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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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報酬

 俺が突然店の扉から勢いよく飛び込んできたのを見て、パーティー『レッドテイル』のメンバー7人は絶句していた。


「な、なんでお前ここにいんだよ……」


「うるせー! そんなことはどうでもいいんだよ!! それよりさっきの話、あれはなんだ!? 言ってみろ!!!」


「いや……その……」


「何……って言われてもな……」


「なんだよはっきりしろよ! さっきまで馬鹿笑いしてたくせによお!!」


 俺の登場でパーティーメンバーの顔色が全員青ざめている。

 俺たち以外のただの客や店員もなにが起きたのかと此方を注視している。


「まあ待てリュウ。これはそう、誤解なんだ。お前は何か勘違いして――」


「勘違いも何もあるか! 人を散々こき使いやがって!!!」


「何? お前が働いた分ちゃんと報酬は払ってやったじゃねえか。お前もそれで納得してただろ!!」


 パーティーリーダーの紅が俺に向かってそんな事を言ってきた。


 納得してただと?

 ああ納得してたさ、でもなあ……ッ!


「パーティーの収入誤魔化してた奴がんなこと言ってんじゃねーよ! 何が1日2000Gだ! ホントは1万ぐらいあったんだろ!?」


「まっ、騙されるほうも悪いんじゃね?」


「そうそう、あれだけ狩りして収入が2000ぽっちなわけねーじゃん。素材もそれなりの価格で売れるんだぜ? 要するにお前がバカだったんだよ」


「ああっ?! てめえら言うに事欠いてそれか?!」


 パーティーリーダーである紅のそのふてぶてしい態度に感化されたのか、他のメンバーまで便乗して俺をバカ呼ばわりしてきた。


 そんな他のパーティーメンバーの物言いに、俺は益々頭に血が上っていくのを感じる。

 そして俺の目の前に紅が寄って来た。


「ばれちゃあしょうがねえ。まあそういう訳だからお前もう明日から来なくていいぞ。だからとっとと帰れ。じゃあな」


「はあ!? てめえホントにそれで済むと思ってんのか?!」


「ああ思ってるさ。俺が何か悪いことでもしたのか?」


「しただろうが!」


「じゃあ警察でも何でも連れてこいよ、ほら」


「なっ!?」


 コイツッ……!

 俺らを縛る法がもはやゲームのシステムしかないことをいいことに無茶苦茶言い出しやがった!


「ほらどうした? できないのか? ん?」


「……てめえ」


「フン、何かしらけちまったな。もう帰るぞお前ら。明日朝一でこの街ともおさらばだ」


「あらぁ、まあしょうがないわね」


「あ~、あたしの胃袋マジ腹六分目~」


「つか料理残すのもったいなくね?」


「テイクアウトOKか聞きに行ってくるッス」


 俺が黙ると奴らは撤収の準備に取り掛かる。


「まっ、短い間だったがご苦労さん。何度も言うがお前にはちゃんと報酬を払ってやったんだから、逆恨みとかすんじゃねえぞ?」


 紅は手に持ったまだ中身のあるグラスを傾け、……俺の頭に酒をぶっかけてきた。


 …………。


「じゃあな。もう二度と会うことはねえだろうよ。荷物運びくらいしか取り柄のないお前はこの町にずっと引っ込んでな」


 紅が俺の肩をたたいて店の出口へと進んでいく。

 そのとき浮かべる嘲笑が俺の癇に障った。



 ……そうかよ。そんなにこのはした金で済ませてえのかよ。



「待てよ紅」


「何だよ。俺はもうお前に用は……」


 俺は右手に金の入った袋を握り締め、紅をキッと睨みつける。


「てめえからの報酬なんかいるかバカヤローーーーーー!!!!!!!」



 そして俺は紅に向かって袋を全力でブン投げた。



「ぐほあっ?!?!?!?!」



 ……袋は紅の顔面に命中し、紅は店の外へと地面にバウンドしながら勢いよくぶっ飛んだ。



 その場にいた全員一体何が起こったのか理解できず、静寂が店の中を支配する。

 その支配からいち早く解き放たれたのは『レッドテイル』のパーティーメンバーだった。


「…………へ?」


「あ、え、ちょ、り、リーダー?!」


「な、なんだよ今の……リーダー死んでたりしてねえだろうな?!」


「町の中なんだからHPは減らないッスよ! というかリーダー向かいの店の中まで行っちゃったじゃない!?」


「とりあえず様子を見に行きましょ……」


「あ~、あたしの料理~」


 パーティーメンバーの6人は紅の安否を確かめるために店を出て行った。


「…………」


 取り残された俺は紅にぶつかって床に落ちた袋を拾う。

 袋は一箇所破れた部分があったが問題なくアイテムボックスの中に収納された。

 そして俺は床を入念にチェックし、何も落ちていないことを確認するとその場を去った。

 俺の後ろから他の客や酒場の店員の視線を感じるが、今はそんな事どうでもいい。


 今の俺はさっきの光景を見て血が煮えたぎっている。






 酒場を去った俺は、その後興奮冷めやまぬまま早足で街から出てモンスターを探す。

 夜中ではあるが今日は月がきれいで周りも良く見える。


 しばらく探し回っていると、例によってあの因縁のブタが俺の前に現れた。

 ここら一帯ではコイツしか出てこないらしい。

 やっぱり練習用のモンスターなんだな。


 俺は奴が突進してくるのを待ち構える。

 睨み合いの膠着状態が続き、痺れを切らしたのかブタは俺に向かって突進してきた。

 それを見た俺は冷静に体を横に移動させ、そしてアイテムボックスから金の入った袋を取り出す。ちなみに袋は穴の開いていないものに取替え済みだ。


 ブタが近づいてくる。


 そのブタに向かって俺はよく狙いを定めて袋を投げつけた。


 袋は額にヒットし、そしてブタは突進の慣性に従いつつごろごろ転がって、やがて止まった。

 動きの止まったブタに近づいてみると、すでにそれは骸と化し、額には大きな穴が開いていた。

 俺はその穴に手を突っ込んで袋を回収する。そして先程と同じようにアイテムボックスに袋を放り込んで中身の金額を確認する。


 その後、再び袋を取り出して中に入っている金貨を1枚取り出して眺める。


 『フリーダム金貨 耐久度1』


「……プ、クックックッ」


 俺はこの時理解した。

 なぜ紅に袋が当たったのか。

 なぜこうもあっさりブタを仕留められたのか。


 命中率が低い場合、それでも当てなければならないとしたらどうすればいいか。

 その答えは二通り存在する。


 一つは何とかして命中率を上げる方法。

 これは俺がレイピアを使って命中率に補正をつけるということが該当する。


 そしてもう一つの方法、それは『下手な鉄砲数打ちゃ当たる』だ。


「くっははっ、でもまさかこんな方法で当たるなんてな」


 紅に投げつける前に袋の中に入っていた金は800G、つまり金貨800枚だ。

 それが投げつけた後、アイテムボックスに入れて金額を確認すると648Gになっていた。つまり金貨648枚。

 648枚の金貨の他には砕け散った金貨の残骸が袋の中に残されていた。

 そしてブタに投げた後は583枚にまで金貨の数を減らしていた。


 消えた金貨はどこに行ったか。それは金貨が武器として使われ、対象となった物体に接触した瞬間に耐久度が0になって砕け散った。そう考えられる。

 紅に当たった時なくなった金貨は152枚だが、実際に当たったのは152枚目の金貨だろう。残り151枚は当たったものの命中判定で無効となってすり抜け、その際耐久度はきっちり減って砕け散ったのだろう。残りの648枚は接触がなかったからそのまま残ったのか。


 多分だがこの理論で正しいはず。

 じゃないとこの俺が2連続で攻撃を当てられるはずがない。

 それに完全に理解する必要もない。


 俺が今すべきなのは検証することだ。

 詰める袋も素材回収用にまだいくつかあることだしな。


 俺は早速この理論を実践で使えるようにするべく周囲を散策する。

 すぐに見つけたそれを拾ってよく観察する。


 『小さな石 耐久度1』


 実験の成功を予感して口元のゆるみを抑えられない。

 次々に石ころを拾い集める。

 

「よし、大体こんなもんか」


 さっきの戦いの結果を踏まえて袋の中には金貨の代わりに石を100個程詰めた。

 これだけあればあのブタ相手には十分か。


 そして再びモンスターを探す。

 5分ほど探すとまたあのブタが出現した。

 今度のブタは好戦的なのか、俺を認識した直後にはもうこちらに向かって突進していた。


 だが既に俺は投球モーションに入っている。

 そのまま振りかぶって石の入った袋を一直線に迫り来るブタ目掛けて投げた。


 あとはもはやさっきの戦いの焼き直しだった。

 絶命したブタを前にして俺は拳を握り締めた。


「感謝するぜ紅。てめえは金で買えない報酬を俺にくれたぜ」


 俺はニヒルな笑みを意識して作ってその場を後にする。


 俺はこの時、俺だけの攻撃手段を確立した。


 その手段は少々不恰好だが、今の俺にはお似合いだ。

 そしてこの戦い方は、きっと俺をユウに追いつかせるのに役立ってくれるはずだ。


 頭の中でレベルアップのファンファーレが鳴り響く。


 俺は今日レベル2になった。

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