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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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魔王を討伐する者

 テントの設置を終えた俺は、吼えるだけ吼えて疲れきった様子のバルとシーナに声をかけた。

 これ以上は流石に近所迷惑になっちまう。


「よう『当たり屋』に『絶壁』。そろそろ落ち着いたか」


「そのクラス名で呼ばないでくんない? 『ドラゴンロード』さん?」


「ぐ……」


 シーナも俺のクラス名をキチンと確認してやがったか。


「のう、リュウよ。わしのクラスとお主のクラスを交換せんか? 1人だけずるい」


「いやずるくねえよ。全員被害レベルは同じだよ」


 バルはバルで何を言ってんだ。

 俺だって交換できるモンなら交換してほしいわ。


「……そろそろ落ち着いたようだな」


「ああ、ヒョウか。隣で騒がしくしちまって悪いな」


「いや、まだ寝るタイミングではなかったから問題ない。ただ流石にこれ以上騒がれたら文句はつけるだろうがな」


「マジでスマンかった」


 ヒョウが俺らを見る目が若干きつい。

 夜中に騒いでマジすんません。


「……それで? クラスはちゃんと取得できていたのか?」


「あ、ああ、まあ、一応な」


「何のクラスになったんだ? さっきバルとシーナが当たり屋だの鉄壁だの言って騒いでいたが……」


「ああ、それがアイツらのクラス名だ」


 本当はバルは鉄壁じゃなくて絶壁なんだが、訂正するのも面倒だから放置する。


「『当たり屋』に『鉄壁』か……聞かないクラス名だからレアクラスの一種なのかもしれないな」


「だろうな」


 レアどころか一品物のユニークだけどな。


「それでお前はどうだったんだ?」


 ……やっぱ言わなきゃダメなのか。


「……『魔王討伐者 ドラゴンロード』」


「『魔王討伐者 ドラゴンロード』? なかなかカッコイイクラス名じゃないか。それにそのクラスも多分レアクラスだぞ」


 俺のクラス名を聞いてヒョウは素直に褒めてくれている。


「……もう少し大人しいクラス名にしてほしかったぜ」


「? そうか、それと専用スキルは必ずチェックしろよ」


「ああ、そういえばクラスごとに専用スキルがあったんだったか」


「専用スキルは強力はものが多い。あえて取らないというプレイヤーもいないだろうからな」


「そうか。それなら取ってみるか」


 これでまた攻撃力関連とかじゃなければいいんだがな。

 だがこれだけ大層な名前をつけたんだ。あの夢の女も何かしら考えはあるだろう。


 そう思いつつ俺はスキル欄を期待しつつ開けて、専用スキルを探した。


 そして俺は数あるスキルの一覧の一番下を見て、その専用スキルを見つけた。



 そのスキルを見つけてしまった。



 そのスキルの説明を見てしまった。



 そのスキルがもたらす結果を想像してしまった。



「……おい、どうしたんだ、リュウ」


「…………」



 ……このスキルは酷い。



 今までの俺の常識を完全に覆す性能を秘めている。

 条件はそれに見合って厳しいが、それでもこのスキルは流石に酷すぎる。


 夢に出てきたあの女はマジで俺に魔王を討たせる気だ。

 このスキルを俺に与えたことが何よりの証拠だ。


「……なあヒョウ。ちょいと手合わせしてみてくんねえか?」


「手合わせ? こんな時間にか?」


「ああ。そして明日のこの時間に、3番目の街の魔王を倒すぞ」


「あ、明日だと……?」


 俺の言葉に反応してか、ヒョウの顔が引きつり始めた。


「確かにオレもこれ以上犠牲者を出さないよう迅速に魔王を倒さないといけないと思っているが、挑むにしても早すぎるぞ。あの魔王は強すぎる。オレ達プレイヤーが束になってかかっても傷1つ負わせられなかったくらいにな。だからどうにかして弱点を見つけるなりして対策を練らないと殺されるだけだ」


 ヒョウは俺に考えを改めなおさせようとしてか、必死な様子でそんな説得をしてきた。


 コイツがここまで言うくらいだ。3番目の魔王は相当強いんだろう。


 しかしそれでも関係ない。俺はその魔王の上をいく。


「俺もさっきまでならその忠告に耳を貸しただろうさ。だが今は違う」


 俺は俺の専用スキルを取得した。

 どうやら専用スキルはスキルポイントを消費せず、いつものスキルスロットとは別のところに入るようだ。


「勝算があるのか?」


「それを今から示す」


 俺はヒョウに自信を込めて言い放った。


「俺が手に入れた専用スキルは魔王を単騎で圧倒しうる力だってことを見せてやる」


 ヒョウは黙って俺を見つめてきた。


「……本当か?」


「おう。意味の無い嘘はつかねえのが俺の流儀だぜ」


「そうか、わかった」


 ヒョウは一言そう言うと、俺に背を向けて歩き出した。


「お前が本当にそんな力を得たのかどうか、魔王の力を知る俺が直接確認しよう。それが今まで街に住む住民の犠牲に目を背けてきた俺の責務であり義務だ」


「そうかよ」


 そんなキザなセリフを言い放つヒョウの背を追いかけるようにして俺もまた歩き出す。

 そして俺とヒョウは町の中でもそれなりに開けた場所へと移動した。






「なんだ? 決闘か?」


「いえ、そうじゃないらしいぜ」


「じゃあなんなんだ?」


「さあ?」


 俺とヒョウが対峙している姿を近くで歩いていたプレイヤーや町の住民が注目し始めた。

 夜とはいえまだ町には人の姿が多く見られる。


「これから模擬戦闘を行う! 痛い目みたくなけりゃ俺らに近づくんじゃねえぞ!」


 俺は周囲に聞こえるようにそう宣言して、近づかないよう注意を促した。


「リュウ、お前はわかっているだろうが、俺は1人では戦えない。みぞれの『マジックシェアリング』だけは見逃してもらうぞ」


 そう言うヒョウの後ろではみぞれがすでに魔法を唱えていた。

 あっちはもう戦闘準備完了のようだな。


 だがヒョウの配慮は俺には無用だ。


「ああ構わねえぜ」


「それと……俺を気遣って遠慮なんてするなよ? 俺すら倒せなかったら魔王なんて倒すことは到底不可能なんだからな」


「わかってるっつの。つかむしろ――他に飛び入り参加したいって奴はいねえか?」


 俺は周囲にいるプレイヤー全員に言い放った。


「俺は明日魔王を倒しに行く! そして俺は魔王を倒す! これは夢でも願望でもない! それを今から証明してやる!」


 俺の啖呵に周りにいた住民は喜びを、プレイヤーは困惑をそれぞれ示した。


「魔王ってあの3番目の魔王だよな?」


「あれはマジやばいって……今の俺らで敵うモンスターじゃねえよ」


「あの魔王が出てきた時何十人もプレイヤーが死んだんだぞ! 俺達のレベル帯じゃまだ敵わないモンスターだったんだよ!」


 プレイヤーの口から次々と非難の色を帯びた言葉が沸き起こった。

 だが俺は屈しない。


「ああ、確かに3番目の魔王は今の俺らのレベルで倒すのはきつい。だがそれは普通ならって但し書きがつくぜ」


 俺はそこでニヒルな笑みを意識して作り、言葉を続ける。


「今、俺が普通じゃねえって事を証明してやるよ。だから、戦う意志のある奴だけ来い」


 その場にいるプレイヤー全員に宣戦布告する。

 俺はさっき声を出したプレイヤーの1人に手招きをする。


「こいよ。町の中だからHP的には死なないぜ?」


「……そこまでいうなら乗ってやるよ。あとで吠え面かいても知らねえからな!」


「その意気だ。……他には俺にかかってくる奴はいないか!」


 俺はなおも声を飛ばして参加者を募った。

 そして結果的にヒョウを合わせて14人のプレイヤーが俺の目の前に集まった。


「……のうリュウよ。本当にやるつもりかのう?」


 俺の右隣でバルが心配そうな声を上げていた。

 そんなバルに俺は告げる。


「ああ、やるさ。今回はウォーミングアップをする程度だしHPも保護されている。何も問題はねえよ」


「……いくらHPが保護されてるからといってもこの人数相手にウォーミングアップにはなんないでしょ」


 左隣にいるシーナは心配するというよりも呆れている様子でため息をついていた。


「まあ見てろって。すぐに終わるからよ」


「タコ殴りにならないように気をつけなさいよ?」


「おう」


 そして俺は一歩前へ出た。


「……どうやら本気のようだな」


 ヒョウが苦い顔をしつつ俺に確認をしてきた。


「オレ達側は14人だぞ。お前は本当にこの人数を同時に相手するのか?」


「3番目の魔王はプレイヤーを50人は殺してんだろ? その半分も倒せねえようじゃ話になんねえんだよ」


「……そうか。なら仕方がないな」


 ヒョウ達14人は武器を構えた。


「その弓1つでこの人数とどう戦う? リュウ!」


 ヒョウの持つ杖が途端に光り始めた。

 おそらくこれから一瞬のうちに魔法が飛んでくるだろう。


 そして14人のうちアタッカーらしきプレイヤーが8人俺に向かって駆け寄ってくる。

 そはや戦いは始まっている。このままだと俺は3秒以内にボコられる。


 以前まではそうだった。

 俺自身に自衛能力は無い。

 俺ができるのは俺の流儀に沿った『やられる前にやる』という戦い方だけだった。


 だが今の俺は違う。

 その違いはまさしく劇的であり、それを起こすものは劇薬だ。

 劇薬は少量であっても瞬時に周囲に影響を与える。


 俺はその劇薬の名を呼ぶ。

 魔王を倒せと頼まれた、俺だけのスキルの名を――。







 そして模擬戦闘は終了した。







 結果は、俺の圧勝だった。

 俺は魔王との戦いの勝利を確信し、高らかに笑った。






 次の日の昼、俺らは町を歩いていた。


「おい……あれ『ドラゴンロード』じゃねえか?」


「え? それってもしかしてあれか? 昨日の夜プレイヤー14人を相手に1人で半殺しにしたっていう?」


「ああ、間違いねえよ……俺昨日見てたからよ……あいつ全員倒した後、倒した奴らを見ながらずっと笑ってやがったんだぜ……?」


「ヤベえよ……ヤベえよ……あいつこそ真の魔王だよ……」


「それに『ドラゴンロード』の隣を歩いてる2人にも昨日見た覚えあるから間違いねえよ……」


「『当たり屋』のシーナに『鉄壁』のバルだよな……なんか見てるだけでブルッちまうよ俺……」


「あの2人も『ドラゴンロード』ばりに強いらしいぜ?」


「『当たり屋』に『鉄壁』だもんな……名前だけでも強そうな雰囲気がビンビン伝わってくるぜ……」


「あの『当たり屋』って方は持ち前のスピードが尋常じゃないらしくて本気で走ると目ではとらえきれないらしいぜ?」


「何……だと……」


「それにそのスピードでさながらトラックのごとく敵を跳ね殺すらしいぜ……」


「ヤベえよ……ヤベえよ……轢き逃げ上等かよ……」


「それに『鉄壁』の方は今までHPが1回も減ったことが無いらしいぜ……」


「マジかよ……それなんてチート?」


「しかもその手で捕まえた獲物は死ぬまで掴んで逃がさない徹底振りだとか……」


「ヤベえよ……ヤベえよ……スッポン級かよ……」


「ああ……近づいたら最後……『鉄壁』に捕まって……『当たり屋』に……ぺシャンッだぜ……?」


「おお恐ろしい……恐ろしい……」





「…………」


「…………」


「…………」


「……のう、リュウよ」


「なんだ、バル」


「なんか怖がられてる気がするのじゃが」


「気のせいだ」


「そうじゃったか」


「ああ」


「…………」


「…………」


「…………」


「……ねえ、リュウ」


「なんだ」


「なんか私達の噂が聞こえるんだけど」


「空耳だ」


「そうだったの」


「ああ」


「…………」


「…………」


「…………」



 ………………………………。





「そんなわけあるかーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


「うお!?」


 突然シーナがキレだした。


「なによあれは! 完全に脅えられちゃってるじゃないの!」


「な、なんでだろうな」


「あんたのせいでしょうがあああああああああああああああああああああ!!!!!」


 そうか。

 やっぱ俺のせいだったか。


 どうやら俺らはプレイヤーから怖がられてしまったようだ。


「あんたが昨日調子乗ったからこうなったんでしょうが!」


「あの時はテンションが上がっててしょうがなかったんだ!」


「多勢相手に無双して、その後狂った様に笑い続けるとかどこの敵キャラじゃ」


「あの時はなんかドーパミンとかがドバドバ出てて気がついたら笑ってたんだよ!」


「それに何故か私とバルまで巻き添えくらって変な噂がたっちゃってるじゃない! 私のクラス名まで知られちゃってるし!」


「いやクラス名はテント張る時てめえが大声出して自爆しただけだからな」


「いきなり冷静になんな!!!」


「はい」


 今の俺はかなりの素直だ。

 今の事態を引き起こしたのは全部俺のせいだ。

 だから今こうして道端で正座させられても文句なんて言えやしない。


 ここまでプレイヤーに恐れられて引かれるとは思わなかった。

 つか俺の事をクラス名で呼ぶなよ。滅茶苦茶恥ずかしいじゃねえか。


「リュウ、こんなところをうろついていたのか」


 反省中の俺の目の前に昨日の夜の被害者筆頭が姿を現した。


「……なんで正座をしているんだ?」


「反省中だ」


「そ、そうか」


「……朝も言ったがもう一度言わせてくれ。昨日は手加減無しでぶん殴ってすまなかった、ヒョウ」


 俺は正座のまま被害者筆頭に頭を下げた。


 あの模擬戦の後、ヒョウ含めた14人は朝まで気絶していた。

 そして気絶させた張本人はこの俺だ。


 俺は朝その14人にやりすぎたことを深く詫びた。


 だがヒョウ以外の13人は俺が謝る姿を見てもなんか怖がられてしまった。

 人が頭を下げただけでいちいち『ヒッ!?』とか声を出さなくてもいいだろうに。


 それにヒョウも若干後ずさりしているのが気になる。


 まあなんだ。本能的に死を予感したせいで俺に防衛反応を起こしちまってるだけだろう。

 いくらHPは保護されて死ぬことは無いといっても怖いと思う感情はコントロールしきれないだろうしな。


「いや、それはもういい。あれはオレが受けるべきものだったんだからな。こんなことだけでオレのしてきたことを償えたなんて思ってはいないが」


「んなこと聞きたくねっつの。てめえはそんな事を言いに来たのか?」


 どうもコイツは自虐的な事をよく言う。

 仕方なかったとはいえ魔王の手下をやっていたことがそんなにコイツを苦しめてるのか。


「……そうだった、すまない。では本題だが、こちらの準備ができたからそろそろ出発するぞ。みんなが待ってる」


「ああ、もうそんな時間か」


 まあそんな苦しみも今日で最後にしてやるよ。


「今から3番目の街に行けば夜には到着する」


「わざわざ言われなくてもわかってるさ。そんじゃあ魔王退治に行きますか」


 俺が絶対魔王を倒してやっからよ。


 そして俺らは一時、魔王討伐の意志のあるプレイヤーを集めた町の入り口に移動した。

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