晩餐会
俺は修理されて耐久度が増加した弓を見ながらレアに話しかけた。
「なあ、てめえは今この場で修理すること以外には何かすることはできるか?」
「できますよー」
「じゃあ石化を防ぐ効果のある装備とかって作れたりしねーか?」
「材料さえあればなんとかー」
「その材料ってのは?」
「石化耐性を付加する装備品ですねー。それ以外で必要なものはボクが持ってますしー」
「マジか」
こいつすげえな。
1人で何でもできるんじゃねえのか?
あ、いや、誰かから才能値を借りなきゃいけねえんだったか。
「じゃあ俺らにその石化耐性の装備作ってくれねーかな。勿論報酬は出す」
「いいですよー。魔王と戦うには必須ですしねー。報酬はしばらくの間のボクの世話と今暴れている魔王の討伐で手を打ちましょー」
「……いいのかよそんなんで?」
「はいー。ボクは魔王を倒そうとしている人の手助けができればそれでいいですからー」
「そうか、わかった。ありがとよ……ちょっとここにいる奴全員集まってくれ」
俺が声をかけるとサロンにいたシーナ、ヒョウ、みぞれが俺らのところに集まってきた。
「どうしたリュウ。今後の予定についてでも話し合うのか?」
「それはまた後でだ。今はそれとは別に、魔王対策についての話をするぞ」
「魔王対策?」
「そうだ」
ヒョウの言葉に俺は言葉を返した後、レアの方に目を向けた。
「今回倒すべき魔王は石化攻撃を使ってくる。だからその対策を今日のうちにやってもらおうと思ってな」
「対策って……その子の鍛冶スキルを使って私たちの装備に石化耐性をつけるってこと?」
「そうだ。つか聞いてただろてめえ。盗み聞きすんな」
「し、してないわよ! だだ誰があんたたちの話を盗み聞きするってのよ!」
「なんでそこで声震えてんだよ」
こいつちゃっかり俺らの会話聞いてたな?
別に俺は人に聞かれてマズイことは話してねえからいいんだけどよ。
「そんなに俺らの話が気になるなら俺らの会話に混ざればよかったのによ」
「だから盗み聞いてないって言ってんでしょ!? 私はただそこのソファーでゆっくりしてただけなんだからね!? そしたらたまたまあんたたちの会話が耳に入っただけなんだからね!?」
「やっぱ聞いてんじゃねーかよ! なんでさっきからそんな否定してんの!?」
「うっさい!!! あんたが盗み聞きなんて人聞きの悪いこと言うからでしょ!」
「なんだよ。別に俺は悪いとは言ってねーよ? だから俺はよくてめえが俺とバルの会話に聞き耳立ててる事もスルーしてんだからよ」
「し!? しししてないわよ!? してないわよ!! 私そんな事してないわよ!!!」
「だからなんで最初どもるんだよ」
「お前達話が全然進まないんだが……」
ヒョウのツッコミでシーナの盗聴疑惑は有耶無耶になった。
いやでもこいつホントにそういう疑惑があるんだよな。
話をしてるといつの間にか後ろにいたりするし、それがバレないようにか俺が後ろを振り返ろうとすると音をたてずに全力で逃げてったりするし。
でもそうやって逃げて隠れてもポニテが見えてたりするんだから爪が甘いんだよな。
ある意味みぞれ級にわけわからん行動をシーナはする時がある。
まあ俺は気にしねえけど、他のメンバーにまでそういうことやって顰蹙買う前に何か言っておくべきか。
……とりあえずそれは後回しにするか。
「それじゃあやってもらうか。こういうのって全身の装備に付加したほうが効果は高いのか?」
「いえー、一箇所だけで十分ですよー。同じ効果を持つ装備品を身につけても効果が重複して意味ないですしー」
「そうか、じゃあ俺の装備はこれに付加してくれ」
俺はレアに弓を使うためにいつも右手に装備していた指を保護する弓懸を手渡した。
DEF+15という防御力の補正がついている防具で、これも3番目の街で手に入れたものだ。
「はいはいー。ついでに他の強化もやっちゃいませんかー?」
「他の強化? どんなことができんだ?」
「防御力や移動速度を上げたりですかねー」
「へー、じゃあ防御力もついでに頼む」
「はいはいー」
そうしてレアは俺らの目の前のテーブルでなにやら幾つかのアイテムを取り出して作業し始めた。
……と思ったらすぐに止めてしまった。
「あーさっきの『レンタルギフト』のクールタイムが終わるまで待ってもらってもよいでしょうかー?」
「ああ、さっきスキル使ったからしばらく使えないのか」
「はいー、1時間後には再開できますのでそれまでお待ちをー」
「へいへい」
「そういうことなら先に食事にしよう。そろそろバルとクリスが呼びに来るんじゃないか?」
「そうね、私ももうお腹ぺこぺこだわ」
「ぺこぺこ」
どうやら先にメシを済ませる方向で決まりのようだ。
俺もそれについては賛成だ。
「うっし、そんじゃあ先にメシにすっか」
「「「了解」」」
「りょーかいー」
そして俺らは食堂に行き、ちょうどメシの準備ができたというバルとクリスを混ぜて7人でテーブルに着いた。
今夜はカレーだった。たくさん作ったらしいので残ったらアイテムボックスに入れて保存しよう。
「頑張って……作りました……のじゃ」
「皆さん手の方は洗いましたね~? それではリュウさん、どうぞ~」
「おう、二人ともサンキューな。それじゃあいただきます」
「「「「「「いただきます」」」」」」
俺らはそうしてスプーンを持ち、カレーを食い始めた。
「へー、なかなかウメエな。これもしかして殆ど手作りか?」
この世界に着てからもカレーは何度か食ったことがあるが、今回のカレーはそれらとは何かが違うと感じられた。
「はい~。スパイスが豊富にありましたので~」
「へー」
「もっと時間をかけられればもっと美味しくなったのですが~」
「そうか? これでも結構美味いぞ」
「私辛いの苦手だけどこのカレーは辛さ控えめで美味しいわね」
俺が感心していると、右隣にいたシーナがそんな事を言っていた。
こいつ何気にお子ちゃま舌なんだよな。
甘いものが好きで辛いもの、苦いものが苦手っていう。まあ野菜とかは嫌な顔しながらも毎回ちゃんと食ってるんだけどな。
「し、シーナさんの……好みに合わせてみました……のじゃ」
「ふーん。ありがとね、バル」
「い、いえ……」
甘口設定はバルの提案か。まあ甘口でダメっていう奴はいねえだろうから妥当な判断と言えるか。
「オレ達は辛口の方が好きだけどな。これも十分美味いが」
俺の対面に座るヒョウはみぞれを横目で見ながらそう言った。
そしてみぞれはカレールーとご飯を必死になってかき混ぜている。
ちなみに添え物としてサラダも個別に置かれているが、みぞれにだけは置かれていない。こいつの目の前に置いたらカレーの中にぶち込みそうだからな。
「ボクは甘いほうが好きですねー。だからこのカレーは凄く美味しいですー」
レアはバルとクリスの作ったカレーがお気に召したようだ。
「り、リュウさん……おかわり……いりませんか?……なのじゃ」
俺の皿が空になったのを見ていたらしく、俺が食い終わってすぐに左隣にいたバルがおかわりをするかと聞いてきた。
「おう、頼む」
「は、はい!……なのじゃ」
まあ俺もまだ育ち盛りだからな。カレーの2杯や3杯くらい軽く食える。
つかバルよ。語尾にのじゃ付ければいいってモンじゃねーぞ。
「はい……どうぞ……リュウさん」
俺の皿を持って厨房に行ったバルが戻ってきて俺に山盛りで皿に盛られたカレーを手渡してくれた。
「サンキューな、バル」
「え、えへへ……どういたしまして……なのじゃ」
俺が礼を言うとバルは頬を赤らめ、はにかむような笑顔でそう言ってきた。
こいつは相変わらず人のために動きたがるよな。こんなことで喜ぶんだから。
「あ……シーナさんも……おかわりしますか?……なのじゃ」
「……そうね、1杯だけ頂戴」
「は、はい……なのじゃ」
バルはシーナにも声をかけて次はシーナの分の皿を厨房へ持っていった。
「ヒョウさんとみぞれちゃんはおかわりどうですか~?」
「いや、オレはやめておく。もうリュウ達みたいに食べ盛りじゃないからな」
「私は食べ盛り」
クリスの声かけにヒョウは辞退をしたが、みぞれはまだまだイケルようで、クリスに皿を渡していた。
「うふふ~。レアちゃんもどうですか~?」
「そうですねー。ボクもおかわりいただいちゃいましょうかー」
「はいはい~」
クリスも2人分の皿を持って厨房へと歩いていった。
そしてそんなクリスと入れ替わるようにしてバルが厨房から戻ってきた。
「どうぞ……シーナさん」
「ありがと」
「あんま食うとデブるぞシーナ」
「な!? あんたこのタイミングでそんな事言う普通!? それに私はこの中で一番体動かしてるから問題ないわよ!!!」
「そうかい。じゃあ俺よりも食えるよな? 俺全然動いてねーからよ」
「勿論よ! 私はあんたなんかに負けたりしないんだから!」
「乗ったな? おいバル、次のシーナのおかわりは特盛な」
「は、はい……なのじゃ」
「え……ちょ……」
次のおかわりが確定したシーナは俺の方を向いて何かを言おうとしている。
「ん? どうした? 何か言いたいことでもあるのか? 俺は3杯くらい軽く食えるぞ?」
「な、何もないわよ! 食べればいいんでしょ食べれば!」
そうしてシーナは目の前のカレーをガツガツと食い始めた。どうやらシーナは大食い勝負をするという俺の提案に乗ったようだ。
コイツには負けず嫌いなところがあるからこういう話も簡単に誘導できる。こうなったシーナは意地でも俺に勝とうとする。
だがそれで俺が手を抜く事もない。
「よく噛まないとデブるぞシーナ」
「うっふぁい! だまっふぇなふぁい!!!」
「口ん中メシ入れながらこっち向いて喋んな!? きたねーよ!!!」
シーナの口から吐き出された米粒が俺の顔中に降り注がれた。
なんてやつだ。メシ食い終わったら盛大におちょくってやるから覚悟しやがれ。
「りゅ、リュウさん……」
「んあ?」
シーナが俺に顔射をぶちかましたのを見ていたバルは、俺の顔に付着した白いものをフキンで丁寧に拭ってくれた。
「ああ……あんがとな」
「い……いえ……」
「まったく、シーナは行儀が悪いな。俺シーナに汚されたー」
「人が食べてる最中にあんたがちょっかい入れるからいけないんでしょ! てゆーか人聞きの悪いこと言うな!」
「んだよ、人のせいにしやがって。人は罪と向き合うことによって再犯防止に繋がるんだぞ」
「だから人聞きの悪いこと言うのやめなさいって言ってんでしょおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
シーナはいつでもガルガルうるさかった。
そんなシーナを見つつ俺もカレーを口の中にかきこんでいった。たとえ大食い勝負でもシーナに負けるのはシャクだからな。絶対に負けねー。
「賑やかなパーティーですねー」
「すまないな、オレ達のパーティーメンバー達がうるさくて」
「いえいえいいんですよー。賑やかなのはいいことですー」
「うふふ~そうですね~。はい、おまたせしました~」
「あー、ありがとうございますー」
「多謝」
そんなこんなでクリスも戻り、みぞれとレアがそれぞれカレーが盛られた皿を受け取っていた。
客人がいたのにいつもの調子でおちょくってるのは良くなかったか。
俺はそんな反省をしながらメシを食い終えた。まあ後悔はしてねーけどな。