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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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余談

 目が覚めるとそこには何もなかった。

 見渡す限りの白、白、白。


 純白の世界が目の前には広がっていた。


「……あ? ここ……来たことあるな……」


 この感覚は3番目の街でヒョウに倒された時にもあった。


 今、俺は多分あの時と同じ場所にいる。


 でもなんでだ?


「あれ?」


 そうだよ。


 なんでここに俺がいるんだよ。


 俺はついさっき、あのブラックバジリスクに潰されて……死んだはずだ。



 あの巨体が俺にのしかかる様を、俺は最期の時まで目を開けて見ていたはずだ。


 なのに俺はここにいる。


 この夢のような空間に1人で浮かび続けている。


「……どういうことなのか説明しろよ。どうせ俺の事見てるんだろ? 姿がなくても気配でわかるぜ」


 俺はどこへとも向かず、ただソイツがいるであろうと信じて言葉を紡いだ。


「黙ってないでなんとか言ったらどうなんだ? いるのはわかってるんだぜ?」


 …………


「オイオイ、それで隠れてるつもりか? バレバレだぜ、てめえ」


 …………


「俺の前で隠れられると思うなよ? 俺の声、聞いてるのわかってんだぜ?」


 …………



 ……………………



 ………………………………





 …………なんだか言ってて無性に恥ずかしくなってきた。



 俺の顔が熱くなってきたような気がする。


『あ、ごめんごめん。ちょっと席外してた』


「……おう、いるのはわかってたぜ……」


『顔を手で隠したりなんかしてどうしたんだい?』


「うっせ。俺はちょっとデリケートなお年頃なんだよ」


 さっきの俺はなんだか誰もいないところにカッコつけて話しかけるイタイ奴みたいだったじゃねえか。


『誰もいないところに話しかけても私は君をイタイ子のようには扱わないから元気出して』


「さっきの俺の声聞いてたんじゃねえか!? てめえも随分いい性格してんなオイィ!!!」


 コイツ結構性格悪いな!!!


 いたんならさっさと話しかけろや!!!


『ハッハッハっ、ごめんごめん。ちょっとしたいたずらのつもりだったんだよ』


「変なところで茶目っ気出してんじゃねえよ……それで? 本題に入ってもいいか?」


『ああいいとも』


 軽い調子で女はそう言ったが、俺はその軽さとは真逆の、重い調子で女に問いかける。


「俺は……さっき死ななかったか?」


『ああその話か。うん、そうだね。君はあの魔王にペシャンコにされて死んでしまったね』


 ……やっぱりか。

 俺はあの時死んだのか。


 ……だがそれならどうしてだ?


「……じゃあ俺はなんでここにいるんだ?」


『それはもちろん、君にさっきまで戦っていた魔王を倒してもらいたいからだよ』


 女は何を当たり前なことを聞いているんだ言いたいような、そんな軽い調子で俺の問いかけは返された。


「でも俺は死んだんだぜ? 死んじまったらそこでなにもかも仕舞いだろうが」


『まあその辺については気にしなくていいよ。既に対策は打ってあるから』


「あ? 対策?」


 なんだそりゃ?


『それについては君が目を覚ましてから確認するといい。私から言えるのはそこまでだ』


「なんでだよ?」


『それは話すと色々まずい内容が含まれているからだよ。それで、他には何か聞きたいことはあるのかな?』


 ……こいつ、露骨にこの話を終わらせようとしているな。


 でもまあまだ俺はあの世界を生きられるというのならこの話は終わりにしてもいいか。


『なんだい? 黙り込んじゃったけど君は私に何も質問はないのかな? お姉さんは君の質問になら何でも答えるよ』


 とかいいつつさっきの質問は誤魔化したじゃねえかよ。

 なにが何でも答えるだ。


「……それじゃあ終ってプレイヤーについて教えてもらおうか」


『それはダメだ。私の口からは言えない』


 ……おい。

 何でも答えるんじゃなかったのかよ。


『なんだいその目は。私は君に睨まれるような事をしたかな』


「いやしてるだろうが。現在進行形でしてるだろうが」


 なんなんだコイツは。もしかして俺をおちょくってんのか?


『ハッハッハッ。いやまあちょっとしたジョークだよ。許してくれ』


「ちっ、こんなときにふざけてんじゃねえよ」


『ああうん、ごめん。でもさっき言ったことは本当だ。私は彼について何も語ることはできない』


「なんでだよ」


『それも答えられないな』


「……そうかよ」


 あいつがなんで俺と同じ『オーバーロード』を使えるのか問いただしたかったんだが、この調子じゃ話さないだろうな。


 もしかしたらこの女が終に俺と同じクラスを与えたのかもしれないと考えていたんだが。


「わかった、それじゃあ次だ」


『うん。何かな』


 俺はそこで息を大きく吸った。


 これはコイツに絶対言わなきゃいけない事だからな。


「ああ、これはてめえにまた会ったら絶対に言いたいことだったんだが……あのクラス名はなんなんだよ!!!!!」


 俺は力の限りを込めてそう叫んだ。


『えっ、そんな事?』


「そんなことじゃねえんだよ! 何だよ『魔王討伐者 ドラゴンロード』って! 中二病全開じゃねえか!」


『えー』


「えーじゃねえよ!?」


『君のためにお姉さんが寝る間も惜しんで考えたクラス名なのに酷いな君は』


「いらねえよ!? そんな努力いらねえよ!?」


 変なところに努力を注ぐな!

 そんな事してる暇があるならもっと他の事に労力を使え!


『ちなみにドラゴンというのは君の名にちなんで付けてみたよ。オリジナルクラスだ。やったね』


「なんとなくわかってたけどそんな配慮いらねえよ! もうちょっと無難な名前つけろや! 俺3番目の街ではすっかり『ドラゴンロード』さんって呼ばれるようになっちまったんだぞ!」


『なかなか悪くない響きだと思うんだけどね』


「知るか!」


 つかやっぱりコイツが適当につけた名前だったか。

 ご丁寧にドラゴンなんて付けやがって。


「あとバルとシーナのクラス名もだ。なんだよありゃ。本人滅茶苦茶嫌がってたぞ」


『彼女らについても私のセンスでクラスを名づけさせてもらったよ。なかなかシャレの効いた名前だと思うんだがね。君もそう思わないかな?』


「…………」


 ……まあ確かにあいつらのクラス名を聞いたとき、ああなるほどなとか思っちまったのは事実だ。

 バルは見たまんまだし、シーナは2番目の魔王に跳ねられた時の行動が思い起こされる。


 あいつらは確かに『絶壁』だし『当たり屋』だ。

 本人には怖くてあんま言えねえけど。


『どうやらもう既に納得しているようじゃないか。お姉さんは嬉しいぞ』


「うっせ。これはここだけの秘密だかんな」


『わかったわかった。それで? 他には何かあるかな?』



 …………。



「……なあ、さっきからてめえ、なんで俺の質問に答えるばかりなんだ? 俺をここに呼んだのは何か俺に用があったからなんだろ?」


 さっきから疑問に思っていたことだ。

 どうしてこいつは今回世間話をする程度の事しかしてこないんだ?


 なにか思惑があって俺を呼んだんじゃねえのかよ。


『うーん。実のところ君をここに呼んだ時点で既に私の目的は達成されているんだ』


「あ? どういうことだよ」


『私がやりたかったことはここに君を呼んで君のパーティーの情報をちょっと改竄したかったからなんだよ』


「改竄って……てめえ何したんだよ」


『それは目を覚ましてからのお楽しみという事で。すぐわかることだからね』


「そうかよ」


『ああ、でもこれだけは先に言っておくよ』


「? なんだよ」


『君が7人目のパーティーメンバーに入れてた女の子、パーティーから外したから』


「……そうかよ」


 ……そんなことか。

 わざわざコイツがやらなくても俺が後で外してただろうよ。


「……なあ、もしかしててめえはレアのことも知ってるんじゃねえのか?」


『それについても答えられないな』


「……ちっ」


『ああでも1つだけ言えることがある。彼女は君の敵だ。絶対に信用してはいけないよ』


「言われなくとももう裏切られちまったから信用なんてしねえよ」


『ならいいんだけど』


 そうして女がフウっと息を吐くような音が聞こえた。


 ……いや、ならこれはどうだ?


「……なあ。もしかしてアイツは解放集会のメンバーなんじゃねえのか?」


『…………』


 ノーコメントか。


 ただこの無言がどういう意味を持つのかなんとなく察しはつける。


 コイツは今あえて無言という答えを提示した。

 さっきまでのコイツなら『それは答えられない』といったような言葉を出したはずだ。

 それが今回に限って無言という事は、つまり俺の予想は当たりだった可能性が高い。


 そもそもレアは最初に会ったときから疑うべきだったんだ。

 パーティーメンバーが石化してレアだけ生き残ってるとかどんだけ都合がいいんだよ。


 アイツは石化耐性くらいならポンポン作れるくらいの能力があるのに、そんな奴がいるパーティーメンバーが石化してレアだけ残るというのはどうも変だ。

 そう考えるとそもそもアイツの仲間が石化したなんてうそ臭すぎることこの上ない。


 アイツは網を張っていたんだ。

 そして俺らが罠にかかるのをアイツは笑いながら見ていたってわけだ。


「オーケー。アイツについては戻ったら俺の流儀できっちり落とし前つけさしてやる」


『そうかい? その辺はまあ君の自由にするといいよ。変なところで足元をすくわれない限りはね』


「うっせ。今回はちょっと見た目に騙されただけだ。次からはもっと慎重にやるさ」


 そうして俺はグッと握り拳を作り出す。


『ハッハッハッ。君は小さい女の子に弱いからね。案外またすぐコロッと騙されちゃうんじゃないかな?』


「うっせうっせうっせ。人をそんな反省しない奴のように語るんじゃねえよ」


『でも君はシスコンだからね。小さい子を見るとつい妹を連想しちゃうんじゃないかな?』


「う……」


 これについては反論できねえ。

 俺は自覚あるシスコンだからな。


『……本当に妹思いなんだね君は』


「なんだよ。てめえまだ前回の最初の事引きずってんのか?」


『いや、そういうことじゃないんだけどね』


「?」


『……うん。やっぱり君の精神は滅茶苦茶だ。そんなにも歪なのに一体どうして日常生活に支障をきたさないのか不思議だよ』


「……は?」


 なんだ?

 いきなり話が変わりやがった。


 しかもコイツ、今俺を異常者みたいな言い方をしてやがるし。一体なんなんだよ。


「ちょっと今のは聞き捨てならねえな。てめえ、俺のどこが滅茶苦茶だっつってんだよ?」


『うーん。自覚無しか。こりゃ重病だね』


「いい加減にしねえと怒るぞ。俺は結構怒りの沸点が低いんだからよお」


『ああごめんごめん。別に私は君のカウンセラーというわけではないしね。今のは忘れてくれ』


「オイ、俺はてめえに聞いてんだよ。俺のどこが滅茶苦茶なのかって事をよお」


『それについてはまた今度話そう。そろそろ君の仲間が起こしてくれるよ』


「あ?」


『それじゃあまたね~』


「おいこらてめえ! 何逃げようとしてんだよ! さっさと答えろよコラ!!」


 俺は何もない白い空間で怒鳴り散らした。

 だがそれで返ってくる言葉はなく、やがて俺の意識は途絶えた。



 そして俺は目を覚ました。

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