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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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横槍

「おいおめえら! 今がどんな状況かわかってんのか!」


 ポッポが怒ったように黒いローブ集団に向かって声を張り上げた。

 しかし黒い集団は武器を構えることによって俺らに意志を示した。


 ……なるほど、つまりコイツらは俺らの敵だ。


「おいおい、ただでさえ蜘蛛退治だけで手一杯なのにコイツらとも戦うのかよ……」


 俺はつい愚痴を漏らすがそれにエイジ達は何も言わない。

 こいつらも内心そう思っているのだろう。


「一応プレイヤー同士なら街の中だからセーフティー効くよな?」


「それは大丈夫。街の中でダメージがあるのはあの蜘蛛だけみたいだから」


 俺の確認にエイジが答えた。

 そういうことなら遠慮は不要だな。


 まあ街の外だろうとコイツらに容赦はしねえけどなあ!


「じゃあこいつらをさっさと気絶させるなりして簀巻きにすりゃいいな!」


「そうだな、……簀巻きって表現はあんま聞かないけどね」


「うっせ、じゃあ1人目いくぞ!」


 俺は黒いローブを着た集団の一人に矢を射る。

 その集団も他のプレイヤーと特別何かが違うというわけもなく、矢が命中した奴は遥か後方に吹っ飛んでいった。


 そしてさっきまで蜘蛛と戦っていたプレイヤー連中も事の異常さに気づき始めて武器を構え始めた。


「生け捕りにしろ! コイツらが何考えてるか洗いざらいゲロってもらうからな!」


 俺の声を合図にして蜘蛛退治側プレイヤー対黒ローブ集団という人間同士の戦闘が始まった。


 ……だが黒ローブ集団の数は十数人程度なのに対し、此方は20人以上の戦力で数が勝っていたためにあっという間に俺らの勝利に終わった。


「……なんだったんだコイツらは」


「さあ……」


 俺が肩をすかして周りに訊ねると、エイジ達も同様の思いだったようで同意の意志を示してきた。


「まあいいか、いつまでもこいつらに時間をとられるわけにはいかねえ」


 俺はそう言って縄で縛り上げた黒ローブ集団の1人に小休止がてら尋問を始める。


「つうわけで時間をとらさずにさっさと吐け。てめえらなんで俺らを攻撃した?」


 まあ大体予想はしてるけどな。

 街の中でモンスターが暴れている今ならより多くのプレイヤーを解放できるとかそんなことを考えてたんだろう。


「ぐぅ……」


 頭に被っていたローブを剥ぎ取ると、無精ひげの生えた男の顔が見え、その男は突然の日の光を目に入れて眩しそうに目を細めていた。


「言え。てめえらのその格好から察するに『解放集会』とかいうふざけた集団なんだろ? そうなんだろ?」


 俺の問いかけに無精ひげの男はニヤリと笑って口を開く。


「ああそうさ。俺達は『解放集会』のメンバーさ」


「だったら俺らを襲った理由も読めるが、一応念のために聞いてやる。てめえらはなんで俺らを襲った?」


 男はクックックッと笑い声を出しながら俺らを睨みつけた。


 と、そのタイミングで例のくのいちが俺らの方へ連絡を届けに走ってきた。


「速報! 速報! 街の中の西側と南側に大量の蜘蛛型モンスターが現れて住民とプレイヤーを襲撃中! それにあわせて黒いローブを着た謎の集団が各地の蜘蛛を撃退しているプレイヤーに攻撃を仕掛けています!」


「な……」


 黒ローブ集団はこいつらだけじゃなかっただと……?

 しかも蜘蛛を退治している途中のプレイヤーにまで攻撃を仕掛けられたらかまりまずい事態になるじゃねえか!


「クックックッ、どうやら俺達の同士がそれぞれ動き出したようだな」


「! やっぱてめえらの仲間か!」


「そうさ。俺達はこの作戦を成功させるために街のいたるところに同士を潜ませている。ただここのエリアはモンスターの駆除が思ったより早くて俺達は間に合わなかったんだがな」


「作戦だと?」


「ああ作戦だ。街の中でモンスターと戦っているプレイヤーに横槍を入れてモンスターの進行を助けるという作戦さ!」


「てめえら……」


 予想はしていたが直接聞かされると腹立たしく感じてしまう。

 コイツをぶん殴ってやりたいが、そうするDEXも足りなければそうしている時間ももったいない。


 早く他の区域にいるプレイヤーの助成に向かわないと……




 ……待て、作戦?


「あい、てめえ。さっき作戦がどうのこうのと散々ドヤ顔で語ってくれやがったが……その作戦を立てたのはいつの話だ?」


「クックックッ、そんな事が聞きたいのか?」


「いいからさっさと唄えや! ぶっ殺すぞ!」


「このゲームから解放してくれるなら願ったりさ。まあ貴様にやられるのは痛みがきつそうだから勘弁願いたいがね」


「うるせえ! 御託はいいからさっさと吐け!」


 俺は無精ひげの男の胸倉を掴んで揺さぶる。

 これぐらいなら攻撃とは判断されずに俺でもやれる。


「わ、わかった、話す。この作戦が決まったのは今日の朝の事だった」


「……!」


 そうか……やっぱりか!

 今俺は確信した。


「てめえらがあの大蜘蛛を街に解き放ちやがったんだな!?」


「ご明察。俺達は昨日の夜、ついに教会跡地の地下にいる2番目の魔王を発見した。そしてその魔王が解き放たれる前に俺達は作戦通り街の各地にナリを潜めていたのさ!」


「ふざけやがって!!!」


「えっ!?」


「なっ!?」


「こいつらが!?」


 俺の怒声とともに後ろで話を聞いていたプレイヤーが次々に驚きの声を出し始めた。


 さっきの話で作戦というワードが出てきてもしやと思ったが、まさか本当にコイツらがあの大蜘蛛を街に放したとはな。

 仮に大蜘蛛が現れてから作戦を考えるのではいくらなんでも時間が無さすぎる。

 それに組織で動いてるのにそんなに早く構成員の末端まで作戦が行き渡っているなんておかしい。

 チャット機能も使えない今、作戦を考えて末端まで伝えるのにかなりの時間が必要だってことは想像できる。


 そして今から数時間前の朝に作戦が決まるのはどう考えてもおかしい。あの大蜘蛛が現れたのは昼少し前あたりなんだからな。

 そう考えるとコイツらは夜に魔王を発見してそれから作戦を立て、朝に作戦を組織全体に伝えて昼には準備が整ったので魔王を解き放ったという図式が成り立つ。


 しかもコイツらは街中に蜘蛛が襲いかかることを前提に動いている。どうしてコイツらは事前に蜘蛛の情報を入手できたんだ?


 ついでにコイツらが俺らの駆除を妨害できなかったのは単に街全てをカバーできるほどの人員がいないからだろう。

 無理に人員をばらけさせると数の暴力ですぐに鎮圧されるしな。



 あとこれはもう大体わかっていたことだが、あの大蜘蛛はやっぱり魔王だったか。

 あの黒い体はブラックゴーレムを連想させたからおそらくそうだろうとは思っていたが。


 そしてその魔王は教会跡地の地下から発見したとコイツは言った。

 多分コイツらは始まりの街の騒動を知った時、もしかしたら2番目の街にも魔王がいるんじゃないかと教会跡地を調べていたんだろう。



 ……クソッ、俺はここにも魔王がいる可能性に気づくべきだったのにこの事件が起こるまで全然気づけなかった。

 少し考えればその可能性に気づけたはずなのに……クソックソッ!


「……聞きたいことはまだまだあるがそろそろ動き出さないと街がマズイ。コイツらから情報を引き出すのは他の奴らに任せる。俺らは蜘蛛と『解放集会』に襲われている区域に急ぐぞ!」


「「「おお!」」」


 俺の掛け声に周囲のプレイヤーが賛同して走り出す。

 今はこの事件を収拾することが先だ。


 この黒ローブ集団の処遇なんか後回しだ。

 俺らは襲撃を受けている区域に急いだ。






「くそっ! ふざけやがって! お前らもプレイヤーだろうが!」


「なんでプレイヤー同士で争わなくっちゃいけないんだ!?」


「街中で今も蜘蛛が暴れまわってるんだぞ!?」


 俺らが駆けつけた区域ではいたるところでプレイヤーが蜘蛛と黒ローブ集団との戦闘を余儀なくされていた。


 黒ローブ集団はプレイヤーだから街の中でプレイヤーを殺すことはできない。


 だが今は殺し手として蜘蛛がいる。


 黒ローブ集団は巧みにプレイヤーの動きを止めて蜘蛛に襲わせている。

 ここでも既に何人もの死者を出しているようだ。


「やめろおおおおお!!!」


 俺はプレイヤーに向かって魔法を放ち続けている黒ローブの1人に矢を放って倒す。

 蜘蛛と黒ローブの数を比べたら黒ローブの方が断然少ない。

 黒ローブ集団さえいなくなれば普通のプレイヤーなら蜘蛛とは十分に戦える。

 俺は黒ローブを集中的に射抜いていった。


「よし次いくぞ!」


「「「おお!」」」


 黒ローブを全員縛り上げて蜘蛛もあらかた駆逐した俺らは更に次の区域へと駆け出す。


 そして次の区域でも同様に殲滅を完了したら更に次の区域へと走る。

 そんな戦いをして気がつけば街を1周していた。


「はぁ……はぁ……きりがねえな」


「でもこれで『解放集会』の連中はかなり捕まえられたはずだ」


「つまりはもう余計な邪魔は入らないってことね」


「だといいんだがな」


 『ホワイトソード』の面々は一同にため息をついて疲れを顔に滲ませる。

 俺も多分コイツらと同じようなツラしてるだろうな。


「にしても肝心の大蜘蛛が全然でてこねえな」


「どこかに隠れているのか……」


「もしかしたらその大蜘蛛を倒さないといつまでたっても蜘蛛が街にわき続けるとかじゃ……」


「おいやめろ。もしそうだったらシャレになんねえぞ」


 そうだ。

 親玉を潰さない限り無限にあの蜘蛛が湧いて出るとしたら、今俺らがしていることは凄まじい徒労だ。


 あの蜘蛛は倒しても経験値も金もゼロというふざけた仕様になっているし、そんな骨折り損な結果を認めたら俺らはもう走れなくなる。


「……だが先にあの大蜘蛛を見つけることを最優先にしたほうがいいかもな」


 それでもその最悪な事態にも対応できるよう大蜘蛛捜索の優先順位を1番にする必要はあるだろう。

 そう考えているとちょうどいいタイミングで例のくのいちが走ってきた。


「おう、ちょうどいいところに――」


「緊急事態発生! 各地で捕らえた『解放集会』メンバーを隔離していた建物を未だに潜んでいた残党が襲撃! 捕らえていた解放集会メンバーが逃げだしました!」


「なんだと!!」


 おい待てよ。

 この終わりのない戦いに更にまたあんな集団と戦わなくちゃいけないってか?


 勘弁してくれよ……


 俺がそう思っている後ろでも次々に苦悶の声が聞こえ出し、連鎖していく。


「捕まえた連中を監視していた奴らは何してやがったんだ!」


「すみません! どうやら捕らえていた建物に向かって解放集会の残党が蜘蛛を大量に連れてきたらしく、場がモンスターの出現に混乱している隙をついて脱走したそうです!」


「くそっ、とにかく逃げちまったもんはしょうがねえ。おい、あの大蜘蛛の居場所はまだ見つからねえのか?」


「すみません! 今は街中に現れている蜘蛛の対応に手一杯でして……」


「……もしかしたら親玉を倒さない限り蜘蛛が無限に湧き続ける可能性がある。大変だろうとは思うが大蜘蛛の捜索も手を抜かないでくれ」


「は、はい! わ、わかりました!」


 そう言ってくのいちは野戦病院のある広場の方へと走っていった。


「それじゃあそろそろ次の襲われてる区域に行くぞ!」


「「「おお!」」」


 そうして俺らも走り出す。

 この終わりの見えない戦いに絶望しかけながら。

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