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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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オーバーロード

 『オーバーロード』


 俺はそのスキルを発動させた。




 そして意識が世界を追い抜くその瞬間、俺の体から黄金色のオーラが溢れ始めた。




 ああ、この感覚だ。


 俺の中であらゆる力が拡張されていくこの感覚。


 この何でもできるというような万能感。


 これなら誰にも負ける気がしない。



 今の俺は、誰よりも強い。



「いくぜ」



 1秒


 俺の視界の右上に『オーバーロード 残り時間10秒』という表示が追加された。



 俺はそれを確認しつつブラックヴァンパイアに詰め寄って、両手で握った剣を振り下ろした。


『ッッッッッ!!!!!!!!!!』


 瞬時に懐へと潜り込まれたブラックヴァンパイアは袈裟切りにされ、その部分から黒い液体が漏れ出ようとする。

 そして何が起こったのかわからないといった様子で目を見開いている。


 だが俺の攻撃は終わらない。



 2秒



 振り下ろした剣を今度は振り上げて、ブラックヴァンパイアを切り上げる。

 その結果、奴の体にはちょうどVの深い切り傷が出来上がる。

 俺はそこから黒い液体が吹き出てくる前に、もう一度剣を振り下ろして奴の右腕を切り落とした。


『ガッ!?』


 ブラックヴァンパイアは驚愕の声を上げる。

 確かにいきなり自分の片腕が切り落とされちゃビビるわな。


 だがこれで驚かれちゃ困る。もう一本の腕も既に切り落としたんだからな。


『アっ?!』



 3秒



 まだ3秒か。

 こうなることはわかっていたことだが、改めて凄いと感心しちまうな。

 集中しなければ普段どおりの意識速度でいられるらしいが、アイツは戦う時いつもこんな世界にいたのか。



 そしてどうやら目の前の敵はやっと両方の腕がなくなっていることに気づいたようだな。

 まあそれも今更だけどな。


 俺は更に両肩を削いだ。


『ギィ!』



 4秒



 肩を削がれた事がよほど頭に来たのか、ブラックヴァンパイアは憤慨したというような顔つきになる。


 それと同時にアイツの目から何か嫌なものを感じた。

 おそらくはこれが魅了という攻撃なのだろう


 だが今の俺には効かない。


 そしてまだそんな目や顔つきができるなら徹底的に斃してやる。


 俺は剣を横に薙いで奴の両足を切断した。


『ガアァ!!!!!』



 5秒



 両足がなくなったことでブラックヴァンパイアの体がゆっくりと地面に落ちようとする。

 しかし俺はその体が落ちる前に右足で上空に蹴り上げた。


『ゴホォッ!!!』



 6秒



 ブラックヴァンパイアは腹をいきなり蹴られたためか、中の空気が口から出たというような音が聞こえてきた。

 思いのほかかなり上空に蹴り上げちまったが問題ないだろう。


 俺はその場で地面を蹴って、上空にいる魔王の元へと目にも留まらぬ速さで飛んだ。


 まるでそれはシーナの全力疾走のごとく。


 いや、この速度はおそらくシーナと互角かそれ以上だろう。

 なぜなら今の俺の才能値はこの10秒間に限り全て最大として扱われ、ステータスもそれに見合った数値に変化しているのだから。




 俺が使用したスキルは『オーバーロード』

 これはクールタイムが24時間という厳しい制限があるスキルだが、使用後10秒間、使用者の才能値9種全てを使用者の最も高い才能値の数値と同じにしてステータスを再計算するという驚異のスキルだ。


 才能値9種はいわずもがな、HP、MP、STR、VIT、DEX、AGI、INT、MND、LUKの事だ。


 俺の最も高い才能値はSTRの全振り100ポイント。

 そしてプレイヤーのステータスは才能値に比例して決定される。


 つまり今この時だけ俺の才能値9種全てに100ポイントが振られた状態になり、ステータスが全てSTR並みの数値となる。


 それによって今の俺はバル並の防御力、シーナ並の素早さ、ヒョウ並の魔法攻撃力、みぞれ並の魔力保有量、クリス並の回復能力、それに並外れた体力、命中率、運の良さといったものを得たという事になる。


 そしてそれにより、AGIの思考加速補正が上昇して今の俺の思考速度は通常の比ではなくなり、MNDの状態異常耐性補正により奴の魅了など全く意に介さない状態になっている。


 だったら今の俺にとって目の前の敵は脅威でもなんでもない。


 俺は目の前の敵を完膚なきまでに叩き潰す。




『ヒ、ヒイイイィィ!!!!!』



 7秒



 俺が傍に来た瞬間奴は悲鳴を上げやがった。


 失礼な奴だな。

 しかも背中の羽を広げて俺から逃げようとしてやがるし。


 そのまま逃げられてもまずい。俺は羽を剣で切り裂いた。


『アアアアァァァァァ!!!!!』



 8秒



 ブラックヴァンパイアの絶叫が聞こえてくる。

 この短い時間の間にコロコロ表情を変えて器用な奴だな。今の奴の顔はまさしく絶望に彩られた表情だ。


 だがまだ息はあるか。

 俺はブラックヴァンパイアの首を刎ねた。


『ァ……』



 9秒



 首だけになったことを理解したのかブラックヴァンパイアの口から小さく声が漏れ、目から光が消えていく。


 だが念のためだ。

 俺は残った奴の頭を千切りにした。


『   』



 10秒



 もはやブラックヴァンパイアは何も言わなくなった。

 まあ喋る口はもうないんだけどな。


 高速回復持ちなんていう反則クラスの能力を見せられたりはしたが、それも大したことはなかったか。

 なんせ回復する間も与えなかったんだからな。



 こうして俺は昨日の夜に予想していた通り、魔王を圧倒的な力で討伐することに成功した。






 俺の体から黄金色のオーラが消えた。

 そしてそのタイミングで赤いオーラも霧消した。

 昨日は試せなかったが、どうやら別系統のスキルと判断されて2重掛けも有功だったようだ。


 そして俺は空からの自由落下中に己の行いを反省していた。



 なんでこんな高く飛んじまったんだろうな。



「うおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 迫り来る地面を見ながら俺は絶叫した。

 今の俺はさっきまでの動きはできないってのに調子乗りすぎた。


 俺は地面に当たる直前に目を瞑った。



「ふぎゅぅ!」



 ……俺の下から変な声がした。


 というか地面に激突したはずなのにあんま痛くねえ。

 なんでだ?


「あ」


 俺の体と地面の間にバルがいた。


「りゅ、リュウ……無事じゃったかの?」


「あ、ああ。俺は大丈夫だが……てめえは平気か?」


「う、うむ。これくらいなんともないぞい」


「そ、そうか」


 どうやらバルが下敷きになって俺を助けてくれたようだ。

 まああのまま落ちても街の中だから平気だったとは思うが、せっかく助けてくれたんだから素直に感謝するべきだよな。


「ありがとな、バル。助かったぜ」


「うむ! お主を守るのはわしの務めじゃからな!」


 バルはそう言ってドヤッとした雰囲気をかもし出し始めた。

 それに合わせて俺もニヒルな笑みを意識して作ってバルを見た。


「……とりあえずあんたいつまでバルの上に乗っかってんのよ」


 そんな俺らにシーナがツッコミを入れてきた。

 どことなくシーナの目つきがきつい。


「おっとワリいバル、重かっただろ」 


「まあわしの体は頑丈じゃからの。お主程度の重みで潰れたりなどせんよ」


 俺とバルはそうしてはっはっはと笑いあった。


「でもこれで魔王は退治できたみたいね」


「そうじゃの。よくやったぞリュウ。今回もお主がおいしいところを独り占めしたのう」


「だれも独り占めなんてしてねえよ。手柄は俺とここまで俺を連れてきた全員のモンだろ」


 そうして俺はバル、シーナ、それにこの場にいる魔王討伐軍のメンバーに顔を向けた。


「そうじゃな。わしも盾役を遂行できたことだしの」


 バルも今回は活躍ができたからか上機嫌だ。

 2番目の街では散々だったからなコイツ。


「私は大して役に立たなかったけどね……折角凄いスキルがあったのに」


 そしてシーナは今回、精々外のザコモンスターの梅雨払いをしていた程度で特に目立った功績を残すことはなく、軽くため息をついていた。


 確かにシーナの持つ2つのスキルも強力だ。

 ちょっと使い慣れるまで時間がかかるとかシーナは言ってたが。


「それはまた次の機会にでも活躍してくれや」


「わかってるわよ。次、私の活躍を見てなさいよ!」


「へいへい」


 俺らは魔王を倒した後もそんな感じで平常運転だった。


「よくやったなリュウ。どうやら魔王がやられたおかげでグール化が解けたみたいだ」


 そんな俺らにヒョウが声を掛けてきた。


「あそこの忍者」


 みぞれが1人のプレイヤーを指差していた。


「速報! 速報! 街中にいたグールが正気を取り戻しましたー!!!」


 そのプレイヤーは走りながら大声でそんな事を言っていた。


 つかあれ忍か。戦いの最中ずっと街中を走り回ってたのか?


 まあいいか。これでグールも人間に戻れたのなら万々歳だ。

 おそらくブラックヴァンパイアに召還されたコウモリも消えていることだろう。


「皆さん無事で本当に良かったです~」


 そして最後にクリスが締めた。


 そうだな。

 今回は此方に大した被害は出なかった。

 もしかしたら死者も出たのかもしれないが、2番目の街に比べれば今の戦いは大勝利だ。

 魔王が出てきてからの被害で比べるならどちらが多かったかはわからないが。


 とりあえず今言える事は、この街に平和が訪れたって事だけだ。



「どうやら魔王を倒せたようだな、リュウ」



 ……アスーカルが俺に話しかけてきた。


「後ろから足止めしてた連中がどんどんこっちに来てるぜ」


 振り返ると確かにプレイヤーの集団が俺らの方へと走ってきているのが見える。


 どうやらなんとかなりそうだな。


「あとそろそろ俺の剣返してくんねえかな。いつまでも丸腰じゃあ落ちつかねえよ」


「ああ、ワリい。剣サンキューな」


 俺はアスーカルに剣を貸してくれたことを感謝した。




 だが俺は剣を持ったままだった。


「? どうしたんだ、リュウ?」


「いやな、剣を返すのはいいんだが……ちょっとその仮面外してみてくんね?」


 俺は真剣にアスーカルを見る。

 アスーカルの一挙一動を見逃さないために。


「……この仮面は俺が自らに科した制約。それを人前でそうそう外すには――」




「てめえ終だろ」






 周囲から音が消えた。

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