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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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移動

「ヒョウさ~~~~~ん!」


 隠し通路から俺らが出ると、すぐ近くにヒョウとみぞれがいた。

 そしてその2人を見た途端にクリスは声を上げて走っていった。


「クリス! 無じっ……っ!?!?!?」


 クリスはヒョウに向かって走っていき、そのままヒョウに抱きついていた。


「ヒョウさんとみぞれちゃんも無事そうでよかったです~」


「くくくクリスす、うう嬉しいのはわわかったらととりあえずはは離れて」


 ……抱きつかれたヒョウの顔が一瞬で真っ赤に染まって何か言っている。

 カミカミすぎて聞きづれーよ。


「兄さーーーん」


「ぐぅっ!?」


 そしてみぞれも何故かヒョウとクリスに飛びついた。

 その衝撃でヒョウが今にも倒れそうになっている。


「おい、そろそろヒョウがやばいぞ」


 俺は足がプルプル震えているヒョウを見ながらクリス達に忠告を入れた。


「あ~、ごめんなさいヒョウさん~」


「い、いや、離れてくれたならいいんだ」


 2人から離されたヒョウの声は上ずっていた。


 つかてめえ女に免疫なさ過ぎだろ。妹はともかくとして。

 クール系を装ってたのかと思ったが、やっぱりなんちゃってキザ野郎だったか。


「ねえねえ、もしかしてあの2人付き合ってるのかしらね?」


 そしてシーナはヒョウとクリスを見てニヤニヤしながら俺に話しかけてきた。


 てめえはあれか。もしかして恋バナとか好きなタチか。


「みぞれちゃんもギュ~~~~~」


「あ……」


 みぞれもクリスの抱きつき攻撃にあい、眼鏡がずれてほんのりと顔を染めている。

 あれはただ単に恥ずかしがってるだけだな。どこかのムッツリとは違って。


「……それで、クリスはあいつらに助けてもらったと考えて間違いはないか?」


 ムッツリが声の調子を整えてクリスに話しかけていた。


「あ、はい~。リュウさんというのですが、この方がワタシを牢屋から出していただきました~」


「……なるほどな」


 クリスは俺の方にヒョウを連れてきて、そんな言葉をヒョウに放った。

 するとヒョウは若干複雑そうな顔をしたが、その後俺に頭を下げてきた。


「パーティーメンバーを牢屋から助け出してくれてありがとう」


「頭を下げる必要なんかねーよ。そいつを助けたのはただのついでだ」


「そうか」


 そしてヒョウは頭を上げると俺を見据えてきた。


「クリスを人質にされていたとはいえ、リュウとしては昨日まで敵対していたオレとみぞれに良い印象を持っていないだろうと思う。だが折り入って頼みがある。オレ達と一緒に3番目の街にいる魔王を倒してくれないか」


 ヒョウは真剣な眼差しで俺に魔王を共に倒してくれと言ってきた。

 まあ言われなくても倒すつもりだったがよ。


「昨日の敵は今日の友ってか。俺に昨日までの事は水に流せと?」


「ああ。勝手な言い分で申し訳ないが、昨日までの行動はオレ達の本心ではない」


「たしかに勝手だな。さっきまで魔王の手先として動いてた奴と共闘しろってか」


「……無理か?」


「いんや、無理じゃないぜ。俺らとしてもてめえらが一緒に戦ってくれるんなら願ったり叶ったりだ」


「そ、そうか」


 今まで真剣だったヒョウの顔が若干微笑みを浮かべ、目元がやや涙ぐんできた。


 クール系きどってんのかと思ったがこんな顔もできんのな。

 本性はムッツリだが。


「よかった……これでもう街の人間が犠牲にならずに済む……」


「あ? 犠牲?」


「……ああ、これは街の人間に聞いた話なんだが……魔王は街の住民に生贄を要求しているそうだ」


「い、生贄だと……?」


 さらっと今コイツ危なっかしい事を口走りやがった。


「ああ、生贄だ。魔王は毎夜0時に10人の生贄を欲しているらしい」


「……もし生贄になったらどうなるんだ?」


「……わからない」


 …………。


 確か3番目の街の魔王ってヴァンパイアなんだよな。

 そこから普通に推測すると、生贄にされた人間がどうなったのかは大体想像がつく。多分血を吸われて死んでいるだろう。


 そしてそう考えると、魔王は自分のために街の住民を生かし、かつ外に逃がさないようにしているわけか。


 それを聞くと一日でも早く魔王を倒さなくちゃいけねえじゃねえか。


「一応聞くが、てめえら自身は街の人間に危害を加えたりはしてねえだろうな?」


「当たり前だ。オレ達が魔王に従ったのは捕らえられたクリスの安全を保障するためというのも大きな理由だが、魔王側で便宜を図り、これ以上無為に命を落とす者を増やさないようにするためでもあった。そしてオレ達は魔王の命令で門番の真似事をして外から来る人間を追い返したりはしたが、それ以外でしたことなんて精々昨日の夜にお前を捕まえたことくらいだ」


 ヒョウは俺に向かって真剣な目つきでそう言った。


 つまりコイツらは直接街に危害を加えるようなことはしていなかったということか。

 むしろ外からの人間を追い返していたというのは魔王の指示ではあるものの、ヒョウ達すら突破できないような人間が街の中に入ったところで魔王の餌食になるだけだろうから結果的には被害者を増やさないことになってさえいる。


 そしてどうしてこんな命令を魔王がしたのかもある程度は推測できる。


 多分魔王は街に住む何千、何万という数の人間を支配するので十分満足しているんだろう。

 今後生贄となる人間をそれ以上外から招いたところで意味は無い。むしろ数が多すぎると管理が難しくなる。

 それなら不穏分子となりうる外からの来訪者はそもそも街に入れさせないよう取り計らって、磐石の地位を確立しようとしたと考えられる。


 魔王はそんな事を考えて、街の門番にヒョウ達を起用したというところか。

 門番役を遂行できるほどの力があり、尚且つ弱みを握れる奴をここで使わない選択肢は無いからな。


 こう考えるとヒョウが今言った事もあながち間違ってはいない。ならとりあえずはコイツらを信じてみるか。


「よし、わかった。なるべく早く魔王はぶっ倒すぞ。だがそれとは別にして、てめえらに関する昨日までの事を俺は水に流しはしない。てめえらには償いをしてもらおう」


「……何をさせる気だ?」


 俺の言葉にヒョウは僅かに表情を硬くした。


「はっ、決まってんだろ」


 そんな俺はニヒルな笑みを意識して浮かばせて言い放った。


「ここから町まで護衛してくれ」


「…………」


 無言なところ悪いがワリと切実な問題なんだよ。






「『マジックシェアリング』」


「『アイスストーム』」


 今、索敵役のシーナ以外の俺ら5人はヒョウを先頭にして町へと移動していた。

 ヒョウが先頭なのは勿論迫り来るモンスターの露払いを頼んだからだ。


「……なんでオレだけしか攻撃役がいないんだ」


「うっせ。こっちにはこっちの事情があんだよ」


 今現在戦力にならない俺と、ついでによくわからないキルはこうしてヒョウ達に守られるような形で同行している。


 あんまりこういう状況は好きじゃねえんだけどな。まあ仕方ない。

 バルと合流できたら弓のない俺でもそこそこ役に立つところを見せてやる。


「……オレは一応お前の力を見込んで魔王討伐の協力をお願いしたつもりだったんだが」


「それ以上グチグチ言うなお願いしますたのんます」


 役立たずな現状はかつてのユウ達の言葉を思い出して俺の心に重くのしかかるから止めてくれ。


「シーナとかいうお前のパーティーメンバーは今もオレ達にかなり貢献しているぞ」


「う……」


 そうだ。

 結局シーナは俺らとは若干離れたところでモンスターを引き離す役目をこなしている。


 さっきまでヒョウが倒してきたモンスターの数も1時間で2匹程度。

 つまり俺らはシーナのおかげで大分楽な道中を歩いていることになる。


「弓さえあればなんとかなるんだがなー……」


「弓? そういえば確かお前は弓使いだったな」


「ああ、だが今はちょっとその弓の方がなくてな」


 昨日のこいつとの戦いの後あの弓はどうなったんだろうな。


 ……て。


「なあ、昨日の夜戦った時に弓を落としちまったんだが、てめえはその弓知らねーか?」


「弓を落とした?」


 そういえばその事をまだコイツらに聞いてなかった。

 コイツらなら俺の弓の所在を知っているかもしれない。


「その弓がないと俺はあんま役にたたねーんだ。どこにあるか知らねーか?」


「オレは知らないな。あの時はお前の攻撃で気絶していたからな。みぞれ、お前は何か知っているか」


「これの事?」


 ヒョウがみぞれに話を振ると、みぞれはアイテムボックスから必中の弓を取り出した。



 …………。



 オイ。



「……てめえ、なんでその弓持ってたのに今まで俺に返しやがらなかったんだ?」


「聞かれなかったから」


 みぞれはボーっとした顔で明瞭かつ明快な回答を俺にしてきた。

 なるほどわかりやすい。このうえなく完璧な回答だ。


 そしてこのうえなく完璧な泥棒だ。


「おい、何も言われなければ人の物をそのまま持ち続けてもいいわけじゃねーぞ」


「そう」


「そうだ」


「…………」


「…………」


「…………」


「……それだけかよ!?」


「え?」


 え? じゃねーよ!

 何ポカンとした顔してんだよ!


「てめえ人のモンをパクりかけといてそれだけなのかよ……普通謝るとかしねーの?」


「ごめんなさい」


「……なんか謝れって言われたから謝ったって感じで納得しずらいんだが、まあいいか。許してやるよ」


「そう」


「おう」


「…………」


「…………」


「…………」


 ……うん。

 あんまコイツとは会話が続かないな。


 なんなんだコイツは。これが素なのか? それとも俺の事が嫌いなのか?


「みぞれはいつもそんな具合だ。別にお前と話すのが嫌だから喋らないわけではない」


 ヒョウがみぞれのフォローを俺に対してしてきた。

 ……まあそうならいいんだけどよ。


 とりあえず俺はみぞれから弓を受け取った。


 『必中の弓 武器スキル(絶対命中、ロックオン) 耐久度6925』


 確かにこれは俺の弓で間違いないようだ。

 耐久度も俺が最後に確認した数値に大分近い。


「とりあえずこれでやっと俺も戦える。おいシーナ! ちょっと来い!」


 俺はシーナに俺も戦力として数えられるようになったということを伝えるためにシーナを呼んだ。


「何よ? 私これでも忙しいんだけど?」


「まあそう言うな。これを見ろよ」


 俺はシーナに弓を見せた。


「あ、弓返ってきたんだ。それじゃああんたも戦えるの?」


「おう、だからてめえもある程度手ぇ抜いていいぞ」


「ふーん、わかった。了解よ」


 シーナは俺の言葉に了承して、再び俺らと距離のあるところで先行してモンスターを誘導する作業に戻った。


「……ここからは戦力として数えてもいいんだな?」


「おう、問題ないぜ。つっても俺が相手できるのは一度に1匹までだけどな」


「わかった」


 ヒョウも俺を戦力として扱うことを確認してきたからオーケーする。


「次モンスターが来たら俺に任せろ」


「ああ。……と言っている間に1匹きたぞ」


 俺らが話し合っていると遠くから青色のオオカミが俺らの方に駆けてきた。


「ブルーウルフか。あいつは素早いぞ」


「敵がどんなだろうと関係ねーな。……シッ!」


 俺は早速弓で矢をオオカミに向けて放った。

 そしてその矢はオオカミの脳天を貫いてそのまま絶命させた。


「一撃か」


「まあSTR全振りだからな」


 俺は弓を放った後の動作である残心の真似事をした後そう答えた。


「STR全振りか」


 俺の発言にヒョウは特に驚く風でもなく、ただ事実を確認したかのようにそう言った。


 コイツは一度俺の弓を受けてるからな。

 なんとなく想像はついていたんだろう。


「ちなみに矢が当たったのは弓のおかげ」


「おいみぞれ、てめえ一言多いぞ」


 弓のおかげってのは否定しねえけどよ。


「必中の弓なんておかしすぎる」


「何? 必中?」


 なおも言葉を続けるみぞれにヒョウも反応を示した。


「ああ、こいつは必中の弓っつってな、『絶対命中』っていう命中率を100パーにしてくれるスキルと敵を自動でホーミングしてくれる『ロックオン』ってスキルが備わってんだよ。とあるボスモンスターを倒したときに手に入ったんだ」


「ボスモンスター? そいつがその弓を使っていたとかか?」


「うんにゃ。ドロップアイテムっぽい」


「ドロップ……?」


 俺の説明を聞いていくうちにヒョウはどんどん眉にしわを寄せていった。


「リュウ。それは何かの勘違いじゃないか? フリーダムオンラインにドロップアイテムなんてものはないぞ?」


「……あー、やっぱてめえもそう思うか」


 確かにこの世界のモンスターを倒した時にドロップアイテムがあるなんて話は俺もこの弓以外に聞いたことが無い。

 ドロップアイテムと言えるような素材は全て手作業でモンスターの死骸を漁る事で手に入る。これは俺も最初の数日で理解していたことだ。


 だが実際にはこの弓が俺のアイテムボックスの中に紛れ込んでいた。

 このことに理由を付けるとしたらドロップアイテムという概念がないと説明がつかない。

 弓を手に入れた時にバルと話し合った結果、そういう結論に落ち着いていた。


「それに『絶対命中』だと? ありえないだろ。そんな武器スキルがあるだなんてオレは初めて聞いた。3番目の街で売られている命中率の補正がつく装備も精々30パーセントだぞ」


「……そうなのか?」


「そうだ」


 ……ここまできても30パーセントしか補正がつかない装備しか無いのか。

 そうすると益々この必中の弓が異常な性能を持っているってことになるじゃねえか。


「この先の街にもしかしたら必中というような装備があるのかもしれないが、今の時点だとその弓の性能は明らかにおかしいぞ」


「うーん、でもなあ。こうして手に入っちまったモンは手に入っちまったわけなんだし。俺にはなんとも言えねーよ」


「……そうか。わかった。確かに実際ここにあるわけだしな」


 結局はその結論に行き着く。

 これはドロップアイテムでボスモンスターを倒したことによるレアドロップだったんだと。


 ブラックスパイダーの時は経験値と金しか手に入らなかったし、多分相当なレアだったんだろう。

 それにあいつらは夢の中で会ったあの女曰く、中盤以降から出てくるはずだった魔王だ。

 性能がある程度ぶっ壊れててもそれは別に不自然じゃない。


 ……あるいはあの夢の中に出てきた女が俺にこの弓を託したとかか?

 いや、ねえな。アイツがやったんなら夢の中でその話題が出ててもおかしくないはずだ。アイツはこの弓を俺に渡したのならちゃんと言うタイプの人間だろう。弓だけ黙って寄越すなら、クラスについてで俺と夢の中で会うなんてこともしなかっただろうしな。


 とりあえずもうこの話は終わりにしよう。

 この弓はやっぱりドロップアイテムとして考えるしかない。他に理由なんて思いつかないんだから。


「この話はもう終わりにしようぜ。次はてめえらの番だ。てめえらは才能値どんな感じに振ったんだ?」


 俺は話題を切り替えるべくヒョウにそんな質問をしてみた。


「ああ、オレはINT全振りでみぞれはMP全振りだ。案外オレ達は似たもの同士だな」


 ヒョウが薄く笑って俺にそう言ってきた。


 INT全振りにMP全振りか。

 それってどっちも1人じゃ何もできないってことだよな。


「てめえらよくそんな振り方でゲーム始めようと思ったな」


「まあ、兄弟で抽選に当たったからできた振り方だな」


 確かに、これは身近の人間が同時に始めるという条件があって始めてできる振り方だ。


「オレも初めは無難なビルドにしようと思っていたんだが」


 そう言うとヒョウはみぞれの方を向いた。


「ホームページの魔法紹介で『マジックシェアリング』っていうものがあったから、つい」


 みぞれがヒョウの続きを引き継ぐようにして俺に説明した。


「なるほどな。てめえらもなかなかピーキーな遊び方しようとしてんな」


「STR全振りに言われることではないな」


「うっせ。もうそういうのは耳にタコができるくらい聞いてんだよ」


 まあともあれコイツらのスタイルってのも悪くねえと思っちまうわな。

 MPをみぞれが負担してヒョウが攻撃する。


 そしてクリスが回復を……。


「なあ、そうするとてめえらってクリスとは元の世界からの知り合いだったのか?」


「……いや、この世界に閉じ込められてからだ」


「……は?」


 いやいやいやいや。

 意味わかんねえし。


 つまりはあれか。

 クリスはまさか……。


 俺はキルと話すクリスに目を向けた。


「……クリスはMPに才能値を振り忘れただけだ」


「うわあ……」


 とんでもなく残念な女だった。


 俺がクリスを見ていると、その視線に気づいてクリスが俺の方を見てきた。


「ワタシがどうかしましたか~?」


「よかったなクリス。まともに才能を生かせる仲間と出会えて」


「あ、はい~。ヒョウさんとみぞれちゃんには始まりの街で拾っていただけて本当によかったです~」


 クリスがのほほんとそう言うのを見て俺はコイツが本物である事を悟ったのだった。

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