表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
32/140

神隠し

 俺らは『ホワイトソード』と別れた後、午前と同様レベル上げをするために街の外に出てきていた。


「リュウ! そっちに1羽いったぞい!」


「わかってんよ!」


 俺の方へ飛んでくる派手な色の怪鳥に俺はほどほどに狙いを定めて矢を放つ。

 その攻撃で怪鳥は絶命し、残りの敵はバルが抑えているブタだけになった。


「今回もそれなりに上手く捌けたな」


 俺は武器スキルのクールタイムを待ちながら周りを見回してそんなことを言う。


「リュウ、まだ戦闘は終わっとらんぞ。気を抜くでない」


「へいへい」


 俺は10秒待って最後の敵に矢を放った。


「これで終了だな」


「うむ。じゃがリュウよ、最後まで気を抜かずにいかねばいずれ足元をすくわれるぞい」


「そこはホラ、モンスターを押さえていたバルの事を信頼してたのさ」


「適当なことを言うでない。今のお主は少し集中力が足りないのではないかのう?」


「わかった、悪かった。次からの戦闘は集中してこなす」


「うむ。それでよいのじゃ」


「おう」


 確かにさっきのは俺の不注意だった。

 午前中に危ない目に合ったばっかりだったのにな。ダメじゃん俺。


 だがさっきのピザ屋で話した内容が頭の中から離れない。

 もしかしたらモンスターと戦っている最中にでも例の『解放集会』が襲い掛かってくるんじゃないかと気が気でならない。

 そんなわけで俺はモンスターと対峙してもどこか別の場所を注視したりしていることが多くなった。

 集中力が足りないと言われるのも当然だろう。


 いくらバルが完璧に抑えているとはいえ、なんらかのアクシデントでその抑えも崩れる事だってありうる。

 そうなった時一番危険なのがロクに避けれずに一撃死のありうる俺だ。


 いくら安全を考慮してもし足りない。このパーティーに俺という最大の弱点がいる限りはな。


 バルは戦闘中、守ることを最優先で考えて行動している。

 だからさっきみたいなことに一番敏感に反応するのはしょうがないだろう。

 まあそんなバルだからこそ信頼してるんだけどな。


「…………」


 と、さっきから静かだなとシーナの方を向くと、偶然なのかさっきまでずっとだったのかはわからないが、俺を見ていたシーナの目と合った。

 ただ、目が合った後もずっと俺を見ていることから、どうもシーナは俺に何か言いたいことがあるようだ。


「うし、ここらで一旦休憩入れるか」


「うむ。そうじゃな」


「…………」


 休憩宣言にバルはいつも通りに答えるが、シーナの方は妙におかしい。

 俺の不注意の原因は自分自身でキチンと理解しているからいいんだが、シーナまで様子がおかしいのはなんでなんだ?


 とりあえず俺らは近くに生えていた1本だけの大木の木陰に行って休憩を取り始めた。

 この辺は乾燥している上に暑いから水分も多く取る。まあ熱中症とかなるのかどうかは知らねえけど。


「よう、さっきからてめえ、なんか変じゃねーか?」


「そう? 私はそんな自覚ないけど」


 俺は若干距離を置いて座っているシーナに水筒を渡しつつ話を振ってみた。


「ああ、なんだか元気がないっつーかなんつーか?」


「別に私は元気よ。夜も久しぶりのベッドでぐっすり眠れたし」


「そうか、そいつはよかったな。俺も床で寝た甲斐があったってもんだ」


「う、悪かったわよ、あんたのベッド横取りしちゃって」


「いや別に謝らなくてもいいんだけどよ」


 ベッドがないって言われた時に床で寝ると言ったのは俺自身だしな。

 そのことで特に気にする必要もない。


 そうして俺らは風が吹くのを感じながら休んでいると、今度はシーナの方から話を振ってきた。 


「ねえ、あんたとバルはどれくらいの期間2人で戦ってきたの?」


「んあ? 俺とバルがか?」


「そうよ」


「そうだな、大体1週間ってとこだな」


「1週間……まあこのゲームが始まってまだ2週間ちょい位なんだからおかしくはないのね……」


 シーナはふうっとため息をつく。

 やっぱ何かおかしいな。


「じゃあもしかしてあんたたちリアルでの知り合いとか?」


「いや、俺とバルはこの世界に着てから知り合ったが?」


「そう……」


「……さっきから妙に俺とバルの事を気にしてるが、そんなに俺らの関係が知りたいのか?」


「っ! べ、別にそういう意味であんたたちの関係を聞いたわけじゃないわよ!」


「そうかよ」


「そうよ!」


 シーナはそう言ってプンスカ怒り始める。

 そういう意味ってどういう意味だよ。


 でもまあやっぱシーナといえばこっちだな。怒っているほうがコイツらしい。まだ知り合って1日しか経ってねえけど。


「……あんたたちの戦闘でのコンビネーションがやけに上手くて息が合ってるなって……そう思ったのよ」


「ああ、なるほどな」


「なんであんなに上手くできるのよ。……私、午前中の最後の狩りの時とか、ただ見てるだけしか出来なかったのに」


「そりゃあまあ俺とバルは互いに信頼してるからじゃねーの?」


「信頼……ね」


 俺の言葉を聞いて再び雰囲気が暗くなり始めるシーナ。

 こいつは何が言いたいんだ?


「そういえば、さっきのピザ屋のことなんだけど」


「ああ、そういやその時てめえピー太と仲良く話してたよな」


「まあね。回避盾についてちょっと」


 シーナはそう言うと深くため息をして話を続ける。


「ピー太は回避盾っぽいこともやってるって言ってたけど、実際はアタッカーなんだって」


「まあ知ってた」


 『ホワイトソード』のメンバーの役割はテントで野宿をした時に把握済みだ。


「……ピー太は基本アタッカーだけど、AGIも結構高めに振っているから相手によって動きを使い分けてるんだって」


「それも知ってるな。それで? それを聞いてどうしたんだ?」


「……別に、どうもしないわよ。ただそういう戦い方もあったんだなって話よ」


「はあ? なんじゃそら。オチはねーのかよ」


「あんたは私の話にオチを期待してたの?」


「いや、全然」


「……あんたなかなか人をおちょくる発言好きねえ?」


「おちょくってるからな」


「あんたちょっと私にひどくない?!」


「まあ好きになった子ほどいじめたくなるっていうしな」


「……え?」


「いやそこで本気にするなよ。俺がいたたまれなくなるわ」


「あんたが勝手に言って勝手にいたたまれなくなったんでしょうが!」


「うっせ、てめえ今の聞いて一瞬でも俺がチョロイ奴とか思ったんだろう? ふざけんじゃねーよ!」


「逆ギレ?!」


 そうして俺らは話の本筋をうやむやにした。


 もしかしたら聞いたほうが良かったのかもしれないが、それはまあ次の機会にでもいいだろう。

 まだこいつとは1日しか行動を共にしていない。話す機会は今後いくらでもあるだろう。


「うっし、そろそろ休憩終了すっか。おーいバルー。狩り再開するぞー」


「おー、うむ。了解じゃ」


 バルは大木を背にして若干寝ていたようだ。反応が少し鈍い。


「おらしゃんとしろ。敵はてめえが起きるのを待っちゃくれねーぞ?」


「うむ。もう大丈夫じゃ」


「おう。シーナもボケっとするなー。あっ、それはいつも通りか」


「あんた今ナチュラルに私にケンカ売ったでしょ?! いいわよ買ってやるわよ! そんな武器なんて捨ててかかってらっしゃい!」


「この弓が脅威だってことは理解してんのな……」


 まあ必中攻撃とか、回避するしかないシーナにとっちゃ鬼門だよな。


 そうして俺らは狩りを続けた。

 夕方まで続いた狩りの結果、俺とバルはレベル14、シーナはレベル12になった。






 俺は夕方、再びあの形容しがたいオブジェの前にいた。

 朝聞いた祝福が気になって、ついここに再び来てしまった。


 外を1人でうろつくのは危険だということで今回はシーナも同伴だ。バルは疲れたからというので、バルとは宿で別れての行動となった。


「別に俺一人でもよかったんだぜ?」


「よくないでしょ。あんたが変なことし始めたら私達が止めなきゃなんだから」


「そうかよ」


 つくづく俺ってコイツに信用されてないな。

 ただ俺は祝福とやらを貰いに来ただけだというのに。


「まあ見ててもいいが邪魔すんなよ」


「あんたが変なことしない限りはね」


「へいへい」


 俺は気のない返事をシーナにしてオブジェの前に立った。


 ……さて、今度はどんな手口で攻めていくか……




「へーいキミキミ~! そんなところで一人で何してんの~?」


「あれ? もしかして無視? 俺無視されちゃった? うわ~ショックだわ~! 俺傷ついちゃうな~!」


「でもそんな意地悪なキミもかわいいよ~! え? そんな事言われたくない? またまた~!」


「え? たまたま3回しか会っていない仲なのに馴れ馴れしいって? そんなことないよ~! これでも俺大分セーブしてるんだぜ~?」


「それに1回会っただけなら偶然だけど、3回も会ったらそれは必然だよ~! 俺たちの出会いは必然さ~!」


「あれ? 黙り込んじゃった? ちょっと押しが強すぎたかな~?」


「キミの心は押しても開かない? だったらしょうがない! 押してだめなら引いてみろ~! キミの心は引き戸式?」


「はいストップストーーーープ!!!」


「あっ! シーナ先輩ちーっす!」


 シーナ先輩が現れた。


「誰がシーナ先輩よ! てゆーかあんた一体何してんのよ!?」


「え~? 見てわかんねえっすか~? ナンパっすよナンパ!」


「わかんないわよ! それとあんた! そのムカつく喋り方いい加減止めなさいよ!」


「んだよ。こっからが俺の本領発揮だってのによ」


「私はあんたがこれ以上どこに行くのかが心配だわ……」


 俺はシーナに怒られた。


「あんたこのよくわかんないのに祝福とやらを貰いに来たんでしょ? なんでナンパなんてしてんのよ」


「俺なりの心の通わせ方さ。こうしてナンパすることで少しでも俺に心を開いてくれれば祝福の一つや二つ、ポンとくれるかもしれねーと思ってな」


「それは別にナンパじゃなくていいでしょ……それにさっきのあんたのナンパすっごくウザい」


「朝は一人ぼっちの生徒を何とかしようとする熱血教師を演じてみたが心を開いてくれなくてな、ちょっと趣向を変えてみた」


「普通に祈ればいいでしょうが……」


「それは無理だな」


 普通に祈るとか俺にはできねえな。

 なんてったって神様とか信じてねーし。

 敬虔な祈りとかとは俺は無縁の存在だ。


 まあ確かに少し遊びが過ぎたか。

 もうちょっと真面目に相手しないとオブジェちゃんだって心を開いてくれないもんな。



 そんな事を思っていた俺の頭の中でポーンという音が鳴り響いた。



   スキル『神隠し』を獲得しました。



「きたアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


「へ!? い、いきなり何よあんた!」


 なんか知らんがスキルスロットにスキルが増えた!


 俺はそのスキルを確認する。



   スキル『神隠し』

   効果 『敵モンスターからの攻撃優先度を大幅に下げる』



 ……なんていうかこれは俺にとっては結構有用なスキルなんじゃないか?

 というかこれって後衛なら誰でも欲しいスキルだろ。


 たしかこの街では守り神様とか言われてるんだよな。

 この効果なら確かに守り神様扱いされるわ。


「ふっふっふ。ついにデレやがったなオブジェちゃんよお」


「……あんた何をぶつぶつ独り言言ってんの?」


「遂にこのオブジェが俺に祝福をくれたってことだよ。それじゃあもう今日は帰るか」


「ちょ! 私を置いて先に歩かないでよもう!」


 オブジェルートクリアだぜ。


 なんてな。

 ユウのはまってるゲーム的にはこんな表現が似合ってるかな。


 つーか俺はあのオブジェちゃんの前に立つとどうしても遊びたくなるんだよな。

 だから今後はもうあのオブジェには近づかないほうがいいのかもしれない。

 祝福もといスキルも貰ったしな。これ以上ここにいる必要は無いしオブジェちゃんにも用はない。


 さらばオブジェちゃん。キミとは遊びの関係だったんだ。

 俺はどこか別の神様のところへ行くよ。

 そう、俺は神様から神様へと渡っていく渡り鳥のような存在なんだ。

 俺とのことは犬にでも噛まれたと思って水に流してくれ。

 それじゃあアディオース!


 俺はそうしてオブジェと別れた。

 オブジェにスキルを貢がせて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ