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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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無限と零

 俺らは今、町から逃げ出した蛇共を探して町の外に来ていた。

 そして俺らは2時間ほどの捜索の結果、なんとか夕日が落ちる前にあのブラックバジリスクとその取り巻きの大蛇共を発見した。


 夜までに見つけられたのは幸いだった。ここら一帯の人の集落は全て襲撃された以上、1夜置いた後でコイツらがどこまで逃げるか見当が付けられなかったからな。


 だがアイツらの捜索はデカイ破壊跡を辿れば簡単にわかるから、追跡すること事態はそれほどの苦労じゃなかった。


 また、ここに来るまでの森の中、周囲からは生物の姿は見かけなかった。おそらくアイツらがここに来たせいだろう。


 そしてアイツらは追っ手が来るのを予想してか、森を抜けた先にあった見晴らしが良い山脈地帯で、蛇の数を増やして待ち構えていた。


 その蛇の数およそ数千。


 もはや数えることが馬鹿らしいといえるほどの蛇の群れが大地の上を蠢いている。

 そんな光景の中、一際大きな蛇の王が俺らへ顔を向けた。


 ブラックバジリスク。奴はそんな数千はいる大蛇の群れを越えたその先に君臨していた。



「準備はいいかよてめえら」


「ええ、いつでもいけるわ」


「オレもみぞれも問題ない」


「もーまんたい」


「ワタシも大丈夫ですよ~」


 俺の言葉にシーナ、ヒョウ、みぞれ、クリスが答えた。


 シーナは秘策でなんとかなったものの、このメンバーの中にバルがいないことが俺には堪らなく辛く感じる。

 だから俺はその辛さを怒りに変え、ブラックバジリスクを睨みつける。


「よう蛇野郎。2時間ぶりくらいか? てめえはもう絶好調みてえだな」


 俺が見た感じ、ブラックバジリスクの傷は全て癒えてしまったように見えた。


 まああの回復速度なら2時間もあれば回復するわな。


 だがそれでもてめえは俺に斃される運命なんだけどな。


『『『キシャーーーーーーーーーーーー!!!』』』


 俺がブラックバジリスクを睨んでいると、取り巻きの大蛇共は一斉に俺らに向かって威嚇を始めてきた。


 総勢数百匹というその大蛇の群れが出す声は、俺らの鼓膜を破るのではというほどの大音量だった。


 だが俺らはそれを涼しい顔で聞いていた。

 とりあえずこの無駄に数が多い大蛇を駆除しねえとな。


「『マジックシェアリング』」


 みぞれがいつもの魔法を唱えた。

 周囲に灰色の光が飛び散る。


「雑魚の掃討は手はず通りオレ達に任せてもらってもいいな?」


「ああ、やっちまえ、ヒョウ」


「了解した。みぞれ、いくぞ」


「了解」


 俺らはこの2時間でブラックバジリスクの対策を練ってきた。

 そしてその場で俺はヒョウとみぞれの新しいクラスとスキルを聞いて把握した。


 その結果、もし周囲の大蛇が邪魔なようならヒョウとみぞれのコンボで掃討することに決まっていた。


 俺が単一の個体にダメージを与えることを重視しているというのなら、ヒョウとみぞれは広域の敵を殲滅することを重視していると言える。


 そんなヒョウとみぞれの新たな力が今ここで発揮される。


 まず最初にみぞれが唱える。



「『マジック・インフィニティ』」



 みぞれがそう唱えた瞬間、世界が灰色に包まれた。


 いや、実際のところ世界は言いすぎかもしれないが、だがそれでも見渡す限りの灰色の世界がここに具現化した。



 『マジック・インフィニティ』。その魔法はみぞれが新クラス『貢ぐ女』になったために得たスキルだ。


 貢ぐ女ってなんだよと突っ込みたかったが、みぞれの役割的には確かに貢ぐ的な役だからあながち間違っていないのかと俺は思考放棄した。

 どうせクラス名はあの女がふざけて考えたものだ。

 その名前に意味はないし、考えたら負けなんだろう。


 こんなふざけたクラス名であってもそのクラスを得たことで手に入れたスキルの効果は強力無比といっていい。

 そして『マジック・インフィニティ』は『マジックシェアリング』とすこぶる相性が良かった。



 『マジック・インフィニティ』。それはマジックポイント、つまりMPを無限にするという破格の魔法だ。



 しかし当然その使用制限はきつい。

 『マジック・インフィニティ』の効果時間は10秒。しかもクールタイムは24時間と、俺の『オーバーロード』と同等の制限がかかっている。


 だがその10秒という時間、いくらMPを使っても問題はない。

 このことがMPを使うヒョウにとっては好都合だった。


 ヒョウが俺らの前に立ち、右手に持った杖を天に掲げる。


 そしてヒョウは言葉を紡ぐ。



「いくぞ、雑魚共。凍てつく冷気を前にし震え、永久(とわ)の凍土へ凍えて眠れ、『アブソリュート・ゼロ』」



 ……今の台詞は聞かなかった事にしよう。

 

 ただこれだけは言いたい。一体いくつ凍使う気なんだよ。




 しかしまあ……効果のほうは悪くない。


 アブソリュート・ゼロ、絶対零度の名に恥じない威力だ。



 ヒョウが魔法を唱えた瞬間、灰色の世界が銀色の世界へと変わった。



 俺らの目の前では、ありとあらゆる全てが凍っていた。



 大蛇も、ブラックバジリスクも、木も、川も、山も、大地も、遠くの空を飛んでいた飛行モンスターさえも、ありとあらゆるものが氷の世界に閉じ込められた。




 『アブソリュート・ゼロ』、この魔法もヒョウが新たなクラス『氷の微笑(寒っ)』を取得したことで手に入れたスキルで、絶対零度の氷雪系魔法攻撃を前方に撃ち出す攻撃魔法だ。


 クールタイムはこれも24時間で使いづらいが、ただその威力は絶大で、そして尚且つその範囲に制限がかけられていないというところがこの魔法の特徴だ。


 通常の範囲魔法攻撃はより広い範囲をカバーしようとするほど魔法攻撃力が下がり、より遠くに飛ばすほどMP使用量が高まる。

 さらにそのルールも限界があり、攻撃範囲を広げすぎると魔法が薄うすくなりダメージが通らなくなり、いくらMPをつぎ込んでも届かない距離もある。


 だが『アブソリュート・ゼロ』はその限界を突破する。

 

 『アブソリュート・ゼロ』はいくら攻撃範囲を広げてもダメージ量に変化はなく、またそのダメージ量もINT依存だ。

 そして、その攻撃はMPをつぎ込めばつぎ込むだけ遠くへと飛んでいく。


 つまりMPさえあれば、1回の範囲魔法攻撃で目の前の敵全てに攻撃することができる魔法という事だ。


 更にこの魔法を使うのに必要となる肝心のMPはみぞれの『マジック・インフィニティ』によって無限に消費できる。



 その結果、リーチ無限、限界のない範囲攻撃が可能となった。


 もはやこの攻撃を前にして、通常の敵がいくらいようが塵芥同然だった。


 この攻撃を受けた数千という数の大蛇は氷の世界に閉じ込められ、やがて黒い霧と化した。



「殲滅完了」


「初めて試してみたが……これは凄まじいな」


 みぞれが状況報告をし、その後ヒョウがそんな感想を述べていた。


 俺も口に出さないがほぼ同じ感想だ。

 理論的に考えてこうなることは想像できていたが、実際にやられると言葉を失う。


 この魔法は季節感を狂わせる。

 この世界も夏なのかどうかは知らないが、元の世界と比べると気候は緩やかではあるがなんとなく同じのように感じる。

 外を歩いていると結構暑い。ただいつも着ている服や装備は魔法か何かがかかっているのかそれほど熱くならないのが幸いだが。


 だがその暑いと感じていた俺の皮膚が、凍えそうな冷気を前にして鳥肌を立てている。


 環境破壊というか、もはや氷河期でも来たのではないかという光景と寒さだった。


 ヒョウとみぞれの魔法は流石チートクラスで得ただけのことはある強力さだ。名前はふざけすぎだが。


 ちなみにクリスのクラス名は『癒し系』だった。

 どこぞの卑し系と被ってるのはどういうことだコラ。


 ……まあいい。

 今はそんな事を考えている場合じゃない。


「……やっぱ魔王は健在か」


 俺は奥の一際大きな氷の中で蠢く蛇の王、ブラックバジリスクを見ながらそう呟いた。


「流石にこの魔法で魔王を瞬殺することはできないか」


 ヒョウが俺の隣でやや残念そうにそんなことを言っていた。

 これで魔王までやられてたら俺らも苦労はしないんだけどな。


「へっ、まあいいさ。ザコは一掃したんだ。後は俺がやればいいって話だろ?」


「ああ、そうだな。『ファイアージャベリン』」


 凍った大地にヒョウが普段は使わない炎魔法を使ってブラックバジリスクへの道を作り出すのを見て、俺はヒョウと視線を交わしながらニヒルな笑みを意識して作り出した。


「くれぐれも死なないようにお願いしますね~。『マジックシールド』~」


「おう」


 クリスが俺を心配する言葉をかけながら魔法の盾を俺の頭上に作ってくれ、俺はそれに軽い調子で頷いた。


「『パワーアップ』、『ディフェンスアッパー』、『スピードアッパー』、『メンタルアッパー』、『ラックアッパー』」


「ありがとよ、みぞれ」


 みぞれが俺らに各種付与魔法をかけてくれたのに対して、俺は感謝の言葉を出した。


「無事帰ってきたらご褒美をあげます」


 そして続けてみぞれは何故かそんな事を俺に言い出した。


「いやいらねえよ」


 俺は速攻で拒否した。


 いやだってコイツからのご褒美ってセミの抜け殻とかそんなん渡されそうだし。


「……そう」


 みぞれはそうしてシュンとしてしまった。


 ……一応貰っておいた方が良かっただろうか。


「あー、わあったよ。後でその褒美とやらをくれ」


「うん」


 まあいらないものでもアイテムボックスに入れておけば問題はないからな。貰えるだけ貰っとこう。


「ほら!モタモタしてると魔王が動き出しちゃうわよ!」


「っとと、そうだった」


 ブラックバジリスクの方を見ると、ソイツは自身を束縛する氷の鎧を、地響きを立てながら脱ぎさろうとしていた。


 だがまだアイツは自由には動けない。

 今がチャンスだ。この機に乗じて一気に畳み掛けよう。


「それじゃあいくぞ、シーナ!」


「了解よ!」


 そして俺らは氷の世界の中、ただ1つだけ動き出だそうとするブラックバジリスクに向かって走り出した。

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