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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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クラス取得方法

 朝、俺らは朝メシを食った後、今日泊まる宿を確保して情報収集を行うことにした。


 収集する情報のメインは何といっても3番目の街についてだ。

 俺らはバラけて聞き込みを開始した。


 すると、情報収集を始めてから1時間程度で3番目の街で起きた事件の大体のあらましがわかった。

 騒動が起きたのは4日前、教会跡地から現れた黒いヴァンパイアが3番目の魔王と称し、街の人間に襲い掛かった。

 その戦いでプレイヤーが約50人、街の住民が約100人がヴァンパイア1匹によって一方的に殺されたらしい。

 そしてその一方的な戦いでプレイヤーは殆どが街から離れ、街の住民は完全降伏、それから今もなお魔王によって3番目の街は支配されているとのことだ。


 俺はこの話を聞いた時不安になった。

 もしかしたらその死んだプレイヤーの中にユウも含まれているんじゃないかと。

 そう思うと俺の脳裏にはあのブラックスパイダー戦で真っ二つにされて死んだエイジが思い浮かぶ。

 どことなく似ていた2人だが、まさかユウまで死んではいないだろうなとユウ達の情報も探し始める。


 するとここでもユウの情報はあっさりと出てきた。

 というかここでのユウはちょっとした英雄扱いだった。


 どうもこの町には以前、魔王が住み着いていて町の住民を苦しめていたらしい。

 そしてそこへ俺らプレイヤーの中でも最速速度で旅をしてレベルアップをしているトッププレイヤー組の中の1つ、ユウのパーティーがメインとなって幾つかのパーティーを纏め上げこの町で魔王と戦い、そして見事撃ち滅ぼしたのだそうな。


 そんなユウ達は自分達のパーティーを『攻略組』と名乗っていたそうだ。


 『攻略組』って随分ストレートな名前だな。まあ名前負けしないよう追い込んで努力するためにそんな名前にしたんだろうが。

 それにユウ達は実際にここで魔王を倒したのだから、その名に恥じないだけの結果を上げているということになるわけで悪くない名前なんだろうな。


 ちなみにそのユウのパーティーは未だに6人で戦い続けているらしい。

 早く新しいメンバー入れろよ。俺がいたたまれなくなるわ。


 それでそのユウ達はこの町を5日前には旅立っていったそうだ。

 あと2、3日滞在してたら3番目の魔王と戦ってたんだろうな。

 その結果どうなってたかはわからんが。




 そしてそんなこんなで昼になり、ひとまず昼メシを食いながら情報を擦り合わせるためにバルとシーナと合流して町の定食屋に入った。


「ふむ、リュウの持ってきた情報はひとまず理解したぞい」


 俺はバルとシーナに俺の集めた情報を話した。


「それじゃあ次はわしじゃ。わしはあの街の門で出会った2人組についての情報じゃな」


 バルはどうもあの2人組の事を気にし続け、今回の情報収集でも積極的に調べるべきだという姿勢をとった。

 なので今回バルはあの2人組についての情報をメインに集めるという事になっていた。


「ぶっちゃけあんなやつらのことなんて調べる意味あったの?」


「あまりプレイヤーと対立はしたくはないからのう」


「うーん。まあそういうことならしょうがないかな。でもねえ……」


 シーナが不承不承といった感じでバルと話している。


「まあとりあえず聞くだけ聞くが良い」


「うん」


「あの2人組は男がヒョウと言っておったの? そして隣にいる者をヒョウはあの時『みぞれ』と言っておった。そこからわしは調べていったのじゃが」


 バルが2人組について集めた情報を話し始めた。


「ヒョウの方は純粋なINT特化で攻撃魔法を武器にして戦っておるようじゃ」


「それはあの時わかってたことだな」


 あいつ見るからに魔術師っぽい格好だったし氷の魔法撃ってきたしな。

 威力もかなりありそうだったから攻撃魔法に特化しているんだろうという予想はしていた。


「そしてみぞれの方は付与術師じゃな」


「付与術師?」


「味方が有利になるようにバフをかけたり敵を弱くするためにデバフをかけたりする役よ。あんた知らなかったの?」


「いや知らねえよ」


 俺が知ってる知識にも大分穴があるんだぞ。

 てめえの知っていることが俺の知っていることだと思ってんじゃねえぞ、と言いたいがそれを言うとシーナに負けた気になるので言わないでおく。


「ちなみにバフとは強化というような意味で捉えておけば大体あってるぞい。デバフはその逆じゃ」


「補足説明ありがとよ、バル」


 バルには俺があんまゲーム慣れしてないことが大体ばれてるからもう気にしねえけどよ。


「そしてあの2人組は本当は3人組でそこそこ名前は知られておったようじゃ」


「へえ、そうなのか。そんでそのいない1人は?」


「名前は『クリス』というらしくての、ヒーラーという話じゃ。ただ今はどうなっているのかわからんのじゃがの」


 ヒーラーか。つまりあいつらは魔法特化のパーティーだってことか。


「よくある話だと、そのクリスって奴が魔王に捕まっているからあの2人組は嫌々ながら魔王に従ってるって線かもな」


「あーありそうねー。そういうのってゲームだと定番よねえ」


 シーナが俺の考えに同意してきた。

 まあここはゲームであってゲームじゃないからその定番が当たるかはわかんねえけどな。


「わしが集められたのはそれくらいじゃの」


「それじゃあ次は私の番よ!」


 シーナがバンッと立ち上がった。

 他のお客さんが見てるからそんなオーバーリアクションしないでほしいんだけどな。


「私が集めてきた情報は『クラス』についてね!」


「ああ、3番目の街ではクラスが与えられるんだよな」


 前にどっかで聞いた話だ。

 あれは確かバルから聞いたんだったか?


 まあその事も今日の朝シーナが口に出すまで忘れてたんだけどよ。


「それで? そのクラスとやらはどんなメリットがあるんだ?」


「そうね。まずはクラスに応じて専用スキルが使えるようになるわ」


「スキルか」


「それにそのクラス特有のステータス補正も加わるわ」


「おお!」


 スキルはどんなのが手に入るかわからないがステータス補正はストレートに期待できる。

 もしかしたらSTR以外のステータスが上がる可能性があるからな。


「……何か嬉しそうな顔してるけど、多分あんたの期待してる通りにはならないと思うわよ。ステータス補正は元のステータスを基にして何パーセント上昇するとかそういうのだから」


「なんだよ……ぬか喜びさせんなよ……」


 やっぱこれからも筋力だけでいくしかないのか……。


「それで? 他に特典はないのか?」


「うーん、しいて言うならクラス名がつくことくらいかしら」


「クラス名って戦士とかスナイパーとかそんなんか」


「そうね。ただ自分が就けるクラスは選べないらしいわよ」


「マジか」


 おいおい。もしそれで変なクラス名になったらどうすんだよ。

 クラスを改めたりとかできるのか?


「一応クラスはここまでの自分の行動次第でどんなのになるか決まるらしいから、クラスを取得しても今までどおりのプレイスタイルでいけるはずよ」


「……それならいいんだけどよ」


 だが自動的に決まっちまうのはちょい怖いな。

 俺なら弓使ってるからスナイパーとかそんな感じで決まってほしいんだが。


「少し聞いた話だと、盾で味方を守るタンク役なら守護騎士、剣使いのアタッカーなら剣闘士、ヒーラーだったら治癒術師とかそういうクラス名になったプレイヤーがいるそうよ」


「へえ、それじゃあバルは守護騎士ってのでほぼ決まりかもな」


「うむ! なかなか良いクラス名じゃな!」


 カッコイイクラス名で若干バルのテンションが上がっている。


 二つ名『鉄壁』の守護騎士か。

 中二病全快だな。中二かっての。


 あ、こいつ中二だった。


「それでそのクラスはどうすれば取得できるんだ?」


 ここが肝心だ。

 今3番目の街は封鎖されている。

 だから普通に考えれば現状ではクラスを取れないことになるが。


「クラスを取得する方法は、まず3番目の街にある『クラス認定所』に行ってそこで『クラス検定用紙』を貰うこと。そしてその用紙に必要事項をずべて記入して、認定所の職員に提出するとクラスが自動的に取得されるみたいね」


「ふむ。やはり3番目の街に入らんことにはクラスは取得できんか」


 バルが若干ガッカリといった様子で肩を下げている。

 そんなにてめえはカッコイイクラス名が欲しいか。


 だがないよりあったほうが良いのは確かだ。

 どれだけの効果があるかわからないが、専用スキルとステータス補正はやっぱり魅力的だと思うしな。


 しかしそのクラスを取得する手段が今は使えない。


「よう! なかなか面白そうな話してんじゃねえか!」


 俺らがそうして悩んでいると、後ろから声をかけられた。


「てめーらも3番目の街に入れなくてここに流れてきたプレイヤーか?」


 その快活な声に俺が振り向くと、そこには1人の男が立っていた。

 そいつは真っ白な仮面をつけて、黒髪をオールバックにし、ブカブカの服を着た俺と同じくらいの身長の男だった。


「おう、そうだが俺らに何か用か?」


 俺は目の前の男に舐められない程度にドスの効いた声で聞いた。


 初対面では声が命だ。


「そうだ。いやな、今俺らはてめーらみたいなプレイヤーを集めて3番目に街に侵入する作戦を立ててんだよ」


「街に侵入? てめえらあの魔王を倒す気か」


「いんや。俺も一度だけ街を支配してるっつー魔王を見たことがあんだけどよ、あれは今の俺らが敵う相手じゃねえって。マジ強すぎだっつの」


 どういうことだ?

 魔王を倒す気もないのに街に侵入する?


「てめえら一体何考えてやがんだ?」


 俺は訝しむような目つきで男を睨んだ。


「いや別に悪いことをしようってわけじゃねえよ? だからそんな睨むなよ」


「……わかった。それで? てめえらは街に侵入して何をしようってんだ?」


「ああ、俺らはな……クラス認定所の『クラス検定用紙』を取りに行きたいのさ」


「クラス検定用紙ぃ?」


 なんでそんなもんをコイツは取りに行きたいんだ?


「お? てめーらわかってねえって顔してやがるな」


「まあな。……もしかしてその用紙さえあればクラスを取得できるとかか?」


 コイツが用紙を欲しがる理由はそれしか考えられない。

 だがそんな簡単な方法でクラスが取得できるのか?


「用紙だけあっても意味ねえよ。用紙がちゃんと受理されて始めてクラスが取得できるんだからな。でもな、クラス認定所で働いていた職員が何人かこの町に逃げてきた今はちょっと事情が違うのさ」


「! その職員に用紙を受理してもらえば良いのか」


「その通り。すでにその職員との話し合いも済んである。今は緊急事態だから用紙さえあれば受理できるってよ」


 なるほどな。

 それなら3番目の街に侵入する価値はある。


 ……だが。


「ちなみにその用紙をここで作るとかそういうことはできねえのかよ?」


 それができればわざわざ危険を冒して街に侵入する必要もねえんだが。


「それは無理だってよ。その用紙は特別な魔法がかけられてるらしくてクラス認定所の機材がないと作れないんだと」


「そうか」


 まあコイツらもその辺は確認済みだったか。

 そうそう甘くはクラス認定してくれねえってことだな。


 そんな簡単に用紙が作れて認定できるなら他の街にも認定所があってもいいわけだし。

 

「それでどうする? 一応俺らは明日の朝ここを出発して3番目の街に向かうけどよ」


 男は俺らに一緒に来るかどうかを訊ねてくる。

 俺はバルとシーナに目を向ける。


「わしは賛成じゃ。街の様子も見ておきたいしの」


「いいんじゃないの? ここで大人しくしてるよりも乗り込んじゃえば」


 どうやら2人とも返事はイエスのようだ。

 そして俺も同意見だ。


「ああ、わかったぜ。俺らもてめえらと一緒に3番目の街に乗り込んでやるよ」


 俺はニヒルな笑みを意識して作り、仮面の男に返事をした。


「へへっ、そうこなくっちゃいけねえよな」


 そう言って男は俺に右手を出してきた。


「俺の名前はアスーカル。パーティー『仮面同好会』のリーダーだ。よろしくな」


「ああ、俺はリュウだ。こっちのちっこいのがバルでその向こうのポニテがシーナだ。よろしく頼む」


 そうして俺らは握手を交わした。

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