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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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問題

 俺は弓がなくても一応戦える。

 だがそれは一応であって色々問題も多い。


 問題点その1

 俺の攻撃回数が減る。


 俺の攻撃手段は大きく分けて2つ。

 1つ目は必中の弓による超遠距離射撃。

 そして2つ目は石袋による近・中距離投擲だ。


 1つ目は、店売りの矢を必中の弓で引けばいいだけだから矢を大量に買い込むだけで済む。

 アイテムボックスにもまだ矢のストックは1000本以上ある。

 つまり俺は弓を使えば1000回以上は攻撃することができる。


 それに対して2つ目は、石袋をわざわざ一つ一つ手作りしなければならない。

 この作業がワリとめんどくさい。

 一応暇な時に作業して300個ほどストックは作っているが、それ以上は作る気になれない。



 問題点その2

 石袋は命中率にムラがある。


 この世界では、俺のようにDEXが低い奴の攻撃はそのDEXの低さに比例するかのように命中率が下がり、攻撃がすり抜けるという現象が起こる。


 必中の弓はその名の通り必中だ。

 この場合での必中とは当たれば必ず命中するという意味だ。厳密には武器スキル『絶対命中』のおかげで命中しているようだが。


 そして石袋はその内包する石の量で決まる。

 今までの経験上での話だが、どうも命中率というのは0パーセントにはならず、必ず何パーセントかは当たるようにできているように感じる。

 だからどれだけDEXが低くても攻撃の数をこなせば当たることもあるということになる。

 それを利用して俺は数を当てることをこの石袋1回分に凝縮するという裏技的な手段を構築したわけだが、それでも必中ではない。

 そしてブラックゴーレム戦で気づいたことだが、当てる敵が強ければ強いほど命中率も下がっていく。

 旅の途中で少し実験をした結果、2番目の街から3番目の街の間で出てくるモンスターには300個は石を内包しないと石袋が当たる確立が十分にはならなかった。

 勿論内包させる石の数が増えるとその分作る作業も大変になる。かなりめんどくさい。


 問題点その3

 石袋を使うと俺と敵との距離を広げられない。


 俺はもはや言うまでもなく紙装甲だ。

 1発攻撃を貰えば死ぬという常に背水の陣で戦いをしている。

 だから俺は絶対に攻撃を受けてはならない。

 そして攻撃を受けないにはどうすればいいか。その方法のひとつとして有効なのが、敵との距離を十分に保つということだ。


 必中の弓の場合はどれだけ敵が遠くにいようがスキル効果でおかまいなしに攻撃することができる。

 弓の攻撃は飛距離が長くなるたびに矢の威力が落ちていくという話を以前アンから聞いたことがあるのだが、それも俺にはあまり関係なく一撃でさくさく狩りができる。


 そして石袋の場合はどうしても敵に近づかなければならない。

 遠距離からでも投げようと思えば投げられるが、その分的に当てるという意味での命中率も下がる。

 故にある程度敵の近くで投げる必要があるのだが、そうすると敵がこちらに襲い掛かってくる可能性が増す。

 一応『神隠し』があるとはいえ、それで余裕ぶっこいて近づいたらモンスターに襲われましたじゃ話にならない。『神隠し』も完璧では無い。



 問題点その4

 これがある意味1番の問題なのだが、石袋は動く標的に当てるのがかなり難しい。


 必中の弓の場合、たとえ標的が動いていたとしてもスキル『ロックオン』が働いているため、矢の動きに補正がかかって当たる軌道に修正される。

 まあクールタイムの10秒を待たなければ武器に宿ったスキルは発動しないという弱点があり、標的との間に障害物がないことという条件もあるが、それらの問題をクリアしていれば矢を放てばスキルのおかげで必ず当たるという優れものだ。

 ちなみに武器スキルのクールタイム10秒は基本絶対に待たないといけない。なぜなら数十メートル先にいる動く敵に当てられるような技術力を俺は持っていないからだ。

 また、そんな弓使いを補佐する『精密射撃』等のスキルがSTR全振りの俺には習得不可能でスルーし続けていたという理由もあり、結局俺は10秒待つスタイルを維持している。

 更に補足だが、本来弓はDEXに高く振って器用補正がついているプレイヤーがスキルを用いながら使うものであり、援護射撃をして敵を牽制したり逃げていく手負いの敵を仕留めるのが弓使いの基本的な役割なのだとか。俺のような物理アタッカーが敵をガシガシ屠っていくというような弓使いの割合は少ない。というか俺は見たことがない。


 そして問題点その3でも軽く言及したように、石袋は俺の投球技術によって命中するかどうかが決まる。

 適当に投げてもホーミングしてくれない。

 この世界の生き物は大抵動きが早い。少なくとも俺と比べれば徒競走で負けるモンスターはほとんどいないと言えるだろう。

 また、俺はかつてプロ野球界に旋風を巻き起こした伝説のピッチャーとかではなく、運動神経が結構良いっていう程度のただの高校生だ。

 そんな俺がすばしっこく動き続けるモンスターに石袋を自力で当てるのは至難の技だ。

 それをバルは理解していたから、始まりの街ではそんな石袋を投げようとしている俺をカバーするように敵の動きを止めて、その場に釘付けにしてくれていた。だからこそ俺はモンスターに近づけたしバルに間違えて当ててしまうなんて事もなかった。


 だが今はバルがいない。


 そうなると頼れるのは……






「クリス、キル、てめえらが頼りだ」


「ねえ今私の事見なかった? ねえ! 今私の事一瞬見なかった!?」


 隣でシーナが怒っていた。


 ちなみに俺らは現在森へと続く階段前通路で足踏みをしていた。

 理由は勿論、森のモンスターをどう対処するか話し合うためだ。


「なんで今あの2人にだけ頼りにしてるって言ったの!? 今何考えてたか言ってみなさいよオラアアア!!!!!」


「い、いや別にシーナが頼りないってわけじゃねーんだよ?」


「なんで目逸らしてんの?!」


 いや、だって、なあ。

 

 バルだったら体張ってモンスターの動きを止められるから俺も石袋を当てやすいんだが、シーナの場合はモンスターの攻撃を回避するために動きを止める事ができないんだよなぁ。

 特に4本足で突進とかしてくるモンスターはその場に足を止める機会も少ないから攻撃パターンが事前にわかっていないと対処しづらい。


 前に俺とシーナがバルより先に出会っていたらなかなか上手くいったかもしれないと思ったことがあったが、あれはまだ敵の動きが俺でも十分対処できる領域だったことと必中の弓を持っていることが前提での話だった。

 現状、更に機敏に動くモンスター相手に俺が石袋を自力で当てるのは相当厳しい。


 つまり今の弓無しバル縛りな状態は俺にとってかなり辛いということになる。


「とりあえずクリスとキルの戦闘ポジションを聞かせてくれるか」


「無視すんなああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 隣でシーナが怒鳴っているがここはスルーだ。

 クリスかキルの内どちらかがタンクをやれれば2枚盾でてめえも輝けるから大人しくしてろよ。


「え~と……非常に言いにくいのですが~、今のワタシは何もお役にも立てません~……」


 クリスが困ったという風に眉を八の字にしながらそう言ってきた。



「んあ? なんでだよ?」


「普段ワタシはヒーラーを勤めているのですが~……魔法を使うためのMPが今はありません~……」


「……は?」


 MPがない?

 さっきまでこいつは魔法を使ってた様子もなかったし、牢屋にいたときは使えるような状況でもなかった。

 というかここまで来るのに既に2時間は経過している。だったら少しくらいMPって回復するもんじゃないのか?


「MPがないってどういうことだ?」


 ここは本人に聞いてみたほうが早いと思い、俺はクリスに尋ねてみた。


「はい~。ワタシは才能値をMNDにしか振っていないのでMPが0なんですよ~」


「…………ハァ!?」


 さっきまでよりも強く俺は声を出して驚いていた。


 MNDにしか才能値を振っていない?

 MNDはたしか回復魔法とかを使うのに重要になる数値のはず。

 だからこいつがヒーラーであることは間違いないんだろう。


 だが肝心の回復魔法をMPがゼロだから使えない?

 しかもMPに才能値を振らなかっただと?


「……それじゃあてめえは1人じゃなにもできなくねーか?」


「はい~、その通りですよ~」


 ……マジか。


 ある意味STR全振りである俺以上の逸材がここにいた。


「つーかよくそれで3番目の街まで来れたな……」


「あ~それはヒョウさんとみぞれちゃんのおかげです~」


「あ? あいつらそんなに強いってことなのか?」


 今までこいつは3人パーティーで戦ってきていたと思っていたが、戦闘は実質2人任せだったってことか?

 それはそれでなんだか嫌だな。


「確かにヒョウさんの攻撃魔法は強いですが、私も何もしていなかったってわけではないんですよ~」


「どういうことだ?」


「みぞれちゃんの魔法には『マジックシェアリング』というものがありまして~、その魔法を唱えるとパーティー全員のMPを全員で使えるようになるんですよ~」


「……ああ! そういうことだったのか!」


 俺らとヒョウ達が対峙した時、みぞれは毎回確かに最初『マジックシェアリング』と唱えていた。

 あれは何の魔法かわからなかったが、MP共有とかそういう魔法だったということか。


 そして


「つまりてめえもみぞれがいれば魔法が使えるってことだな?」


「そういうことです~」


 なるほどな。


 それならこいつはお荷物じゃなくパーティーの戦力として活躍してたってわけか。

 なんでか知らんが少しだけホッとした。


 だが……


「今は戦力として考えないほうが良いってことか……」


「はい~……」


 今のコイツは魔力がない魔法特化。

 へたすりゃこの世界の住人にも負ける。

 タンクなんてもってのほかだ。


「あぁ、あたしも戦う事に関して期待しないほうが良いぜぇ」


 俺とクリスの話が一区切りついたのを見計らってかキルが俺に向けて声をかけてきた。


「なんだよ、てめえもまさかMND全振りとか言わねーだろうな?」


「いんやぁ、流石にMND全振りじゃぁねぇよお?」


 キルは顔をニヤつかせながらそう言ってきた。


「確かに戦おうと思えば戦えるんだけどよぁ、あたしの戦闘はちょっと人様に自慢できるようなモンじゃねぇのさぁ」


「あ? なんだそりゃ? 理由言え理由」


「ギャハハ! まぁいずれわかんだろうよぉ」


 キルは話は終わりだといわんばかりに笑い続けた。


「……おいおい勘弁してくれよ。このままじゃ森のモンスターに遭遇したら俺らアウトじゃねーか」


「うぅ……私がいるわよぅ……無視しないでよぅ……」


 ……シーナが通路の片隅で座り込んでいじけていた。


「私がモンスターを全部あんたたちから引き離すよう誘導すればそれでいい話じゃないのよぅ……」


「ああ、その手があったか」


 俺はシーナ囮作戦をすっかり見落としていた。

 町までのモンスターと無理に戦わなくてもいいわけか。


 これはちょっとした盲点だった。


「だがそれって結構シーナがしんどくないか? 町まで半日近くは歩かないとなんだぞ?」


「うぅ……やればできるわよ!」


「根性論かよ」


 やっぱシーナ1人に任せていいものか迷うな。

 3番目の街でも走って相当体力使ってるだろうし、半日もモンスターを引き寄せ続けるのは難しいかもしれない。


 それにシーナの囮も絶対じゃない。

 必ず何匹かはシーナを無視して俺らの方に向かってくる。

 その時俺はキチンと迫り来るモンスターを一発で処理することができるだろうか?


 ダメだ、危険すぎる。

 俺が上手く処理できなければ俺だけじゃなくクリスやキルも危険に晒される。


「何か別の方法はないか?」


「ないかって言われても何もないわよ」


「う~ん、ワタシも思い浮かびませんね~」


「あたしもだぁ。どうするぅ? 一旦この通路を引き返すかぁ?」


 一旦引き返す、か。

 確かにこのまま手をこまねいているよりは街に引き返したほうが何か方法を模索しやすいか?


 ……いや、まずいだろ。

 一見して人が住んでいるから安全そうに見える街だが、今は魔王が支配している街だ。

 街の中、どんなタイミングで襲われるかわかったもんじゃない。



 またヒョウ達みたいな奴に出くわすとも限らな……



「なあクリス。今ヒョウとみぞれがどこにいるかわかるか?」


「え? はい~、わかりますよ~」


「どこにいるんだ?」


「ええっと~、ちょっと待ってくださいね~」


 クリスはそう言うと、メニューを開く動作をして指を動かし始めた。


「あら~? どうやらワタシ達とほぼ同じ位置にいるみたいですね~」


「……つーことは真上か……」


 俺らは通路奥の階段を登って光が漏れている板を取っ払って外へと出た。

 どうやら一際大きな大樹の根元付近が出口だったようだ。


 そして俺らは周囲を見回して、ヒョウとみぞれの姿を発見した。

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