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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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昼食会

 若干危なげだった狩りを終えた後、俺らは昼メシを食うために街に戻っていた。

 北の敵は手強いという話だったが、どこがどう手ごわかったのか俺にはよくわからなかった。


 一応北側の敵は他より攻撃力と防御力が3割増しで高いというような情報を得てはいたが、結局モンスターの攻撃は最後以外全て避けるか盾できっちりガードされ、俺の攻撃もいつも通りの一撃必殺だったので昨日までと動きの差はなかった。


 それでも強いのは確かなようで、単位時間当たりの昨日の狩りと今日のとを比べると、獲得した経験値と金が多くなっていた。

 これならレベル15になるまで北側で狩りをしたほうが効率がいいかもしれない。

 俺とバルはレベルが上がらなかったが、シーナはレベル9になった。


「それでこの後はどうすんの?」


 シーナが俺に問いかけた。


「そうだな、とりあえずは昼メシを食って、それからは午前と同じく狩り。夕方になったら宿に戻る。そんな感じでいいだろ」


 本音を言うともっと時間を切り詰めてレベル上げに勤しみたいが、始まりの街の時と同様に、不審者がいる中で暗くなり始める頃合いに街の外をうろつくのは危険だ。

 だから仕方ないが夕方あたりで狩りは止めるという予定にした。


「この辺に魔王がいるとかそういう話も聞かねえし、レベル15になったら次の街に行くことを考えるぞ」


「うむ、了解じゃ」


「……そのレベル15って、私も含まれてる?」


 シーナが恐る恐るといった感じで手を上げて俺に聞いてきた。


「てめえはまだお試し期間だろ、その辺についてはまだよく考えてない」


「あっそ」


「ふむ、わしはシーナがパーティーに正式に加入してもよいと思うがの」


「だよねー、バルは私がいるということのありがたみが良くわかってんじゃない!」


 そうシーナは言うとバルを後ろから抱きしめた。

 てめえらなかなか仲いいな。


 そうこうしているうちに昼メシを食う場所が決定した。

 今回入ったのはピザ屋だ。

 どうもこの街は洋風の外食店が多いような気がする。


 そして俺らが店の中に入ると、奥のテーブルに見知った連中が座っていた。

 その連中は俺の顔を見つけると大きく手を振り、こちらに来るよう呼びかけてきた。


「やあリュウ! 君達も今から昼食かい?」


「ああ、そうだが」


 俺はそのパーティー『ホワイトソード』が座っている席に向かった。


「よかったら一緒に食べないかい? 皆もいいだろ?」


「ええ、そうね!」


「ピザは皆で囲んで食べたほうが美味いよな!」


「3人でいいですよね? ちょっと椅子借りてきますよ」


「てかリュウさんの後ろにいるポニーテールの子マブイっすね~。一緒のパーティー組んでるんすか?」


「おいピー太、自重しろよ。僕達の品位が疑われる」


「ふふっ、神田は相変わらず固いんだから」


 エイジの問いかけに活発なすもも、ノッポなポッポ、礼儀正しいアン、少しチャラいピー太、インテリ風眼鏡の神田、おっとりお姉さん的なゆみこの6人は順番に反応した。

 どうやら俺らが一緒に食うのはもはや決定事項らしい。

 まあいいけどな。


「別に拒否る理由はねえな。バルとシーナもこっち来い」


「その前に紹介とかしてくれてもいいんじゃないの?」


「うむ。わしもこやつらとは初対面じゃの」


 ああ、そういやそうだったな。

 俺はコイツらと何度か会ってるが、バルとシーナには会わせてなかったな。


「あーワリい。こっち、このちっこい兜がバルで、こっちのうるさいのがシーナだ」


「ちょっと! うるさいのとか随分な紹介の仕方じゃない!?」


「ほらな? コイツずっとこうなんだぜ?」


「何したり顔で説明してんのよー!?」


「シーナ、それ以上はリュウの思う壺じゃぞ」


「ぐぬぬ……」


 バルの指摘でシーナは悔しそうに歯をかみ締めている。


「ははっ、なかなか良いメンバーが増えてるじゃないかリュウ。案外俺が前に言ったことをちゃんと考えてくれたのかな?」


「うっせ。別にそんなんじゃねえよ」


 前に言ったことってあれか、早くパーティーメンバー増やしなさいとか、そういう話だったか。

 そのことがあってシーナを入れたという自覚は生憎だがねえよ。


 そして今度は『ホワイトソード』の面々が自己紹介していく。

 若干男メンバーの気合が入ってた気がするが多分気のせいだ。


 そうして俺らは10人でピザを食うことになった。






 俺とバルとシーナ、それにパーティー『ホワイトソード』の面々は丸いテーブルを囲むようして座り、注文したピザが来るのを待った。


「そういや、てめえらは午前中に狩りはしたのか? もうレベル15になってたりしねえの?」


「ふふふ。リュウの言っていることは正解よ。午前での狩りで私達は全員遂にレベル15に到達しました!」


 俺の疑問にすももが答えた。


「おお、良かったじゃねえか」


「そうね。これで次の街に行く自信がついたわ」


 そうか、次の街か。


「次の街っていうと3番目の街、サディアードか。地図見た限りだと結構遠いところにあるもんな」


「そうだね。俺たちも10日以上の旅を覚悟して準備を進めているところだよ」


 エイジがそう言うと、他の『ホワイトソード』の面々がうんうんと頷いている。


「本格的に旅をするのはそこが初めてと言ってもいいだろうな」


「始まりの街からこの街に来た時は1日もかからなかったですからね。あの時は少し長い遠足のようなものでしたから、旅という感じではありませんでした」


 ポッポが腕を組みながらさっきの話を肯定すると、それに続けてアンも同意した。


「俺とバルがここまで来た時も確か半日程度の道のりだったな。やっぱサディアードに行くにはその時以上に大変だってことを覚えておかなきゃならねえか」


「うむ。十分に気をつけておかねばなるまいの」


 俺とバルも続けて同意した。

 3番目の街に行くには今までの比じゃなく苦労しそうだな。


 こりゃ今からでも長旅の準備を進めていかないとな。


「ねえねえシーナちゃん。さっきも自己紹介したけど俺ピー太っていうんすよ。これからよろしく!」


「は、はあ。まあ同じプレイヤー同士切磋琢磨していきましょ」


「ところでさ! シーナちゃんは見た感じ軽い装備だけど後衛っすかね? 魔法とか撃っちゃったりするんすか?」


「見た目が軽装だからって後衛扱いしないで! 私はれっきとした前衛! 回避盾よ!」


「え!? マジっすか! 奇遇っすね! 俺もAGI寄りで回避盾っぽいことしてるんすよ!」


 シーナの隣に座ったピー太がなにやら回避盾の話をし始めた。

 てかピー太が若干シーナの話に合わせているような気配がするな。


 ピー太よ、てめえはそんなんが好みなのか。

 たしかにシーナは美人だと思うが。


 まあ初対面だし変なことはしないだろう。

 神田がピー太の隣の席で眼鏡を光らしているし。


「バル……ちゃんは女の子よね? その兜、始まりの街で見たことあるけどお気に入りなの?」


「好みというか……フルフェイスヘルムは今のところこれしかないからのう」


「あら? もしかして顔を見られるのが嫌とか?」


 バルはすももとゆみこに席を挟まれて縮こまっている。


「まあ……そんなところじゃの……」


「あーそいつ恥ずかしがり屋でな。メシの時くらいしか兜外さねえんだよ」


 俺はとりあえずバルの事を説明した。


「だが単に恥ずかしがってるだけだからバルのこと存分にいじっていいぞ。ちなみに中身は俺が保障する」


「!?」


 俺の方を向いても無駄だぞバル。

 兜を外している時は自粛しているが、兜を付けたバルをいじることに俺は何の躊躇も抱かない。反応が面白いからな。


「あらまあ、それじゃあ盛大に可愛がっちゃいましょうねえ、ふふっ」


「?! これ! リュウのいう事を鵜呑みにするでないわ!」


「ん~、でもそうやって隠されちゃうとむしろ是非見たくなっちゃうな~」


「すももちゃん、無理強いしたらダメよお」


「あ~はいはい、わかってますよ、ゆみこさん」


「でもピザが来た時には……ね?」


「うふふ。そうね~」


 すももとゆみこは互いに邪悪な笑みを顔に張り付かせてバルを見る。

 バルは更に縮こまった。


 あっちもあっちでそれなりに楽しそうな雰囲気だな。

 バルが一方的にいじられるだけな予感がするが。



 そうこうしているうちにピザを持った店員がテーブルにやって来た。

 今回頼んだピザは一番デカイやつを3種類一枚ずつで、それを10人で分けあって食うことになる。

 俺らは全員食べ盛りだからもしかしたら食い足りないかもしれないが、ピザ以外にもポテトやら野菜サラダやらを注文してるからそれなりに腹は膨れるだろう。


 そして俺らはピザが来た瞬間、餓えた獣のようにがっつき始めた。


「はふはふ、あちち、……それで、リュウたちはどれくらいこの街に滞在している気なの?」


 エイジがピザを食いながら俺に話しかけてきた。


「ング……そうだな、とりあえず俺らもレベル15になったら3番目の街に行こうかと思ってるぜ」


「そうなんだ。ちなみにその時までにパーティーメンバーを7人にする予定?」


「それはわかんねえな。ウマが合いそうな奴がいたらメンバーも増えてるだろうが、今の段階では何とも言えねえ。シーナもまだお試し加入って感じだしな」


「あれ、そうなのか? てっきりもう仲間として受け入れてるのかと思ったけど。さっきの掛け合いもなかなか様になってたし」


「……確かにメンバーに入れない意味はないけどな」


 シーナをパーティーに加えてのメリットとデメリットを比較するとメリットの方が大きい。

 モンスターを狩る効率が上がったおかげでパーティーでの総獲得経験値も総獲得金も増えたしな。

 まあ実際は俺とバルの2人で山分けから俺、バル、シーナの3等分になったため、モンスターを狩った時点で1人が得る経験値と金は若干減ったが、倒した後剥ぎ取った素材を売ると獲得金がかなり増える計算になる。

 そのおかげで俺らの装備も着々とこの街の最高装備になってきていたりすいる。


 戦闘面でもかなり安定しているし、このままシーナを連れて行くのはやぶさかでもない。


「今そっちで私の話してなかった? ちょっと私も混ぜなさいよ!」


「うっせ。誰も話してねえからてめえは引っ込んでろ」


 まあ性格に難ありな気はするけどな。

 もう少しおしとやかにはできねえのかね。

 とは思っても薮蛇になるから口には出さねえけどよ。



 そうして俺らは昼メシを食い続け、そろそろピザも残り少なくなってきた時、エイジが唐突に俺に話を振ってきた。


「リュウは解放集会について、俺達から聞いたこと以外で何か聞いたかい?」


「いいや。そいつらに関しての情報は集めてないな。下手に詮索して刺激しねえのが得策かと思ってな」


「そうか……じゃあこの話も知らないね」


「なんだ?」


「その集団……先日街の中でプレイヤーを襲って痛みで動けなくなったところを街の外まで運んで……殺したらしいんだ」


「……マジかよ」


 俺は真剣にエイジを見つめるが、エイジも苦い顔をしてコクリと頷くだけだった。

 街の中にいたプレイヤーが外に連れていかれて殺されただと?


「もっと詳しく頼む」


「わかった。事件が起きたのは昨日の深夜。場所は俺達も使ったことがあるあのテントの密集地だ」


「あそこか……」


 つい最近そこでテントを張っていた身としては、そこで事件が起きたことに不快感を隠せない。

 もしかしたらその事件が起きた時に俺らも泊まっていた可能性だってありえたんだからな。


「そうだ、そこでテントの前で見張りをしていた1人の男がいきなり10人あまりの集団に囲まれて刃物で滅多刺しにされたらしい」


「……その集団の格好や人相は?」


「他のテントの見張りをしていた目撃者が言うには、その集団は全員店売りの黒いローブを顔が隠れるまで深々と被っていたらしい。だから多分特定は難しいだろう」


「そうか……」


「そして刃物で全身を刺された見張りの男はその場に蹲って、そうしている男をその黒いローブ集団は担ぎ上げて街の外へと持って行ったんだ。現場でのその集団が現れてから消えるまでの所要時間は1分にも満たなかったらしい」


「1分にも満たないって……随分と鮮やかな犯行だな」


 俺はその犯行の手際のよさに戦慄する。

 ただの新興宗教だと思っていたが、一体どんな訓練をすればそんな集団が出来上がるんだ。


 俺はそいつらを少し侮っていたのかもしれない。


「だがよくそれで解放集会の犯行だってわかったな」


「見張りを滅多刺しにした現場に文字が書かれたカードが残されていたらしいよ。『我々解放集会は必ずや迷える子羊を救済してみせる』ってさ」


「……ちっ。随分ふざけた事してくれるじゃねえか」


 現場に犯行カードを残すとか、そいつらは自分達の事を怪盗か何かと勘違いしてるんじゃねえのか?


「犯行の手口はわかった。つまり街の中でも絶対に安心はできないってことだな?」


「その通り」


「世知辛い世の中だなおい」


 俺はそう言って手に持ったジョッキの中のコーラを勢いよく飲み干した。

 炭酸飲料が喉にしみるな。


「わかった。俺らも外を歩くときは十分気をつける。てめえらも気をつけろよ」


「ああ」


 そして俺らはピザ屋を出た。

 『ホワイトソード』とその場で別れた俺らは街の外でレベル上げを続けることにした。

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