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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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防具スキル

 俺らは西にある町へ目指して出発した。


 そして俺はその時、1つの実験をしてみたいと思っていた。


「……夜は結局モンスターが出てこなくて試せなかったが、外に行けば機会はあるだろうな」


「何か言ったか? リュウ」


「ん? ああまあな。ちょっとコイツの性能を早いとこ確認したくてよ」


 俺は話しかけてきたヒョウに右手にはめられた弓懸を見せた。


「ああ、スキルが付加されたんだったな。確か『多段射撃』?」


「その通り」


 防具スキル、『多段射撃』。これはレア曰く、複数の矢を同時に放つ際に補正がかかるという代物らしい。

 ただ同時に放つということはつまり右手で2本以上の矢を持たないといけないという事になるはずだ。


 だから俺は昨晩、2本の矢をどうにかうまいこと右手だけで持てないかと試行錯誤を行った。

 そしてそこでわかったことが、どうやらこの弓懸は『地中海式』で矢を持てばいいという事がわかった。


 『地中海式』は矢を持つ方法の一種で、矢を人差し指と中指で挟むようにして持つ手法だ。

 この手法は俺が2番目の街にいた時、同じ弓使いのアンから聞いたものだ。

 アイツは元の世界じゃ弓道部に入っていたということで、弓矢の持ち方についてあれこれ聞かされた思い出がある。まあ大体は聞き流していたんだが。


 そしてそんな思い出の中からヒントを得て試した持ち方が、矢を人差し指と中指の間だけではなく、中指と薬指の間にも挟むという方法だ。

 この持ち方を弓懸をはめた状態でやってみると思いのほかしっくりきた。そしてよく弓懸を見ると指と指の間に滑り止めがあり、矢を挟めるように若干形状がへこんでいた。

 だからおそらくはこの持ち方が正解なんだろうと俺はその時思った。


 しかしながらそれはあくまで予想で、実際にはまだ一度も試していないから俺の疑念は拭いきれていない。

 まあこれで失敗したとしても今までの持ち方で1本1本放っていけば問題ない話なんだけどな。


「とりあえず手ごろなモンスターが1匹だけとかで現れてくれると助かるんだけどな」


「……1匹だけではないがシーナがジャイアントアントを引きつけてきたみたいだぞ」


「あ? ああ、本当だな」


 俺が見た先にはシーナが遠くから馬鹿でかい蟻を2匹引き連れている光景があった。


「んじゃ試しにあの蟻を2匹同時に屠ってやるよ。もしできてなかったらフォロー頼むぜ」


「了解した」


 俺はヒョウの言葉を聞いてから2本の矢を指に挟んで弓を構えた。

 普通こんな矢の持ち方したら力入らねえだろうが、俺はSTRのおかげで難なくこなせる。

 2本の矢を一緒に弓の弦に乗せ、ギリギリと引いていく。


 狙いは目に映る2匹の蟻両方だ。

 俺はそう意識して2匹の蟻を見据える。


 そして弓弦が十分に引けたところで俺は矢を離した。


「おお!」


 俺の手元から離れた2本の矢は、2匹の蟻に1本ずつ突き刺さった。

 矢が命中した蟻は、両方とも1発で動かなくなり絶命したようだった。


「……これは実験成功でいいんじゃねーの?」


「そうだな。どうやらスキルは正常に発動したようだな」


「そうか。へへっ、おいレア! てめえマジサンキューな!」


「どもどもー」


 俺は近くにいたレアに礼を言ってグッっと握りこぶしを作った。


 今の攻撃は明らかに弓の武器スキルが働いていた。

 俺が放った矢は蟻に向かってカーブしたし、一撃で当たったという事実がその証明だ。


 これによって俺は複数の敵を同時に倒す術を手にいれたという事になる。

 それは俺にとってかなりのメリットだ。


「とりあえず今は3発撃ちに慣れるか」


 3発以上もできそうだがまずは親指以外の4本の指を使った矢の持ち方に慣れてからの方がいいだろう。

 持ち方が不安定だから焦った時に矢を取りこぼすなんて事もありえるしな。






「アチョー!」


 モグラのようなモンスターを前にして、シーナがそんな奇声をあげて蹴りやチョップを入れていた。

 本来シーナはDEXに才能値を振っていないから攻撃なんて当たるはずは無いのだが、今は『必中のグローブ』があるからやりたい放題だ。


 多分アレは盾としてヘイトを稼ぐためにしている行為なんだろうが、本当にアレでいいのだろうか。


「なんつーかあれで本当にヘイト溜まるのか? あのモグラに全然ダメージ入ってねーだろ」


 シーナにポカポカ拳や蹴りを当てられてもなんのそのとった様子のモグラを見ながら俺はそんな感想を吐いた。


「ダメージ量も勿論大きな要素ですが、攻撃する事自体にヘイトが溜まる要素が含まれているようですよ~」


 そんななんとなく出した俺の疑問に、近くにいたクリスがいつものように陽気な声で答えてくれた。


「そうなのか。それじゃあ攻撃の手数を増やせばかなりのヘイトを溜めることができるな」


「そうですね~」


 今までは回避することしかできなかったシーナだが、必中のグローブを両手にはめたことでモンスターへの攻撃も可能となった。

 ただ、それでも攻撃力が皆無のシーナにそんな装備が必要なのかと首を傾げていたが、どうやらこうやってヘイトを溜めるために使用するという使い道があるようだ。


「最初はただの嫌がらせかと思っていたが、レアもこの効果を狙ってシーナのグローブにこんなスキルを付けたんだろうな」


「ボクがどうかしましたかー?」


 ふと、後ろにいたレアが俺の隣までとてとてと走ってきた。


「てめえはマジ優秀だなって話をしてたんだよ」


「そうですかー、えへへー」


 そうしてレアは自分で自分の頭を撫でてご満悦といった様子を見せた。

 ちなみに今のレアは戦いには参加していないものの、俺らとパーティーを組んだ状態を継続している。

 そのほうが何かあった時便利だからな。


 いや別にそのまま仲間に引き釣り込もうとしているわけじゃないけどな。

 優秀だろうがなんだろうがこういうことはちゃんと全員で話し合って決めるべきだしな。


「そろそろ10秒か、シーナいくぞー!」


「オーケー!」


 クールタイム10秒が経過した弓を構えて俺はモグラを撃ちぬいた。


「つか必中のスキルがついてんのは両手のグローブだけだろ? なんで蹴りもできるんだよ」


 そしてモンスターを掃討し終えて、俺の方へ近づいてきたシーナに向けてそんな言葉を放ってみた。


「そんなの私にわかるわけないじゃない。やってみたらできたってだけよ」


「なんじゃそら。てっきり俺は拳だけしか当たらないと思ってたぞ」


 グローブを付けているのが両手拳なわけだから俺の弓の事を考えると拳以外が当たるのはおかしい。


「あーそれはですねー『絶対命中』が防具スキルとして機能しているからなんですよー」


「は? 防具スキル?」


 俺とシーナの会話にレアが混ざって解説をしてくれた。

 つか最初から作った本人に聞きゃ良かったんだな。


「まず前提知識からお話させていただきますー。防具でDEF+10などの表記があると思いますが、それはその防具部分だけ防御力が高まるという意味ではなく、身につけた人の全身及び装備の全てに適用される数値なのですー」


「ふんふん」


 なるほどな。

 防具に備わった防御力は全身を守ってくれるってことか。


 これは初耳だ。変なところでゲームチックな効果してんな。


「そしてそれと同様に防具スキルも全身及び装備類に適用されますー。1つの装備につけた『石化耐性』が全身を守ってくれるのもそういった理由からですー」


「あ、そっか」


 石化耐性も全身に効果が無くっちゃ意味ないもんな。

 確かに考えれば当たり前の話だった。


「だから防具スキルとして付けられた『絶対命中』がグローブ以外の攻撃で適用されてもそれは不思議なことではないのですよー」


「なるほどなー」


 防具スキルの『絶対命中』は全身に効果があるということか。

 なんかそれだと俺の弓より優秀な装備みたいで嫌だな。


 前にちょっともしかしたらできんじゃね?と思って必中の弓を左手に持ちながら右手で剣を振るって攻撃が当てられるかと期待して試してみたりしたことがあるのだが、結果から言うとそれは無理だった。

 やはり必中の弓は弓で引いたものに必中効果を与えているようだ。だから剣の攻撃にはスキルは発動しなかった。


 なんだかなあ。


「おいこらてめえシーナ。調子乗ってんじゃねーぞ」


「いきなり何キレてんの!?」


 俺はその理不尽な結果によるやるせなさをシーナいじりで解消することにした。






 そしてそんな道中も半日近くが経過し、俺も矢の3発打ちが様になってきたかといった辺りでやっと俺らの目的地に到着した。


 町は今まさに大蛇共と戦闘を行っていた。

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