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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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レア

 職人街。

 それはこの世界に来てから初めて聞く言葉だった。


「職人街?」


「そうですよー。初めて聞きましたかー?」


「俺は初耳だな。シーナ、てめえは?」


「知らないわ」


「バルは?」


「知りません……のじゃ」


「ヒョウとクリスは?」


「オレもあの街がそう呼ばれているとは初めて知ったな」


「ワタシもです~」


「そうか」


 じゃあこれはゲーム開始前の事前情報にはなかった情報というわけか。

 4番目の街までプレイヤーが到達して始めてその全貌が知られる予定だったと。つまりはそういうわけか。


「私は?」


 そしてみぞれが自分を指差しながら声を発した。


「ヒョウが知らねーんだからてめえもどうせ知らねーだろ?」


「いいから」


 なんだ?

 もしかして何か知っているのか? ヒョウも知らない情報を? どうして?


「……てめえは知ってたのか? みぞれ」


「知らなかった」


「…………」


「…………」


「…………」


 ……なぜ知らないのに俺に聞くよう求めた。

 まあこいつのことだからあんま意味とかないんだろうが。


「……兎に角、4番目の街は職人街と呼ばれていると。つまりその服は職人街で作ってもらったハンドメイドってことでいいんだな?」


「その通りですー。っと言いたいところですけど若干はずれですー」


「あ? はずれ?」


「はいー。この服は誰かに作ってもらったのではなく、ボク自身が作った装備なんですよー」


「マジか」


「マジですー」


 それはすげえな。

 こういうのもプレイヤーの手で作れちまうような物だったんだな。初めて知った。


「でもだったらなんでてめえは職人街の話しをしたんだ? 普通にてめえ自身が作ったで話が通るじゃねーか」


「まー本質的にはそうですねー。ですがボクの発言は見た目に騙されてしまうあなたたちを心配しての事だったんですよー?」


「あ? 心配?」


「職人街では今ボクが着ているようなデザインの高性能装備はゴマンとありますー。だからこれから奇抜なファッションをしたプレイヤーが多くなると思うので早いとこそのギャップにも慣れたほうがいいですよーってことですー」


「なるほどな」


 確かにその忠告はありがたい。


 こんな薄着のプレイヤーが町の外を歩いていたら変な顔をするだろうし、そんなのがモンスターに肉薄していたみたいな光景をもし見たら俺らはビビっただろうな。


「ねえ。今更なんだけど、さっきその服調べるために触ったけど、それって胸元じゃなくてもよかったわよね?」


 ふと、俺の隣でシーナが少女に疑問を投げかけていた。


「そうですねー」


「だったらなんで胸触らせたのよ!」


「そのほうが面白そうだからですー」


「はぁ!?」


 その言葉を聞いてシーナは声を荒げた。


 そんなシーナを見てその少女は手を口にあて、ウププと笑っていた。

 まるで些細ないたずらがばれた子供のように。


「はっ!?」


 そしてそれを見ていたみぞれが何故か反応し、俺らを少女から引き離すように両腕を広げた。


「みぞれ? いきなりどうしたよ」



「この子私とキャラ被ってる」



「…………」


「この子私とキャラ――」


「被ってねーよ」


 今日のみぞれは頭の調子が絶好調だった。


「……というか今オレ達が話すべきはそこじゃないだろ」


「っとと、そうだったな。だがその前に自己紹介からだ。……なあ、てめえはなんて名前なんだ? 俺はリュウってんだ」


「シーナよ」


「ば、バルムント……です……じゃ」


「オレはヒョウ。よろしく」


「みぞれ」


「クリスと申します~」


「んー、リュウ、シーナ、バル、ヒョウ、みぞれ、クリスですねー。覚えましたー」


 目の前の少女は俺らを順々に指差して名前を呼び、そしてコホンと一つ、咳払いをしてから俺らに自己紹介をし始める。


「初めましてー。ボクの名前はレアって言いますー。クラスは『名工』の鍛冶専門家ですー」


「家事?」


「鍛冶ですよ鍛冶ー。いろんなのを作ったりいろんなのを直したりするのがボクの仕事ですー」


「へー」


 なるほどな。

 つまりこいつ、レアは自分で自分の装備を作ったりできるのか。


「まあそれは置いといてだ。てめえここになんで1人でいたんだ? まさかここまで1人で来たわけでもないだろ?」


「あーそれ聞いちゃいますかー」


「むしろ聞かれねーとでも思ったのかよてめえは」


「いえーそんなことはありませんよー。というかその理由も大した話じゃないですよー」


「そうか。じゃあ聞かせろや」


「はいー」


 そうして俺らはレアの話に耳を傾けた。


「ボクがここにいた理由はですねー、単純に足止めしていたからなんですよー」


「は? 足止め?」


「はいー」


「……ちなみに聞くが、てめえは何を足止めしてたんだ?」


「蛇の魔王からですー」


「魔王……か」


 まあ大体予想はしてたけどな。

 町中でモンスターが現れるなんてことは魔王が現れる時くらいしか今のところない。

 だからさっき蛇のモンスターを見たことで既に蛇に関連した魔王がここにいたんだろうという予想はできていた。


「つい1日前の事ですー。この町に大きな蛇がやってきて、その蛇は次々に人を石へと変えていきましたー」


「それでその蛇には誰も敵わなかったと?」


「そうですねー、何人かのプレイヤーはその蛇と戦いましたが全然敵わず、町に住む人達と一緒に他の町へ非難する計画を立てましたー」


「他の町?」


「ここから西へ進んだところにある町へですー」


「西か……」


 確かにバルの持ってきた地図でもここから西に行けば町はあったはず。

 この町での生き残りは全員そっちに行ったのか。


「しかしその計画は魔王を誰かが足止めしないと成り立たなかったため、ボクを含めた何人かがこの町に残って戦う事になりましたー」


「なんでてめえが?」


「単純にこの服に石化が効かない力がついていたからですー。だからボクならあの蛇たちの石化攻撃をしのぐことが可能でしたのでー」


「そんなのがあんのかよ」


「ありますよー」


 あるのか。それは今後その蛇の魔王と戦う上では必須だな。

 もし似たような効果がある装備があるなら是非とも持っておくべきだろう。


「それでその魔王は今どこにいるんだ?」


「それはー……多分生き残った人達を追いかけていったのかとー……」


「……それじゃあてめえらは足止めに失敗したと」


「そうなりますねーボク以外の仲間は全員石化しちゃいましたしー」


「……そうか」


 だとすると俺らも早く追いかけないとマズイか。

 いまから追いかけて間に合うか?


「……リュウ。今から追いかけるのは無しだからな。今は既に夜だ」


「う……くそっ」


 確かにヒョウの言うとおりだ。

 あまり夜に移動するのは避けたい。


 視界が暗いとモンスターの襲撃の反応が遅れるし地形も把握しづらい。

 今の俺らなら大丈夫と過信はしないほうがいい。


「その代わり朝一で出発するぞ。てめえら寝坊すんなよ」


 俺の言葉にメンバー全員が了承した。


 あとはこいつか……


「なあ。てめえはどうするつもりだ? レア」


「そうですねー。もしよければでいいんですがー、ボクもついて行ってもいいですかねー?」


 レアはそう言って俺らに首を傾げてきた。


「こんなところに一人にしておくわけにもいかねーしな。てめえらもいいだろ?」


 俺はパーティーメンバー全員がいる方へ顔を向けて了承をとる。


「そうね。とりあえずしばらくは一緒に行動しましょ」


「よ、よろしくお願いします……じゃ」


「まだ聞きたい事もあるしな。オレも賛成だ」


「キャラが被るから嫌」


「ワタシも皆で行動したほうがいいと思います~」


「よし、満場一致だな。というわけでしばらくよろしくな。レア」


「はいー、よろしくお願いしますー」


「無視するな」


 一部のバカを除いて満場一致した俺らは一緒に宿へと向かうのだった。






「ところでその弓、大分耐久度が減ってるんじゃありませんかー?」


「あ? この弓か?」


「はいー」


 宿に入って戸締り等を確認し、なるべくモンスターが入ってこないようにした俺らはバルとクリスがメシを作るまでの間ひとまずサロンで寛ぐことにした。

 そしてソファーに深く腰掛けてる俺の所にレアがやってきて、そんな事を言ってきた。


「なんだよ。名工ってのは見ただけで耐久度とかそういうモンも見えんのか?」


「それくらい見なくってもわかりますよー。大分使い込まれていますねー」


「ふーん」


「でも大事に使っているようですねー。メンテナンスらしき跡がありますよー」


「ああ、まーな」


 弓のメンテナンスについては『ホワイトソード』の弓使い、アンから聞いた。

 アイツは真面目な奴だったからか、弓道部での活動で弓とかの道具の手入れなどは欠かさなかったらしい。

 そしてその習性はこの世界でも同様だったようで。自分の使う弓を大切に整備していた。


 この世界の武器のメンテなんて意味あるのか?と俺はその時思ったが、この作業をすると耐久度の減りが緩くなるという事が他のプレイヤー連中の研究により判明した。

 だから2番目の街を出る前に俺もアンに教わって弓の手入れを欠かさなかったというわけだ。


 まあそんなメンテで耐久度は回復しねえんだけどな。

 耐久度を回復させるにはその武器のレベルに見合った職人による修理が必要だ。


 俺は立てかけて置いていた弓を手に取った。


 『必中の弓 武器スキル(絶対命中、ロックオン) 耐久度985』


 確かにかなり耐久度が減っている。


 ここまで来るのに想像以上の敵の数と戦ったからな。

 3番目の街でも修理できないとか言われちまったし。


「良い弓なんですから壊しちゃうのはもったいないですよー」


「ああ、とはいってもなあ」


 今は修理屋なり鍛冶屋が開いている訳でも無し。

 この弓を修理できる職人がいるのかもわからない今、修理する手段がない。


「あー、もしかしてボクの存在を忘れちゃってませんー?」


「あ? てめえもしかしてこの弓直せるのか?」


「直せますよー」


「へー」


 確かにこいつはさっき作ったり直したりするのが仕事って言っていたな。

 だがこんな小さな子にこの弓が直せるほどの力があるのか?


 だがまあとりあえずやるだけやらせてみるか。


「じゃあ今直せるか?」


「問題ありませんよー。ただちょっとお力をお貸しいただけますかー?」


「おう、いいぜ。何すりゃいいんだ?」


「とりあえず一時的にで良いのでパーティーメンバーに入れてくださいー」


「? わかった」


 俺はメニュー画面を開いてレアにパーティー申請を送った。

 それをレアは確認し、そして承諾して俺の左上に7人目のHPバーが表示された。


「ちょっと! 今レアがパーティーに加入されたけどそれってどういうことよ!」


 そしてそれをシーナも確認したのかいきなり大声を上げて立ち上がり、俺の方へ詰め寄ってきた。


「うっせ。一時的にだ一時的。別にこいつを7人目のメンバーに迎え入れたとかそういうことじゃねーから大人しく座ってろ」


「……そうなの?」


「そうなのですー」


「……あっそ。焦らせるんじゃないわよまったく」


 なんでこいつそんな焦ってんだ。

 いやまあ確かに7人目のパーティーメンバーが勝手に選ばれたと思って驚いたのかもしれないが。


「そんで? てめえをパーティーメンバーに入れたが、これがどうてめえの力になるんだ?」


「あーはいー今からお見せしますー。『レンタルギフト』」


 レアがそう言うと、俺の中から力が抜けていくような感覚があった。


 な、なんだ? 今こいつ、スキルを使ったよな?


「今リュウさんの才能値を5分間だけボクがお借りしていますー」


「は? 借りた? そんな事ができるスキルがあるのか?」


「はいー。とはいってもDEXに極振りしないと出ない『名工』のレアスキルですけどねー」


「へー」


 使いようによっては戦闘でも凄まじい効果を発揮できそうなスキルだな。


「つか俺の才能値を取ってどうするつもりだよ」


「どうするつもりって勿論修理ですよー」


 レアはそう言うと自身のアイテムボックスから工具を取り出して俺の弓をいじり始めた。


「ワリとこういう仕事ってSTRがいるんですよー。でもボクはDEXに全ての才能値を振っているからこうしてどなたかの助力を得ないと上手くできないんですー」


「へー……」


 ……こいつ、DEXに全ての才能を振っただと?

 それじゃあつまり、戦闘だと攻撃は当たるもののダメージが全然でないという俺とは対極の残念さを持った奴なのか。


 ん?

 それじゃあこいつ、どうやってここまで来たんだ?

 仲間だった奴らが強かったのか?


「あー、今DEX全振りだから弱いって思いましたねー?」


「あ、ああよくわかったな、まさかてめえ、エスパーか」


「よく言われることだからわかるんですよー。生産特化は引っ込んでろってー。馬鹿にしすぎだと思いませんかー?」


「じゃあてめえは戦えるのか?」


「勿論ですともー。ボクは戦える生産特化プレイヤーですからー」


「へー」


 生産特化なのに戦えるのか。戦闘しかしない奴ら涙目だな。


「とか言ってる間に修理完了しましたよー。どうぞー」


「お、おう。サンキューな」


 俺はレアから弓を返してもらった。

 まだ1分程度しかたってないんだが、凄い速さだな。


 そして俺は弓を見た。


 『必中の弓 武器スキル(絶対命中、ロックオン) 耐久度20000』


「……なんか元々の耐久度よりも増えてるんだが」


 直せるかというレベルではなかった。


 なんだコレ。

 つまりレアはその辺の鍛冶師とは比べ物にならない技量の持ち主だってことか。

 DEX全振りってそんな凄いレベルの職人になれるのか。


「それはサービスですー。良くしてくれててちょっと嬉しくなっちゃったのでお礼ですー」


「そうか。あんがとな」


「いえいえー」


 戦えるプレイヤーと言うくらいなんだからもしかしたら俺らが倒した蛇相手にも1人でなんとかなったのかもしれないが、こうして礼を言ってくるあたり悪い奴じゃないんだろうな。


 こうして俺の弓は修理されただけでなく、耐久度を倍化までさせてもらった。

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