クラス名
「なんか勢いであんな約束しちゃってたけど、一言くらい私たちに相談してくれても良かったんじゃないの?」
「そうじゃぞリュウ。わしらは3人でパーティーなのじゃからな」
メシ屋を出た後、ヒョウ達と別れた俺らはクラス認定所の職員に会うために夜道を歩いていた。
そんな時、シーナとバルはさっき俺がヒョウ達に吹っかけた勝負に関しての不満を口に出した。
「確かにあんたはパーティーリーダーだけど、だからといってあんたが勝手にメンバーを増やしていいことにはならないんだからね?」
「そうじゃそうじゃ」
「ああ、スマン。ついノリで言っちまった」
今回の件は全面的に俺に非があるので2人に素直に謝罪した。
「つう事はてめえらはアイツらと仲間になるって事には反対なのか」
「誰もそんな事言ってないでしょ。私は良いと思うわよ。あのパーティーと組むのは」
「わしも賛成じゃな。お互いに足りない要素を補いあえる良い話じゃと思うぞい」
「あ? てめえらさっきまでこの話には否定的だったじゃねえか」
「それはあんたが勝手に決めた事についてにだけの話よ。あのパーティーの事は否定してないわ」
「うむ。あのパーティーは仲間を思いやれる良いパーティーであると、わしも短い会話ではあったが感じ取れたぞい」
「そうかよ」
どうやらシーナもバルもあのパーティーと組むことには難色を示していないようだ。
もしあのパーティーと組むことを嫌がられていたらどう勝負をなかった事にするか考えにゃならんところだった。
「そういや今バルも少し言ってたが、確かに物理特化な俺らと魔法特化のアイツらが組めばなかなかバランスの良いパーティーになるな」
「なんじゃ、もしかしてお主、その辺を特に考えずにパーティーを組もうとしておったのか?」
「いや、別にそういうわけでもねえさ。ヒョウ達に盾役がいたら俺だって誘うのは躊躇っただろうしよ」
そうだ。
アイツらには盾役がいなかったというのは結構大きな要素だ。
俺らのパーティーは既に2枚盾だからこれ以上盾役を増やすのは良くないだろうし、アイツらだって盾役が仲間にいたほうが安心できるはずだ。
それに加えて俺という遠距離型物理アタッカーもいる。戦力として加えるのはアイツら側としても文句のない布陣だろう。
「まあなんにせよ魔法が使える仲間が増えるのはいい事よ。今までは出てこなかったけど物理攻撃無効なんてモンスターも出てこないとは限らないしね」
シーナが最後にそう話を締めて、俺らは1軒の宿屋の前に到着した。
「ここか、職員が今いるっていう宿屋は」
「うむ、そうじゃ。時間的にはもう遅いから寝てしまっている可能性もあるのじゃがな」
「そうだった時は朝に出直すか」
「とりあえず中に入って起きているか確認しましょ」
「おう」
そうして俺らは宿屋に入り、宿屋の主人に話を通してもらった結果、クラス認定所の職員とその場で会う事ができた。
「お待たせいたしました。私がクラス検定書等の書類を受け付けておりますセフィアと申します」
「夜遅くに訪ねてしまってワリいな」
「いえ、これも街の為ですから」
セフィアと名乗る職員は柔らかい物腰で俺らにそう言ってきた。
コイツは公僕の鏡だな。
「それじゃあ早速だがこの書類を受理してくれ」
俺はさっきメシ屋で書いてきたクラス検定書を懐から取り出してセフィアに手渡した。
書くことといってもそんな大した項目があったわけではなく、氏名や年齢、趣味、特技、希望する役割などを記入する程度の用紙だった。
これに書く内容でクラスが変わったりすんのかね。
それに牢屋で見た夢の件についてもどうなるかはわからない。
もしかしたらあれは俺が見たただの夢だったというオチもありえないわけじゃない。
俺が用紙を提出した後、バルとシーナも俺に続いて提出し、セフィアはその場でデカイ判子を取り出した。
「はい、皆さん記入漏れ等はないようですので受理いたします」
セフィアはそう言うと、持っていた判子をポンポンポンと3枚の用紙に押していった。
「おめでとうございます。これにてクラス認定は無事完了いたしました。実際にクラスが取得されるのは数十分後ですので、町の中でしばらくお待ちください」
「おう、あんがとな」
「どういたしまして。それと、魔王討伐の報が入ることを期待して待ってますね」
「任せとけ」
俺はニヒルな笑みを意識して作ってそう言い放ち、俺らはセフィアと別れて宿を出た。
「これで少し待てばクラスが取得できるのか」
「そうじゃの。その間に今日の寝床を準備しようぞ」
「今日はもう宿屋に泊まれそうもないしね。早いとこテント張りましょ」
そういやもう夜だから宿屋も満室か。
ヒョウ達も多分俺らと同じだからアイツらと同じところで野宿するのもいいかもしれねえな。
「てかバルは自分の宿取ってるんじゃないのか?」
「取ってはおるが、お主達だけ野宿ではわしの気が済まんのでわしもお主らと共に寝泊りするぞい」
今日1日町にいたバルに俺はそう疑問を投げかけると、バルは俺らと一緒に寝ると言い出した。
バルも1人で宿屋に泊まるのは寂しいのかもな。
それなら俺から特に否定する気はねえな。
「そうなの? 無理しなくてもいいわよ」
「無理などしておらんわい。2人より3人のほうが安心じゃろうて」
「まあバルの好きにしたらいいさ」
「うむ。そうさせてもらおう」
俺らはテントを張る場所を探し始めた。
そうして10分ほど町を歩いていたら、野宿組の集団の中にちょうどテントを張り終えていたヒョウ達を見つけた。
「やっぱてめえらも野宿だったか」
「なんだ、リュウ達か。そういうお前達もなんだろう」
俺が声をかけるとヒョウが言葉を返してきた。
「そういうこった。隣テント張ってもいいか?」
「ああ、構わない。みぞれもクリスもいいな」
「はい、兄さん」
「リュウさん達なら大歓迎ですよ~」
「そうか、じゃあ張らせてもらうぜ」
俺らはヒョウ達のテントの横にちょうどあったスペースにテントを張り始めた。
「そういえば、クラス認定はちゃんとできたのか、リュウ」
「おう、ばっちりだぜ」
「どんなクラスになったんだ。やっぱりお前なら弓兵とかか」
「そんなパッとしないクラス名は好きじゃねえな。……そろそろクラスが表示されてるかもしれねえから見てみるか」
俺はテントを張る作業を一旦止めて、メニューを開いて自身のステータスを確認した。
すると俺の名前の下には既にクラス名が表示されていた。
NAME リュウ
CLASS 『魔王討伐者 ドラゴンロード』
俺はそっとメニューを閉じた。
「どうかしたか」
「あぁ、うん、ええと、ああ」
なんだこの名前は。
とてつもなく中二くせえ。
パッとしないクラス名は好きじゃねえとか言ってた数秒前の俺をぶん殴ってやりてえ。
魔王討伐者って。ドラゴンロードって。
「何1人だけサボってんのよリュウ」
シーナが声をかけてきた。
俺がテントを張る作業を中断してたのを非難しているようだ。
「まあ、ちょっとな」
「?」
「作業に戻るから話は後でな、ヒョウ」
「ああ、わかった」
そして俺は地面に杭を打ち込んだ。
……そういえば、俺がクラスを取得したということはコイツらもクラスを取得したと見ていいんだよな。
ちょっと聞いてみるか。
「なあバル、シーナ、てめえらのステータス欄にクラス名って表示されてるか?」
「クラス名? リュウはそれを見ておったのか?」
「ああ、まあな」
「どんなクラス名になったんじゃ?」
「いや……それは……とにかくてめえらも自分のクラス名を確認してみてくれよ」
「ふむ? わかっぞい」
「なんかよくわかんないけどステータス画面を見ればいいのね?」
そうしてバルとシーナはメニューを開ける動作をして指先を動かし始めた。
……そしてステータス画面に新しく表示されたクラス名を見たのか、2人とも動きを止めた。
バルは兜を被っているからどんな顔をしているかわからないが、シーナと同じように口元をヒクヒクさせて非常に苦い顔をしているのだろうか。
いやでもバルは中二病だしな。俺のクラス名とかも聞けばカッコイイと思っちまうのかもしれない。
とりあえず最初はシーナに話を振ってみる。
「シーナ……てめえのクラス名はどんなのだった?」
「…………」
「? シーナ?」
「…………り屋」
「ん?」
「当たり屋!!! なんなのよこのクラス名は!?!?!?」
ある意味俺より酷いクラス名だった。
「ふざけんな!!! 責任者は何考えてんのよ!!!!!」
そしてシーナは夜空に向かってゲーム製作者に罵詈雑言を吼え続けた。
つうか当たり屋って。
あれか、あのブラックスパイダー戦の事を言っているのか。
夢の中で出てきた女、あの時のシーナの行動をバッチリ見てやがったな。
「なんなのよ!!! なんで私が当たり屋なのよおおおおお!!!!!」
気持ちはわからんでもないがそろそろ落ち着いてくれシーナ。
周りのプレイヤーがチラチラこっちを見ているぞ。
そしてバルは未だに微動だにしねえし。
「バル」
「…………」
「おい、バル」
「……は! な、なんじゃ? わしに何か用かのう?」
「いや用っていうかよ……てめえはクラス名何になったんだ?」
「え……? く、クラス名……? そんなものを知ってどどうするんじゃ?」
「いやどうもしねえけどよ……」
バルはバルで反応がかなりおかしい。
コイツも相当アレなクラス名をつけられたのか?
「言いたくねえなら無理には聞かねえが」
「! いや、別に聞かれても恥ずかしいことなどわしには無いぞい!!」
「そうか?」
「う、うむ! わしに二言は、無いぞい!!」
今一瞬言うの躊躇わなかったか?
無いの部分で一瞬躊躇わなかったか?
「……じゃあどんなクラス名になったんだ?」
「うむ、わしのクラス名は……『鉄壁』じゃ!」
バルは俺に向けて高らかに声を上げた。
「つかそれってプレイヤー間で広がってるてめえの二つ名じゃねえか。俺はクラス名の話をしてたんだぜ?」
「い、いや。クラス名も『鉄壁』だったのじゃ。いやあスキルも『鉄壁』持ちじゃしこれで鉄壁コンプリートじゃな!」
「……ふうん。そうか」
それにしてはヤケにキョドってるのは気のせいか?
まあ本人がそう言ってるならそれでいいか。
俺はバルから視線を外して何気なく左上を見た。
そこには俺の名前とHPゲージ、それに『魔王討伐者 ドラゴンロード』という文字が新しく加えられていた。
「…………」
俺はその視線を僅かに下にずらした。
NAME バルムント HP 100
CLASS『絶壁』 MP 0
「バル」
「なんじゃ?」
「左上見てみ」
「? …………!!!!!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……違うんじゃよ」
「違わねえよ絶壁」
俺は否定する絶壁に事実を突きつけた。
「わしは鉄壁! 鉄壁なんじゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
バルが突然大声を出して俺の突きつけた現実を握りつぶしにかかった。
だが俺はそんなバルに非情の言葉を投げつける。
「現実を受け入れろ。これがてめえのクラス名だ。『絶壁』」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
バルはその場に泣き崩れた。
コイツ兜ある状態だと表現豊かだよな。
兜なかったらどんな反応だったんだろうか。
「なんなんじゃ『絶壁』って! 『絶壁』ってなんのことを言っとるんじゃあああああああああああああああああああああ!!!!!」
「何が絶壁ってそりゃあアレだろ。てめえのム――」
「黙れ! それ以上言ったらわしが許さんぞ! 許さんぞおおおおおおおおおお!!!!!」
「……わかったよ」
「わしは鉄壁! 鉄壁じゃ! わしのクラスは鉄壁なんじゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
バルはそうして夜空に吼えた。
その隣ではシーナが未だに吼え続けていた。
俺は1人、テントを張る作業に戻った。