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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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チート

 俺は女が今言った言葉を聞いて呆けたように口を開いた。


「……は?」


 この世界を救ってほしい?


 つまりあれか? この世界に潜む魔王を倒して世界をお救いください勇者様!ってやつか?


 どこのゲームの話だよ。




「……このゲームの話だったか……」


『君なんで1人で落ち込んでるの?』


「うっせ、なんでもねえよ。それよか話の続きだ。なんだよその『この世界を救ってほしい』ってお願いは」


『そのまんまの意味だよ。君にはこの世界にいる魔王達を倒してほしいんだ。これ以上この世界をあいつの好きなようにさせたくないからね』


「……あいつ?」


『……君がこの世界にやってきた初日に見たっていう影のことさ』


「アイツかッ?!」


 やっぱコイツはあの影と繋がりがあるんじゃねえか!


『おっと、そんな怖い顔しないでくれ。確かに私はあの影の男と知り合いだが今は袂を分かっている』


「そ、そうなのか?」


『うん、そうさ。それに私は君達プレイヤーを拉致紛いな真似をしてこの世界に呼び寄せる気なんてなかった』


「……本当にか?」


『まあいきなり現れて私の言うことを全部信じてくれなんて言えないけれどね』


 コイツはコイツなりに俺が話半分で聞く可能性も考えてるのか。


「とりあえず聞くだけ聞いてやるよ。ひとまずてめえはその影とは仲間ってわけじゃねえんだな?」


『うん、そうだ。私はアイツの強引なやり方にうんざりしているんだ。私自らが丹精込めて作った教会も勝手に全部壊しちゃうし、ほんと頭きちゃうよ』


「教会……か」


『うん。そのせいでゲーム中盤以降ででてくるはずだった教会の陰謀クエストが灰になるし、その陰謀クエスト用に配置した魔王へと続く何重にもロックされた扉も吹っ飛んじゃうし、まったく散々な結果だよ』


「……待て。陰謀クエスト用の……魔王だと?」


『うんそうだよ。君も既に2体倒してるよね。あれは元々ゲームでは中盤以降に出てくるはずだった魔王だよ』


「やっぱアレの事か……」


 なるほどな。

 どおりで強すぎると思った。


「とは言っても、始まりの魔王は動きが遅いし2番目の魔王は紙耐久で比較的弱い部類の魔王なんだけどね」


「……それでも十分強すぎだっつの」


 なんとなく予想していたが、あのブラックゴーレムとブラックスパイダーは中盤以降に出現する魔王だったのか。


『なんにせよ、あれらの出現は予想外だった。その結果多くの犠牲者が出た。これは私も我慢できない。故にその魔王を2体倒した君に是非他の特別イベントの魔王を全部倒してもらおうと思ってね』


「へえ。事情は大体飲み込めたぜ。ついでにてめえが俺の夢の中に出てきた理由もな」


 つまりコイツは俺がそのクエスト用の魔王を倒したからここに現れたってことか。

 いやまあ姿形は見えねえんだけどよ。


「俺としてもさっさと魔王を全部ぶっ倒して早いとこ元の世界に帰りてえと思ってたところだ。言われるまでもなくそうするつもりだったさ」


『そうかい? それならよかった』


「……つかそんなまどろっこしいことするよりもゲームマスターのてめえが俺をこの場で元の世界に帰してくれりゃあ万々歳なんだが?」


『そんなことが私にできるとして素直にその願いを聞くと思うのかい?』


「……思わねえな」


 こんな事をお願いしてくるくらいだ。

 この女は俺らが魔王を全部ぶっ倒すまで返す気はないだろう。


『まあそんなお願いをされても私には君を元の世界に戻す権限がないから無理なんだけれどね』


「ちっ、そうかよ」


 そもそも権限がないとか。

 てことは俺らを元の世界に返せる奴はやっぱあの黒い影しかないのか。


 ……いや、もしかしたらコイツが嘘をついているという可能性もある。話半分で聞いておこう。


 つか、俺だけここで帰れると言われても帰らねえだろうしな。

 バルやシーナを置いていくわけにはいかねえよ。


『……それに君は仲間を置いて1人だけ帰る気なんてさらさらないだろう?』


「……やっぱてめえエスパーなんじゃねえの?」


 俺の思考をズバリと当てやがった。


『違うよ。というか今までの君の行動を見ていたらなんとなく分かるよ』


「てめえエスパーじゃなくて覗き魔か! ストーカーか! 見学料取るぞ!」


 やべえよコイツ!

 俺の事ずっと監視してたのかよ!?


『ああいや違うよ安心して。私は空の上から俯瞰して世界を見れるってだけだから部屋の中とかプライベートな所は見えないよ』


「……本当か?」


『ほんとほんと』


 ……まあここで嘘をついても俺に見破る術はねえし、見るなって言っても強制力はねえしどうしようもねえが……。


『あとはスキル道場とか重要な施設の中は大まかにだけど把握できるね。だから2番目の街での君の戦い振りやらその後のあれこれやらばっちり見させてもらったよ』


「てめえやっぱ覗きが趣味なんじゃねえの?! 人に泣いてるところとか見られたくねえんだけどそういうのやめてくんない!?」


 あの時の俺はどうかしていた。


 確かにあの時は泣きに泣いたさ。今までの俺からは想像もつかねえよ。まるで別人だ。

 その後シーナが生きてるのを知ってわけのわからん行動をしたのも俺にとっては痛い過去だ。

 だからエイジの死以外の出来事は心の片隅にでも追いやりたい気持ちで一杯だっつうのに。


『話がそれたね。本題に戻すけど、君はこれからも魔王と戦い続けるってことでいいんだよね?』


「おう、その話は言われるまでもなくイエスだ。つかさっきの話の続きを俺はしてえんだが」


『そう、それなら君に入場料を払おうか』


「おい、さっきの話はあれで終わりかよ」


『まあまあ。その話はまた機会があればしよう。もう時間も迫ってきているしね』


 なんだよ時間って。

 はぐらかしやがって。


「ちっ。時間がねえのはてめえの都合だろうが」


『いやいや君の都合でもあるよ。そろそろ君は夢から覚める頃だ』


「そうかよ。まあなんでもいいや。そんで? 入場料ってのはどう払ってくれんだ?」


『うん。これは元々君が私のお願いを聞いてくれるなら与えようと思ってた事なんだけれどね。目が覚めたらクラス検定書をクラス認定所の職員に受理してもらって。そうすれば君のパーティーに特別なクラスと専用スキルを与えるよ』


「あ? なんだそりゃ。チートってやつじゃねえか」


 それってあれだろ? ゲームのデータを改ざんして正規のプレイではできねえ事をするやつだろ?

 こいつはあれか、ハッカーなのか。


 ……あ、ゲームマスターか。


『チートというかGM特権ってやつだね』


「……なんでもありなら魔王そのものを消せばいいんじゃねえの?」


『それはできないな。今の私には既にあるものを消し去ることはできないし、元々ないものを作り出すこともできない。できるのは既にあるものを横流しする程度の事だ』


「そうかよ、そりゃまた融通の利かないGMさんだことでございますねえ」


『ちなみにこの話は君以外にも何人か有力な人物に話してあったりするから君だけが特別というわけではないよ。勘違いしないでよね』


「いきなりツンデレっぽく言いだしてんじゃねえよ。ツンデレはうちの猛獣1匹だけで十分だ」


『あれ? そうかい? 君にはお気に召さなかったかあ』


「てめえ人をどんな風に見てやがったんだよ」


 俺は別にツンデレが好きとかそういう嗜好は持ってねえぞ。


『どんな風にねえ……正直君の動きはわかっても君の心理はわかんないんだよね』


「赤の他人に心理が筒抜けになってるほうがヤベえだろ。何言ってやがんだ」


『いやいやこの場合はもっと一般的な意味でね』


「一般的だぁ?」


『うん。君のヘッドギアを介して君の思考もぼんやりとだけどわかるんだよ』


「おいやめろ。俺の頭の中勝手に見るんじゃねえよ。閲覧料取るぞ」


 ヤベえよコイツマジヤベえよ。

 俺の行動も監視してやがるし俺の全てがコイツに丸裸にされちまうよ。


『いやいやいやいやそんなはっきりと何を考えてるかとか分かるわけじゃないんだよ? 精々診療所で計測する脳波パターンを見れる程度の事さ。それも専用の機器じゃないからかなり荒くね』


「……そうかよ。まあ一応信じてやるよ」


『そうしてくれると助かるよ。変な疑いを持ちつつだと円滑な人間関係は築けないからね』


「へいへい」


 円滑な人間関係を築く以前にもうそろそろコイツの話に付き合うのも嫌になってきた。

 本当はもっと聞きたいことはあるんだがコイツの言っていることがどれだけ正しいのかもわからねえし、聞けば聞くだけ疲労感が増していく気さえしてくる。


『大分疲れた顔をしてるね』


「ああ、おかげさまでな」


『それじゃあ時間は残り少ないけど、君の方から何か私に聞きたい事とかないかい? 例えば君がいる世界は本当にゲームなのかとか』


 この世界が本当にゲームなのかだって?

 ゲームマスターのてめえが言う台詞じゃねえな。


 それにその疑問はもう俺には意味が無い。


「この世界がゲームかどうかなんててめえで勝手に決めればいいんじゃねえの?」


 そうさ。

 俺は始まりの街でこの世界の人間はゲームのデータなんかじゃないと確信している。

 だったらこの世界も俺らが元いた世界と同様に1つのリアルな世界なんだろうさ。


 とは言え、他の奴らがこの世界はゲームなんだと主張しても、何かしらの悪事を働かない限りは勝手にしろって言うけどな。


 これは俺個人がそう思ったことで、無理に他の連中に押し付けるつもりはねえ。


『……すごいね君は。常人ならその領域にたどり着くまでに相当な時間を費やすというのに』


「変なところで感心してんじゃねえよ。そろそろバルとシーナが心配だ。さっさと帰らせろ」


『そう、それじゃあ最後にこれだけ聞いて今日のところは退散しようか』


「なんだよ。まだ話す事があんのか?」


『まあこれは私個人が気になったことなんだけどね』


「なんだよ。最後に聞いてやるよ」


 答えるかどうかはまた別だけどな。




『……君は龍児君で合っているよね?』




 …………。


「何言ってんだてめえ? てかなんで俺の本名知ってんだよ?」


『いや、合っているならいいんだ。それじゃあそろそろ君の目が覚めるから今日はここまでという事で』


「おいちょっと待てよてめえ! 俺の疑問に答えろよ!」


『つづきはまた今度にしよう、またね~』


「おいこらふざけんじゃねえぞ!! またね~、じゃねえよ!!! おいコラ返事しろ!!!!!」


 俺は一人白い空間で怒鳴り続けた。

 その声に答える声はどこからも聞こえず、やがて俺の意識は途絶えた。



 そして俺は目を覚ました。

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