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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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疑惑

「……一体何言ってんだ? つかシュウって誰だよ?」


 俺に終と言われたアスーカルはただただ何の事だかわからないといった様子で俺に聞き返してきた。


「とぼけなくてもいいぞ。『解放集会』の教主さんよお」


 しかしそんなアスーカルに俺は更にそう言った。


「『解放集会』だと……?」


「おい、それってたしかかなりヤバイ連中じゃなかったか……?」


「しかも教主だって……?」


 俺の言葉に周りにいたプレイヤーがざわつき始める。

 バルやシーナも息を呑んで俺を見ている。


 そんな中、アスーカルは腕を組みながら俺と話を続ける。


「『解放集会』? ああ、そういえばそんな連中が2番目の街で騒ぎを起こしたんだってな。話だけは聞いてるぜ。……それで? てめーは俺がそこの教主様だって言いてえのか?」


「そうだ」


 俺が即答するとアスーカルは鼻で笑って首を振った。


「やれやれ。なんかてめー勘違いしてんじゃねえの? つかなんで俺がそんなイカれた集団の教主なわけ?」


 アスーカルはなおも自分が教主であることを否定していた。


 そうか、まあ順々に俺の中の違和感を訊ねていくか。


「なあアスーカル。てめえ、いつ頃3番目の街に着たんだ?」


 まずこの疑問が最初にあがる。

 そこを考えていくとどうもコイツの行動はちぐはぐだ。


「俺か? そうだな……確か魔王が出る3日前だったかな」


「そうか。……それじゃあなんでてめえはクラス検定用紙なんて欲したんだ?」


「そりゃあ俺もクラスを取得したかったからだ」


「だったらなんで街にいる3日間にクラスを取得しなかったんだ?」


 そう。

 キルの言葉が正しいなら今日から10日前、つまりコイツは魔王が出現する3日前には3番目の街にいたはずだ。

 しかしそれでも何故かコイツはクラスを取得していなかったということになる。


 本当にそんなことがありえるのか?


「ちょっとパーティー間でゴタゴタしててよ、認定所にいく暇が無かったんだ」


「ゴタゴタってどんなだ?」


「それは話せねえな。メンバーのプライベートに関わる」


「ふうん」


 まあこれだけでコイツが終とは決め付けられないわな。

 それじゃあ次いくか。


「それじゃあ次の質問だ。てめえ、才能値をSTRに全振りしてねえか?」


「どうしてそう思うんだ?」


「いやなに、ちょっと疑問に思ってたことなんだ。てめえクラス検定用紙を取ってきたあの夜、この街に残ると駄々をこねてたバルをワンパンで沈めたそうだな?」


「ああ、そういう事もしたな」


「それ、まずありえねえんだよな。だってバルはVITに才能値を全振りした頑丈さがウリの奴なんだからよお」


「…………」


 バルは並大抵の攻撃を加えてもノーダメージで済んでしまう。

 それに加えてVIT補正の衝撃耐性補正も滅茶苦茶高い。


 ゆえにバルになにかしら危害を加えようとするならそれなり以上の攻撃力が必要だ。


「なあ、なんでバルの防御をてめえは突破できたんだ?」


「ああ、確かに俺はSTRにかなりの才能値を割いている。そしてその剣の柄をバルちゃんに叩き込んだから多分その分が上乗せされて俺の攻撃がバルちゃんの防御を上回ったんだろ」


 なるほど、この剣ねえ。

 確かにこの剣はふざけた名前ではあるがATK+200という超がつく高性能の武器だ。

 これが攻撃力に加わっていたのならもしかしたらSTR全振りじゃなくてもバルを気絶させるくらいできるのかもしれない。


「そうか、わかった」


「わかってくれてうれしいぜ」


「それじゃあ次だ」


「……まだやんのかよ」


 ああやるさ。

 てめえが白状するまでな。


「次の質問だ。クラス検定書を取りに行った夜、どうしてヒョウとみぞれが俺らの逃走経路のある建物から出てきたんだ?」


「何?」


「ヒョウ、なんでてめえはあの夜あそこにいたんだ?」


 俺はヒョウに話を振って返答を待った。


「……あそこで待機しているよう前日に魔王に言われたからだ。単に寝る場所が変わっただけだからオレも気にはしていなかったが……」


「だとさ。なあ、もしかして俺らが立てた作戦、魔王に誰かが少しだけ洩らしてたんじゃねえのか?」


 俺はアスーカルを見据える。


「それが俺だとでも?」


「てめえが立てた作戦だろうが。作戦開始日までてめえしか知らなかった情報なんだからてめえが一番怪しいのは当然だろ?」


「なるほどな。だがその男がその時リュウ達と鉢合わせたのは偶然だったという可能性も否定しきれないぞ? 俺にはそんな事をする意味がないんだからな」


「そうかよ」


 俺はそこでため息を吐いた。

 どうもコイツからはこれ以上ボロが出そうにないな。


「だったら次はそこにいるキルに関わる質問だ」


「あぁ? あたしかぃ?」


 俺らのすぐ傍で突っ立っていたキルがニヤニヤしながら俺を見つめてきた。


「キル、てめえはアスーカルとはパーティーメンバーだったんだよな?」


「あーパーティーメンバーっつぅか、同行者って言い方が正しぃかぁ?」


 キルはニヤついた笑みをそのままアスーカルの方へ向けた。


「そうだな。俺とキルはそんな感じの仲だ」


「だが魔王がやってくるまでは一緒に行動してたんだよな?」


「ああ、そうだ」


「だったらよ、なんでてめえは隠し通路を使わなかったんだ? アスーカル」


「隠し通路?」


「この街と森を繋ぐ地下通路の事だよ。なんでてめえはその通路をクラス認定所に行く時に使わなかったんだ?」


「…………」


 アスーカルは無言でキルの方を向いた。

 キルはそれでもなおニヤついた顔を変えない。


「てめえらは一緒に行動してたんだ。キルが知ってた地下通路の事をてめえは知らなかったわけじゃねえだろ?」


「いや、俺は知らなかったな。その隠し通路は魔王が出てきた後でキルが見つけたものなんだろう」


 ちっ、知らなかったで通すか。

 今のは教会跡地の近くだから使わなかったとでもコイツが言えばそこから更に話を広げられたんだがな。


 まあそれはコイツからじゃなくてもいい。


「アスーカルはそう言っているが、てめえはどうなんだ、キル」


 俺はキルに向かって話しかけた。

 そしてキルは高笑いしながら俺の問いに答える。


「ギャハハ! そうだぜぇ。あたしは魔王が出てきてたらあの隠し通路を見つけたのさあ。まあ、街から出られたと思って出たのが森の中だったから引き返したんだけどよぉ」


 そうか。結局のところ、隠し通路についてはいくらでも言い訳ができるか。


 ……だが今の発言はおかしいな。


「なるほどな。そういうことなら確かにアスーカルが知らねえってのも頷けるな」


「なあリュウ、もういいだろ。俺もてめーに疑われるような事をしてたんだって理解したぜ。だから今回は互いに悪かったって事で水に流さねえか?」


 もう話はこれでおしまいにでもしたいのかアスーカルはそんな事を言ってきた。


「いや、まだだ。まだてめえの疑惑は晴れてねえよ」


「あのなあ、てめーいい加減に――」


「キル、てめえが隠し通路を見つけたのは森側からだったはずだろう?」


「あぁ?」


 キルは笑いながら首を傾げている。


「てめえは隠し通路を俺らに見せた時にたしか『この街に来る途中に森の中で見つけた』って言ってたよな?」


「あーどうだったかなぁ?」


「お宝があるんじゃないかってワクワクしてたって話も俺は聞いたぜ?」


「ギャハハ! 良く覚えてんなあ? あたしもついさっきまで忘れていたことをよぉ」


「だったら認めるな? てめえは森側から隠し通路を見つけたんだろう?」


「いんや、それは違うなあ。森の中で見つけたってのはリュウの覚え間違いさぁ。ギャハハ!」


 キルはなおも笑う。


 だがな、てめえはもう1つ不可解な発言をあの時にしていたんだよ。


「そうか」


 俺は極めて平坦に言葉を紡いでいく。


「……じゃあてめえ、なんで地下通路のある建物の事を知っていたんだ?」


「あ?」


 そこでキルの笑いが止まった。


「あそこは俺らが行った時は廃墟だった。とてもじゃねえがあそこが何のために使われていた場所なのかを特定することはできねえ。そしてあの建物が廃墟になったのはおそらく魔王が出現した直後。魔王は教会跡地から出てきた後はずっと領主の館の方に居座ってたという話だからまず間違いないだろう。なあキル。てめえなんであそこが詰め所だってわかったんだ?」


 俺はキルに詰め寄った。


「……あの建物自体は魔王が出てくる前に知ってたってだけの話さぁ。それで魔王が出てきて廃墟になった後にあたしが散策して通路を見つけただけ。それでどうよぉ?」


 キルはなおも否定し続ける。

 笑うのをやめてもその顔には余裕の笑みがあり続けている。


 ……隠し通路の事でこれだけ詰め寄ってもあれこれと否定し続ける気か。

 正直もうちょっとでいけそうな雰囲気だったんだけどな。


「わかった。隠し通路についてはここまでだ」


「それじゃああたしらは無実ってことで良いのかなぁ?」


「いや、まだ後1つだけ解けていない疑問がある」


「おぅ、なんだぁ?」



「てめえ、アスーカルって名前、朝まで知らなかっただろ?」



「…………なんでそう思うんだ?」


「昨日、俺とシーナが話しているときにバルをアスーカルが気絶させたという話をしていたが、てめえはアスーカルという言葉に無反応だったんだよ」


「…………」


 そうだ。

 俺とシーナはあの時アスーカルについての話題を出していた。

 しかしあの時キルはバルについてちゃんと聞いていたにもかかわらずアスーカルについては何の反応も示さなかった。


 キルが意図的に無視した?


 いや、その可能性以外にももう1つ可能性がある。


 それは……



「てめえはその時アスーカルという名前を知らなかった。そうだろ?」


「…………」


「大方、アスーカルというのは俺らが町に来たあたりでつけた偽名でキルはそれを知らされてなかったんだろ?」


「…………」


「てめえ、本当はアスーカル……終とグルなんだろ?」



「ギャハッギャハッギャハハはハハはハハはハッハ!!」



 キルは狂ったように笑い始めた。

 だがその笑いもすぐに引っ込めて、キルはアスーカルの方を見た。


「悪いな大将。ちょいと甘く見すぎてたぜぇ、ギャハハ!」


 俺はアスーカルを睨みつける。


「もう少し粘ってもいいんじゃないかい? キル。例えばアスーカルは仮面で顔を隠しているのと同様に名前も偽っていたから誰の事かわからなかったとかさ」


「ぃやいやもう無理でしょうよぉ。これだけ疑われたなら大将が仮面を取るまであたしら帰してくれませんってぇ」


「……まったく、きみがいなければまだまだ遊べただろうに。まったくもってざんねんだ」


「大将もその遊び癖、直したほうがいぃと思うぜぇ?」


「それは無理な話だね。これはおれの趣味みたいなものなんだから」





 そう言って、アスーカル……終は仮面を外して俺らの前で素顔を晒した。





「お久しぶり。おれは逃げも隠れもせずにきみたちの傍にいたよ」


 終はそうしてあの無表情の笑みを俺らに見せてきた。

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