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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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初勝利

 俺はレイピアを手に持ち、始まりの街を囲む外壁にある門から外の世界へ足を踏み入れた。

 とは言っても今回は無理をしないことに決めた。


 ユウのお願いを無視して街の外へと出てはいるが、前回の戦闘での敗北で俺がどれほど弱いのかは十分理解しているつもりだ。

 だからもしモンスターと遭遇して倒せそうになかった場合は即座に撤退して街の中に逃げ込めるように活動範囲を限定することにする。


 だがまあ、俺と同じように安全第一でいこうとするプレイヤーも多いのか、俺以外にもうろついている奴らを遠くにちらほら見かける。

 これだと無事なモンスターを探すだけでも結構時間かかるかもしれねえな。


 そうしてモンスターを捜索すること10分弱、もう夕日は沈んで本格的に夜になろうとしていた頃、ようやく一匹のモンスターが姿を現した。

 10分程度で見つけられたのは多分ラッキーだ。周りに余計なプレイヤーもいないし戦うには環境が十分整っている。


 そして俺の前に現れたモンスターは例によってあのブタだった。


「よう、数時間ぶりだなブタ公。今度こそぶっ飛ばしてやるぜ」


 俺はレイピアを構えてブタを睨みつける。

 それと同時に万が一の場合の逃走経路も確認する。

 街の出入り口は視認できるがここから走って3分ってところか。

 少し距離を縮めておくか。


 俺はブタから目を離さずに街の方へ走る。

 するとブタはこちらに向かって突進攻撃を仕掛けてきた。


「そんな遠くからじゃ当たらねえんだよ!」


 俺はブタが突進をなんとか避け、そのまま街へと走っていく。

 これで街との距離は大分縮まった。これなら問題ないだろう。


「よし、じゃあ反撃開始だ!」


 相変わらずブタは俺に突進攻撃をしてくるが、もう何度も見ていたおかげで突進の予兆がわかるようになり、ブタが走り始めた瞬間には既に回避運動を行うことができていた。 

 余裕をもって避けられるので、すれ違いざまにレイピアをブタに叩き込もうとして俺はレイピアを野球バットのごとくフルスイングした。

 レイピアは絶対こんな使い方じゃないとわかってはいたが、武器をどんな風に使おうがぶっちゃけ俺の勝手だと開き直っている。


 だがしかし、そんな俺の攻撃は当たらなかった。

 突進してくる位置にジャストミートだったと思っていた俺のスイングは、何かに当たる手ごたえを感じることなく空振りした。


 ……今すり抜けなかったか?

 もしかして命中率が低いと物理的に当たるような攻撃はすり抜けるのか?


「ちっ、次だ次」


 俺はブタと距離をとって次の突進がくるのを待ち構える。

 下手に近づくと、体当たりを俺は避けることができない。

 だから避けることができる突進にカウンターをぶち込むこの方法が1番勝率が高いだろう。


 そして俺はその後さらに5回ブタの突進をかわし続けた。

 しかし俺の攻撃もまったく当たってくれない。

 そろそろイライラしてきた。


「っぶあ!」


 ……集中力が切れていたのがまずかったのか、ブタの突進を避けきれずに俺は跳ね飛ばされた。


「ゴホッゴホッ! ったく何やってんだ」


 集中集中……、今のでHPが3割削られた。

 一応まだ戦闘は続行できる。

 俺は気を取り直してブタの挙動に目を向ける。


 ブタが突進のモーションに入った!

 俺は間髪いれずに移動してレイピアを横に構える。


 今度こそ絶対当てる!

 俺はそう意気込んで全神経を集中させる。

 そしてブタがまもなく俺の横を通り過ぎようとする瞬間、俺はレイピアを振りぬいた。


「うるあっ!」 


 レイピアに何かが当たる感触を感じる。

 それと同時に何かが空に向かって吹っ飛ぶ様子が俺の視界に入った。


 よく見るとそれはさっきまで俺が戦っていたブタだった。


 空に打ち上げられたブタはグングン飛距離を伸ばしていき、俺から100メートルほど離れた平原に墜落した。


「よく飛ぶブタだったな……」


 唐突に俺はとあるアニメ映画を思い出したが、今はそんな事考えている場合かと頭を振って今の結果を思い起こす。


 ……今当たったよな?


 そうだ、今ブタが飛んだのは俺のスイングがあいつに当たったからだ。

 ちょっとぶっ飛びすぎと思えるが、良く飛ぶ分には問題ないか。レイピアの方も折れたりとかはしてねーし。


 じゃあ今ので倒せたのか?

 流石にもう一度当てなきゃならないとなるとかなりしんどいぞ。もう周りもだいぶ薄暗いし。


 俺はメニュー画面を開いて経験値が入っているかを調べる。


「入ってる……」


 今まで0だった総獲得経験値が7になっていた。


 ちなみにレベル2になるために必要な経験値は20。

 つまりあいつをあと2匹倒せればレベル2になるって事か。

 ついでに金の方も10Gだが増えていた。


「……よっしゃああああああああああああああああああ!!!!!」


 そして俺は咆哮した。


 たかが一匹序盤のモンスターを倒しただけだ。

 しかもかなりの苦戦を強いられて一度は負けてしまう体たらくぶりだった。

 これでレベルアップしたわけでもない、金も大して手に入ったわけでもない。


 だが俺は歓喜した。

 喜び叫び、夜の世界を照らす月に向かって高らかに吼える。


「戦える! 俺は戦えるぞ!! そうだ、俺は戦える! ちゃんとやり方さえ考えれば俺だって戦えるぞ!!!」


 俺は天に向かって拳を突き上げた。


「待ってやがれユウ! 俺が戦えないお荷物だの役立たずだのとぬかしやがって!! てめえらだけにゲームクリアを任せてなんてやるもんか! ぜってーてめえらに追いついて吠え面かかせてやっからな!!!」






 俺は勝利の余韻に酔いつつ街へと戻ることにした。

 すると腹の中からグウ~という音が聞こえ、そこで初めて俺は腹が減っていることに気がついた。


「この世界でも腹って減るもんなんだな」


 俺は腹を擦りつつ、そういえば俺が寝ていた宿屋も宿屋兼食堂だったっけかと思い、10Gで何か喰えっかなと早足で街の中に入ろうとした。


 ……が街の入り口で複数人の男が俺の目の前に立ち塞がった。

 男たちはニヤニヤとした笑みを顔に貼り付けて、俺が逃げられないように囲い始める。


「……俺を芸能人か何かと勘違いしてるならただの人違いだぜ?」


「いんや。俺たちは別に人違いとかしてるわけじゃあねえよ」


「じゃあどいてくれ。今日はもう疲れてんだ」


「ああどいてやるよ。俺たちの用が済んだらな」


 用ねぇ……。

 なんつーかロクでもねー事しか思い浮かばねーな。


「その剣と鎧、ここに置いてけ。それで許してやるよ」


「はあ? てめえ何言ってやがんだ? さっさとどかねーとぶっ飛ばすぞ」


「ぎゃはは! お前馬鹿じゃね? 周り見えてねえんじゃねえの?」


 知るか。

 いきなりそんなこと言われてはいそうですかなんて言うわけねーだろ。


「つーかここ、まだ街の外だぞ。ここで争えば死ぬかもしれねーぞ。てめえら人殺しになりたいのか?」


「場合によってはそうなるかもなあ。まあそれはお前次第だがな」


「ふーん」


 俺を囲んでいる連中は全部で7人。3人は初期装備のままだが4人は防具屋で見かけたそれなりにいい装備をしている。

 まず間違いなく500Gじゃ足りない。

 こいつらゲーム開始早々からこんなことやり始めてたのか?


「たとえフクロにされるとわかってても、俺はてめえらの誰かを道ずれにするくらいのことはやるぜ?」


「強がるのもほどほどにしておけよ。実のところお前、ちょっとした有名人なんだぜ?」


「なに?」


「お前あの黒い影が消えたすぐ後、仲間とずいぶん言い争いしてたそうじゃねえか」


 うっ。


 確かにあの時俺たち以外にもかなりのプレイヤーが近くにいた。

 俺も大分頭にきていたからかなり大声を出していた。

 誰かに聞かれていてもおかしくねえ。


「俺たちは知ってるんだぜ。お前がSTR極振りの筋力馬鹿だってことはよお」


「……」


「それにさっきまでずいぶんと長い間ブタと戯れてたじゃねえの。命中率が絶望的なのは見てたら誰でもわかんだよ。俺たちとやりあえばお前は何もできずにあの世行きだろうよ」


 ……そこも見られてたのか。

 滅茶苦茶恥ずかしいじゃねえかよ。


「ずいぶんと俺の事観察してたみてーだな。何? 俺のファン? サインでもしてやろうか?」


「いらねえよ。さっさと武器と防具寄越せ。殺すぞ」


「ちっ」


 ……この状況は流石にどうすることもできねえか。

 俺はレイピアと皮の鎧をその場に置いた。


「最初っからそうすりゃいいだよボケ」


「てめえらロクな死に方しねえよ」


「何とでも言え。これも俺らが生き残るためなんだからな。身ぐるみ全部剥がれなかっただけ感謝するんだな」


「ペッ」


 追い剥ぎどもの横を通り過ぎて俺は地面につばを吐く。

 そして俺は街の中へと入っていった。  


 ……まさかこんなところに落とし穴があったなんてな。

 最大の敵はモンスターではなく人間でしたってか、笑えねえ。


 俺は宿に戻り夕食代5Gを支払ってメシを口の中にかきこんだ。


 明日からどうすっかな……

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