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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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それでも俺は許さない

 ブラックスパイダーとの戦いから3日が過ぎた。

 そして今、俺とバル、そしてシーナは2番目の街、セカンディアードの北門に来ている。


 今日は北に狩りに出かけるわけじゃない。この先を北に進んだところにある3番目の街、サディアードに行くために俺らはここにいる。


「この街とも今日で最後か」


 俺は街を見ながら感慨深く、そう呟いた。


「まあここから先は遠いからのう。もしかしたら引き返す羽目になる事もあるやもしれんぞ?」


「そうならないようにこの3日間入念に準備をしてきたんじゃないの! 胸を張りなさい!」


 そしてバルはこの先の旅の事を心配し、シーナは何も問題ないというかのように大きな胸を張ってバルに答えた。


「……お主に言われたくはないのう……」


「何か言った? バル?」


「何も言っておらんぞい」


「? そう?」


 俺らはいつもと同じような気軽さで話を続けていく。







 3日前、ブラックスパイダーを討伐してからはプレイヤー間で少々荒れた。

 生き残った者達について、蜘蛛騒動時に捕縛した『解放集会』の信者について、そして『解放集会』の教主を名乗る終について。




 今回のブラックスパイダーとの戦いで死亡したプレイヤーの数は150名弱だったらしい。

 この災害クラスの死者が現れたことで、プレイヤーの動きは大きく2つに割れた。


 一方は街の中でも油断はできないと感じて自分自身を守るために今まで以上にレベル上げを行うプレイヤー集団。

 そしてもう一方はどこにも安全なところはないのだと色々なことを諦めてしまうプレイヤー集団だ。


 前者はより狩りが熾烈を極めて積極的に外へと出るが、後者はもはや無気力状態でなにもしない集団となってしまった。

 前者は強いプレイヤーも出てくるだろうが死にやすくなり、後者は他の戦っているプレイヤーとの溝が深くなる。どっちもどっちな結果だ。




 そしてプレイヤー間で問題になったのが、捕縛した『解放集会』の信者の処遇だ。

 今回こいつらによって間接的に殺されたプレイヤーは多い。

 そのことから信者全員を殺せという風潮がプレイヤー内でまかり通っていた。

 特に仲間が殺されたプレイヤーからの声は大きく、殺すのなら是非俺達に殺させてくれと言う奴らまで出る始末だった。


 俺もあいつらは殺したほうがいいと思ったが、それと同時にこの流れはかなりまずいと思った。

 なぜならここで信者を殺すことをプレイヤー全体の意志として容認したら、近い将来俺らは自滅しかねないと思ったからだ。

 俺らが戦うべきは魔王であるはずなのに人間同士が殺しあう。そんな事をしていて本当に俺らは元の世界に帰れるのだろうか。

 だが俺と同じ考えの奴も多くいたようで、流石に殺すのはマズイという意見も多く挙がって極刑派と大論争となった。

 その結果命を奪わない刑罰として、近くの炭鉱でこき使うとか『アイテムボックスの刑』なるこの世界だからこそできる刑なども模索され始めた。


 しかし俺のそんな悩みは昨日の段階で解消された。

 それは俺ら側の人間によってではなく『解放集会』の連中によってだったが。


 昨日の早朝、まだ太陽が見えるか見えないかといった時間に、捕縛した『解放集会』の信者を集めていた牢屋が襲撃にあって中にいた連中が全員脱獄したそうだ。

 あれだけ監視を徹底しろと言われていたはずなのにこうもあっさりと二度目の脱走を許してしまうとはどういうことか。

 そういった話も出たが、結局理由はわからずじまいだった。

 ただ、噂では俺ら側の中に『解放集会』側の内通者がいたのではないかと、そんな話が耳に入った。また、蜘蛛が街中を襲っている際に一度脱走したのもソイツが手引きしたのではないかと。まあ実際はどうなのか俺にはわからんが。




 そして『解放集会』の教主、終。

 俺らがブラックスパイダーを倒した後、広場にいた連中に事のあらましを伝えたからあいつの名前は既にこの街にいる奴ら全員が知っている。

 もはやあいつは俺らプレイヤー全てを敵にまわしたと言っていい。

 終の性格や人相についても、説明はしづらかったがなんとか伝えた。

 その結果、そういう奴を見かけたら即プレイヤーが集まって袋叩きにできるよう人を集めている奴もいるらしい。

 とりあえずあいつはもう大手を振って外を歩くことはできないだろう。

 あいつは逃げも隠れもしないと言っていたが、この状況でどれだけその態度を崩さずにいられるか見物だな。

 つーかあいつ、俺らに自己紹介するためだけに道場まで来たのかよ。




 それとこれは俺がちょっと気になったことだが、街に住んでいた住民についての話だ。

 今回街全体規模のモンスター襲撃という事態が起こったわけだが、それで実際に命を落とした住民は驚くほど少なかった。

 そのことについて気になったので街の住民に訊ねてみると『それはきっと守り神様のおかげです』と言われた。

 この街で守り神様とか言われるものを俺は1つしか知らない。あのナゾのオブジェだ。

 どうやらこのスキル、此方から攻撃をしかけたりしない限りはかなりの確率でモンスターからの襲撃を回避できるらしい。


 さらに深く訊ねたところ、この街に住む住民は全て、赤ん坊の段階であのナゾのオブジェから祝福をもらっていたのだという。この街の住人にとっては外を歩くためには必須なものなのだとか。

 あのオブジェそんな凄い神様扱いだったのか。街の住民全員って。


 その話を聞いてから俺はプレイヤーにもスキル『神隠し』の有用性を知ってもらうべく情報を広く流した。

 そしてその結果、それまでは普段誰も近づかなかったあのオブジェの前に人だかりができていた。

 そこに集まった奴らは全員がオブジェにお祈りを捧げている。

 また、そこでお祈りを捧げている奴らはプレイヤーだけではなく、街の住民の姿も数多くあった。

 今回の騒動でモンスターに襲われなかったことを守り神様に感謝しているのだとか。


 それともし俺が『神隠し』を手に入れた時点でプレイヤーに広められれば少しは被害者が減ったかもしれないと思ったが、それだと結局教われた奴の分誰かが被害にあうだけかと思い直してあまり考えないようにした。

 まあなんにしてもこれでプレイヤーが外へ出た時のモンスターによる死亡率が少しでも下がればいいんじゃねえの?


 オブジェちゃんもこんなたくさんの信者共に囲まれてまんざらでもないだろうさ。

 めでたしめでたし。




 そして……。






「もう出発しちゃうんだね」


「俺たちもしばらくしたら追いかけるからよ。その時はよろしくな」


「体調には気をつけてくださいね」


 俺らの出発を聞いて『ホワイトソード』の6人が見送りにやってきた。

 今は亡きエイジの作ったパーティーだが、リーダーがいなくとも6人で行動してるらしい。

 コイツらにはもう強い絆ができてるんだな。


「うぅ……シーナちゃん! 俺もすぐ追いかけるから待っててくださいっす!」


「ピー太……シーナさんが引いてるからやめろよ」


「あらあら、なんだかいつも通りでごめんなさいねえ」


「いや、そんなことねーよ。見送りにきてくれてあんがとな」


 俺は見送りに集まってくれた6人に感謝した。


「本当なら私たちが先にこの街を出る予定だったのにね……」


「まあな……まあ俺達はしばらくの間安全路線でいくって決めちまったからな」


「この先はフルメンバーで挑みたいですしね」


「……まあでも俺達のリーダーの代わりに誰かを入れるってのも気が引けるっすね」


「だからここで少し時間をとるんだろ。この間に心の整理をしておけよ」


「でも……そう割り切れるものでもありませんしねえ……」


 『ホワイトソード』のメンバーはその場で話しこんでしまった。

 気持ちはわかるがこのタイミングでパーティー内の相談をするなよ。


 俺の心の声が聞こえたのか、すももが話を切り替えるかのようにパンッと手を叩いた。


「はいっ、この話は宿に戻ってからにしましょ。今はリュウたちの見送りが先!」


「っとと、そうだったな。流石は新リーダー。ようやく俺たちを統率する自覚を持ち始めたか」


「別にそんなんじゃないわよ。新リーダーっていうのもまだ確定じゃないでしょ?」


「なんだ、すももがリーダーになるのか?」


 それは初耳だな。

 まあこの中では一番リーダーシップを取れてかつまとめられそうな奴だが。


「仮よ仮。ただ単に私が最初にエイジにパーティーに誘われたメンバーだからってだけよ」


「ふーん」


「でもすももちゃん、エイジさんがいない時とかサブリーダー的なことしてましたよね?」


「うっ」


「話が脱線しているぞ。今はリュウ達を見送るんだろう?」


「そだった。ごめんねリュウ」


「いや、別にいいけどよ」


 そうしてすももはコホンと咳をしてから改めてといった様子で俺らの方を向く。


「それじゃあリュウ、バル、シーナ、またね。これでさよならじゃないからね」


「またな! 俺達は俺達のペースは進むからよ!」


「またお会いしましょう。まだまだ話し足りませんので今度会うときは弓の扱いについてもっとゆっくりお話しましょうね」


「リュウさん! バルちゃん! シーナちゃん! 俺の事忘れないでくださいっす! またどこかで!」


「リュウ。蜘蛛との戦いではお前がいてくれて僕達は本当に助かった。またどこかで会おう」


「うふふ。それではまた会いましょうねえ」


 6人はそれぞれ俺らに別れの挨拶をしてきた。

 それに合わせて俺らも別れの言葉を返す。


「ああ、俺らもてめえらには本当に世話になった。またどこかで会おうぜ」


「うむ! わしもお主らと再会できる時を心待ちにしておるからの!」


「ふん! また会うまであんたたち絶対死ぬんじゃないわよ! いいわね!」


 そして俺らは歩き出した。

 目指すは北にある3番目の街、サディアード。


 俺らは2番目の街を出発した。






「それで、今まで2人とも何も言わんからわしも特に聞かなかったことなんじゃが、シーナは結局正式なパーティーメンバーという事でよいのかのう?」


「ああ、その辺バルには話してなかったっけか?」


「なんじゃ。わしのいぬ間にその話は済んでおったのか。わしもパーティーメンバーであるはずなのにのう……」


 バルがのけ者にされたと思ったのか若干声のトーンが低くなった。


「いや、そんな風な話はあったんだが有耶無耶になってた」


「ふむ?」


「前にシーナと勝負をしてたんだ。俺とバルがレベル15になった時にシーナが必要だと俺らが認めたら正式にパーティーを組むってな」


「ふむ、そうじゃったか。……ん? それじゃと今はどうなるんじゃ?」


「だから有耶無耶になったんだよ」


「なるほどのう」


「個人的には納得いかないんだけど?」


「まあそう言うな」


 そうだ。

 俺とシーナがした勝負はレベル15になった時シーナを本当に必要な存在として認められているかどうかというものだった。


 だがあのブラックスパイダーを俺が倒したことでブラックゴーレムの時のように何かアイテムが手に入ったわけではなかったものの、俺とバルのレベルは一気にレベル18に上がり、シーナもレベル17に上がった。

 つまりレベル15をすっ飛ばしてしまったためその勝負は白紙になった。


 まあいきなりレベルアップしてシーナの件の考えをまとめる時間がなかったってのが本音だけどな。

 本来ならもう少し時間があるはずだったのにいきなりレベルアップしたものだから俺もシーナも心の準備ができずじまいだった。

 だから俺らはブラックスパイダーを倒した後もお互い話せずじまいで、その後も事後処理やら長旅の準備やらなんやらで考える時間もなく、ずるずるとここまで行動を共にしていたのだ。


 しかしそれでもシーナは俺らと一緒にいる。

 それが多分答えなんだろう。

 あれから3日間、俺らはずっと一緒だったしな。


 わざわざシーナが必要かどうかなんて考える意味なんかない。

 なぜならすでに俺らのパーティーにはシーナがいて当然なんだと思っているからだ。


「それでも一応ちゃんと言ってほしいんですけど? 散々私を仮パーティーとかお試しだとか言ってたわけだしねー」


「……ちっ。わかった。言えばいいんだろ言えば」


 まあキチンと俺らの関係性を示すという意味では必要なことか。

 俺は大きく息を吸って吐き出すと、シーナに向かって言葉を紡ぐ。


「俺らのパーティーにはシーナ、てめえが必要だ。ここでの必要ってのは誰か替えのきくようなモンじゃなく、シーナだからこそ必要って意味だ。だから俺らと一緒に来い、シーナ。一緒に魔王をぶっ倒そうぜ」


「な、なかなか熱い勧誘ね……ちょっと顔が熱くなってきたかも」


「うっせ。それで? てめえの返事を聞かせろよ」


「そうじゃのう。ふふっお主も特別熱い返事を頼むぞい」


「なっ! 私はあんな恥ずかしいこと言わないわよ!」


 シーナは顔を赤くしてバルに言うが、それをバルはやれやれといった様子で、両手を肩まで上げて首を振っている。


「こういう時でないとお主は素直になれんじゃろう? ほれ、遠慮することはないぞい? お主の思いをわしらにぶつけてみんか」


「……あんたも結構人をからかうのが好きなタイプだったのね……」


「どちらかというとお主がからかってくださいオーラを放っているという感じかの」


「誰もそんなオーラ放ってないわよ!?」


 シーナはバルに怒りだした。

 つか話進まねえな。


「おいシーナ。さっさと返事を聞かせろよ。さっき言った事全部ナシにすっぞ」


「わ、わかったわよ! 今言うわよ!」


 シーナはそう言って深呼吸すると、真面目な顔をして俺らの方を向いた。


「パーティーへの勧誘ありがとう。私でよければ加入するわ。それと……私もあんたたちが必要。あんたたちじゃないと嫌。だから、パーティーに入れてくれて本当にありがとう。一緒に魔王をぶっ倒しましょう!」


 シーナは息継ぎなしでそこまで言うと、今まで赤かった顔を更に赤くさせて両手で隠した。


「あーもー、何言ってんの私は……すっごい恥ずかしいんですけど」


「いやいや。お主の思いはちゃんとわしらの心に響いたぞい。のう? リュウ」


「ああ、そうだな。ツンデレらしいなかなかデレッデレの台詞だったな」


「ツンデレじゃないって言ってんでしょ!? 何度言わせれば気が済むのよ!」


「うっせ。てめえはそうやって怒ってツンツンしてる間はツンデレの呪縛から逃れられねえんだよ」


「わしから見ればリュウもなかなかのツンデレだと思うんじゃがのう」


「俺が? 冗談。パーティー内に2人もツンデレはいらねーよ」


「だから私はツンデレじゃないわよ!」


 こうして俺らは荒野を歩いていく。


 正直な話、有耶無耶にしておけるならシーナには言わなくていいと思っていたことだから言わなかったが、多分俺はあのブラックスパイダー戦を切り抜けた時点でシーナの事は認めていたのかもしれない。


 だってそうだろ?

 シーナはそんじょそこらの回避盾とはわけが違う。

 仲間がピンチの時に体張って攻撃を受け止めようとする回避盾なんざそうそういねえだろ。

 だからレベル15になった時とかいう屁理屈を抜きにすれば、俺とシーナの勝負はシーナの完全勝利だったのかもしれない。


 俺はシーナを見る。


「な、なによ?」


 シーナが俺の視線に気づいた。

 今考えてたことを思うとちょい恥ずいな。


「別に、ただシーナがパーティー入ってくれてよかったなって思っただけさ」


「あ! 今のをツンデレって言うんでしょ? さっきの勧誘台詞では言うタイミングがなかったけど今度は言うわよ! このツンデレ! 人の事ツンデレ言う前に自分の事を顧みなさいよ!」


「うっせ。俺の場合は思ったことを口にしているだけだ。こういうこともたまにはある。てめえみたいに言うこと全部計算づくじゃねーんだよ」


「人の事勝手に計算高い女みたいに捏造すんのやめてくんない!? 私の言葉だっていつも本心なんだからね!?」


「じゃあさっきの恥ずかしい返事も本当に全部本心か? 違うと思ったのは俺の勘違いか?」


「私は本心であんたたちと一緒にいたいと思ったんだから、そんな勘違いしないで!」


「なんだてめえツンデレか」


「違うわよ!!!」


 そんなやり取りをしつつ進み続ける。


 次の街までの道のりは長い。

 そこまでの間はコイツらといれば退屈しねえだろうさ。

 俺らは一緒に戦いながら俺らの速度で進んでいく。


 次の街ではユウはいるだろうか。

 そんな事を思いつつ、俺はエイジの事も思い出す。



 ……なあ、ユウ。

 てめえは今も生きてるよな?

 てめえはエイジみたいに死んだりしねえよな?








 そして終のことを思い出す。


 あいつは俺が絶対斃す。

 そうしないと、俺はエイジ達に顔向けできないからよ。


 もしかしたらそれは俺のエゴなのかもしれない。

 それにあいつを俺が勝手に裁くのは傲慢なのかもしれない。


 しかし、それでも俺は許さない。


 俺はブラックスパイダーと戦っている時にもこんな事を思っていた。

 そしてその思いは元凶となる終においても変わらない。


 法がなければ罪がないなんて事はない。

 それを俺は、絶対にあの男にわからせてやる。

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