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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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シスコン

 夜の見張りは2人1組で行われている。


 俺の場合、夜は満遍なくパーティーメンバーと組んで見張りについていたりする。


 その日の夜はヒョウと組んだ。


「なあヒョウ、ちょっと聞きてえ事があんだけどいいか?」


「なんだ? リュウ」


「……みぞれっててめえの実の妹で合ってるよな?」


「? そうだが?」


「そうか……」


「?」


 俺の質問の真意が読み取れないためか、ヒョウは俺を訝しむような目つきで見てくる。


「……そういえば昨日はみぞれと組んでいたな。あいつが何か言ったのか?」


「いやまあ言ったような言わせなかったような……」


「話したこと全部吐け」


「…………」


 マジの目で俺を睨むヒョウに屈して俺は昨日のみぞれとの会話を喋った。


「……リュウ。お前は何か重大な誤解をしている」


「違うのか?」


「違うぞ。みぞれの言った事は……みぞれ流のイタズラをキチンと理解しないといけないんだ」


 みぞれ流か。確かにあいつと会話を長くすることは難しいからな。専門的な知識が要るだろう。

 つかそれってみぞれなりのイタズラだったのかよ。


「まずみぞれが言ったキスのことだが、それは別に口とかじゃないからな? 頬に軽くする程度だ。しかもこの世界に来てからで限定するならば、人前でクリスがオレに抱きついてくるのに悪乗りしてあったくらいのことだ」


「あ、そうだったのか」


「それにベッドに潜り込むのもあいつの悪い癖でな。ベッドに潜り込むといつもオレの顔に落書きをして自分の寝床に帰っていくんだ。オレが子供の頃はそれで大分泣かされた。だから今では絶対にあいつをオレの寝床に入れないようにしているんだ」


「そ、そうだったのか……」


 なんだか色々と語弊があったようだ。


「みぞれにキスされた時はオレ達が兄妹だと知っている周りの連中から白い目で見られるし、顔に落書きされた時は油性マジックで書くものだからそのままの状態で学校に行かなければならなかったりと散々だった……」


「お、おう……」


 ……みぞれよ、てめえ本当はヒョウの事嫌ってんじゃねえのか?

 微妙に兄への所業がきついぞ。


「なんだよ、世界で一番愛してるとか言われたら誰だって勘違いするっつの」


「あいつの発言を鵜呑みにするといずれ痛い目を見るぞ」


「わかった。あいつの言動には裏を考えるようにする」


 なんか拍子抜けだったな。

 いやまあ拍子抜けで良かったといえば良かったんだが。


 俺に禁断の愛を見守る度胸はない。

 ノーマルでいこうノーマルで。

 ただの色恋沙汰でさえ耐性ねえのにそんなディープな話は俺じゃ対処できねえし。


「……他には何か言ってなかったか?」


「そうだな……道に落ちていたものを拾ってアイテムボックスに入れているのは何でだ?って聞いたりしたな。結局理由はわからなかったが」


「あれか……あれはお前の真似だぞ、リュウ」


「は? 俺?」


「お前、よく石を拾ってアイテムボックスに入れているだろ。それの真似だよ」


「あっ! そういうことだったのか」


 俺がみぞれに何故物を拾ってアイテムボックスに入れているのかを聞いたらみぞれは逆に俺に聞き返していた。


 あの時みぞれは俺に石を拾う意味はあるのかと問い返していたんだ。

 あまりに言葉が少なすぎて理解できなかった。


「オレも気になっていたが、お前は石を拾ってどうするつもりなんだ?」


「あれは俺のもう1つの武器の材料になんだよ」


 今は弓があるからそこまで使うこともないが、石袋は俺の最後の手段だ。

 無いよりあったほうが心強い。


「俺は石を拾うことには意味があんだよ」


「……そうだったのか」


「だからみぞれにもそう伝えて俺の真似をするの止めさせてくれ」


「わかった。だが伝えたとしてもみぞれが止めるかどうかはわからないからな」


「ああ、了解」


 そうして俺らは話を一区切りさせ、焚き火で沸かしたお湯でコーヒーを作って飲む。

 俺は砂糖多めに入れないと飲めないが、ヒョウはブラックをそのまま飲んでいる。カッコつけやがって。


「ああ、そうそう。みぞれってもしかしてそこまで目が悪いってわけじゃねえのか? この前眼鏡無しでモンスターにバインド当ててたんだが」


 ふと、俺はみぞれの謎行動の1つを思い出し、それについてもヒョウに聞いてみた。


「みぞれの視力は裸眼で2.0だ」


 ヒョウから聞かされた真実はおおよそ俺の予想通り、伊達眼鏡というオチだった。

 つか2.0かよ。視力が悪くないどころかむしろ良いほうじゃねえかよ。


「……んじゃなんでみぞれは眼鏡してんの?」


 伊達眼鏡をみぞれがしている真意についてもこの際だから訊ねてみた。


「……眼鏡をかけると頭が良さそうに見えるからだそうだ」


「……そうか」


 凄まじくどうでもいい理由だった。


 微妙な空気のまま俺らは黙ってコーヒーを飲み続ける。



 そうしてしばらくの時間が経った後、気分が入れ替えったところで俺は口を開いた。


「……なあヒョウ。てめえは妹のこと好きか?」


「……さっきの話の続きか?」


「ちげえよ。ちゃんと兄妹として好きかって話だよ」


 俺は甘いコーヒーを口に含みながらヒョウの回答を待った。


「……ああ。まあごくごく普通の兄妹としての愛情は持ち合わせているさ」


「じゃあ妹が危険に晒されたらてめえはどうする?」


「助ける。オレの命に代えてでも」


「そうか」


 俺はその言葉を聞いてホッと息を吐いた。


「実のとこ俺にも妹がいるんだ」


「そうなのか?」


「ああ」


 俺は陽菜の事を思い出す。


「あいつはいつだって俺の傍から離れなかった。いつだって俺の後ろについてきて一緒に遊びたがってた」


「妹と仲が良かったんだな」


 ヒョウはそう言いながら口元を吊り上げていた。


「……だが今回はアイツはいない。まあこんなところに来てないだけで良い事ではあるんだけどよ」


「……そうだな」


 そして俺はそこでため息をつく。


「でもよ、てめえらを見てるとふと思っちまうんだ。なんで俺の妹は今隣にいないんだろうってな」


 いつだって一緒だった存在が隣にいない。

 そのことを理解するだけで俺はいてもたってもいられなくなる。

 その原因は俺の心の中で渦巻く不安であり焦燥であり、恐怖とさえ言ってもいいのかもしれない。


「……心配なのか? その妹が元の世界に取り残されたことが」


「そうさ。てめえももしみぞれを置いてこんなところにずっといたら不安に思うんじゃねえか?」


「かもしれないな。みぞれは手もかかる妹だからオレが見守ってやらないと何を仕出かすかわからない」


「そういうと思ったぜ。俺の妹もみぞれほどじゃねえが手のかかる妹だからな」


「オレの妹ほどじゃないか」


 俺らはそうしてハハッと笑いあった。


「なるほど、リュウが魔王と戦っているのはその妹の傍に帰るためか?」


「ご名答。俺はそのために命張ってんだよ」


「自分のためじゃなく妹のために戦っているのか。お前の方が怪しい関係なんじゃないのか?」


「ちげえよ。変な勘ぐりすんな。ぶっ飛ばすぞ」


「わかったわかった。お互い変な勘ぐりはナシの方向でいくぞ」


「おう」


 そうして俺らは木製のカップの中に残ったコーヒーをグイっと飲み干す。


「おかわりは要るか?」


「いや、もういらねえだろ。あんま飲み過ぎても交代の時になった時寝られねえ」


「確かにそうだな。オレもこれくらいにしておくか」


 こうして少しだけヒョウとみぞれの事を知れた俺はパチパチと鳴る焚き火の音を聞きながらヒョウと共に見張りを続けた。








 次の日の旅路、昨日醜態を晒してずっと落ち込んでいたバルは、何故か今日は動きが良くなっていた。

 いやまあ兜を付けていた時の動きにはまだまだ戻っていないのだが。


「バル! シーナのとこからもう1匹来るぞ!」


「う、うむ!」


 バルは自分の目の前にいるオオカミを掴んだまま、迫りくるもう1匹のオオカミを盾で防御して噛み付きを防ぐ。

 そうしているうちに弓のクールタイムが終了したので俺は弓を引く。


「バル! 盾の方矢がいくぞ!」


「りょ、了解じゃ!」


 バルはしっかりとそう答えると、背後にいる俺に道を開くように掴んだオオカミを引っ張りながら体を横に移動させた。

 するとバルが元々いた所から、盾で攻撃を塞がれたオオカミが俺らの方へと寄ってきた。


 だがそのオオカミが俺らに噛み付くよりも早く、俺の矢がオオカミを貫いた。


「『アイススピア』」 


 そしてバルが掴んでいたオオカミの方もヒョウの魔法によって串刺しにされていた。すぐ近くでバルによって動きを制限された標的に単体魔法を当てることはそれほど難しくないらしい。


「後はシーナとじゃれてる犬っころ1匹だけか」


 俺はそのオオカミも10秒後に矢を当てて、俺らはオオカミの群れを撃破した。


「この辺りは群れでかかってくるモンスターが多いな」


「そうだな」


 ヒョウの洩らした言葉に俺も同意した。

 確かにここ数日、群れに襲われる機会がかなり多くなってきた。

 俺とバル、シーナの3人の状態でここまできていたら危なかっただろう。


「それでも皆で力を合わせればへっちゃらですよ~」


「ああ、全くだ……バル! てめえも今の盾役良かったぜ!」


「は、はい! あ……じゃなかった……う、うむ! わ、わしの手にかかれば……こんなもんじゃ!」


「…………」


 バルは顔を赤らめながら恥ずかしそうにそう言ってきた。


「え……ぇと……おかしかった……でしょうか……?」


「あ、ああいや大丈夫だ。てめえは何もおかしくねえよ」


「そ、そうですか……あ……そ、そうじゃったか」


「…………」


 ……うん。

 そんな無理にその口調で喋る必要はねえんじゃねえのかな。

 俺はバルがわし口調で喋っても笑ったりはしねえが、年相応の喋り方のが自然だろうとは思ってる。


 それにバルは喋る毎に顔の赤面率が高くなっていっている。


 なんかの罰ゲームをやらせているみたいな気分になってきた。

 そんなに恥ずかしいなら普通に喋ればいいのによ。恥ずかしがって喋るから更に口調の不自然さが際立っちまってる。


「……なあ、バ――」


 俺がバルに声をかけようとした時、俺の肩にクリスが手を乗せてきた。


「クリス?」


「リュウさん、あれでいいんですよ~」


「……あれでいいのか?」


「はい~」


 そう言ってクリスはバルの方を見やる。俺もつられて再びバルの方を向く。

 そこには『よくやったわね』と言われながらシーナに頭を撫でられているバルの姿があった。


「本人がそうしたいと望んでいることですから、見守っていましょ~」


「……そうだな。それにまあ、いずれ慣れるか」


 別に俺らはバルにあの口調を強制したわけではない。罰ゲームと思ったのもバルがあまりに恥ずかしがっているからだ。

 本人の意思でああいう振舞い方をしているというのなら俺からは特に言う事はねえ。

 実際のところ、それで動きが良くなったんなら悪いことでもないしな。


 だがなんでいきなりバルはああなったんだ? 何か心境の変化でもあったのか?

 そうして視線をバルからクリスに移すと、クリスはバルを見て微笑んでいた。


「うふふ~」


「……なあクリス」


「なんでしょう~?」


「てめえバルに何か吹き込んだのか?」


「う~ん、そうとも言えますね~」


「てめえが元凶かよ」


 俺はクリスをジト目で見つめた。

 そんな俺の目つきにもクリスは微笑を崩さない。


「詳しくは夜にでも話してもらうぞ」


「はいはい~」


 クリスは微笑みながらそう言って、バルの方へと走ってバルに抱きついていた。


 ……そういえば昨日はバルとクリスが見張りで組んでたんだよな。

 その時にバルはクリスに何か入れ知恵をされたのか。


 まあ別に悪い知恵じゃねえならいいんだけどよ。

 とにかくこの話は夜にするか。夜はクリスと見張り役を組んでとっちめてやる。

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