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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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4番目の魔王

 西の町へ着いた時、そこは既に戦場だった。


 外から遠目で町が見えてきた時には金属音や爆発音が鳴り響き、その音を聞いたときには俺らは走っていた。

 そして町の中へと入った俺らがそこで目にしたのは大量の大蛇。昨日町で見たモンスターと同じものだった。


 そんなモンスターと戦っているプレイヤーと町の人間。すでにかなりの数の人間が石化してしまったようで、人間側がかなり押されている。


「加勢するぞ!」


「了解!」


「『スピードアッパー』、『パワーアップ』、『ディフェンスアッパー』、『マジックアップ』、『メンタルアッパー』、『ラックアッパー』」


 みぞれの付与も完了し、俺らは目の前の戦いに介入すべく動き出した。


「ほらこっちを見なさい!」


 まず最初にシーナが大蛇に向かって走り寄って、大蛇の攻撃を分散させている。

 その姿を俺らは遠くから走りつつ見ていた。


 そしてその間、俺は走りながらも弓を構えて2匹の大蛇を打ち抜いた。


「みぞれ!」


「了解、『マジックシェアリング』」


 大蛇との距離が縮まってきたところでみぞれが魔法を唱え、俺らを灰色の光が包み込んだ。


「『グラビティフィールド』」


「『ブリザード』!」


 みぞれの魔法で3匹の大蛇が動きを鈍らし、それに向かってヒョウが遠距離範囲魔法をぶち当てた。

 それによって3匹の大蛇は氷漬けとなって動きを止めた。


「大丈夫かてめえら!」


 俺は今までその大蛇と戦っていたプレイヤー連中に声をかけた。


「あ、ああ、俺達は大丈夫だ! それより町の中がヤバイ!」


「いつからこうなった!」


「つい数時間前だよ! 蛇だかトカゲだかよくわらないモンスターが数百匹の大蛇を引き連れてやってきたんだ!」


「一体なんだよあのモンスター集団は! 町の中なのに普通に入ってきて俺達にダメージを負わせられるし! 4番目の街に着てからずっとついてねえよ!」


「そうか」


 つまりはまだそれほど時間は経っていないからこの近くに魔王がいる可能性も高いってことだ。


「シーナ! てめえは『ファントム』で魔王を探し出せ!」


「了解! 『ファントム』!」


 俺はシーナに指示して『ファントム』を使用させた。


 スキル『ファントム』はシーナが『当たり屋』のクラスを取得した時に手に入れた2つのスキルの内の1つで、使用すると1時間、自身の分身を自由に作り出せるというスキルだ。

 その分身というのはスキルが発動している1時間の間、増やす事も消す事も可能となかなか自由度が高い仕様となっている。


 しかもこのスキルで出現した分身は実体を持っており、意識すらも共有できるという謎仕様も組み込まれている。

 このためシーナ曰く『私でも精々3人に分身するのが限界よ』というスキルらしい。


 ちなみに分身を作り出すと本体から最大HPから1ポイントをスキル終了時まで持っていって分身体のHPとなるようなので、やろうと思えばシーナは最大99人の分身を作ることができるということになる。


 本体合わせて100人のシーナとか想像すると恐ろしい絵図になるな。

 とんでもなくうるさそうだ。シーナは1人で十分だ。


 まあ今回はとりあえず3人に分身して1人が俺らを守る回避盾、残りの2人が捜索という形で別れたみたいだが。


「俺らはシーナが戻ってくるまで雑魚を蹴散らすぞ!」


「了解! 『アイススピア』!」


「ろ、『ロイヤルガード』!」


「『ロングバインド』」


「『マジックシールド』~」


 残った俺らはシーナの報告が来るまで周囲の大蛇を駆除して回ることにした。


「うぷぷー」


 俺らに同行していたレアも戦闘に参加するらしく、昨日と同じくワンピースの姿で銃らしきものを両手に持った。


 あれがレアの主要武器か。

 なんだか小さな女の子がゴツイ銃を両手に持って戦うとか違和感ありありだが、果たしてコイツを戦力として数えていいものか。


 と、そんな事を考えているうちにレアは1匹の大蛇に向かって銃を乱射し始めた。

 その銃弾はDEXによる補正が効いているのか全段ヒットし、大蛇がのた打ち回っていた。


「……なあレア。てめえSTRはないんじゃなかったのか?」


 それを見て俺は疑問に感じたため、レアに訊ねた。

 今のレアの攻撃は明らかにダメージがあった。


「? ありませんよー」


「じゃあなんであの蛇にダメージが入ってんだ?」


「あー、それはこれのおかげですよー」


 レアはそう言って俺に二丁拳銃を見せてくる。

 その拳銃は一方がリボルバー式で、もう一方はオートマチック式だった。


 使い分けてたりするのだろうか。はたまたレアの趣味なのか。いやまあそれは今はどうでもいいか。


「銃やボウガンといった装備は扱う人間のSTRに関係なく一定の威力を発揮するのですよー」


「マジか」


 そうだとすると俺には不要の装備だが、STRが低いプレイヤーにとっては良装備として携帯していても悪くはねえな。


「それに加えてボクの銃は特別製で攻撃力を極限まで高めてあるのですよー。『スパイラルショット』、『パワーボムショット』」


 レアはそうして2丁の銃を蛇に撃つと、一方は大蛇を貫通し、もう一方は当たった瞬間爆砕した。


 どうやら左右の武器に別々のスキルが備わっているようだ。


「それもてめえが作ったのか?」


「モチのロンですー」


 コイツ本当に万能だな。


 やっぱこの戦いが終わったら仲間にでも勧誘してみるか?


 ……いや、それはまだ結論を出さないでおこう。

 コイツが加入するとなるともしかしたらシーナやみぞれが反対するかもしれない。

 こういう話は後で落ち着いてから全員で話そう。


 それにレアも元々組んでいたパーティーの奴らがいるだろう。

 今は石化しているのだろうが、魔王を倒せばそれも解けるだろうし、そうなったらレアもそっちに戻っていくだろ。

 その石化したパーティーもこんな生産が得意な奴を手離すとは思えねえしな。




 ……ん?

 今何か変な違和感を感じた気が。


 気のせいか?






「見つけたわ!」


 戦闘を開始してから5分弱、俺らの傍で回避盾に専念していたシーナが声を上げた。

 どうやら分身体の1人が魔王を見つけたらしい。


「魔王はこの先の大通りを進んだ先の突き当りを左に曲がったところにいるわ!」


 この先か。

 俺らの目の前にはまだまだ蛇共がうじゃうじゃいやがる。

 ここは無理矢理突破するしかねえな。


「よし! ナイスシーナ! それじゃあ俺らもそこに移動するぞ! シーナは分身を使って蛇を俺らから引き離せ!」


 俺はこの場にいる全員に聞こえるように声を出した。


「おっけー!」


「了解!」


「了解」


「了解~」


「りょ……了解!……なのじゃ」


 そしてパーティーメンバー全員が声を返してきたところで俺らは走り出した。


「『グラビティフィールド』」


「『ブリザード』!」


 シーナが周囲の敵を遠ざけ、また俺らの前方にいる敵は一箇所にまとめあげ、そのまとまったところをみぞれが『グラビティフィールド』で足止めし、とどめにヒョウが『ブリザード』で凍らせ、取りこぼしたのを俺が弓で撃ちぬく。そんなコンビネーションで俺らはガシガシ前へと進んでいった。


 そしてそんな突撃をして十数分後、俺らは遂に魔王らしきモンスターと対峙した。


「……でけえ」


 俺らの目に映るモンスターはおそらくは蛇なのだろうが、もはや竜といってもいいくらいの巨体で町の中を暴れていた。

 その蛇は5メートルはあろうかという太さの胴体をくねらせながら複数の足を使って町の大通りを進んでいき、必死で戦っている人々を一睨みで石化させていく。


 そんな光景があまりにも圧倒的過ぎたため、俺はその場で一瞬呆けてしまった。


「……ああいうのってなんて言ったっけか。オレらの世界でも伝説上にああいうのがあったよな?」


「バジリスク」


「……そういやそんな名前だったな」


 俺の問いかけにみぞれが答えてくれた。

 確かにそんな名前の生き物がいたとかいう話があったな。


 その生き物は頭部にトサカのようなものが冠状に生えていて、蛇なのに8本の足がある。そして視線だけで人を石化させる力を持つ。そんな、今目の前にいるような生き物が俺らの世界ではバジリスクと呼ばれていたはずだ。

 ただ今目の前にいる蛇の鱗は漆黒だ。この特徴は今まで出てきた街の魔王と共通した要素だからコイツが魔王で間違いないだろう。


 さしずめ、ブラックバジリスクといったところか。


「つか……これは今までの魔王とは比べモンにならねえな……」


 俺が今まで戦ってきた魔王は全部で3体。ゴーレム、大蜘蛛、ヴァンパイアだ。

 大きさでいうならゴーレムも馬鹿でかかった。高さでいうならそのゴーレムの方がでかかった。


 だがこのバジリスクは胴体が長い。少し顔を上げればゴーレムなんか目じゃないってくらいの高さから俺らを見下ろすだろう。


「だがやるしかないだろ」


 隣にいたヒョウが俺に向かってそう言ってきた。


「オレ達はあのモンスターを倒しにここまで来た。違うか?」


「……へっ、そうだな。いっちょ蛇狩りとしゃれこむか!!!」


「ああ!」


 そうして俺らは4番目の魔王、ブラックバジリスクとの戦闘を開始した。

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