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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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2人組

 深い森を抜け緩い山を越え、そこから続く平原を3日ほど俺らは歩いた。

 これで2番目の街を出発してから15日が経過した。


 その15日間の旅の結果、俺らはレベル21になり、そして遂に3番目の街、サディアードが見えるところまでやってきた。


「あれが3番目の街か」


「うむ、マップ表示でも3番目の街と出ておるのう」


「やっと着いたのね! これでちゃんとお風呂に入れるわ!」


 俺らは3番目の街を視野に入れると足に活力を取り戻して歩く速度が早くなる。

 15日間という長旅は俺ら全員初めての経験だったので色々と反省点がある。


 特に食料はもっと余裕をもって準備する必要があった。

 予定よりも長い旅路だったため、つい昨日の段階でアイテムボックスの中の食料は空になってしまった。一応それでもとりあえずは出てくるモンスターの肉を食うことでなんとかなった。

 だが場合によっては食糧不足で死ぬ可能性もあったのだから今後は十分な量を確保しようと3人で話し合った。


 まあそんな反省は後ででいいか。

 今はとにかく街に入ることが重要だ。


 街に入ったらまずメシを食おう。

 バルの作るメシも美味いっちゃ美味いんだが、それでも旅の最中ではそこまでこだわった料理ができない。

 そのせいでどうもバリエーションが少なくなってしまって、何日も食べ続けた結果若干飽きてしまったりしていた。


 うん、やっぱりメシからだな。

 今はちょうど昼頃だから腹の具合もちょうどいいしな。


 んでメシを食い終えたら教会跡地だ。

 あそこには始まりの街や2番目の街のように魔王が隠れているかもしれない。

 だから今回は被害を未然に防ぐべく迅速に教会跡地の探索をするべきだ。


 もうエイジ達のような悲劇を繰り返さないためにも、俺らは魔王の出現を阻止しなければならない。

 どうやったら阻止できるのかはわからねえけど、とりあえず跡地にいけば何かしらわかるだろう。


 そして俺らは街を囲む外壁に備わった壁門の1つへ向けて歩いた。


 始まりの街も2番目の街も門は基本開いたままになっていたが、3番目の街は違うらしく、目の前に見える門は閉ざされている。

 そのことを若干不思議に思ったが、それでも門までたどり着けば開けてくれるだろうと思い直し、俺らは門に近づいた。


 しかし街の門まであと50メートルもないという辺りまで来た時、門から2人の人間が現れた。


「止まれ」


 目の前に現れた2人のうちの1人が俺らに向かって静止を呼びかけてきた。


「あ?」


 その2人は見るからにプレイヤーといった雰囲気をかもしだしていた。


 声を出したほうは、髪が長いが多分男で年は俺やシーナと比べてちょい上くらい。身長は180といったところで黒髪黒目。男性用魔術師装備の一種である灰色の短いローブの中に軽装の服装であるズボンを穿いているのが見えるプレイヤーだった。中性的顔つきの美形でなんとなくキザっぽい印象を受ける。

 そしてもう一方は女で年は俺やシーナと同じくらい。身長はシーナと同じくらいでコイツも女性用の軽装の上に灰色マントを着た黒髪黒目のプレイヤーだった。その女はショートヘアで眼鏡をかけており、眠たそうに瞼をトロンとさせているが、バルやシーナとはまた違ったタイプの美少女だ。ちなみに魔法使いタイプで激しい動きをしないためか、水色のミニスカートを着用している。


「なんだてめえ。ここを通りたくば通行料を払えってか?」


「違う」


 俺の問いかけに灰色魔術師風男はシンプルに否定した。


 何だこいつ。こいつの思惑がわからない。

 もしかしたら始まりの街で出くわしたように追い剥ぎの一種かと思ったが否定されちまったし。


 俺がどうするか隣にいたバルのシーナに目線を配るが、二人とも俺の顔を見るだけで特に何も言わない。

 つまりは2人ともわからないから俺が話をしろというわけか。


「だったら何の用だよ。俺らは街に入りたいんだが?」


「この街は現在出入り禁止だ」


「へえ~、出入り禁止ねえ。そりゃあ一体どういう了見でだ?」


 街への出入りが禁止されているとか。

 もし本当だったら大問題じゃねえか。


「…………」


「何も言わねえならその門通らせてもらうぜ?」


 目の前の男は何も言わない。

 なら俺らは街に入るまでだ。


「待て」


「待てねえよ」


 そうして俺は足を前に出そうとする。

 しかしその時、男から予想外の言葉が出されてその足を止めてしまう。


「……この街は現在3番目の魔王によって支配されている。故にプレイヤーを中に入れることはできない」


「3番目の魔王……だと……?」


 いきなり出てきたその単語に俺らは3人とも驚く。


「どういうことだ! なんで魔王が街を支配しているんだ!」


 俺は男に向かって怒鳴った。


 何だよそれは。

 3番目の魔王だと?

 もしかして『解放集会』の連中が俺らより早くこの街に来て魔王を解き放ったのか?


「……3日前のことだ。3日前、我こそは3番目の魔王と名乗る人型のモンスターがこの街を襲った。そしてその結果この街は敗北し、今はその魔王が領主としてこの街を管理している」


 目の前の男はできるだけ感情が出ないようにか淡々とした口調でこの街の出来事を短く語った。


「魔王が街の領主ねえ……」


 人型でどうやら話すこともできるらしいその魔王は人を滅ぼすのではなく人を支配しようとしたわけか。


「そんで? 俺らが街の中に入れないのはその新領主様のご意向ってわけか?」


「……その通りだ」


「はっ、魔王を倒すべきプレイヤーが魔王に使われてんのかよてめえは」


 俺は鼻で笑って男を睨む。


「……オレが門番の真似事をしているのは関係ないだろ。早く退け」


「退けと言われて誰が退くかよ」


 俺は男に向かって歩み寄る。

 その後ろをバルとシーナもついてくる。


「うむ。魔王がこの先にいると聞かされて、黙って見過ごすわけにはいかんのう?」


「そうね。さっさとその魔王をぶちのめしてシャワーでも浴びたいわ」


「まあそういうこった。俺らは入らせてもらうぜ」


 そうして俺らとあいつらの距離が短くなってくる。

 しかしそれを見て男は小さく口を開いた。


「……みぞれ」


「了解、兄さん。『マジックシェアリング』」


 今まで何も言わずに男の隣にいた女が何かを呟くと、灰色ローブの2人組の周りから灰色の光が溢れ出てきた。

 そして灰色ローブの男は俺を指差して魔法を唱えた。


「『アイスボール』」


 男の指先から魔方陣が生まれ、そこから大きさがサッカーボール級の氷の塊が出現した。

 その氷を男は俺の足元目掛けて射出した。


「っ!」


 バルが盾を構えて俺を守るように立ち塞がった。


 しかしその氷の塊は当てるつもりがなかったのか、俺らには当たらずにすぐ近くの地面に当たった。

 だがその威力は相当なものらしく、氷なのに地面にめり込むような形で半分埋まっていた。


「わかっていると思うが、今のはわざと外した。それ以上近づくなら次は当てる」


 男は俺らに向かってそう脅しをかけてきた。

 それに対してバルが俺に声をかけてくる。


「リュウ、一旦さがるぞい。こやつら、やる気じゃぞ」


「…………」


「わしらの目的はプレイヤーと戦う事ではないぞい」


「わかってるっつの」


 確かにバルの言うとおり、目の前の男からは攻撃の意志がビンビン伝わってくる。


 なんでプレイヤー同士で戦わなくちゃいけねえんだろうねえ。

 しかもあいつらは俺らプレイヤーが倒すべき魔王の下っ端やってるとか。

 何か事情があるんだろうが、とりあえずここは引き下がるべきか?



「……ここから東に半日ほど歩いたところに町があるからそこに行け。そこはこの街の3分の1ほどの大きさだが問題なく受け入れてくれるだろう。そこで準備ができたら4番目の街へ行け」


 俺が悩んでいる間に男はつらつらと俺らに向かって指図をしてきた。


 と、よく見ると、説明していたその男はどことなく複雑な表情をしていた。

 何でだ?


「へえ、つまりこの街はスルーしろってことか?」


「そうだ」


「ふーん」


 スルーしろと言ってもここには魔王がいるのだからいずれこの街には入る必要がある。

 だがここは一旦東にあるという街で準備を整えたほうが良いか。


 そう思って俺はひとまず引き下がることにする。


「わかった。まあよく考えれば俺ら3人だけで魔王をどうこうできるとも思えねえしな。俺もそこまで自惚れてねえ。ここは一旦退かせてもらうぜ」


「ああ」


 そうして俺は東を向いて歩き出す。


「バル、シーナ、行くぞ」


「うむ……」


「はぁ……しょうがないわね」


 バルとシーナは渋々といった様子で俺についてくる。


「また会おうぜ。俺はリュウ。覚えときな」


 俺は男に背中を見せたままそう言って、手を軽く振った。


「『鉄壁』のバルムントじゃ。わしらはまたこの街にくるからの」


「シーナよ。まあ準備ができたら魔王を倒しにきてやるわ」


 続けてバルとシーナも2人に名前を名乗っていった。


「そうか、オレのキャラネームはヒョウ。覚えておかなくていい」


 灰色ローブの男、ヒョウはただそれだけ言って、俺らが遠くへと行くまでずっと門の前に立ち続けていた。






「あいつらは一体なんだったんだろうな?」


 俺は遠く離れた3番目の街を見ながらぼやいた。


「まったくよ! よりにもよって魔王に加担するなんて!」


「あやつらにもあやつらなりの思惑があるんじゃろうて。シーナもそんなにカリカリするでない」


「ふん! やっぱり門の前で我慢せずに私が問い詰めるべきだったわ!」


「それは我慢して正解だったろ。てめえが口だしたらまとまる話もまとまんねえよ」


「なんですって!」


 シーナはそう言って俺にガンを飛ばしてくる。


 お? やるか? 俺もこのハードな旅とか街に入れないとかのストレスで色々溜まってんだぞ?


「これこれ、ここでお主らが喧嘩してどうすんじゃ。ひとまずあのヒョウという男が言っていた町へ急ぐぞい」


「……そうだな。できれば今日中に着きたいもんだな」


 確かにバルの言うとおりだ。

 それにここでシーナと争ってこの先の町に着くのが遅れたんじゃ俺らがもたねえ。


「はぁ……折角街に着いたと思ったのにまた歩くなんて……」


 こうして俺らは平原をテンションダダ下がりの状態で歩いていく。


「町に着いたら宿探し、その後は3番目の街についての情報を集めるぞ。あの街から逃げてきた連中とかいるかもしれねえしな」


「うむ、そうじゃの。あの2人組についての情報も集められれば集めようぞ」


 バルはあの2人組も気にかけてるのか。

 まあ俺もあの2人はいやいや門番をやってそうな気がしてるからちょっと気になってるけどよ。


「私はその前にお風呂とご飯が食べたいわ」


 シーナはシーナで能天気だなおい。


「……わしも風呂には入りたいのう」


 シーナの呟きにバルも同調した。


 だが多分無理だろ。


「その辺はちゃんと宿とれてから考えろ。多分夜に着くからどこも満室で野宿するかもしれねえからな」


「うげえ……町にいるのに野宿とか何の罰ゲームよ」


「町の中でテント張って野宿すんのもオツなもんだぞ。周りで同じようにテント張ってる奴らと朝まで話したりな」


「私にはもうそんな体力ないわよ。話しかけてきたら追い返してやるわ」


「まあシーナらしいといえばシーナらしいかのう」


「あんま相手を怒らせるようなことはするなよ?」


「わかってるわよ。私も自分からバカな真似はしないわ。相手から私を怒らせるようなことをしない限りはね」


「…………」


「何よその目は!?」


 こんな具合にグダグダと話し続けて、途中モンスターと戦闘をはさみつつ、俺らは東へ歩き、なんとかその日の夜中には町へ到着することができた。


 ちなみに宿は案の定満室で、その後俺らは町の片隅でテントを張って休んだ。

 その時シーナは宿が取れなかったことで大分苛立ち、近くで同じく野宿をしていた奴らに喧嘩を売っていた。


 てめえ何やってんだよ。

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