺はスキル発動後に一瞬の無駄も無く、レアへと一気に距離を縮めていった。


「『レンタルギフト』」


 しかし俺が『オーバーロード』を発動したのとほぼ同じタイミングでレアは例の『レンタルギフト』をボソリと呟いて発動していた。


「ッ!!!」


 俺がレアが発動したスキルの真意を読み取る前に俺は速攻でレアの背後に回り、命を奪わないよう細心の注意を払いつつレアの腕を拘束しようとした。

 しかしその瞬間、レアは振り返ってグーパンを俺の顔面にお見舞いしてきた。


「グッ!」


 レアの予想外な行動、そしてその想像外な反応速度と攻撃力に俺は思わず後ずさった。


 ……『レンタルギフト』って確かパーティーメンバーの才能値を一時的に借りるっていうスキルだよな?

 何気にアイツはここへ来る前に『解放集会』の中でもAGI寄りのメンバーとパーティーを組んでそのスキルを使えるように保険をかけていたということか。


 だが今の攻撃力はなんだ? 今の俺の防御力を突破しただと?


 レアが今見せたあの反応速度と運動性能は尋常じゃない。間違いなく『レンタルギフト』で誰かからAGIを借りている。

 なのにそれと同時にSTRも誰かから借りているだと?


 ……まさか、『レンタルギフト』は複数人から才能値を同時に借りられる?

 そういえばコイツは昨日、LUKがないから失敗する恐れがあると言っていた。

 あのあとシーナのせいで有耶無耶になったが、あれはつまりSTRと同時にLUKも借りるという意味だったのか。


 複数の才能値を同時に借りられる……もしそうだとしたら……やろうと思えば擬似『オーバーロード』もできるってことじゃねえか。


「くっ!」


 俺は焦りを感じながらもその後レアに掴みかかろうと怒涛の勢いで詰め寄った。


「無駄ですー」 


 ……が、レアはそんな俺から全速力で逃げていった。

 そんなレアを追いかけるも、相手のAGIも相当高いのか全く追いつけない。


「あははー、リュウさんあと3秒ー」


「!!!」


 コイツ……俺の『オーバーロード』が切れるまで鬼ごっこを続ける気か!


 俺の『オーバーロード』は制限時間が10秒であるにもかかわらず、レアの『レンタルギフト』は5分もある。

 装備を改良する時間としては少ない時間だが、短期決戦で終結するような戦闘ではかなり長い制限時間と言える。


「あと2秒ー」


「ぐ!」


「あと1秒ー」


 俺はレアを必死で追いかけながら思考を廻らせていた。


 どうすればいい? どうすればレアを捕まえられる?


 速力はレアの方が上。現在AGIの才能値が100の俺であってもまだ追いつけない。

 レベルの差? 装備の差? どちらであっても関係ない。

 ただ追いつけない。それだけが今重要な事実だ。


 どうする? どうする? どうする?


 レアを……レアを……レアを……


 …………。




 そして『オーバーロード』の使用時間10秒間は経過した。


 俺は最後までレアに追いつけなかった。


「うぷぷぷぷぷ、残念でしたー」


「…………」


「でもダメですよリュウさんー。敵に情けをかけちゃー。その弓は飾りなんですかー?」


 レアは俺が左手に持った弓を見てそんな事を言っていた。


「いくらボクに攻撃したくないからと言って、唯一この状況を挽回できたはずのその弓を使わないのはどうなんですかねー」


「…………」


 俺は何も言えなかった。


 レアの言う通り、俺は弓を持ちながらもそれを使えなかった。

 この弓でレアへと矢を放てば当たるはず。そうすればこの不毛な鬼ごっこも終わりにできたかもしれない。


 ……だが、それでもできなかった。


 俺にはこの少女を傷つけることはできなかったんだ。



 敵であるにもかかわらず……俺はレアと戦う覚悟がなかったんだ。



「それはリュウさんの優しさかもしれませんが、それと同時に愚かな部分でもあるということをお忘れなくー」


 レアはそう言うと目にも留まらぬ速さで森へと走っていった。


「…………」


 そして俺は何も言えず、ただ立ち尽くすことしか出来なかった。

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