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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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魔王討伐軍

 朝、俺は調子に乗ってオーバーキルしてしまった14人の被害者に素直に謝った。

 そしてその後、俺とバル、シーナ、それにヒョウ、みぞれ、クリスの6人で朝メシを食べていた時にこんな話があった。


「なあ、それで結局3番目の魔王ってどんなモンスターなんだ?」


 俺は対面に座るヒョウ達にそう訊ねた。


 今更かもしれないが、俺らは3番目の魔王がヴァンパイアだという事と現れた時に相当数の人間が殺されたというおおよその情報しか持っていなかった。

 だから直接魔王と戦う前になるだけ情報を集めようと、ヒョウ達に聞いたのだった。


「そうだな……あのモンスターはとにかく強かった」


 ヒョウが一度戦った時の率直な感想を述べてきた。


「まずあの魔王は空を飛ぶ」


「マジか。それじゃあ近接戦闘はほぼ不可能だったのか?」


「いや、魔王自身が遠距離攻撃を持っていなかったから近距離武器で攻撃しようと思えばできなくも無い。魔王の攻撃を避けられればの話だがな」


「つまり魔王が攻撃しようと近づいてきた時しか剣や槍はとどかないと」


「そうだ。しかし俺やお前は遠距離攻撃ができるから問題はないだろうけどな」


 確かに俺は弓、ヒョウは魔法で遠くの敵に攻撃することが可能だ。

 特に俺は必中の弓のおかげで空を飛ぶ敵にも簡単に矢を命中させることができる。


 ちなみにヒョウの魔法は『アイスボール』や『アイスアロー』のような単体向けの攻撃の他に、遠くに範囲攻撃ができる魔法もあるので空の敵にも対処できる。

 更に補足だが、魔法には命中率の概念は適用されていないらしく、俺のように攻撃がすり抜けるようなことは無いとのことだ。ふざけやがって。


 ただ、魔法を撃つ方向は自分で決めなければならないからその辺は練習しないといけないようだ。まあそれもヒョウの場合、INT補正による魔法制御補正とやらのおかげで大分当てることは楽になっているらしいけどな。


「そして空を飛ぶ魔王の攻撃方法は大きく分けて3つある。両手に生えた長い爪による引き裂き攻撃、至近距離からの目による魅了、それに牙による噛み付きとその攻撃に付随する人間のグール化だ」


「な、なんか後半恐ろしい攻撃が聞こえてきた気がするんだけど……」


 シーナが僅かに脅えたような震える声でヒョウにそう言った。


「グール化か。実のところこれが一番厄介な攻撃でな、魔王に噛まれて死ななかった人間は、街に住んでいた人もプレイヤーも魔王の命令に従うようになる」


「プレイヤーもか……」


「グール化すると単調な攻撃しかしてこなくなるから弱いというのだけは救いだった。ただそれでもグール自身がグール化効果のある噛み付き攻撃をしてくるから油断はできない」


「マジか。グールがグールを増やすとしたら、へたすりゃネズミ算式に被害が広がるな」


 そんなことになったらもはや魔王と戦うどころではない。


「それについてはあまり心配は要らないようだ。魔王はあまりグールを増やしたがらないのか積極的には噛み付いてこないし、グールも此方から攻撃しなければ噛み付いてこない」


「ならいいんだが」


 吸血鬼は眷属をむやみに作りたがらないとかそんなノリか。

 なんにせよ、街に着いたら全員グールになっていたというのは洒落にならないからな。むやみにグールを増やしてこないというのなら願ったり叶ったりだ。


 ただ、グールをそれなりの数揃えて戦力として使ってくる可能性はある。

 その辺もちゃんと考えておかねえとだな。


「魅了の方はどうなのじゃ?」


「魅了も至近距離から目を見て受けると魔王に従うようになる効果だが、時間が経てば治る。魅了されたらその間に噛まれるか殺されるのが大半を占めていたがな」


「ふむ、つまり空を飛ぼうが飛ぶまいが魅了と噛み付きがある以上、接近戦はやらないほうが得策ということじゃな?」


「そうだ」


 バルの確認する声にヒョウは頷いた。


「ただ、魅了やグール化効果のある噛み付きといった攻撃が必ず効くというわけでも無くてな、MNDが高いプレイヤーはそれらの攻撃をされても効果がなかったというような事もあった。だからあれは状態異常の一種である可能性が高い」


「ワタシが捕まったのにグール化せず牢屋に入れられてたのも多分MNDの状態異常耐性補正が高かったからだと思いますよ~。ワタシも牢屋で、グールに何度も噛み付かれたりしましたが平気でした~」


 ……クリスがのほほんとした声で俺らにワリと衝撃的な発言をしてきた。


 いくらMNDの補正であろう状態異常耐性補正があって無事だったとはいえ、グールに何度も噛み付かれるというのは精神的に辛かったはずだろう。


 そんなクリスの発言を聞いて俺らはしばらくシン……と静まり返り、そして青い顔をしたヒョウがクリスに訊ねた。


「……クリス。本当にお前は牢屋にいて大丈夫だったのか……?」


「心配しなくてもワタシはグールになんてなっていませんよ~」


「いや……それもあるがそうじゃなくてだな……」


 この陽気な様子だと多分それ以外は何もされていないと思うが、仲間が牢屋で何かされてやしなかったかと肝を冷やしたのは当然だろう。

 ヒョウが心配そうに何度もクリスの訊ねているが、噛み付きと手足の拘束以外で何かをされたということは無いとの事だった。


「ヒョウ、本人が何もないって言ってるんだから何度も聞くもんじゃないわよ」


 なおも心配し続けているヒョウに向かってシーナがそんな苦言を言い放った。


「……わかった。何度も聞いてすまない、クリス」


「いえいえ~。ご心配をおかけしてしまってすみませんでした~」


 クリスはそうしてぺこりと頭を下げた。


「……話を戻そう。グール化についてだが、これは時間が経てば戻るのかはわからない。オレとみぞれはグール化した人間を街の中で何人も見ているが、自然回復した人間は見たことが無い」


「グール化した人は多分300人くらい」


 ヒョウの言葉に補足としてみぞれも声を出した。


「それに街の中ではコウモリが何百匹もいる。魔王のいるところに辿り着くだけでも一苦労」


「そうなのか? 確かにコウモリには夜1回襲われたが昨日の昼間には会わなかったぞ」


 俺はみぞれの言った事に疑問をぶつけてみた。


「コウモリもグールも昼間は基本外に出ない。多分魔王も」


「……てことは昼間に戦いを挑んだほうがいいのか?」


 それなら昼に戦いをずらすという考えもアリになるが。


「別に太陽の光が弱点とかじゃない。昼間でも戦いがあれば普通に出てくる」


「そうか……」


 ヴァンパイアならもしかしたら昼に活動できないかもと思ったが、どうやら無理なようだ。


「それなら予定通り夜に戦いを挑んでもデメリットは無いんだな?」


「多分」


「そうか」


 そういうことなら問題ない。

 より慎重に事を構えるのなら昼間に戦ったほうがいいのかもしれないが、これ以上ちんたらして昨日聞いた魔王への生贄を増やしても忍びない。

 このまま夜に決戦という事になりそうだ。


「よし、じゃあグールとコウモリについてはてめえらに任せた。俺は魔王をぶっ倒すからよ」


「ああ、わかった。魔王以外なら他のプレイヤーでもなんとかなるから、今からでも魔王討伐の参加者を募ってみる」


 俺の言葉を聞いてヒョウは嬉しそうにそう言った。


 多分コイツはやっと魔王を倒す可能性が見えてきたことで喜んでるんだな。

 魔王にいいように扱われてコイツも色々鬱憤が溜まってるんだろう。


「おう、任せたぜ」


 そんなヒョウに向かってニヒルな笑みを意識して作りつつ、討伐参加者を集める役を託した。


「ああ、任された」


 俺にハッキリとそう答えるヒョウの顔はとても爽やかだった。


 そうして俺らはヒョウ達と別れて昼になった頃、魔王討伐軍が町の入り口にて編成された。






 俺らが町の入り口に来た時には既に人だかりができていた。

 魔王討伐に参加しようと集まった高レベルプレイヤー達、それに激励の声を上げている町の住民、そしてそれを遠巻きにして見ている魔王討伐には不参加のプレイヤー達、とまあ色々だ。


 その人だかりに俺が近づいていくと、ざわざわと騒がしかった喧騒が少しずつ治まってきた。


「おい、『ドラゴンロード』のお出ましだぜ」


「いやもうそれ本当にいいから。そのクラス名で呼ばれるの本当にもういいから」


 俺に向かってクラス名を言ったアスーカルにツッコミを入れた。


 アスーカル以外の奴らからもそう呼ばれていることから察するに、もはや俺の名前はこの町じゃ『ドラゴンロード』で定着しちまったようだ。

 あんま広まらなければいいんだが……多分無理なんだろうな。


「てめえも魔王退治に参加するのか、アスーカル」


「ああ、やっとクラスも取得できたことだしな。露払い程度なら俺らに任せな」


「そうか」


「だから魔王の討伐はてめーに任せたぜ?」


「おう、任せとけ」


 俺はアスーカルに向かってニヒルな笑みを意識して作りつつそう言い放った。


「……よぅ、リュウじゃねぇか。1日ぶりだなぁ?」


 そんな話をしていた俺とアスーカルの前に、長い黒髪をなびかせたキルが現れた。


「キル……」


 と、なぜかアスーカルが小さくキルの名を呟いていた。


「あぁ? ……ああ、あんたもこっちに来てたんだなぁ」


「……まあな」


 キルがアスーカルに問いかけ、それにアスーカルは一言だけ答えた。


「なんだ? てめえら知り合いだったのか?」


 なんだか2人の会話的にそう捉えられるが。


「そうだ、俺ことアスーカルとコイツことキルはかつて同じパーティーを組んでいたことがあるんだ」


「あぁ……そうそぅ。あたしとアスーカルは3番目の街に来るまで一緒にパーティー組んでた仲さぁ。まぁ10日は前の話かぁ?」


「へぇ、そうだったのか」


 まさかコイツらが同じパーティーを組んでたほどの仲だったなんてな。

 なかなか世界ってモンは狭いもんだな。


「だけどまさかコイツと知り合いだったなんてなぁ。ビックリしたぜリュウぅ?」


「? そうかよ」


「ギャハハ! そぅかぁ、そぅだったかぁ」


 キルはそうしてギャハギャハと笑い出した。


「キル。てめーもリュウと知り合いだったのか」


 アスーカルは若干硬い声でキルに話しかけていた。


「おぅよ。ちょぃと昨日こいつには助けられっちまってよお、ギャハハ!」


 何故かテンションが高いキルはそう説明をしてくれた。


「とりあえず俺らの話はこれくらいにして本題の方を進めてこうぜ、リュウ」


「あ、ああ、そうだったな」


 アスーカルがもっともな事を言ってきたので俺は同意の声を洩らした。


 確かに今はコイツらの関係を聞いてる場合じゃねえか。




 にしても10日前ねえ。

 今はパーティー組んでないとしたらどんな理由で別れたんだろうか。

 まあそれはパーティー間での問題だから深くは突っ込まないでおくか。



 …………。







 そして俺ら魔王討伐隊は3番目の街に進軍することになった。


 今回参加したプレイヤーの数はざっと100人以上はいる。

 中には昨日の俺の模擬戦を見てこれなら勝てると参加してくれた奴らもいるそうだ。

 そういう奴らもいるなら俺も力を示した意味があるってもんだ。


 それにこれだけの数のプレイヤーが町に無事なままいてくれたのはヒョウ達のおかげだ。

 アイツらは俺らの時のように3番目の街に訪れるプレイヤーを全員この町に誘導してたんだからな。

 そういう意味ではヒョウ達が昨日まで魔王側にいてくれて良かったということになるだろう。


「3番目の街に到着するのはおよそ夜の10時。生贄の時間まで2時間の猶予がある」


「なら余裕をもって街までいけるっつうことだな。つってもこの人数ならモンスターの襲撃も大したことねえけどな」


 俺はヒョウと話しながら共に歩くプレイヤー集団を見回していた。


「油断は禁物じゃぞリュウ」


「そうよ、あんたが変なことしてヘマしたら私とバルがあんたを庇わなきゃいけないんだからね」


「へいへい」


 そうしていたらバルとシーナが俺に説教をしに来やがった。


 つか前線から戻ってきたのか、シーナ。


「シーナ、前の様子はどんなだった?」


 討伐軍の大将役として中央付近にいる俺は、さっきまで最前列でモンスターの誘導をしていたシーナにそう聞いてみた。


「今のところ問題無しね。モンスターと戦っても余裕そうだったから戻ってきちゃったわ」


「てめえこそ油断してんじゃねえのか?」


「少しくらいモンスターと戦っておかないと他のプレイヤーの緊張感が保てないと思った私なりの配慮よ。実際問題ないし」


「そうかよ」


「でも確かに緊張感は必要じゃな。わしらは遠足をしにいくわけではないんじゃからのう」


 どうやらバルはシーナの言い分に好意的なようだな。


「今から緊張感持たせても街まで続かないんじゃねえの?」


「ここで油断して外のモンスター相手に要らぬ被害をださぬほうが良いじゃろう」


「ああ、そういう話でもあるか」


 ここいらじゃ高レベルのプレイヤーで構築されている集団だといっても万が一のことはある。

 何も街の中にいるモンスターだけが脅威なわけじゃないか。


「だがそれならシーナがモンスターを軍から離せば済む話じゃね?」


「む、むぅ……そうなのかのう?」


「ちょっと、言い負かされてんじゃないわよバル」


 まっ、結局軍全体で負担を分けあれば良いって話なんだけどな。

 シーナも街までずっとモンスターを誘導させるのもしんどいだろうしな。

 適度にこうして休みにくりゃ良いんじゃねえの?


「オレから見れば今のお前達が一番緊張感無い様に見えるがな」


「う……」


 そんな話を続けていた俺らにヒョウからもっともな言葉が出されたところで俺らの会話は終了した。


 そして黙々と歩き続けて夜も更け、俺らは遂に3番目の街までやってきた。

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