表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
50/140

陽動

 『仮面同好会』のリーダー、アスーカルとそのメンバー6人、そして俺ら同様に街への侵入に誘われた7人パーティー5組と俺ら3人の合計45人は大した被害も無く無事に3番目の街に到着した。

 そして街が見えるところにある近くの林の中で夜がふけるのを待ち、時計の秒針が2本とも頂点を回ったところでアスーカルの立てた作戦を開始した。


 作戦といってもそこまで大したことではない。

 クラス認定所にあるクラス検定用紙を取ってくる調達チームとその間街の中で注意をひきつける陽動チームに分かれてそれぞれの仕事をこなすだけだ。

 調達チームは『仮面同好会』を含んだ7人パーティー3組、陽動チームは7人パーティー3組と俺ら3人。

 陽動チームではクラス認定所から離れた場所で、なおかつ3番目の魔王が潜んでいそうな教会跡地や元領主の屋敷といったところに近い場所で騒ぎを起こして即撤退というような作戦が立てられた。

 ちなみに侵入作戦なのに人数が多いのは、万が一戦闘になっても大丈夫なようにという配慮なのだとか。


 だがそれでも今回は魔王と戦う事が目的じゃない。

 無理に戦って被害者を出す必要はないのであくまで注意を陽動チームに向かせるだけで良い。

 この街で魔王に支配されている住民には悪いが今回は無視させてもらう。こんな夜中に騒ぎを起こして住民は寝不足にもなるだろうがそれも仕方ない。

 この件での謝罪は後日、この街の魔王を倒すことで償おう。


 俺らは早速黒色の外套で夜闇に紛れながら走り、3番目の街の外壁まで移動すると数人のプレイヤーが壁の上にかぎ縄を投げ、上手く上に登れそうな具合に引っかかったロープを使ってAGI寄りのプレイヤがすいすい登っていく。

 そして壁の上にたどり着いた連中は、持っていた梯子を垂らして下に残っていたプレイヤーが登ってくるのをサポートする。


 そうして俺らは全員無事に壁の上に到達することができた。

 ただこの壁の上にも警戒の歩哨が定期的に見回りに来ているのであまり悠長なことはしていられない。

 俺らは音をたてないように壁の内側へと降りていく。


「それじゃあここからは別行動だ。くれぐれも死ぬんじゃねえぞ」


 アスーカルはそう言って調達チームを率いて街の中央へと走っていった。


 アイツ昼間とは打って変わって真剣モードだな。

 ずっとあのままならいいんだが。


「うっし、俺らも各自、バラけるか」


「そうだな」


「健闘を祈る」


 俺ら陽動チームは3つのグループに分かれて移動を開始した。

 3グループに分けたのは騒動を起こす場所をバラけさせるためだ。


 そして俺、バル、シーナは1組のパーティーと一緒に元領主の館に向かう。

 俺らだけ10人なのは領主の館がもっとも魔王と出くわす可能性が高いからだ。

 この街を支配した魔王がその館に住み着いているという話が、昨日街から逃げてきた奴からされていたらしい。

 その辺はアスーカルが仕入れてきた情報だから俺らに真偽の程はわからないが信じるしかないだろう。


「てかモンスターも寝たりするよな?」


「前にフィールド上でチュートリアルピッグが昼寝しているのを見たことがありますよ」


 建物と建物の間からちらりと領主の館を覗きながら俺がちょっとした疑問を呟くと、俺らと一緒に行動しているパーティーの男が答えてきた。


「マジか。それじゃあここにいる魔王も今はグッスリおねんね中かもしれねえのか」


「いやあでも相手は魔王ですからねえ……案外不眠不休かもしれませんよ? それに魔王は見た者の情報からするとヴァンパイアです。もしかしたら今が魔王の活動時間なのかもしれません」


「ちっ、そうか。もし寝てたらそのままぶっ倒すって手もあったんだけどな」


「勘弁してくださいよ……」


 目の前の男は首を振って俺に絶対するなと訴えかけている。

 それはあれか押すなよ、押すなよ、っていう前フリか。


 と思ったが男の後ろにいた6人全員が同じ反応で声を上げずに俺に非難の目を浴びせてくる。


 ちっ、今回はやめておいてやるよ。


「とりあえず注意だけ引ければそれでいいか」


「そうじゃぞリュウ。あまり仲間を怖がらせるでない。今のわしらは一蓮托生なんじゃ」


「何? 私は別に今魔王に喧嘩売っても全然構わないけど?」


 バルは俺を叱り、シーナは俺の悪ノリに乗ってきた。


「これ、シーナまでそんな事を言うでない。今の戦力で魔王と戦えばただでは済まんぞ」


「ぶー。こんなまどろっこしいの私の性に合わないってのに」


「お主じゃって死人は出したくなかろう?」


「……わかったわよ。今回は陽動だけね」


 シーナもバルに窘められて不承不承頷いた。


 そうしているうちに俺らが動く時間になった。


「そろそろだ。てめえら用意はいいな?」


 俺が確認するとその場の全員が首を縦に振る。


「それじゃあ行くぞ」


 俺らは館まで一斉に走る。

 そしてその手には全員白い玉が握られている。



「たーーーーーまやーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



 俺らは館にその白い玉をぶん投げると、さほど時間を空けずにパアァン! という音が立て続けに鳴り響き、周囲を虹色の光で染め上げていった。


 今俺らが投げたものは町で売られていた花火玉というアイテムだ。

 1個1000Gという割と高い値段であるが、いつでもどこでも本格的な花火が見れるというものだ。

 本来は真上に上げて使うものだが今回は屋敷に向けて投げ入れた。


 元の世界では絶対にやっちゃいけない所業だが、今回ばかりは許してくれ。

 いやまあ誰に謝ってるんだって話だが。


「たーまやーー!」


「かーぎやーーーーー!!!」


 他の面々も次々に花火玉を投げつける。

 そして1分ほどその場で投げ続け、近くの建物から人の声がし始めたところで俺らは撤退することにした。


 ちなみに逃走経路もここに来るまでに確認済みだ。

 逃げる際登る壁にも目立たないように梯子を既に設置してある。

 これも作戦の内に含まれる。


 俺らはその梯子のある壁に向かって走り出す。


「撤退するぞ! 全員遅れんなよ!」


 俺はそんな事を口走ったが、実際のところ走って遅れるのはAGIに1も振っていない俺とバルだった。


「ほらあんたたち早くしなさいよ!」


 AGI特化のシーナがそんな事を言っている。

 そんなに言うならてめえのAGI俺らに寄越せよ。


 そうして走っているうちに背後から置き土産の設置型打ち上げ花火が天に向かってひゅるるると飛んでいき、空を明るく華やかに照らし出した。

 よく見ると別の方角からも花火の音が聞こえる。

 別働隊が上手くやっているんだろう。


「げっ!」


 突然前を走っていたシーナが俺らの後ろを見てそんな声を発した。


 俺も後ろを見ると、そこからは3匹のでかいコウモリが迫ってきていた。

 おそらくあれはここの魔王が召還したモンスターなんだろう。


「ちっ」


 俺はその場で立ち止まって振り返り、既に構えていた弓で矢を放った。

 そして矢が当たった1匹のコウモリが地面に落ちて動かなくなる。

 それを俺は再び走りつつ確認した。


「私がひきつけるからあんたたちは先行って!」


「わかった!」


「シーナもすぐに追いかけてくるんじゃぞ!」


 シーナが俺とバルを横切って逆走し、残りのコウモリ2匹に立ち向かった。


 さっきコウモリは俺の矢の一撃で倒せた。

 だからこの辺に出てくるモンスターとそこまで強さは変わらないだろう。


 それならシーナに任せても問題ない。

 俺とバルはそのまま前に向かって走り続ける。


「ッ! 待て」


 しかし俺らがあと少しで梯子を設置した壁にたどり着くというところで前方の建物から人が出てきた。


 ……よく見るとその出てきた人物は3番目の街の門でとおせんぼをしていたヒョウとみぞれの2人組だった。


「またてめえらかよ。ひっこんでろっつの」


「……こっちの台詞だ。睡眠を邪魔された身にもなれ」


 俺とヒョウは互いに憎まれ口を言い合って睨みあった。

 つかなんでこいつらここにいるんだよ。運が悪すぎる。


 コウモリ程度ならなんとかなるが、プレイヤーを御するのは段違いに難しい。


「『マジックシェアリング』」


 みぞれとかいう女が何かの魔法を唱えたところで俺とバルは戦闘態勢に入った。


「プレイヤーなら街の中で本気でぶっ飛ばしても死なねえよなあ!」


 俺は声を荒げながら矢を取り出して弓を構えようとする。

 しかし弓を構える動作の前にみぞれが俺の方を向いて魔法を唱えた。


「『ショートバインド』」


 みぞれがそう言葉を発すると、俺の右腕に突然光の輪ができてそこから腕が動かせなくなった。


「なんじゃこら」


 俺は右腕にはめられた光の輪を見る。

 どうやらこの光の輪はその場から動かないようだ。


「あなたたちを拘束します。命まではとりませんので――」


「ふんっ!!!」


「え」


 俺はその光の輪を左手で力任せに引きちぎった。

 その行動にみぞれからわずかに驚くような声が聞こえてきた。


「『アイスボール』」


 そうしているうちに今度はヒョウが俺に向かって氷の玉を打ち出してきた。


「させん!」


 だがそれを予想していたバルが俺の前に立ち、盾を構える。


 そして氷の玉がとてつもない勢いで盾に当たるが、VIT補正による衝撃耐性補正があるバルは問題なく氷の玉を弾いてその場に踏みとどまった。


「『ショートバインド』」


「!」


 けれど盾の構えを解いた瞬間、今度はバルの腕にさっきの光の輪がはめられた。


 あの魔法は受けた感じ、その場の空間そのものに対象者を縛り付ける拘束系の魔法なんだろうと予測できた、が連発する間隔が早すぎる。

 クールタイム5秒とかそんなんなんじゃねえのか?


「だが遅せえよ!」


 俺はバルのほうを見ていたみぞれに向かって矢を向ける。


「ッ! 『アイスアロー』!」


「っ!?」


 その時大声を出してきたヒョウへ俺は咄嗟に標的を変えて矢を放った。


「「ゴフッ!」」


「リュウ!」


「!」


 俺はヒョウが高速で放った氷の矢を腹に受けて背後に吹っ飛んだ。

 そして後ろの建物の壁に叩きつけられた俺はその衝撃で意識が朦朧とする。


「あいうち……か……」


 俺が目を閉じかける時に目にしたものは、俺と同様に壁に叩きつけられて倒れているヒョウの姿だった。


「……『ロングバインド』」


 そしてみぞれが俺に向かって何かの魔法をかけ、その後ヒョウに向かって慌てて走っていくのが見えた。


 ……魔法使いタイプのプレイヤーとの戦闘経験が少ないことが裏目に出ちまった。


 まさかヒョウが別の魔法を撃ってくるとはな。

 クールタイムでしばらく攻撃できないと思って油断してたぜ。


「リュウ! リュウ! 返事をするんじゃ!」


「何やってんのよあんたたちは!」


 近くでバルが俺を呼ぶような声がする。

 そして遠くからはシーナが叫ぶような声が聞こえる。


 しかし俺は目を閉じる。


 俺は目を閉じ体からは力が抜け、意識を別のところに飛ばしてしまった。






 そして気がつけば俺は、白い空間に1人佇んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ