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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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受難

 俺らが6人のパーティーになってから3日が経過した。

 そして俺ら6人は4番目の街、フォーテストを目指して北へと進んでいる。


 ここまでの道のりでまず最初に思ったことは、人数が増えたことによって色々な面で更に安定感を増したということだ。



 戦いの面では、アタッカーが俺だけだったのが、ヒョウという攻撃魔法の使い手が増えたおかげで単純に攻撃の手数が増えた。

 しかもヒョウのINT全振りというのは伊達ではなく、俺同様にどんなモンスターも一撃で屠ることができる攻撃力を持っている。

 俺は必中の弓で1体1体確実に倒していくのに対して、ヒョウはMPを多く消費するという欠点があるが範囲魔法を使えばモンスターの群れを1発で一掃できる力を持っている。

 そして俺は基本弓のクールタイムを待たなければいけないから一度に複数の敵を倒すのに向いていないが、ヒョウは動き回るモンスター相手に単体攻撃魔法をうまく当てることができない。一応INT補正による魔法制御補正なるものが魔法の命中精度を上げているらしいが、それでも俊敏な敵相手に百発百中というわけにはいかない。

 そういったお互いの弱点をカバーできるようになったということを俺らは一緒にパーティーを組んでから気づいた。


 みぞれはヒョウやクリスの魔力タンク的な意味合いが強いと思っていたが、防御力アップや素早さアップなどのINTに依存しない一定の効果を持つ各種付与魔法を使えるから戦闘をより有利に進めることに貢献してくれる。

 また、みぞれはMP補正のクールタイム短縮補正がある事で全ての魔法スキルが通常の半分というクールタイムで放つことができ、それに加えて非常時には敵を拘束する『バインド』等を使える事もあって、俺やヒョウ、クリスに敵が予想外に近づいてきたとしてもある程度の数なら足止めをすることができる。


 クリスはヒーラーなので、戦闘で僅かながらダメージの入るバルに回復魔法をかけてやることができて回復アイテムの節約になる。

 加えて状態異常の治癒も問題なく行えるため、万が一の時に頼りになるかもしれない。ただ3番目の街のグール化は解けなかったみたいだから過信するのも禁物だ。おそらく2番目の街であった重度の麻痺も治療できないのだろう。

 それに回復魔法の他にも『マジックシールド』といった魔法の盾で俺らを守ってくれる。ヒョウとみぞれもこの魔法の盾があったことで大分救われたという話を聞いた。ある意味バル、シーナに続く3枚目の盾だな。

 まあこの魔法盾は強度があまりないというのと魔法耐性や魔法無効系のある敵や攻撃にめっぽう弱いらしく、盾二人と比べるとそこまで過信はできないのだが。ちなみにバルの『ウォールガード』は物理的な障壁らしく、『マジックシールド』のような弱点は無い。


 そんな具合に3人とも自らの個性を発揮して、より安全でよりスピーディーな戦いができるようになった。


 ちなみに魔法の覚え方は熟練度制になっているらしく、1つのスキルを使い続けていると別のスキルが派生して使えるようになるというものなんだとか。

 ヒョウが氷魔法を使い続けているのもそういった理由からで、これからも基本的には氷魔法を主体にして使っていくそうだ。

 自分の名前にあわせてカッコつけてたわけじゃないんだな。



 旅途中の生活の中では、まず見張り役のローテーションが2人1組の3交代で回せるようになったというのがでかい。

 2番目の街から3番目の街までは寝不足状態が続いていたが、3組で夜の見張りを回していけば合計7時間は寝られる。

 それに見張りが2人なら不測の事態にも対処しやすい。見張り中にもよおしてきたとか眠くて気がつくと寝てしまっていたとかな。


 食事の面では担当がバル5、俺1、ヒョウ1、クリス3という割合で担当することになった。とは言っても6人になって作る量も増えたから担当者じゃなくっても手伝ったりはしてるんだけどな。

 クリスは1人暮らしでそれなりに料理は作っていたらしく、腕はバルと同じくらいだった。ただ、バルは自分が料理を担当する事に何か譲れないものを持っているらしく、結局割合的にはバルが一番多く料理をすることになった。

 ヒョウと俺はそこそこの腕しかないため控えめな割合となっている。

 そしてシーナとみぞれは手伝いも食器類を並べたり後片付けをするといったもののみで、料理そのものには手を出さないように厳命してある。

 シーナは前回の旅でわかっていたことだが、みぞれも料理は壊滅的らしく、ヒョウとクリスからはみぞれには食材を絶対に触れさせないとさえ言われるほどだった。


 そういう具合で俺ら6人はそこそこいい感じにパーティーとして成り立っていた。


 ただ、そんな俺らにも問題が無いというわけでもない。


 その問題の1つがバルだった。






「チッ!」


 突然モンスターの群れが俺らに襲い掛かってきた。

 そのモンスターは青いオオカミ、ブルーウルフっつったか、そいつが十数匹だ。


 俺らの死角になっていた起伏の激しい荒野で襲い掛かってきたソイツらにまずシーナが瞬時に近寄って気を引こうとする。

 しかし今回は運が悪かったのか3匹しか釣れず、他のオオカミはシーナを素通りして俺らの方へとやってきた。


「ウラァ!」


 俺は即座に弓を構えて矢を放つ。

 そして1匹のオオカミの眉間に風穴を開けるとヒョウ達の方を向いた。


「みぞれ!」


「あと30秒」


 ヒョウが叫ぶと即座にみぞれが答えた。

 今回は運がないことが立て続けに起こっている。


 『マジックシェアリング』は1時間効果が持続するがクールタイムは10分という代物で、みぞれの場合はMP補正で5分のクールタイムを要する。

 そして旅の間は基本常に『マジックシェアリング』を使用して持続させているのだが、どうあってもクールタイム時はヒョウとクリスが無力化する。


 その無力化していたところを運悪くオオカミ共に狙われてしまった。


「ぅ……」


 俺らの前に立つバルは十数匹のオオカミがやってくるのを、盾に隠れるようにして待ち構えていた。


「くそっ!」


 そして俺は2射目の矢を放ち、オオカミの1匹を倒す。

 だがまだオオカミは10匹以上いる。

 このままだと間に合わない。


 だから俺はバルのすぐ後ろまで走って矢を放った。

 その矢は俺が狙った標的には当たらなかったものの、すぐ隣のオオカミに命中した。


 今の矢はクールタイム10秒を待たずに放った矢だ。

 俺が狙った標的に当たらなかったのもまあ当然だろう。


 俺は3番目の街で終に言われたプレイヤースキルというセリフについてずっと考えていた。

 そしてその思考の果てに行き着いたのが、終のようにSTRのみで戦えるようになれないかということと、スキルにあまり頼らずにどうにか敵と戦えないかというものだった。


 俺はその考えに行き着いて以来、自己鍛錬、そして弓の練習を毎日行うようになった。

 なぜ弓の練習をしているのかというと、弓に備わった武器スキル『絶対命中』にはクールタイムがなかったからだ。

 このことには3番目の街に着く前には気づいていた。しかしながら、それでも俺はクールタイム10秒を要する武器スキル『ロックオン』の便利さに胡坐をかいていた節があった。

 元々弓はDEXがある連中がスキル前提で使うような代物だ。俺がソイツらと同じ思考をしていたってしょうがなかったのかもしれない。


 だが、それは3番目の街での終の行いによって間違いだったと気づかされた。ステータスやスキルといったものに頼り切っていた連中は終に洗礼を受けた。

 ここはゲーム的なルールが息づいているが、それでも俺らが元いた世界と大した違いは無いのだと思い知らされた。


 元の世界と同じ事、それは強いものが勝つ。そして体、頭、心、技を鍛えれば強くなるという当たり前と言えば当たり前の事だった。


 レベルが高ければ強いと、良いスキルがあれば強いと、そんな上辺だけの強さに惑わされて俺は強さの本質を見誤っていた。

 だから俺はあの日以来鍛錬を欠かさず行うようになった。


 それであっさりと終のような動きができるわけでもなく、すぐにDEXの器用補正や『精密射撃』がある弓使いのような精度が手に入るわけではないが、やるしかない。

 俺は強くならなければならない。魔王に、終に勝つために。


 そんなわけで俺はクールタイムを待たずに矢を射続ける。

 俺だって今まで適当に矢を放ってきたわけでもない。これまで何百、何千という矢を放ってきた経験が今の俺にはある。


 だがそんな付け焼刃とでも言うような狙撃はさっきの一匹にしか通用しなかった。


「『グラビティフィールド』、……『ロングバインド』、『バインド』、『ショートバインド』」


 みぞれが立て続けに魔法を唱えると、バルの前に大きな重力場が発生し、その中へ入って足が遅くなったところを狙って3匹のオオカミに光の輪をかけてその場に止まらせた。


 それを見た俺も足が遅くなったオオカミ目掛けて矢を放ち、その結果こちらに来るオオカミは残り7匹となった。


「よし! バル! あとのは頼んだ!」


「ぁ……は、はい!」


 バルは若干震えた声で返事をした。


 本来なら俺が盾であるバルの近くまで来るのは自殺行為だ。

 紙装甲である俺は敵との距離を常に数十メートル離していないと危なっかしい。


 しかしそれはバルのスキルを考えない場合でのことだ。

 今のバルにはこの状況を維持させることのできるスキル『ウォールガード』がある。


 バルは今、そのスキルを発動させる。


「うぉ……『ウォールガード』!」


 するとバルの盾から青い光が広がり始め、俺らとオオカミの間に壁を展開……


「ちょ!? バル! 広い広い広い!!!」


「……ぇ?」


 バルが展開した壁はどこまでも広がり続け、荒野を二分した。


 そしてそこまで引き伸ばされた蒼い盾は、オオカミ共の体当たりでヒビが入り始める。


「あ……」


 バルは自身が展開した壁の規模にやっと気づいた様子で慌てふためいていた。


「えと……えと……ど、どうすれば……」


「早く盾を縮小しろ! 壊れるぞ!」


「は、はい! えと……あれ? ど、どうやれば……」


 ……バルは焦りすぎてかスキルの操作をど忘れしてしまったようだった。

 そしてそうしているうちにも青い壁のヒビは大きくなっていく。


「『マジックシェアリング』」


 だがもうその壁がもたないと思ったタイミングでみぞれが魔法を詠唱した。

 そしてヒョウがバルの隣まで走り、1つの魔法を唱える。


「『アイスストーム』!」


 ヒョウが唱えた瞬間、ヒョウの前方10メートルは氷の嵐が吹き荒れた。

 それによって壁を壊していたオオカミと『バインド』で拘束されていたオオカミがまとめて氷付けになった。


「……なんとか間に合ったようだな」


 バルとオオカミの間にあった壁は、後1回体当たりされたら壊れて突破されていたであろうというほどのヒビが入っていた。


「…………」


 俺は無言でシーナとじゃれているオオカミを射殺していく。


 そして数十秒後、俺らを襲ったオオカミの群れの殲滅が完了した。


「ちょっとあんたたち大丈夫だった!?」


「ああ、オレ達は平気だ」


「全員無傷」


「そうですね~。ワタシの出番0でしたよ~」


「……ならいいんだけど」


 シーナはそう言ってバルの方を向いた。

 俺もバルの様子を窺うと、バルは青ざめた表情で俺らに頭を下げてきた。


「す、すみませんでした……また……失敗しました」


「…………」


 俺はいつもより低い位置にあるバルの頭を優しく撫でて、目線を合わせるためにしゃがんだ。


「バルの動きは確かにまずかったが、今回は特に運が悪かった。だから誰もてめえを責めはしねえよ。それに結果としては壁も壊れていねえし全員怪我もしてねえしな」


「でも……」


「でもとか思うんなら次で挽回しろ。てめえならできるさ」


「……はい」


 バルはそう小さな声を出した後、顔を上げずに俯き続けた。


 ……正直今の俺の言葉がバルの励ましになったとは思えない。

 なぜなら俺は似たような台詞をこの3日間で2回言ったからだ。


 今回を入れると3回。その3回という数字は、そのままバルがポカをした回数でもある。


「少し休憩するぞ。10分後に出発だ」


「了解だ」


「了解」


「了解です~」


「はぁ……了解よ」


「……りょうかい」


 俺の発した休憩発言にメンバーは全員返事をしてきた。

 そして周囲を警戒しつつも俺らは腰を下ろした。


「……ねえ。あんた本当にバルの事ちゃんと考えてんでしょうね?」


「…………」


 シーナが俺の傍に座って小声で俺にそう聞いてきた。


「ちょっと、なんとか言ったらどうなの?」


「……つってもどうしようもねえだろ。これはバル自身が乗り越えないといけねえ問題だ。あんま外野がうるさく言い過ぎるのも良くねえよ」


「それじゃあんたバルをこのままにしておく気? 今の状態で一番危ない目に合ってんのはあんたたちなのよ?」


「そうは言ってもなあ……」


 俺はバルをチラ見する。

 さっきのミスがよっぽどショックだったのか、バルは体育座りで顔を膝の間に埋めている。


「……まさか兜がないだけでここまで動きが悪くなるなんてなあ」


「そうね……」


 俺とシーナは揃ってため息を吐いた。


 そう。

 バルの調子がおかしいのは十中八九で兜がないためだ。


 実のところ3番目の街にいた時からその兆候はあった。

 ヒョウ達のレベル上げにはシーナの他にバルも最初は参加していた。

 ただバルの防御とヒョウの攻撃との連携が上手く噛み合わなかったため、結局シーナ1人だけ盾役としてヒョウ達の手伝いをすることになった。

 まあその時は次の旅の準備を1人でやっていた俺をバルは手伝ってくれたから特に気にはしてなかったんだけどな。


 だがここにきてバルの動きが問題視されるようになった。

 ヒョウとの連携の悪さは、ただ単に経験不足ゆえに生じた問題だと思っていたら、旅の最初、バルは俺の矢の射線上にまで入ってくるようになっていた。

 それまでは俺の攻撃が当たらないようバルも動きに気を配っていたのだが、どうも今のバルは精細さを欠いているのか動きが滅茶苦茶だ。


 どうしてそんな事になってしまったのかを俺なりに分析すると、どうも兜のないバルは戦闘時に周りをキョロキョロ見すぎていて、尚且つ常にテンパっているかつ、モンスターを怖がっているのが問題だとわかった。


 多分兜をしていた時は視界が狭い分、目の前の敵に集中することができていたんだと考えられる。

 テンパってるのは精神的な落ち着きが兜に依存していたために起こっているんだと思う。バルは兜を外すといつもオドオドしてたしな。

 そしてモンスターを怖がっているというのも、兜を被った状態では一切なかったことだ。これも兜がモンスターと対峙した際の精神安定に一役買っていたんだろう。一種のトランス状態だな。

 兜を付けた状態はあのナントカとかいう映画の老騎士を演じているから精神的にも高い感じになってたんだろうな。このへんはよくわかんねえけど。



 だが兜がない状態でもバルは上手くやれると俺は思っている。

 なぜならバルは以前、兜がない状態でも立派に盾役をこなしたことがあるからだ。


 俺とバルがまだ二人だった頃、あの教会跡地の地下での戦いのことだ。

 あの時、俺とレイナに襲い掛かる凶刃をバルは兜もなしに素手で受け止めた。

 男が振るう剣が怖くないならモンスターが怖いなんて事はないだろう。

 バルはその時確かに理想の自分に近づけていたはずだ。


 だからバルはあのときの事を思い出してあの時のように振舞う事ができれば良い。

 そうすれば兜無しでもきっと同じ動きができるようになるだろう。


 ……まああの顔でわしとか言われてもアレではあるのだが、その辺はバルの個性として受け止めよう。うん。


「とりあえずなるべくバルの方にモンスターがいかないように私が距離を広めにとってタゲ取りするから、あんたはバルの方にきそうなモンスターを片っ端に倒しなさい」


「それだとてめえの負担が大きくならねえか?」


「バルが不調なんだから私がフォローするのは当たり前でしょ。それに『ファントム』を練習するいい機会よ」


「……わあったよ。じゃあそれでいくぞ。ただ無理はすんなよ」


「ええ」


 そうして俺らは10分の休憩を終えて再び街を目指して歩き出した。

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