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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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無音の街

「…………」


 俺らは4番目の街、フォーテストに到着した。

 長い旅路の果てに街が見え始めた時、俺らはテンションマックスで大はしゃぎしていた。


 ここまでの道のりは2番目の街から3番目の街への道のりよりも長く、そして険しかった。

 モンスターは益々強くなり、尚且つ群れで襲ってくるため毎回気が抜けず、パーティーメンバーが危ない目に合うこともあった。

 だがそれでもここまで辿り着くまでに俺らは一人も欠けることなくやってこれた。

 それもパーティー全員が力を合わせて団結して協力し合ったおかげだ。

 全員が無事ここまで来れたのは当然の結果と言えるだろう。


 しかしそれでもこの旅の目的地がこんな有様なのは納得がいかない。

 俺らは街の南門から中へ入った時、その場に立ち尽くして呆然とするしかなかった。


「なあ、シーナ。てめえにはアレが何に見える?」


「何って言われても……ねえ……」


 俺は目の前のある物を指差しながらシーナに尋ねたが、シーナもその答えを言いたくないのか言葉を濁すばかりだった。


「……じゃあヒョウ、てめえはアレ、なんだと思うよ」


「…………」


 ヒョウにも話を振ってみるが、ヒョウは渋い顔をしたまま無言を貫いていた。


「……みぞれ、アレ、何かわかるか?」


「石像」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 みぞれのその一言に俺らは全員言葉を失う。


 だが今みぞれが言ったことは事実なのだろう。

 俺が指差した先にあったのは、紛れもなく人の石像だった。


「……じゃあそれは?」


「石像」


「…………じゃああれは?」


「石像」


「………………じゃああっちにあるのは?」


「石像」


「…………」


「石像」


 ……もはや事実から目を離すこともできないか。


 俺らが長い旅の末辿り着いた4番目の街には人がおらず、その代わり人の石像がいたる所に配置された無音の街だった。

 そしてこの目の前に無造作に配置されている石像は、まず間違いなく街の住民の趣味で置かれたものではないだろう。


 その石像群はおそらく――人間だったものだ。


 目の前にある石像はあまりにリアルだ。

 色は灰色であるが、彩色をすれば人と見紛うほどの精巧さだ。

 そしてその石像群の顔は皆、恐怖、驚愕の表情に彩られていた。

 こんな石像が街中に置かれている。もしこれが街の住民の趣味であるなら、この街の住人はどこか狂っているのだろう。


 とにかくおぞましい。この風景は俺らを不安にさせる。


 早くここから移動しないとならない。


「……とりあえず街の中を調べるぞ。もしかしたら生き残りがいるかもしれない」


「りょ、りょうかいじゃ……」


「はぁ……了解よ」


「……了解」


「了解」


「了解です~……」


 いつも通りのみぞれを除いた他のメンバー声は小さかった。






 そこから俺らは街の中を満遍なく調べた。

 街道や街の広場など人が通れそうなところはあらかた歩いた。

 店の中や住居の中等、とにかく入れそうな建物の中も大体調べた。

 しかしそこで見たものは、街の入り口で見たものと同じ、元は街の住民とプレイヤーだったであろう人の石像だけだった。

 そして何か大きなものが通ったというような、建物や通路の大規模な破壊の跡だけだった。


 生きている人間はいない。この街は既に死んでいる。

 俺らは3日にもおよぶ街の探索の結果、そう結論付けた。


「一体どうなっちまってんだよこの街は」


 そして俺らは街の宿の中で雁首揃えて話し合っていた。

 勿論この宿も俺ら以外は全員石化している。宿を勝手に借りても金を払えと言ってくる奴はいないし隣の部屋から声がするなんて事もない。


「一応この街の状況を整理しよう。まずは人だ。オレ達がこの街に着てから3日、1人も人間と遭遇しなかった。このことから見てこの街に動く人間はいないだろう」


 俺の対面の椅子に座ったヒョウが現状の説明をしてくれていた。

 正直この話はもう皆わかっているという事ではあるが、情報をちゃんと整理するという意味はあるだろう。


「そして街の住民、およびプレイヤーは街から忽然と消えたわけではなく、『石化』されたものと思われる」


 『石化』。それは俺らプレイヤーにとってもバッドステータスとして知られている要素だ。

 この状態異常はかかってしまうと徐々に体が石化していき、やがて全身が石になってしまうというものだ。

 そしてこの状態異常は自然には治癒されず、特定の薬品を飲むか振りかける、もしくは石化を治す魔法をかけるかしないと治癒されない。


「そしてこの街の『石化』は普通ではない。この3日間で何十人かの石像に試したが、クリスの治癒魔法を受け付けなかった」


「お役に立てず申し訳ありません~……」


 これも3日間でわかったことだが、クリスの治癒魔法では石化は治せなかった。


 クリスはこれでもMND完全特化の純性ヒーラーだ。コイツにかかれば大抵の状態異常は治せると思っていたが、結局は治せなかった。

 コイツで治せなかったということは、現状では街の人間の石化を治す術はないということだ。


 そしてもう一つ、大きな可能性が浮上することにもなる。


「その結果、この惨状を生み出した元凶はおそらく魔王であると考えられる」 


 そうだ。

 クリスの魔法が効かなかった事はこれが初めてなわけではない。

 3番目の街を襲ったあのヴァンパイアの魔王。アイツが噛み付いた人間はグールになるという『グール化』という状態異常もクリスは治せなかった。

 つまり今回の治せない石化も魔王の仕業である可能性が高い。


「その可能性を調べるために私が教会跡地に行ってきたけど、周囲の荒らされ具合からしてクロね」


 ここでヒョウの代わりにシーナが話を続けた。

 シーナは単独で教会跡地に行き、状況を確認してきてもらったのだ。

 俺らパーティーの中で一番生存能力が高いのはシーナだ。だから不測の事態でもしもそこに魔王がいたとしても持ち前のスピードで逃げられる可能性が高い。

 そういった理由でシーナは1人、教会跡地周辺を探索していた。


「それに教会地下にも行けそうにないわ。もう埋もれちゃってたみたいだし」


「それじゃあ益々魔王の線が濃くなるわけだよな」


「でも魔王はいない」


「…………」


 みぞれが放った一言に俺らは何も言えなくなる。


 そう。魔王。魔王がいない。

 この街のどこを探しても魔王はどこにもいなかった。


 その事実が俺らを悩ませる。

 多分魔王を倒せば石化は解ける。それは今までの経験からして導き出せる答えだ。

 だがその倒すべき魔王がどこにもいない。これはかなりの問題だ。

 魔王が見つからなければこの街の人間はいつまで経っても石のままだ。


 何日もつのかわからないが、石化されたままいつまでも無事というわけでもないだろう。

 特に外で野ざらしになっている石像は危険だ。ちょっと鳥がとまっただけで石像が傾いて地面に倒れ、ガシャンと音をたてて砕けてしまうかもしれない。

 流石に砕けてしまったら治すも何もないだろう。すでに壊れている多数の石像を見て、俺らはそう結論付けていた。


「魔王の足取りは未だ不明か……そしてなんとしてでも探し出す必要があると。バル、例のものはあったか?」


「は、う、うむ! 先ほど、み、店から……探してきました……ぞい」


 俺がバルに訊ねるとたどたどしくだが返事をしてきた。

 そしてバルは俺らの前にあるテーブルに一枚の紙を広げていく。


「こ、これが……その……この街周辺の詳細なちじゅじゃ……」


 ……俺らはカミカミなバルが広げたこの街周辺の詳細な地図を眺めた。


 ちなみにこの地図は今回の話し合いで初めて出てきたもので、俺らにとっては新しい情報となる。


「へえ……この街の近くには他に2つも町があんのか」


「もしかしたらその町のどれかにこの街の状況を詳しく知ってる人とかいるかもしれないわね」


 確かにシーナの言うとおり、この街から命からがら逃げ延びて町で保護されているとかそういうような奴もいるかもしれない。

 そういった奴が運よく見つかれば、もしかしたら魔王の居場所もわかるかもしれない。


「だとしたら俺らがやることは一つだな」


「ああ、そうだな」


「決まりね」


 どうやら他の奴らも俺と同じ意見のようだ。

 俺はパーティーリーダーとしてパーティーの今後の方針を述べる。


「俺らはこれから最寄の町へと移動する。そして町で聞き込みをして4番目の町、フォーテストについての情報を集める。街の生き残りがいたりした場合は魔王についても聞き出す。とりあえずはそれでいこう」


「そうだな、了解だ」


「了解」


「了解しました~」


「あんまり休めてないけどしょうがないわね……了解よ」


「りょ、りょうかいです……じゃ……」


 俺の立てた方針にメンバー全員了解を取った。 


「ここからですと~……北東方面へ進んだところにある町が一番近いでしょうか~」


「そこか……こりゃおそらく移動に半日はかかりそうだな。他の町とも離れてやがるし」 


「だが他の町へ行く場合は丸一日はかかりそうな道のりだ。もしここから逃げるのならとりあえずこの町だろう」


「……となるとこの街から逃げた奴が行くとしたらそこが一番ありえそうなワケか」


「じゃあそこで決定ね。今から行くの?」


「今からなら夜までには着くだろ。時間が惜しいからさっさと行くぞ」


 そうして俺らは極力時間をかけずに身支度をして街の北門へと進んだ。

 ちなみにこの街で調達した物資は値がわからなかったりしたもの以外はとりあえずその場に金を置くことで買ったという事にした。

 別に黙って持っていったところで咎められるわけではないが、こういうのは気分の問題だ。

 魔王を倒した後でケチつけられても嫌だしな。


「それじゃあ今から北東方向に進むことにする。もしかしたらその間に人と出くわすかもしれないから周囲をよく見て移動していくぞ」


 俺らは再び街の外へと足を踏み出す。

 魔王を倒すため、この街で石化した人々を救うため。俺らは北東の町を目指して出発した。

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