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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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解放集会

 シーナをパーティーに加えて俺らは荒野でモンスターを狩った。

 最初、モンスターが1、2匹しか同時に出なかったのでバルもシーナもただ見てるだけでシーナはなぜか怒っていたが、モンスターが4匹同時に出てきて一方的な狩りができなかった時、俺はシーナの本気を見た。


「つーか見えねえ。ありゃ残像か?」


 シーナの動きに俺の目が追いつかなかった。

 一応どこにいるかはわかるが、モンスターがシーナに攻撃した瞬間その場から忽然と姿が消え、モンスターの背後にいつの間にか立ってる。そんな感じだ。

 そしてその後、他の戦闘でもバルとシーナの二枚盾になったことで、たとえ5匹以上のモンスターの群れを襲っても俺は安全に弓を引くことができるようになった。


 バルもスキルでヘイトを集めているからバルだけでも問題なく狩れるのかもしれないが、盾役の2人が協力することで俺とモンスターとの距離が非常に安定した。

 昨日までならバル1人で敵を引き付けていると、俺が攻撃するのを見たモンスターが俺の方にやってくる事があったが、今は基本シーナが俺の遠くに敵を引き付け、それでも俺の方に向かってくる敵をバルが体を張って止めるといったコンビネーションが可能だ。

 盾役が二人になったからといってそんなに変わらないだろうと思っていた俺だが、こと集団戦において、二枚盾は大きな効果を発揮した。

 それによって俺らは完全にこの辺のモンスターでは束になっても敵わないパーティーとなっていた。


「まさかここまでサクサク狩れるとはなあ」


 俺とバルだけの時は敵に物量作戦を仕掛けられたらまずかったしなあ。

 そのことを悟ってからはなるべくモンスターと戦う時は一度に3匹までとか決めてたくらいだし。


「どんなもんよ! 私の活躍は!」


 シーナが俺の目の前でドヤ顔ピースをしている。


 まあ実際、今まで避けていたモンスターの群れにまで攻撃を仕掛けられるようになったから時間的効率が高まったのは事実だが。


「だがなんかムカつく」


「人が一生懸命なのにムカつくとかひどくない?!」


「リュウは素直じゃないからの。わしはお主がいてくれるようになって大分楽になったと思っておるぞ」


「あ、ありがとう。てゆーかあんたは兜被ってる時は流暢に喋れんのね……」


 そんなこんなで俺らはその後も狩りを続け、夕日で空が赤くなった頃、俺らは街に引き返した。

 その時俺とバルはレベル13に上がり、元々レベルが3というこの周辺では低すぎるシーナのレベルは7にまで上昇した。

 やっぱレベルが低いシーナの方がレベルの上がり方が早いな。






 街に戻った俺らはシーナを街の銭湯(高い煙突つき)に連れてきて風呂にいれさせることにした。


「じゃあバル、シーナをしっかりと洗ってやれ。俺はその間街をぶらぶらして何か情報がないか調べてくる」


「了解じゃ」


「ちょっと! 別に私一人でも自分の体くらい洗えるわよ!」


「まあそういうでない。わしが隅々までお主を磨き上げてくれよう」


「……あんたお風呂ではその兜脱がなきゃなんだからね。そんなこと言ってると後が怖いわよ?」


「!?」


「……ほどほどに仲良くしろよ」


 俺は一人、夕日に染まる街の中を進んだ。


 そして俺が少し歩いたその先に、ちょっと奇妙なものを見つけた。


「なんだありゃ? あのオブジェの前に人がいるだと?」


 俺が昨日、バルとの待ち合わせ場所に指定したあの形容しがたいオブジェの前に、一人の女性が腕に抱いた赤ん坊をあやしながら立っている。


 あれは誰かと待ち合わせているのか?

 ちなみにその女性と赤ん坊以外は一人もオブジェに近寄ろうとしない。


「まああんまジロジロ見るのも失礼か。何してるか訊ねるのもアレだしな」


 俺はその光景を疑問に思いつつ、その場を離れた。


 そして更に街の中を進むと、この街に来て早々テント泊まりになった時に話しかけてきたエイジ達7人と出くわした。


「やあ。こんにちは、リュウ。……て、今ならこんばんわかな?」


「どっちでもいいさ。てめえらも元気そうだな」


 エイジが挨拶をしてきたので俺もとりあえず挨拶をした。


「まあね。私らもあともうちょっとでレベル15なんだけど、時間が時間だから狩りから戻ってきたとこ。明日には15になれるかな」


 エイジのパーティーメンバーのすももがそんな事を言ってきた。


「へー。それじゃあもしかしたら明日にでもこの街を出るのか?」


「いや、俺達はそこまで急には出て行かないよ。多分3日後くらいだな」


 俺の疑問にエイジが答えた。


 ふーん。一応準備はばっちりしておこうってことかね。


「それよりもリュウ。君にも知っておいてもらいたいことがあるんだけど」


「あ? 知っておいてもらいたいこと?」


「うん」


 なんだ?

 実は俺と彼女は付き合ってるんだ! みたいなパーティー内カップル誕生電撃告白とかか。

 そしてすぐ近くでいちゃつくカップルに嫌気がさしたメンバー間に亀裂が走りパーティー解散の憂き目にあったりとかか。

 まあ俺はコイツらのパーティーメンバーじゃないが。


「最近この街で『解放集会』というものが一部で流行りだしてるらしいんだ」


「は? 解放集会?」


 なんだそりゃ。

 なんか聞いただけで禄でもない臭いがプンプンしやがるんだが。


「なんでも、この世界から元の世界に帰るにはこの世界での死、つまりHPをゼロにすれば帰れるっていうゲーム初日から出始めた主張を鵜呑みにした宗教集団らしい」


「……なんとまあおめでたい集団だな」


 俺も最初の頃は少しそういう考えもした事があるが、それは所詮楽観論だと切り捨てた考えだ。

 だがその考え方を俺以外の連中が真面目に考えていたとしてもおかしくはないか。


「でもなあ……そんな集会作る暇があるならさっさと死んで元の世界とやらに帰ればいいじゃねえか。なんで悠長に集会なんか作ってるんだよ」


「それは自分達だけが解放されるのは残されたプレイヤーが可哀相だから、先に他のプレイヤーを解放して最後に自分達も解放しようっていう主張をしているらしいよ」


「あー……要するに道連れが欲しいと」


「そうとれるよね……」


 はた迷惑な話だな。

 解放ってあれだろ? 要するに殺すってことだろ?

 そいつらは殺人という罪を解放という祝福に自分らで勝手に置き換えてるわけだ。


 絶対に会いたくないな。うん。


「なるほどな。とにかくやべえ奴らだってことは十分理解したぜ」


「その集団がどんな格好をしているかまでは知らないけど、見かけても絶対に関わっちゃいけないよ」


「言われなくても関わらねえよ、そんな危ない集団になんか」


「もし見かけたらすぐに逃げるんだよ」


「へいへい」


 まあそんな簡単に出くわすとは思わねえけど、一応街の外にでたら他のプレイヤーの動きを注意しておくか。

 後でバルとシーナにも言っておかねえとな。


「てめえらもそんな変な宗教に引っかかって入信したりなんかすんじゃねえぞ」


「言われずともわかっているさ」


 そうして俺らは別れた。

 あいつらは俺らが使ってる宿とは結構はなれた宿に泊まってるらしい。

 何かあったら連絡してとエイジが俺に自分らの使ってる宿を教えてきたんだが、あいつも結構お節介が好きな奴だな。

 どこぞのイケメン野郎を思い出す。


 そろそろ夜になる。俺も宿に引き返そう。

 俺は来た道を引き返し、歩き始めた。


 ……それにしても解放集会か。

 なんともまあ危ない集団が出来上がっちまったもんだな。


 とりあえず街の中にいればHPは減らないわけで、そいつらも突然襲ってくるなんてことはないだろうが。

 だが念のために一人では出歩くなとバルとシーナに言っておくべきか。



 俺がそんな事をつらつら考えながら道を歩いていると




 急に目の前に人が立ち塞がって





 俺はその男とぶつかった。




「おっとこれは失礼。ちょっと余所見をしていたものでね」


「と、わりい。こっちもちょっと考え事して前見てなかった」


「どこか痛いところはないかい? 全身が痛むなんてことはないかい?」


「はあ? ただぶつかっただけだぜ? てめえちょっと大げさすぎじゃあ……」


 目の前に佇んでいる男はどこかが異様だった。


 なぜそんな事を思ったのかはわからない。


 見た目の年は大学生くらい。身長は俺と同じくらいで、顔つきもどこにでもいるような平凡な顔つきだ。

 黒髪黒目で普通の髪型。太っているでもなく痩せているわけでもない。まさに普通の日本人男性を体現したような男だ。

 ついでに言うとそいつの装備は全て初期装備だった。


 だがそれが異常なほどにその男の印象を希薄にさせて、目の前にいるのに記憶から今にも消えてしまいそうになる。


「いやいや、これがなかなか大げさということでもないんだよ」


「…………」


 俺は黙ってその男の言葉を聞き続ける。

 そうしないとこの目の前にいる男から声を認識することができなくなりそうだったから。


「まあそれでも、君が本当に何事もなかったというのであればおれとしてもよろこばしいことなんだが」


「…………」


 俺は黙ってその男の動きを観察する。

 そうしないとこの目の前にいる男がどこにいるのか認識することができなくなりそうだったから。


「本当に何もないね? さっきから君、おれの言っていることに無反応だけど」


「……あ、ああ。俺は大丈夫……大丈夫だ……」


 何だ? この違和感は?

 今、俺はコイツに心配をされたのか? 本当に?

 今の言葉に確証が持てない。どうして?


「そう、それならよかった。おれもこんな街中で人様に怪我とかさせたくないしね」


 男はホッと胸を撫で下ろした?


 わからない。俺はコイツをどう見ていいのかわからない。


 ただ俺にぶつかったことをコイツは謝っているだけだろ?

 なのに何で俺はこんなにも混乱しているんだ?


「……ちょっとてめえ、心配しすぎじゃねえのか?」


 俺は男に聞いてみた。

 すると目の前の男の今まで無表情だった顔が、薄くではあるがにやっと笑うような顔つきになった。



 ああ、そうか。

 俺がコイツに感じていた違和感。

 それはコイツが謝っている最中もずっと無表情だったからだ。

 なんで気付かなかったんだ。なんでわからなかったんだ。


 相手の顔色を観察することなんて対人関係を築くためには必須の事だろ?

 なのに俺はこの男の顔を見ているようで、その実まったく見てなんていなかったんだ。


 こいつは今まで無表情で俺に接していた。


 そしてその顔についている口から吐き出される言葉の塊にはまったくの感情が込められていなかった。


 それがコイツに対する認識を狂わせている?


 特にコイツが自身を称する時に使っている『おれ』という言葉も、一瞬何を何を表しているのかわからないくらいに感情も何も込められてはいなかった。


「いやいや全然そんなことはないよ。おれはちょっとね、ゲームを始めた時に才能値の振り方を失敗しちゃってね。それから今までできるだけ慎重になって生きてきたんだよ」


 男はそう言った。


 才能値? 慎重になって生きてきた?


 一体どういうことだ?


「なにせ慎重に動かないと、すぐにものを壊しちゃうからね」


 男はそう言うとくすくすと無表情で笑い始めた。


 その姿を見ているとだんだんきぶんがわるくなってくる。



 はやくこのおとことのはなしをおわらせないと



「おやおや? どうしたのかな? やっぱりどこか悪くしたんじゃないかい? 例えば頭とか」


「てめえ……今俺の事遠まわしに馬鹿って言わなかったか……?」


「言ってないよ。勘違いしないでほしいな」


 男は無表情で怒りだす。


 その目を見たとき俺は激しく取り乱した。


 俺の中の何かがあの目は危険だと訴えている。


 どこかで見たような目。既知感のあるようなその目。


 まるでそれは俺を物か何かのように見るお父さんの――







 だめだ。だめだ。だめだ。


 これ以上この男と話してはならない。


 早く終わらせるんだ、この会話を。










 どうやって?










「君もSTRに全振りしたんだってね?」


「…………っ!」


 男はいつの間にか近づいてきて、俺の耳元で囁いていた。

 俺は咄嗟に動いてその男から距離をとった。


「……てめえ、……今なんて……」


「ごめんね。そろそろ時間だ。また会えるといいね」


 そういって男は人ごみの中に入っていく。

 俺はその場から動けない。


「君にまた会えるのをおれはたのしみにしているよ」


 男は最後に無表情な顔で、俺にそんな言葉を残して消えた。

 その言葉はまた会うことをまったく楽しみにしていないような、ただ息を吐いてたまたま出来た音が聞こえたような、そんな感情が何も込められていないものだった。


 俺は動けるようになった足を急がせて宿へと戻る。

 そして俺はあの無表情な男を忘れ、バルとシーナに街の中でも一人で出歩かないよう強く言った。

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