お試し
「ふぁにこのおにふふっごいおいひい! これ何のお肉使ってんの?」
シーナは1分もしないうちに3串ほどをぺろりと平らげてからそんな感想を出してきた。
つか口ん中に食いモン入れながら喋んなよ。
「ああ、それはこの辺でも見かけるブタのモンスターの肉だ」
「あーあのブタね。突進することしか取り柄のないやつ。攻撃しても全然倒せなかったから諦めてたけど、いずれ食べてやろうとは思ってたのよね~」
シーナのそんな返しに俺は少し感心してほうと声を出した。
「モンスターの肉って言われても平気なんだな。もっと慌てるかと思ってたぜ」
「……自然の世界では食べれるものなら何でも食べなきゃ生きていけないのよ」
「お、おう……」
……何気にコイツもこの世界に着てからハードな毎日を過ごしてたんだな。
もうちょっと優しくしてやろう。
「つかバルもそろそろ食えよ。俺らのために食うのを後にする必要なんかねーぜ?」
「う、うむ。そうじゃの」
バルは一瞬、シーナの方を向いた気がする。
……あー、こいつは兜外すと人見知りするんだっけか。
なのにシーナをメシに誘うとかなんなんだよ。
人が増えたほうが楽しいとか言ってたが本人は黙っちまうじゃねえかよ。
コイツの考えてることもよくわかんねえな。
だが見方を変えると、もしかしたらコイツはコイツなりに素顔を晒した時に恥ずかしがらないよう訓練しようとしているのかもしれない。
まだ俺の前でも兜を外すとぎこちない雰囲気は出ていたが、更に負荷をかけて無理やり慣れさせようとか考えていたりしてな。
まあその割りにまだ兜を外すのを渋っているが、まだ覚悟が決まってないということなんだろうか。
しかし俺がそう考えていたら、バルは覚悟し終えたのか兜を脱いだ。
そしてバルの素顔がシーナの目に入った瞬間、シーナは目を大きく見開いた。
「何この子……すんごいかわいいんですけど」
「…………」
シーナの言葉にバルは顔を赤くして俯いてしまう。
「シーナ。コイツ兜外すと人見知りするんだ。だからあんまりジロジロ見ないでやってくれ」
「わ、わかったわよ。ジロジロ見てごめんなさい」
「ぁ……い、いえ……」
シーナが軽く頭を下げるとシーナは顔を俯かせながらも小さくそう答えた。
「とりあえずメシを見ろメシ。そっちの肉焦げてるぞ」
「え? あ! 本当だ! もったいない!」
こうして俺らは昼メシを再開した。
だがやはりバルが兜を外してからは黙々と食べるだけになる。
いや別に俺は黙って食うというのも悪くないと思うんだけどよ。
「そういえば、てめえは何でセカンディアード近くの荒野になんかいたんだ?」
この無言の空気を何とかしようとした訳じゃないが、俺はふと思ったことをシーナに聞いてみた。
「セカンディアード?」
やっぱプレイヤー相手には2番目の街って言ったほうが通るか。
「2番目の街の名称だよ。それでどうなんだ? 戦えないなら普通始まりの街周辺にいるもんだろーが」
「ああ、それね……」
シーナはふうっとため息をついてから自身が2番目の街周辺にいたことを語り始める。
「私も初めは最初の街にいたんだけどね、回避しか能のない奴で全然役に立たないって言われちゃって。だから私は10日前くらいに一人で2番目の街に行くことにしたのよ。スキルを取るためにね」
「へー、やっぱ一人で2番目の街まで来たのか。結構やるな」
一応この辺のモンスターの動きは単調だから避けようとすれば避けられるのばかりだが、それでも半日あまりをミスができない環境の中1人で移動し続けるというのはなかなか度胸がいるだろう。
「ま、まあこの辺の敵じゃ私に指一本触れられなかったし!? 別に一人で怖くもなかったし!?」
シーナは褒められたのが嬉しかったのかフンフンと鼻を鳴らしてそう言ってきた。
「あーはいはい。そんで? 街についた後はどうしたんだ?」
俺がそう言うとさっきまで調子の良かったシーナは途端にテンションを下げた様子を見せてきた。
「……スキルは問題なく取得することができたんだけど、……なかなか私のプレイスタイルをわかってるプレイヤーに会えなくて……」
「それでその間に金も尽きてこうして野生に帰ったと」
「誰も野生に帰ったなんて言ってないわよ! 都会っ子を舐めんじゃないわよ!!」
「どうどう」
「どうどうじゃない!!!」
シーナは相変わらずうるさいがこれで大体の事情は飲み込めた。
つまりは自分も戦いたかったが自分の戦い方を周りが認めてくれなくてモンスターと戦えず、そのため収入を得ることができずにこうして金が尽きて生き倒れてしまったということか。
「そんでてめえはこれからどうするつもりなんだ? 2番目の街は物価が高いから始まりの街に引き返して細々と生活するという手もあるぞ。収入についてもモンスターを狩るだけじゃなく街の中で金を稼ぐ方法とかあったりするぜ?」
俺がそんな提案をシーナにするが、シーナは首を大きく振って拒絶する。
「いやよそんなの。私は早くこのゲームの世界から出たいの。だから助けをただ待つだけよりも私自身の力で一日でも早くゲームをクリアしたい」
「そうか」
こいつも俺やバルみたいに早く元の世界に帰りたいと思って戦おうとしているのか。
だったら俺にコイツは止められねえな。
「わかったよ。てめえの道だ。てめえが勝手に進めばいいさ。俺は止めたりなんかしねーよ」
「なんだ。あんたも結構わかるクチじゃない。私にそんな事を言ったのはこの世界に着てからはあんたが始めてだわ」
「そうかい。そいつはなんとも嬉しくないことで」
「それで? あんたたちはどうなのよ。魔王と戦う気はあるの?」
「当たり前だ。俺らも早く元の世界に戻らねーとだからな」
「ふうん……それじゃあんた。私にパーティー申請を送りなさい」
…………?
「……は?」
「は? じゃなくてパーティー申請送りなさいって言ってんの! それとも何? あんたたちのパーティーリーダーはリュウじゃなくてバルの方なの?」
「い、いや俺がパーティーリーダーだけどよ……」
「だったらボーっとしてないで私に申請送りなさいよ!」
…………。
「は?」
「は? じゃないって言ってんでしょーーーーー!!!」
「いやいや意味わかんねーし。何? てめえ俺らと一緒に戦うっつーの?」
「当たり前じゃない!!!」
いやいや意味わかんねえ。
コイツってAGI全振りだろ?
どう考えても戦えねえじゃん。
「あー。わりいけど戦闘で役にたたなそうな奴をパーティーに入れるのはちょっと……」
うん。
前までは俺が断られる側だったからか、コイツに面と向かって役立たずと言うのも気が引けるな。
「何? あんた私が戦闘で役立たずだと思ってんの?」
「ま、まあな」
俺がそう答えを返すとシーナは呆れたといった様子で首を振っていた。
「あのねえ、ここだけの話、あんたと私って相性抜群だと思うわよ?」
「相性?」
なんだてめえ。俺の体が目的だったのか。
「あんたと私が組めばどんな敵の大群が襲ってきてもへっちゃらよ?」
「あ、戦闘の話か」
「……あんた今変な事考えてなかった?」
「全然」
変なことなんて考えてねえよ。
ただちょっとアレな単語を聞いてビクッとしただけだ。
「それで、俺とてめえがどういうわけで相性抜群なんだよ? てめえ回避することしかできねーんだろ?」
「はぁ……あんた、回避盾って知ってる?」
「回避盾?」
なんじゃそら。
俺はそう思ってバルの方を向くと、バルは串に刺さった野菜を頬張りつつもコクコクと首を縦に振った。
……バルも知っている概念なのか。
「簡単に説明すると、回避盾っていうのは敵からの攻撃を集める盾役の中でも攻撃を回避することに力を注いだ盾役がそう呼ばれるのよ」
「へー」
なるほどな。
バルは攻撃を受けることを前提にした盾役だが、シーナは回避することを前提にした盾役ということなのか。
「でも回避するんじゃ敵を抑えられねえんじゃねえの? 回避したら敵が他の味方に行っちゃいましたじゃ盾としてお粗末すぎだろ」
「そのためにスキルがあるんじゃないの。すでに私は敵モンスターのヘイトを溜めるスキルは取得済みよ」
「なるほど」
なにも物理的にモンスターの足を止める必要はないわけか。
モンスターを引き付けるスキルがあれば確かに盾役が成立するな。
だが……
「てめえなら割と優秀な回避盾ができると思うが、なんでそんな奴が今までパーティーに入れなかったんだ?」
「ぐっ!」
……やっぱりなにかしらデメリットがあったみたいだな。
「確かに最初は回避盾として上手くやれたわよ。でも1回攻撃を加えるとすぐモンスターがそっちに行っちゃって……」
「……盾としては不合格の烙印を押されたってわけか」
なるほどな……。
確かに最初だけしか機能せず、1回攻撃した後は役立たずな盾役を使うくらいだったら素直に攻撃を受けて通せんぼができる盾役を使ったほうがいいって話になるか。
俺が『レッドテイル』にいたころ、あいつらはモンスター1匹に最低でも3発は攻撃をしないと倒せていなかった。
多分それが普通のパーティーの火力なんだろう。
そうするとその普通のパーティーにシーナが入った場合、おそらく盾役としては不十分な結果しか出せないし評価もされない。なんてったって最初の1発の攻撃を当てるまでしか盾として機能しないんだからな。
それでもシーナを活躍させようとするならシーナが敵を引きつけている間に、そこへ遠距離攻撃を複数人で打ち込んで敵を近寄らせずに倒すとかそういう戦い方じゃないとうまくいかないだろう。近接アタッカーとの相性は最悪だ。
なんていうかやるせねえな。
「でも! どんなモンスターでもあんたなら多分一撃で仕留められるでしょ!?」
「あ、ああ。まあな」
「それなら私の欠点も解決するじゃない! 実のところ私はあんたみたいな攻撃力重視のプレイヤーを探していたのよ!」
ふむ。まあ確かに俺ならモンスターはブラックゴーレムみたいな例外を除けば一撃で葬れる。
だったらコイツのデメリットはそこまで大きな問題にはならないか。
……でもな
「俺のパーティーには既に盾役がいるぞ」
「あら、一つのパーティーに2人盾役がいてもそれは別に普通の事じゃない」
「……そうなのか?」
俺はバルに話を振ると、街で買ったソーセージを頬張りつつもコクコクと首を縦に振った。
てかてめえも食ってばっかいねえで少しくらい話に参加しろよ。
兜外したら結局喋らねえじゃねえか。
それにバルはシーナが加入するかもしれないことに、特には反応を示さない。
俺に判断を委ねてるってことか?
「……わあったよ。お試し的な感じでしばらくパーティーに入ってみるか?」
「ええわかったわ! 私の実力を見せてあげるわ!」
「バルもそれでいいか?」
俺はバルに尋ねると、街で買ったミルクを飲みつつもコクコクと首を縦に振った。
……この世界でミルク飲んでも身長伸びんのかねえ。
こうして俺とバルだけだったパーティーにシーナが加わった。
まあお試しだけどな。