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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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装備強化

 メシを食い終わった俺らはレアにそれぞれの防具に石化耐性をつけてもらうため集まった。


「うぅ……お腹が……お腹が……」


 結局あの後カレーをおかわりしたシーナは腹をさすりながらそんな事を言っていた。

 まあ俺もシーナに負けじとおかわりを繰り返して腹がキツイが。


 コイツ見た目のわりによく食うんだよな。さっきの大食い勝負は僅差で俺が勝ったが。


「うんこならそこの通路を突き当たりまで行ったところに便所があるからそこでしてきな」


「違うわよ! てゆーか女の子にうんこしてこいとか言うな!!! てゆーかカレー食べた後にうんことかいうな!!!!!」


「てめえも言ってんじゃねーかよ。しかも俺より多い2回」


「うっさい!!!」


 シーナはいつでもうるさかった。

 やれやれ、うんこうんこうるさいお嬢さんだ。


「まあとりあえずそろそろ始めてくれ、レア」


「わかりましたー。それでは5分で全部に付加しますねー。『レンタルギフト』」


 レアはスキルを発動させるとすぐに作業に取り掛かり、俺らの装備をみるみる改造していった。

 その作業はあまりに早すぎたり時折光を放ったりでよく見えなかったが、レアは宣言どおり5分で俺らの装備の改造を終わらせた。


「ふー、いい仕事しましたー。どうぞ皆さんご確認くださいー」


「ああ、わかった」


 俺らはそれぞれの防具を手に持って、その性能を確かめた。


  『多段射撃の弓懸 DEF+100 防具スキル(多段射撃、石化耐性) 耐久度20000』


 ……もはや別物になっていた。


 つか多段射撃ってなんだ。


「……なあレア、俺の弓懸、とんでもないことになってるんだが」


「サービスしておきましたー」


「サービスて」


 まず最初に、確かに俺は防御力を上げる強化も頼んだが、ここまでの代物は期待していなかった。

 元がDEF+15だったからそこへ更に+5もしてくれれば十分だろうと俺は考えていた。


 だが結果は+100.元のDEFから85も上がった事になる。なんだよそれ。


 そして防具スキルにある多段射撃。これも市販の弓懸にはなかったものだ。


「なあ、多段射撃ってなんだ?」


「複数の矢を同時に射出する時に補正がかかるっていうスキルのはずですよー」


「同時に射出だと?」


 それじゃあこの弓懸を使えば2本3本の矢を同時に撃てるってことか?

 いやでもその場合必中の弓のスキルはどう適用されるんだ? 後で検証が必要だな。


「あとついでに耐久も20000に増えてるな」


「それもサービスサービスですよー」


 マジか。なんっつーか太っ腹だな。

 こんな装備ならいくら払ってでも手に入れたいってプレイヤーもいるだろうに。


「なんか色々付けてくれてサンキューな」


「いえいえー、LUKがなかったから強化失敗する可能性高かったですけど、うまくいって良かったですー」


 LUKか。


 LUKは俺らの中じゃ誰も才能値に振ってなかったからな。

 だが今の発言を逆に考えるとそれもあればこれくらいの装備がポンポン作れるってことか。とんでもない奴だな。


「……! これは……!」


「? どうかしたか、シー――へぶっ!?」


 俺が驚いているシーナに声をかけようとしたところで突然シーナに殴られた。


「あ、当たった」


「いきなり何すんだ!!!」


「いやぁちょっと装備の性能を確かめようかと思っちゃって」


「それでなんでグーパンなんだよ!って……なんでてめえ俺を殴れたんだ?」


「これのおかげよ。ちょっと触ってみてみなさい」


「これ?」


 シーナはそう言うと両手にはめた薄手の黒い穴あきグローブを俺に突きつけてきた。

 俺はそのグローブを触って性能を確かめた。


  『必中のグローブ DEF+100 防具スキル(絶対命中、石化耐性) 耐久度20000』


「……おい、レア。てめえなんでこいつのグローブにこんなスキルつけた」


「うぷぷー」


 俺の問いかけにレアはただ手を口に当てて笑うだけだった。


 つかなんでコイツ絶対命中なんてスキル付加できんだよ。

 4番目の街ではその手のスキルがついた装備も普通にあったりするのか?


「回復魔法はいりますか~?」


 クリスがそう言いながら俺に向かって手をかざそうとしていた。


「いや、いらん。どうせ町の中でHPは保護されてるんだからよ。痛みももうひいた」


 回復魔法ってHPを回復するだけじゃなくて痛みも軽減してくれるんだよな。

 なかなか便利な魔法だ。


「ふっふっふ。今度からあんたが私をおちょくろうとするたびに鉄拳制裁が降り注ぐことを覚悟するといいわ」


「ちょ……てめえSTRなくてもそこそこ痛いんだぞ……」


 なんてったってシーナのSTRが低いのと同じくらい俺のVITも低いんだからな……


「だったら今度から私にもっと優しく接することね!!!」



「断る!!!!!!!!!!」



「はあ!?」


 俺は力の限りの声を出して断った。


「おちょくれないシーナなんて俺の知ってるシーナじゃねーやい! ばーか!!」


「な!? なんでいきなりあんたそんな子供みたいなこと言ってんのよ!」


「うっせ!!! 暴力のできるシーナなんて嫌いだ!!!!!」


「ちょ!?」


 俺は全力で今のシーナのあり様を否定しまくった。


「てめえそのグローブはめたまんま俺の近くに寄るんじゃねーよ! 半径10メートルは離れて暮らしやがれ!!」


「ぐっ! な、なんでそうなんのよ!! 私がどんな装備身につけたってあんたには関係ないでしょ!!!」


「知るか!!!!! とにかくそのグローブをつけてる限り俺はてめえとは絶対話さねーかんな!!!!!」


「え、えええぇぇ……」


 俺の激しい抵抗にシーナからは力の抜けるような声が聞こえてきた。

 そしてシーナは俺の方に近づいてこようとしてくる。


「近づくなーー! これ以上俺に近づくんじゃねーーーーーーー!!!」


「わ、わかったわよ……このスキルは戦闘中にしか使わない! それでいいんでしょ!!」


 俺のあまりに激しい拒絶っぷりにとうとうシーナは膝を屈したようだった。


 だがまだだ。まだ終わっちゃいねえ!!!


「いーやよくねーな! 念のためにてめえには念書を書いてもらうぞ!!」


「は……はああああああああああ!?」


 俺の言葉にシーナは口を大きく開いて声を出していた。


「嫌なら俺は今後てめえとは口聞かねー!!! 絶対口聞かねーーー!!!」


「う、わ、わかったわよ! 書けばいいんでしょ書けば!」


 そうして俺はシーナから念書を書いてもらった。


「ほら……これでいいんでしょ」


「どれどれ……『私シーナは今後必中のグローブを戦闘以外の行為に使わないことを誓います』か」


 判子はなかったからシーナが持っていた口紅を使って母印が押されているが、まあ形式的には問題ないか。


「だがダメだな」


「はあ!? あんた私にこれだけさせといてまだ足りないって言うの!?」


「そうだ。この文章だともしこの誓約を破ったとしてもなんの問題もない」


「じゃあどうしろっていうのよ!」


「この念書に『もしこの誓約を破った場合は、私シーナはリュウのお願いを何でも一つ叶えます』と加筆しろ」


「ちょ……あんた……そんなの書かせて私に何する気よ」


「別に大したことはさせねーよ? ただ鼻からスパゲッティを全部食ってもらうとかそんな些細なことだ」


「十分に大したことよ!? あんた乙女に何てことさせようとしてんのよ!?」


「うるせー!!! 約束守れねー奴には乙女もくそもねーんだよ!!! それとも何か! てめえは約束破る前提でこの念書を書いたのか!!!!!」


「な!? そんなことはないわよ! 私は一度した約束は絶対に破らないわ!! 馬鹿にしないで!!!」


 俺の必死な問いかけにシーナは売り言葉に買い言葉の構えを取った。


「それじゃあさっさと念書に書けや! 自分の言葉に責任持てや!! てめえの本気を見せてみやがれ!!!!!」


「わかったわよ! 書けばいいんでしょ書けば!! こんなの破らなければどうって事ないじゃない!!!」


 そうしてシーナはさっき俺が言った文を念書に書き足した。


「いいか! 絶対約束破んじゃねーぞ! この念書は俺のアイテムボックスの一番深いところにしまっておくからな!!!」


「わ、わかってるわよ! 私は約束は破らないわ!」


「よし! よく言った!!!」


 こうして俺はシーナの弱みを一つゲットした。


 ふぅ、危なかった。これで心置きなく今後もシーナをおちょくれる。


 だけどシーナはあれだな。人の勢いに流される傾向があるな。

 普段強気な態度を取っているわりに案外自分の意思が弱かったりするのだろうか。


「……なんだかお前、シーナの事になると性格変わるな」


「そうか? 俺はいつもこんな感じだぞ?」


「まあ……リュウがそう思ってるならそれでオレはいいんだが」


 ヒョウが俺を若干引いた目で見ながらそんな事を言っていた。

 

 バルをいじれない今、シーナをおちょくれるかどうかは死活問題に関わる。俺的に考えて。


「しかし本当にいいのか? こんなにいい装備を作ってもらって報酬も大したものを貰わないなんて」


「いいですともー。ボクは皆さんの事気に入っちゃいましたからー」


「そうか。それならオレからはこれ以上は言わないが、最後に一つだけ言わせてくれ。良い装備を作ってくれてありがとう、レア」


「私からもお礼を言うわ。ありがとう」


「ありがとうございます~」


「メルシー」


「あ、ありがとうございます……なのじゃ」


「どーもどーもー」


 俺らが感謝の言葉を捧げているとレアはそれに両手を振って答えた。


「これで魔王対策は万全だな。なんてったって石化しねーんだから」


「あー一応申し上げますとー、石化耐性で石化を防げる割合は9割といったところで、完全に無効化できるわけではないのでご注意をー」


「そうなのか?」


「はいー。石化無効の付加はちょっとボクでも難しいのでー。すいませんー」


 レアはそう言うと俺らにぺこりと頭を下げてきた。


「いや、9割も軽減してくれるならそれで十分さ。ありがとな、レア」


 そんなレアの肩を持ち上げて前を向かせ、俺は改めてレアに礼を言った。


「ふふふー。それと、実際に石化が付加された攻撃は大蛇の噛み付きと魔王の睨み、そして範囲ブレスによるものですのでご注意くださいー」


「なに、睨みに範囲ブレス?」


「はいー。ダメージはありませんがこれをもらうともれなく石化になってしまうという睨みと吐息ですー」


 そうか。それで街の人間が無傷で石化されていたんだな。

 まあ街の建物と一緒にぶっ壊されちまったらしい石像もあったりしたが。


「なるほどな。わかったぜ、レア。後はその石化に対抗できる俺らがきっちり魔王を倒してやるから見ていやがれ」


 そうして俺はニヒルな笑みを意識して作り、レアに魔王討伐の宣言を行った。


 こうしているうちに夜も更け、俺らは外にまだいるかもしれないモンスターに対処できるよう交代で見張りをしながら宿屋の一室で眠った。


 そして翌日、俺らは朝一で町を出発し、魔王が進攻したであろう西の町へと向かった。

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