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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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冤罪

「それでも俺はやってないんだあああああああああああ!!!!!」


 俺の叫びが森中に響き渡った。

 下着盗難容疑をかけられた俺は自らの潔白を力の限り叫んでいた。


「嘘ついてんじゃないわよ! ネタはもう上がってんだから!!」


 シーナはもうすっかり俺が犯人だと決め付けてまくし立てる。


「とにかくこれ以上嘘ついても見苦しいだけよ! 今正直に謝れば私が食事を作る当番を今後全部あんたが代わりに担当するだけで許してあげるわ!」


「それ単にてめえがもう料理したくないってだけだけじゃね?!」


「うるさい! この程度で私は許してあげるっていってんだから感謝なさい! まあバルはどうするかわからないけど」


 そう言うとシーナはちらっとバルの方を向く。

 バルはバルで今だ顔を赤くして俯いたままだった。


「バル! 俺はホントにやってないぞ! 信じてくれ!」


 俺はバルに必死に訴えかけた。


 するとバルはおどおどしながらだが俺の方を向いた。


 恐る恐るといった感じで見てくるので若干上目遣いになっている。

 顔を赤くして潤んだ瞳で上目遣いとかなんなんだよ。


「えと……その……2人の内のどちらかに絞れなかったんですか?」


「てめえも何言っちゃってんの?!」


 そういう問題じゃねえだろ!

 てかどういう問題なんだよ!


「そうよ! 2人いっぺんにパンツを盗むとかあんた恥ずかしくないの!? 見境ないの!?」


「だから恥ずかしいも何も俺はそもそも盗んでねえっつの!」


「まだしらばっくれるつもり!? 私がこんなに譲歩してあんたの倒錯的な欲望を見なかったフリしてあげようとしてるのに!」


「おいこらてめえ俺がパンツ盗んで何をするかで妄想逞しくしてんじゃねえよ!? 俺そんなことしねえからな!?」


「そんなことってどんなことよ! 聞かなかった事にしてあげるから言ってみなさいよ!」


「言わねえよ?! てめえ何を俺の口から言わせようとしてんの!?」


 その後も俺らは互いに一歩も引かずに言い合いを続ける。


 するとすぐ近くの草が生い茂った場所から何かが動く音がした。


「! モンスター!?」


 俺は咄嗟に弓を構える。

 そして何がそこから出てくるかじっくり見極めた。



 ……だがその草の密集地から出てきたのはパンツだった。



 俺はそのパンツを見た時、一瞬だけ唖然とした。


「って! あれ私のパンツじゃないの!?」


 隣でシーナが驚いていた。

 てかよく見ると出てきたのはパンツじゃなくて、さっき俺が見た茶色い猿だった。



 ……そしてその猿は頭にパンツを被っている。



「てめえがやっぱ犯人かよ!!!!!」


 俺はつい目の前の猿に怒鳴った。


 すると猿はビクッと体を動かして、俺らと逆の方向に駆けていった。


「ちょ! 待ちなさいよ!」


 その猿をシーナは追いかけていく。

 そしてすぐに猿とシーナの距離は縮まっていき、あっという間に捕獲する……かに思われた。


 だが実際は、その猿の小柄さと機敏さで森の地形を生かして木の枝を掻い潜り草の中を逃げ回り、追いかけるシーナを翻弄している。

 そしてそれに対抗するシーナはなかなか捕まらない猿に業を煮やして動きが荒くなる。


 猿を追い掛け回すそのシーナの姿はまるで獣そのものだ。


「あはは、猿が2匹いるぞ」


「あんた今私の事猿呼ばわりしなかった!?」


 猿もといシーナが俺に抗議をしてきた。


「俺は冤罪かけられたんだ。これくらい言わせろ」


「てゆーかあんたは何ボケッと突っ立ってんのよ! あんたの弓は飾りなの!?」


「いやそうじゃねえけどよ。俺がやっちまって良いのか?」


「何がよ!」


 俺は一応シーナに聞いてみる。


「俺があの猿射抜くとその猿が被ってるてめえのパンツが血で汚れるぞ」


「あ、ぐ! わかったわよ! あんたはそこで高みの見物でも何でもしてなさい! いいわね!?」


「へいへい」


 その後シーナと猿の鬼ごっこは10分近く行われ、その結果シーナは見事パンツを猿の頭から剥ぎ取ることに成功した。


「おー。両者共にナイスファイトだったぜ」


「はあ……はあ……何あんたは冷静に褒めてんのよ……」


 猿に翻弄されたシーナは息切れしながら俺の方に近づいてきた。


「……なんなのあの猿……滅茶苦茶すばしっこかったんだけど? あれもモンスターなんじゃないの?」


「もしかしたらそうだったのかもしれないな」


 普通の猿がシーナの本気の走りに敵うはずないもんな。

 シーナの速度は残像が見えるというレベルだし、AGI補正による思考加速補正(なんだよそれふざけんな)があるシーナの瞬発力に勝てる生き物なんてそうそういやしない。


 だから多分あれもまたこの世界特有の生物なんだろう。


「それで? てめえは俺に何か言わなきゃならねえことがあるんじゃねえの?」


「う」


 俺は息の整ったシーナに詰め寄った。

 さっきまでの鬱憤を返させてもらうために。


「結局てめえらのパンツを盗んだのは俺じゃなくてあの猿だったって、てめえも納得したんだよなあ?」


「ぐ……」


「さっきまで俺は無実の罪でてめえらに随分なじられてたよなあ? そのことについてどう思うよ?」


「……わ、悪かったわよ……」


「ああ!? 聞こえねえなあ。てめえ今なんつったんだあ?」


 俺はわざと憎たらしい口調でシーナに詰問を続ける。

 そしてシーナは悔しそうな顔で俺の話を聞き続ける。


「さっきのてめえはなんつったっけ? 『あんたの倒錯的な欲望を見なかったフリしてあげようとしてるのに』、『聞かなかった事にしてあげるから言ってみなさいよ』だっけえ? てめえ濡れ衣被せた上に俺が何かをしようとか思ってたんだよなあ? あ? てめえ言ってみろよ。俺はてめえの心の中では一体何をしようとしてたんだあ?」


「ぐぅうぅ……!」


「おら、なんとか言ったらどうなんだよお?」


「わ、悪かったわよ! あんたを疑ったことは反省してる! だからそんなに私を責めないでよお!!!」


 シーナが半泣きになって俺に謝ってきた。


 ……くそっ。

 泣かれるとこれ以上責められねえじゃねえか。


「はぁ……わあったよ。今日のところはこれで勘弁してやる。てめえも無闇に仲間を疑うなよな」


「うん……わかったわよ……反省します……」


 シーナは自分のパンツを手に握り締めて俺に頭を下げてくる。

 まあ反省してんならもういいけどよ。


「……ったく。次からは気をつけろよ。それから、一時的とはいえ服をその辺に置いておくな。必ずアイテムボックスの中にしまえ」


「はい……気をつけます……」


 シーナはめずらしくしおらしい態度で素直に俺の言うことを聞いていた。

 普段からこれくらいおとなしけりゃいいのにな。


「んじゃそろそろ出発しようぜ。急いでたのに妙なところで時間くっちまった」


「うん……」


 シーナは俺の後ろをとぼとぼ歩いている。


「あ、そういやシーナ」


「な、なによ……」


「いい年してクマさんパンツはないと俺は思うぜ」


「ぶほっ!?!?!?」


 シーナがむせた。


 いやでもあれはないと思うぞ。うん。

 俺あのパンツ見たとき軽く意識飛んだもん。

 あのパンツはたとえバルが穿いていてもちょっとアウトだと思うわ。


「あ、あれは単に安かったから穿いてただけなんだからね?! 普段はもっとアレなの穿いてるんだからね!?」


「いや、普段てめえが穿いてるものがアレとか言われても困るんだが」


「私に何言わせてんのよあんたは! バカ! 死ね!」


「逆ギレ!?」


 ……とりあえずこれでシーナとのわだかまりはキレイに(?)解消された。


 まああんまパーティーメンバーを疑いながら行動するのも疑われてると思いながら行動するのも精神衛生上良くないしな。

 これでお互い水に流せればいいだろ。



 そうして森の中で起きた予想外のパンツ盗難騒動は幕を引いた……かに思われた。



 今まで会話に参加してこなかった兜を外した状態のバルが俺の袖をクイクイと引っ張っている。


「? どうしたんだバル? 何か俺に言いたいことでもあんのか?」 


「…………」


 バルは黙って俺に何かを手渡してきた。



 ……パンツだった。



「……えっと……私は……その……リュウさんの事……信じてますから……」


 バルは耳まで真っ赤になって俯いたままそう言ってきた。


 それに対する俺の返答は決まっていた。



「何を?!」



 バルの中で俺の何かが信じられてしまった。


「えと……そのパンツは……お貸しします……私、リュウさんの事信じてますから……」


 いや貸すなよ。

 俺の何を信じてパンツを貸すんだよ。


 そういえばさっきの猿がシーナのパンツを盗んだのは確定したが、バルのパンツは俺のいた所のすぐ近くにあったからそっちについての疑惑はまだ晴れていないのか?

 いやだからといって俺がバルのパンツを盗んだわけじゃねえしバルが俺にパンツを貸す意味もわからない。


 バルからパンツを貸してもらって俺はそれをどうすりゃいいんだよ。


「私、リュウさんの事信じてますから!」


 ……そう言ってバルは俺らが進んでいる前方へ走っていった。


 どうしてこうなったのか俺にはわからない。

 俺はパンツを握り締める。


 幸いなことにさっきまでのやり取りは後方にいるシーナには聞こえていなかったらしく、さっきまでと同様にとぼとぼと下を向いて歩いている。

 俺はとりあえずこれ以上問題が絡まないことにほっと胸を撫で下ろしつつ、歩き続けた。


 その後、バルのパンツは何か新たな疑いを持たれる前にちゃんと返した。

 返した時に『……本当に大丈夫ですか?』とかバルに言われた。


 いや大丈夫?とか言われても何がだよ。


 バルの行動に謎の多い一幕だった。

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