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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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宿屋

「……ぁ」


 目が覚めるとそこはどこかの部屋のようだった。

 木製の見知らぬ天井が俺の視界に広がっている。


 そのまま首を横にするとベッドがこの部屋に8つある事が確認できた。俺はその一つに寝かされていた。

 寝心地はあまりよくない。

 窓から注がれる夕日の光が部屋の中を赤く染めている。


「ここ……どこだ?」


 こんなところ知らないぞ?


 てかもう夕方か。今日バイトあったっけか。

 いや、今日は午前で終わったんだった。

 じゃあさっさと帰らないと陽菜が心配するな。


 早く帰らない……と……。


「っ!」


 そうだ、何ボケてんだよ俺は!


 俺はゲームの世界に閉じ込められて、その後2番目の街に行く途中にブタのモンスターと遭遇して……。

 そして戦って……その後どうしたんだ?


 最後の一撃は当たったのか? 当たったならなんでこんなところにいるんだ?

 それとも俺はあのブタの突進をまともにくらって死んだとか?

 いやそれはないか。ちゃんと俺がここにいると俺自身が確信を持って言える。


 じゃあどうして?


「ここで考えていてもしょうがねーか……」


 俺は固いベットから起き出し、部屋から出ることにした。






「おう気がついたか」


 部屋から出て廊下を歩いた先に、大柄の中年男がカウンターらしきところで茶を飲んでいた。


「なあおっさん、ここどこだ?」


「どこっておめえ、見てわからねえのか? 宿屋だよ宿屋」


 宿屋。

 まあなんとなくわかってはいたが、だとすると俺はどうしてここにいるんだ?


「どうして自分はここにいるんだって顔してるな。それはな、お前さんが気絶している間にお前さんの仲間がここまで運んできたからだよ。後で仲間に感謝しとけ」


 仲間……ユウたちのことか。

 そうか、俺はあいつらに助けられちまったのか……。


「そいつらは今どこにいるか知ってるか?」


「いや、知らねえよ? ああだが手紙と袋を置いていったぜ」


「っ! 見せてくれ」


「あいよ」


 おっさんはカウンターから俺宛の荷物を取り出して俺に渡してきた。

 手渡された手紙を俺はその場で読み始める。どうやら手紙はやはりユウからのものだった。


『おはよう、リュウ。何故かチャット機能が使えなくなっていたから君への言葉をこうして手紙にして君に残させてもらったよ。まず最初に、こんな形で君のそばから離れてしまうことを大変申し訳なく思う。本当にごめん。といっても君の事だからそんな事が聞きたいんじゃねえって怒っているかもしれないね。とりあえず次に君が気絶してからの事を書くよ。君は君が戦ったモンスターの突進をまともに受けたせいで瀕死の重症を負って気絶したんだ。その後僕たちは急いでそのモンスターを退治して、みみさんが回復魔法をかけてくれたんだ。それでHPは全快したけど意識は戻らなかったからそのまま君を背負ってこの始まりの街の宿屋までつれてきたんだ。それが君が気絶していた時に起こった出来事だよ。それでここからが僕にとっての本題なんだけど、君が対峙したモンスター、どう思った? 結局君はあのモンスターを倒せなかったわけだけど。実のところあのモンスターはチュートリアルピッグという名前でこのゲームでは最弱と言っていい敵だったんだ。僕が何を言いたいかもうわかるよね? これ以上馬鹿な真似をしないようにあえて言わせてもらうよ。君は弱い。それも最弱のモンスターにすら勝てないくらいに。それでも強くなろうとレベル上げをするなら、モンスターとの戦闘は毎回命がけになるだろう。そしてたとえ命がけで戦ってレベルを上げても君は弱いままだ。なぜならSTR以外に才能値を振らなかったんだから。レベルを上げても筋力以外は成長しない。はっきり言って致命的だよ。今はまだ敵も弱いから何発か攻撃を受けてもなんとかなったけれど、敵が強くなればどこかのタイミングで一撃死の恐れすら出てくる。そんなリスクを背負った君と一緒に僕は戦うことはできない。恨んでくれて構わない。憎んでくれて構わない。結果的に僕は君を見捨てるような形になってしまったんだから。そして、パーティーを組めなくてごめん。元の世界に戻れた時は別のゲームでパーティーを組んでくれると嬉しいな。君は嫌だって言うかもしれないけど。それでも僕はいつかそんな未来が来るように頑張るよ。だから僕たちは君が起きるのを待たずにこの街を出ることにするね。でも龍児、君は絶対にこの街から出ないで。君に死なれたら、君をこのゲームに誘った僕は死んでも死にきれない。だからお願いだ。絶対に生き続けてください。それが親友である君に頼む唯一の望みです。     友也より』


「……」


 俺は手紙を読み終えると勢いよく破りまくった。


 ……なんだよ。結局俺はお荷物になったって事かよ。

 俺なんかを見張るために2番目の町への最短ルートを放棄して、モンスターに無様に負けた俺の尻拭いをさせて、気絶した俺を背負ってわざわざ始まりの街まで移動したとか、どんだけ迷惑かけりゃ気が済むんだよ俺は……。


 ……そういえば手紙には袋の事は書いてなかったな。

 おれはカウンターの上に置いたままにしていた袋を持ち上げてみる。

 すると袋の中からチャリンという音が聞こえてきた。


「手切れ金か。それとも当面の生活費に使ってねってか? 面白くもねえ」


 メニューを開いてアイテム欄に収納してみると、袋の中身の金を自動的に計算されて目の前に金額が表示された。

 中には490G入っていたようだ。

 どうやらゲーム開始時にプレイヤーに500G支給されていたものらしい。俺も500G持っていた。

 10Gはここの宿代で消えたと考えるとつまりユウは現時点での全財産を俺に渡したって事か。

 つくづく俺は足引っ張ってんな。


「手紙にはなんて書いてあったんだ?」


「あなたに愛想が尽きました。実家に帰らせてもらいますってさ」


「へぇそうかい。その手紙寄越したのはたしか男だったと思うんだけどな。まあそういうパターンもあるか」


「あいつ実は女なんだぜ。中性的な顔してたから見間違えただろ?」


「おいおい、でもまーそうかもしれねえなー。確かにこの手紙を置いていったやつは男のワリにはナヨっとしてたしな」


「だろ? こんな手紙書きやがって。女々しいったらねーよ」


 俺はそんな冗談を言って適当に誤魔化す。

 おっさんの方もそれに合わせて適当に相槌を返してきた。


 その反応を見てから俺は、建物の外に向かって歩き出す。


 この街から出るなだって?

 そんなもん守れるかっつーの。


「ちょっと待て」


 俺の背中におっさんが声をかけた。


「なんだよおっさん。あんたまで俺を引き止めんのか?」


「いや別に引き止めはしねえけどよ、せめてそこ掃除くらいしていけ」


 おっさんはさっき俺が破り捨てた手紙の残骸を指差す。


 俺は箒とチリトリを借りてゴミを回収した。


 ……ゲームなら捨てたときに消えろよ手紙。






 宿屋をあとにした俺が向かったのは武器屋だった。

 場所は宿屋のおっさんから聞き出した。

 俺は早速武器屋に入り、店長らしき男に声をかけた。


「おっす店長。最近の景気はどうだ? 特に今日は商売繁盛してたんじゃないか?」


「おおよくわかったな。今日は色々売れたが中でも鋼の剣が絶好調だったぜ」


「へー、良かったじゃねーか。そんでまだ完売とかしてたりしてねーよな?」


「ああ、一応まだ在庫はあるな。まっ今日みたいな日があと二日続けばスッカラカンになりそうだけどな」


「ほほー」


 なるほどな。一応まだなんとか間に合ったか。


 ユウがパーティーメンバーを説得していたときだったか。ちょっと気になることを言っていた。

 なにやら、アイテムの補給もままならないとかそんなことを。


 それはつまり大量のプレイヤーが始まりの町に押し寄せて、その結果需要と供給のバランスが崩れて物資が行き渡らなくなるということだろう。

 だったら早めに戦いに必要なものは揃えていかないとな。


「もうそろそろ夜も更けるし今日は店じまいしようと思ってるんだが」


「ああ悪い、俺の理想に合った武器はないかと探してたんだが。店長に聞いたほうが早いか?」


「ん? お客さんどんなのが欲しいんだ?」


 俺は目的の武器のスペックを店長に語った。


「ああそういうのならたしかにあるぜ……ほれ、これだこれ」


 店長は俺に細身の剣を手渡してきた。

 俺はそれを眺め、その武器に備わった能力を読んだ。


 『レイピア ATK+5 命中率+10% 耐久度5000』


 なるほどな。武器とかはこうして手にとって普通に見れば性能がわかるのか。


 そしてこの武器は俺が欲していたものを備えている。


 俺が欲していたのはDEXなり命中率なりを上げてくれるような装備だ。

 今の命中率ではモンスターを倒すことなんてとてもじゃないができない。

 だがこうやって命中率を上げられるような武器があれば少しはマシになる。


「店長。これいくら?」


「800G」


 たけえ。

 それってもしかしてこの店で一番高い武器なんじゃねえのか?


 しかも俺の全財産を出しても足りず、ユウの置いていった金にまで手をつけなきゃ買えねえのか。

 正直ユウの金には手をつけたくない。

 これは俺の金じゃねえ。

 うん。


「店長、なんとかそれ500Gで売ってくれねえかな?」


「ダメだな、800」


 ちっ、融通のきかねえ店長だな。


「今もってる剣を下取りしたら300いかねーかな?」


「あーその剣だとせいぜい50ってところだな。300は無理だ」


「そうか……」


「……そんなにこいつが欲しいのか?」


「そいつっつーか命中補正つくやつならなんでもいい」


「うし、わかった。ちょっと待ってろ」


 そう言うと店長は店の奥に何かを探しにいった。

 しばらくすると店長は右手に一本の剣を持って戻ってきた。


「ほれ、こいつなら400でもいいぜ」


 俺は渡された剣を調べる。


『レイピア ATK+1 命中率+10% 耐久度4000』


 さっきのと比べるとATKがあるかないかの違いか。耐久も少し削れているがまあそれはいいだろ。

 よく見ると刀身がところどころ錆付いていて、切れ味もないただの鉄の棒切れというような有様だ。


「試し振り用のやつなんだがそろそろボロッちくなってな。新しいやつに変えようかと思ってたんだ」


「へー、うん、まあ悪くねーな。買った」


「毎度あり」


 代金を店長に支払い俺は武器屋をあとにした。

 そのあと防具屋にも足を運んで、残り100Gで買うことのできた皮の鎧をその場で装着した。

 これでさっきの戦闘よりかはいくらかマシになるだろう。


 さて、命中率+10%か。

 これでどれだけ当てられるようになるかテストしてみるか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今時(といっても、8年程前ですが)、初期割り振り設定ステータスで、その後のステータスのすべての伸び方が決まってしまうRPGって、ありえないような醜さ。 なんていうか、職毎に似たようなステータ…
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