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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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お荷物

 マキが言い放ったその言葉を聞いた俺は思わず声を荒げるようにして問いかけた。


「パーティ抜けろって……一体どういうことだよおい!!!」


「うーん、まあそのままの意味かなぁ。多分リュウさんにとってもそのほうがいいと思うし」


「俺のためにもって……ちゃんと説明しろよ! いきなりそんなこと言われて納得できるか! ユウも何か言ってやれ!!」


 やっとこれから力を合わせて頑張っていこうって全員の意思が一つになったと思ったってのに水差しやがって!

 そんなこと突然言ったところで他の連中、特にユウが許すはずないだろ!


 俺がそうして憤慨しつつユウの方へ目を向けると、ユウは何かを悩んでいるような、困っているような顔をして俺を見つめていた。

 ……なんだ? 俺何か変なことでも言ったか?


「……うん。そうだね。……僕もリュウはパーティーから抜けたほうがいいと思うよ」


「はぁ!? ちょっユウ、何言い出してんだよ!!」


 なんでだ?!

 ついさっきまで一緒にパーティー組むって流れだったじゃねえか!

 なのにどうしてこんないきなり手の平返すようなことしやがるんだ!?


「お、おい。マジかよユウ。ゲームが当選した日、一緒にパーティー組もうって誘ったのはお前じゃねえかよ! なのになんでそんなこと言い出すんだよ!!」


「……ごめん」


 おい


 ごめんじゃねえよ


 何謝ってんだよ


「ふざけんな! 謝ってんじゃねえよ!! 理由を言えってんだバカヤロウ!!!」


「ハァ……代わりに私が言うわ」


 俺がユウに詰め寄っていると、それを止めるようにして静が俺とユウの間に立ち塞がってそんなことを言い出した。


 ……静、お前もなのかよ。

 さっきは俺の意見に同調してくれてたじゃねえか。

 なのにどうして。


「一言で言うとリュウ、きみはお荷物なのよ」


「ちょ、静! もうちょっと言葉を選んで――」


「ドラは黙ってて」


「俺が……お荷物……だと?」


 お荷物……役立たず……ははっ。

 つまり俺がこのパーティーに居続けると迷惑だってことか?


「さっき才能値の話をしたわよね? その時きみはSTRに才能を全て注ぎ込んだと言った。それがお荷物になる原因」


「あ……」


 ……そうだ。

 さっき現れた影のインパクトの方が大きかったせいですっかり忘れていた。


 あの時俺はSTRに才能値を全部振ったと言って、そのことをこの場にいる全員に失敗だと言われ、そしてここからログアウトできたら早速キャラを作り直す気でいた。


 だがそれは今となっては不可能。

 なぜならもうログアウトするにはゲームクリアするしかねえんだから。


「リュウのビルドだと今の時点ではどうあがいてもまともに戦うことはできない。それが理由」


「ぐっ」


 静の言葉に俺は何も言い返すことができない。


「……」


「どうやら納得したようね」


 うるせえ。

 理解はできても納得なんかできるか。

 だがもし俺がここで駄々をこねてパーティーに居続けた結果、本当に俺がこのパーティーでお荷物になったとしたら……


 ただただ惨めだ……そんな俺を……俺は許容できない。


 俺はその場にガクリと膝を地につけ、どうしようもない苛立ちを地面にたたきつけるかのように右手で殴った。

 殴ったとたん物凄い音がドゴンと鳴り、地面に拳がめり込んでいた。


 ……ははっ。さすが筋力全振り。現実世界じゃこうはいかねえよ。

 俺がそんなどうでもいいことを思い地面を眺めていると、ユウが俺の肩に手を乗せてきた。


「悔しいのはわかるよ。でもしょうがないんだ。これもリュウのためなんだよ」


 うるせえ。

 そんな言葉聞きたかねえよ。


「だからほら、元気出して。僕たちがゲームをクリアするまで始まりの街で待ってて」




 ……今こいつ




 なんて言った?





 てめえらが ゲームクリアするまで  始 ま り の 街 で 待 っ て ろ ?




「……ふっざけるなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


 俺はここにきて遂にキレた。


 ふざけるなふざけるなふざけるな!!!


「おい友也! てめえ今何つった!? この俺に向かって街ん中引っ込んでろっつったのか!!!!! どうなんだよ! ああ!?!?!?」


「ちょ、りゅ、リュウ、落ち着いて」


「落ち着けとかんなことできるかボケ! そんなことよりさっきてめえがぬかした事もう一度俺に言ってみろや!!!」


「え? う、うん。だから、僕たちがなんとしてもゲームをクリアしてみせるから、それまでリュウは始まりの街で安全に――」


「気にいらねえ。てめえのその考えマジ気にいらねえよ!!! なんだそれ? 危険なことは任せてあなたは健やかに暮らしなさいってか!? てめえいつから俺の保護者になったんだよ!! 言ってみろオラァ!!!!」


 そうだ、いつの間に俺はコイツの庇護下に入ったんだよ!

 ふざけるな! なめるな!! 馬鹿にしてんじゃねえ!!!


「いいか!? 俺がパーティーでお荷物になる、それは認めてやるよ! でもなあ!! 危険をてめえに背負わせて俺を安全な場所に置くなんてのはゼッテー認めねえ!!!」


「で、でもリュウ、それは君のため……」


「でももクソもあるか!!! 何が俺のためだ! そんな安い同情いらねえんだよ!!」


「ちょっとリュウさん! さっきからユウ君にひどくない!? あなたが役立たずなのは事実なんだからおとなしく街に引きこもってなさいよ!」


「なんだとこのアマ! 横からいきなりしゃしゃり出てくんじゃねえよ!! 引っ込んでろ!」


 俺とユウが話している中に突然マキがユウを庇うようにして俺を睨みながら非難してきた。

 それに対して俺は怒鳴るとマキは絶句し、そして再び声を上げる。


「な、なによ! 引っ込むのはあなたの方でしょ!! 私達はあなたみたいな初心者を寄生させておくほど寛容じゃないわよ!!!」


「誰が寄生だゴラァ!!! ぶっ飛ばすぞ!!!!!」


「ふ、ふたりとも! ちょ、落ち着いて!」


「るっせえ! てめえもてめえで俺を馬鹿にすんのも大概にしろよ!!」


 俺だけぬくぬく暮らして待ってろとかそんな事できるわけねえだろうが!

 俺のことを思ってとか、そんなクソみてえな思いやりなんて要るか!!!


 特に友也、町で待ってろとか、お前からそんな言葉聴きたくなかった。

 お前から俺の事を格下のように扱われる言葉だけは……

 ちくしょう。


「なぁ友也……、俺とてめえはガキの頃から同等だったんじゃねえのかよ……」


「龍児……」


「もういい、俺はパーティーを抜ける。俺は俺で好きにさせてもらうからな」


「ちょ、待ってよ。リュウ!」


 うるさい、もう知るか。俺は始まりの街に引きこもったりなんてしねえ。

 目指すべきは2番目の街とやらがある東だ。


 俺はメニューを開いてマップの欄を見る。

 現在地は……ここか。なるほど『始まりの草原』ねえ。

 それと確かにマップを見ると東側に街らしきものがあるようだ。ここからだと始まりの街へ行くよりもかなり道のりが長いみたいだが行くしかないだろ。


 俺はユウたちに何も言わず、東へと走り始めた。






 そろそろ始まりの草原を抜ける頃合いだ。ここから先は荒野が広がっており、その先に街があるようだ。

 俺がマップを見て場所を確認していると後ろから声をかけてくる奴がいた。


「ねえリュウ、考え直して始まりの街に行ってくれないかな」


 ユウの声だった。


「僕はリュウに死んで欲しくないんだ」


「うるせえ、さっきから何度言わせるんだよ。俺はこの先の街に行くんだよ。邪魔すんな」


 パーティーを抜けることを宣言してその場を走り去った俺は、あいつらと鉢合わせしないように最短ルートより若干南に向かって進んでいた。なのにこいつらはどこまで走っても俺のそばから離れやしねえ。

 いい加減うっとおしくなってきた。


「あのさ、いつまで俺の後ろついてきてんの?」


「それはリュウが始まりの街に行く決心がつくまでだよ」


「……なあてめえらさ、最前線で戦うとか言ってただろうがよ。俺にいつまでも構ってる暇なんてあんのか?」


「正直あんまりよくないけど、僕にとってはリュウの安全の方が大事だよ」


「ちっ。おい、ユウはそんなこと言ってるがてめえらはそれでいいのかよ?」


 埒が明かなそうだったから後ろの五人に問いかけてみると、5人を代表するかのようにトトが前に出た。


「まあええんちゃう? ワイらはリーダーの意思に従うってさっき皆で決めたんや」


「へえそうかいそうかい」


 くそっ。これじゃ何のためにパーティー抜けたのかわかんねえじゃねえか。

 保護者きどりがユウのほかに5人増えただけじゃねえか。


「リュウ、この先へは本当に言っちゃダメだ。そろそろ荒野になる。モンスターが襲ってくるよ」


「へえモンスターねぇ。腕試ししたかったからちょうどいい」


 そうだ。

 皆から戦えないとか言われ続けていたが、俺はまだ一度も戦闘をしていないんだ。

 俺はふとメニュー画面から俺のステータスを表示させる。


  NAME リュウ


  HP   100

  MP    0


  STR  101

  VIT   1

  DEX   1

  AGI   1

  INT   1

  MND   1

  LUK   1



 どうやら才能値を振らなくても全てのステータスに最低1はあるようだ。

 HPにいたっては100だ。多分才能値振ったら100ずつ上昇してたんだろうな。

 そして肝心のDEXは1。つまり攻撃が当たる可能性は0じゃないって事だ。


 つかそもそも攻撃が当たらないって何だよ。ただ剣で殴ればいいだけだろ?

 現実世界の俺はケンカをそこそこやってはいたが、負けたことは小さいときの1度だけしかない。


 この仮想の世界は現実世界をこれでもかというほど再現している。

 だったら当てられない道理はねえ。モンスターが襲い掛かってきたら今までの鬱憤を込めて盛大にぶったたいてやる。


 俺がそんな風なことを考えていたのが幸いしたのか、遠くの岩陰からひょこっと何かが姿を現した。


 ……なんだ? イノシシか? 茶色いし。

 あれ、でも牙がねえな。じゃあブタか。でもなんか毛深いな。


「まあなんでもいいや。おうてめえら、あいつは俺が一人で仕留める。手出しすんじゃねえぞ」


「……わかったよ。でも危ないと思ったら手を出すからね」


「うっせ、好きにしろ」


 どうやらあのブタは一匹だけのようだ。

 見た感じ多分チュートリアル的なモンスターなんだろう。大きさも1メートルくらいで全然こわくねえ。


 ていうか現実のブタより若干デフォルメされててかわいいと思えるくらいだ。なんか殺すのもしのびねえな。

 だがこれも生きて現実世界に帰るためだ。心を鬼にして経験値にさせてもらおう。


「おらこいやブタ公!」


 剣を抜いて俺が叫ぶとブタは俺に向かって突進してきた。


 ……て早っ!?


「うおあ!?」


 あっぶねー!


 俺はブタの予想外のスピードに度肝を抜かれたが、何とか横に体を動かして回避に成功した。

 くそっ、ユウたちが見てるっつーのに無様なとこ見せられっかよ!


「うらあ!」


 俺は突進後に急ブレーキをかけたブタ目掛けて懇親の一振りを放つ。

 ……が、その攻撃をブタは何事でもないかのように無視して此方へ向かってきた。


「ごっ!!」


 そして俺はそのままブタの体当たりをくらい、至近距離でそこまで威力がないはずなのに一瞬意識が飛んだ。

 ……おい、うそだろ? なんでこんな苦戦してんだよ。今の俺の攻撃はどうなったんだ?


 ……つーか


「いっでええええええええええ!!!」


 うそだろ。なんでヴァーチャルなのにこんな痛いんだよ!

 普通セーフティー掛かってるはずだろ!?


 ……あの影がセーフティー解除しやがったのか?

 いや待て。今はそんな事考えてる場合じゃねえだろ!

 

 俺は剣を構えなおして左上に視線を向ける。そこには俺のHPが緑色で表示されている。

 しかし、さっきまで全快だったHPは今では7割半ほどにまで減少している。

 さっきのだけで4分の1削られたのかよ。


「くそっ、でやぁあ!!」


 俺は再度ブタに向かって切りかかるが、当たったと思った瞬間、腹に体当たりをぶちかまされた。


「ごふっ」


 またくらった。

 だが今のはなんだ?

 俺の攻撃当たったはずだろ?


 だがこのわけのわからない現象に納得いかないと地団駄を踏む暇なんて今はない。

 今はとにかくあいつを倒すことに集中しろ。あのブタから目を離すな。

 HPも残り5割弱、おそらく次の攻撃がラストチャンスだ。

 これ以上はユウが出張ってくる。


 俺がそうして攻撃のタイミングを窺っている間、ブタは俺から距離をとり、そして反転して俺に向かって再び突進を仕掛けてきた。


 ……最初ブタの突進を避けられたのは回避運動を起こせるだけの十分な距離と時間があり、なおかつこのブタの突進攻撃は一直線で途中曲がったりしなかったからだ。

 多分今避けようとすればさっきのように避けることは可能だろう。


 だが今回は避けない。

 避ける代わりに俺は剣を体の前において待ち構える。


 敵は一直線に向かってくる。

 それを避けることができるなら当てる事だってできるはず!


「うおおおおおおおおお!」


 俺は迫り来るブタの額に向かって必殺の突きを放った。




 そして俺の意識はそこで途絶えた。

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