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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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祝福

 次の日の朝、俺は1人街の中を歩いていた。

 昨日あれだけバルとシーナに1人で出歩くなと言ったのに、その舌の根も乾かぬうちに俺は1人で歩いていた。


 まあ言った本人が1人で出歩くのはおかしいといえばそうなんだが、外にでるのは自己責任ってヤツだ。

 これで俺に何かあったら馬鹿なヤツだと嘲笑えばいいだけだ。

 それでバルとシーナが納得するかはわからんが。


「……? 今度は別の客か」


 なんとなく歩いていたその先には、例の形容しがたいナゾのオブジェがあった。

 そしてその近くに母親とおぼしき女性が赤ん坊を乗せた籠を置いて、その隣に座って手を組んで、なにやらオブジェにお祈りをしている。


 昨日も思ったがあれは一体なんなんだ?

 それにあそこにいる女性は昨日の女性とは違う。多分赤ん坊も違うのだろう。


 ……お祈りをしているってことはあのオブジェは案外この街では神様的な取り扱いなのかもしれない。

 まあ俺には何のオブジェだかは全然わかんねえんだけどな。


 俺がそうしてそのお祈りをしている女性を見ていると、その女性はスッと立ち上がって後ろを振り向き……俺と目が会った。


「おはようございます」


「……おはようございます」


 その女性が俺に微笑みながら挨拶をしてきたので俺もつられて挨拶を返した。


「私に何か御用ですか?」


「いや……、別に用ってわけでもないんだが、ただ何してんのかなって思っただけで」


 俺はそう女性の疑問に答えると、体をオブジェの方に向かせてオブジェを見上げた。


「この街の守り神様から祝福を戴いておりました」


「祝福?」


「はい。この子に」


 そう言って彼女は足元に置いていた赤ちゃんが眠っている籠を持ち上げて俺に見せた。


「この子は先月生まれたばかりで、今日からやっと守り神様から祝福を得るための祈りが行えるようになったんです」


「へー……」


 その祝福っていうのが何なのか俺には全然わからないんだが。

 でも一応このオブジェはこの街では守り神様をやっていたというのはわかった。


 もしかしたら普段人があまり近づかないのも、神聖なものにむやみに近づいてはいけないというような心理が働いていたのかもしれないな。

 ただのヘンテコなオブジェというわけではなかったということだ。


「あなたは他所の街から来た人ですね?」


「あー、まあそうだな」


 他所の街というか他所の世界というか。


「でしたらあなたもこの機会に守り神様にお祈りをして祝福を授けていただくというのはどうでしょう? 最近外のモンスターが凶悪化して危険ですし」


「よそ者でもいいのか?」


「はい。守り神様は我々に分け隔てなく祝福をお与えになることでしょう」


「ふーん」


 まあタダならやってみるのも悪くないかもな。

 これで金取られるって言われたら裏を考えたが。


 つか外のモンスターが凶悪だと祝福があったほうが良いのか?


「それでは私達はこれで」


 女性は赤ん坊を連れてオブジェから去っていった。

 結局祝福とはなんなのか聞きそびれてしまった。


 ……さて、俺はどうするかね。

 


「ゴホン。あー、君はいつも一人で街の中にいるね?」


 俺はオブジェにとりあえず話しかけた。


「隠さなくっても先生はわかっているぞ。先生は君の事をよく見ていたからね」


「さて、こうして君と二人で話をする機会が設けられたわけだが……君には何か心当たりはないかね?」


「……だんまりか。先生は悲しいぞ。君が自分の殻に閉じこもっていることが」


「君はいつも一人でいるが、それで君は本当にいいのかね? 本当はみんなの輪の中に入りたいと思っているんじゃないかね?」


「……これにもノーコメントか。先生はね、君の将来を心配してこうして話しているんだよ?」


「君はそのまま一人のままでいいのかい? 君は周りが楽しそうにしているのを蚊帳の外でながめているだけでいいのかい?」


「これは私が勝手に思っていることだが、君も本当はあの輪の中に入りたいんじゃないのかい?」


「先生は見ていたぞ。生まれたばかりの赤ん坊に君が祝福を嬉しそうに与えている姿を。いや別に隠すことではないよ、恥ずかしがらなくていい。君は立派な行為をしたと先生は思っているからね」


「だけど君はそんなにいい事をひっそりとやるだけで本当にいいのかい? 本当は赤ん坊以外にも、君が眺めている周りにも祝福を与えたいと、そう思っているんじゃないかい?」


「そんなに怖がることはないよ。君は優しい子だ。君が素直になりさえすれば周りも君を見てくれるようになるさ」


「だからほら、いつまでも俯いてちゃいけないよ。君は一人ぼっちのままじゃないんだから」


「君は自分のことをすっと一人ぼっちなんだと思っているのかもしれないが、それはただの幻想だ。その証拠にほら、君が見上げたすぐ傍には、君から祝福を受けたいと思っている先生が――」




「何を一人で三文芝居をしておるんじゃ……?」


「朝っぱらからわけのわからないことしないでくれる? 近所に変な噂がたっちゃうから」



 俺の後ろにはバルとシーナがいた。



「……てめえら見てたのかよ」


「隠さなくっても先生はわかっているぞの辺りからいたのう」


「それってほとんど最初からじゃねーか!? 声かけろよ!」


「いや……だって、ねえ?」


「のう?」


 二人は困ったような声を出して互いに首を傾ける。


 わかってるよ。わかってるさ。

 朝早くにヘンテコなオブジェに話しかけている俺の姿を見たら一歩距離をおきたくなるって事くらいはな!


「つかなんでてめえらここにいんだよ」


「なんでもなにもないじゃろうに。それはこっちの台詞じゃ」


「一人で出歩くなとか、人には散々言っておきながらあんたは朝早くから宿を出て行っちゃうし、パーティー組んだままにしといたからどこにいるかはわかったけど、あんた一体何考えてんの?」


「……正直スマンかった」


 俺は二人に向かって平謝りした。


「はぁ……もういいわ。それで? あんたここで何してたのよ?」


「ああ、ちょっとこの守り神様とやらに祝福を貰おうかと思ってな」


「……それであんな寒い芝居を一人でしてたってわけ?」


「寒いとか言うな。俺が即興で作った渾身の小芝居だったんだぞ」


「……それで? 祝福とやらは手に入ったの?」


「全然」


「…………」


「おいなんか喋れよ」


 無言とか傷つくわ。

 バルもなんか無言で俺の方を向いてるし。


「はぁ……とりあえず宿に戻りましょ。まだ朝食食べてないんだから」


「そうじゃのう……話は一旦栄養をつけてからじゃの」


 そうして二人は宿へと引き返すために歩いていく。

 その後ろに黙って俺はくっついていった。






 俺らは宿に戻って朝メシを食った。

 朝メシはパンにベーコンにサラダに目玉焼きと日本人家庭の洋食寄り朝メニューといった感じだった。


 ちなみに補足だが、昨日の夜、シーナは俺とバルが泊まってる宿の宿主に相談して既に満室だったところをなんとか泊めてもらった。

 まあその結果としてベッドが一つ足りなくなり、結局俺が床に寝ることになったわけだが。

 朝早く起きたのも実のところ寝心地が悪くて眠りが浅かったのと、床に眠ったせいで体が痛かったからそれを紛らわすために散歩に出かけたというような事情があった。


「それじゃあ今日も張り切って狩りをするわよ!」


「おー!」


「おう」


 そんなこんなで俺らは街の外にやってきた。

 今回は街の北側だ。こっちの方がモンスターが若干凶悪らしい。


「ここのモンスターは昨日のモンスターより強いらしいから気を引き締めていけよ」


「了解じゃ」


「言われなくってもわかってるわよ!」


 まあ北側が強いという情報は昨日の夜に全員確認済みだ。

 今更言うまでもなかったか。


「それじゃあ早速モンスターを探すか」


 それと同時に俺は周囲に目を光らせる。

 特に注目すべきはプレイヤーだ。


 一応エイジから忠告は受けたからな。

 街の外でいきなり解放集会と名乗る連中が襲い掛かっても大丈夫なようにしておかないとな。


 もし本当に俺らを殺しに繰るような連中がいたら、俺は迷わず弓を引く。

 このパーティーは俺しか攻撃できる奴がいない。だから俺が迷ったら俺ら3人が危険に陥る。

 そうならないよう俺だけは何があろうと迷わない。


 俺はそう覚悟を決めて狩りを始めた。






「あっ!」


 狩りをすること数時間後、近くの岩陰から突然3匹のオオカミモンスターが現れて、俺らは不意を突かれてしまった。

 シーナがすかさずオオカミの方へ走っていって引き付けようとする。


「えっ? ちょ!?」


 しかしシーナが近づくのをオオカミ3匹は無視して俺の方に駆け寄ってきた。


「ちっ!」


 俺は迅速に弓と矢を取り出してオオカミの1匹に狙いをそこそこ定め、そして放った。

 それによってオオカミを1匹倒すことが出来たが、未だに2匹が此方に寄って来る。

 俺とオオカミの間にある距離はもうそこまで広くない。


「リュウ!」


 遠くでシーナが俺の名前を叫んでいた。


「大丈夫じゃ!」


 その叫びに答えたのか、バルがそう声を出して俺とオオカミの間に立った。

 そしてバルは盾を捨ててそのままオオカミに掴みかかった。


「抜かせぬぞ!」


 バルはオオカミを1匹ずつ片手で掴んで2匹ともその場に引き止めた。


「ナイスバル!」


 バルが2匹同時に引きとめている間に俺はアイテムボックスから石袋を取り出して片方のオオカミにぶつける。

 石袋がオオカミに当たったのを確認したあたりで弓の武器スキルのクールタイムが過ぎる。

 俺はそのタイミングで弓を引いて矢を放ち、最後のオオカミを射抜いた。


 そうして俺らは無事にオオカミの不意打ちを捌く事ができた。


「バル、さっきの引きとめ、上手かったぜ」


「お主も咄嗟に石袋を取り出すとは、弓だけに依存しておらぬようでなによりじゃ」


「うっせ。俺だって弓のクールタイムをどうするかを考える脳みそくらいあんだよ」


 俺とバルはそう言って、拳同士を軽くぶつけ合った。


「…………」


 シーナが遠くで何かを言いたそうに此方を見ていた。


「? どうしたシーナ?」


「な、なんでもないわよ……」


「そうか? シーナもモンスター見つけた瞬間に動けてたな。良かったぜ」


「…………どこがよ」


 シーナは小さく何かを言ったが俺にはよく聞こえなかった。


 まあとりあえず何事もなくてよかった。

 ああいうことが稀にあるから気を引き締めなおしていかないとな。


 だがもう時間もそれなりにいい頃合いだからそれは後にしよう。


「とりあえずここらで一区切りつけようや。一旦街戻って昼メシにしようぜ」


「うむ。了解じゃ」


「……了解」


 俺の掛け声に答えるシーナの声は小さかった。

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