スキル道場
俺らはナゾのオブジェがある場所から宿に戻り、まず先に俺が集めた情報をバルに話した。
「ふむふむ。つまりこの辺りのモンスターは北側に注意せよ、ということじゃな」
「そういうこった。まあそれでも俺らの天敵になりそうなのはいないっぽいから時間があるときに様子を見に行こうぜ」
「うむ、わかった」
「そんで魔王とかの情報は俺の聞いた限りだとゼロ。俺が集めた情報はこんなもんだ。それでバルのほうはどうだったんだ?」
「うむ。わしの方はそうじゃの……とりあえずこんなものを手に入れたぞい」
「あ? なんだこりゃ。地図?」
「そうじゃ。この大陸の地図じゃ」
「地図だったらメニュー開けば見れるだろ?」
「あれは本人周辺しか映さんではないか。この地図ならそれより広く見れるぞい」
「ふーん」
俺は地図を広げて眺めてみる。
するとどうもこの大陸は1つの都市と5つの街周辺が主要な人間のテリトリーだと言うことがわかった。
「こうして見ると始まりの街と2番目の街ってすげー近いなー」
ん?
よく見ると街の上に文字が書かれている。
「始まりの街、ファーテストに……2番目の街、セカンディアードか。これ街の名前か」
「まあ始まりの街じゃとか2番目の街じゃとか言われているのより、ちゃんとした名前があったことの方が自然じゃろうて」
「そりゃそうか」
2番目の街とか、数字で呼ばれてるようなもんだしな。
名前があるほうが当然か。
まあどうでもいいけど。
ちなみに他の街は、3番目の町はサディアード、4番目の町はフォーテスト、5番目の町はファイブレイブと呼び、1つの都市は、王都ゼロードと言うようだ。
「つーかここからサディアードまでかなり遠いな。歩きだと1週間以上かかるだろこれ」
「むしろ大陸に5つしかない街にその程度の旅で行き来できるという事の方がわしには驚きじゃのう」
ああ、確かにそう思わんでもないな。
それに一つの大陸に人間の街や都市がこれだけしかないとか案外少ないように感じられる。
ただその辺は元々ゲームだったということを思い出し、そんなもんかと思い直したが。
てか実際のところその辺どうなってるんだろうな。この世界の人口とか生産とか。あと街と街の行き来とかこの世界の住民はどうやってんだ? 外にはモンスターがうようよしてるっつーのに。
「とりあえずこの話は置いとくか。さして重要な訳でもなし」
「そうじゃな。それでは次にスキルについてじゃ」
「おお!」
それについては俺も気になっていた。
スキルについてはバルが調べてくると言っていたからバルに任せていたが、一体どうすれば使えるようになるのか。
「まずはスキルの習得方法についてじゃな。その方法はこの街の中心部にある『スキル道場』で師範代や門下生の出すクイズに10問連続正解することだそうじゃ」
「道場なのにクイズすんのかよ。つかそんなんでスキル使えるようになるのか?」
「聞いた話ではの。その10問というのも固定されておるらしいからクリアするのは容易じゃぞ」
「ふーん」
「ちなみにそのクイズとその答えはこの紙にまとめておいたぞい」
バルが俺に紙を渡してくる。
「万が一クイズを間違えても初めからやり直すことができるようじゃから気楽に行ってみようぞ」
「へえ。それじゃあ俺はノーヒントで挑んでみるかな」
「ふむ。まあそれもいいじゃろう。わしはもう答えは覚えてしまったからすぐに終わらせるがのう」
「まっとりあえずそこに行くのは明日だな。今日はもう宿でメシ食って寝るぞ」
「うむ」
そうして俺らは宿で洋風オムライス(オムライスって既に洋風じゃねーのかよ)を食って宿のベッドに潜るのだった。
ちなみに洋風オムライスは一食20G、宿は1泊50Gだった。昼間のパスタは30Gな。
物価たけえ。
朝早くに起きた俺らは宿で朝メシを食った後、早速スキル道場に足を運んだ。
「ここか。なんつうか見たまんま道場だな。本当にここでクイズすんのかよ」
俺らの目の前に立つ建物は、いかにも格闘家が自らの技を日々磨き続けているような、屋根は瓦で年季の入った道場だった。
ただ近くからよく見ると、コンクリート製っぽい壁は頑丈そうで、外敵の侵入を拒むような作りになっているように見えた。
「ここで間違いないようじゃぞ。ここに掛けられている看板にもちゃんと『スキル道場』と書かれておるし」
「マジか」
俺はバルが指差す先にある看板に書かれている文字を読む。
「……確かに『スキル道場』って読めるな」
「じゃろう? では早速入ろうぞ」
バルがぶ厚い石の扉の前に立って勢いよくその扉を開け放つ。
「たのもー!!!」
……なんだかんだでコイツ結構ノリノリだな。
気分はあれか。道場破りか。
「押忍!!! スキル道場にようこそッス!!!!!」
「「「「「オス!!! スキル道場にようこそッス!!!!!」」」」」
バルは扉を閉めた。
「おい。何で閉めてんだよ」
「だ、だってだって……いきなり大勢がわしに向かって叫ぶんじゃもん……」
「……そんくらいでビビるなよ。さっきまでノリノリだったクセしてよお」
「……すまぬ。お主から先に入ってくれ」
「ハァ……わかったよ」
俺はバルの代わりに扉を開いた。
「押忍!!! スキル道場にようこそッス!!!!!」
「「「「「お、オス! スキル道場にようこそッス!!」」」」」
確かにこの掛け声は鼓膜までビリビリくるな。
だがさっきより若干後に続く門下生らしき奴らの声が小さく思える。
「おいバル。てめえのせいで門下生の皆さんが傷ついちゃったじゃねえか」
「う、うぅ。……先ほどは扉を閉めてしまいすまなかった」
バルは俺のナナメ後ろでぺこりと頭を下げる。
「あ、い、いいんですよ。そんな謝らなくても」
「そ、そうッス。自分達全然気にしてないッス!」
「お、俺達小さい子に怖がられるのには慣れてるッス!」
「そ、そうか」
その割には声がどもってるな。
まあ割と子供にも心優しい門下生ばかりなようで良い道場だとでも思っておくか。
「それで貴様らはここに何用かな?」
ひときわ大きな筋肉モリモリの男が俺らに話しかけてきた。
コイツは多分道場主とかだろうな。
「スキル習得について教わりに来たか? それとも我が道場に入門し、身に宿るスキルを鍛え上げに来たか? それとも……道場破りか?」
最後の言葉を言うと道場主餓えた野獣の目つきで俺らを睨みつけた。
「俺らが来た目的は1番最初の奴だ。俺らはスキルの習得方法を教わりに来たんだよ」
「そうか。道場破りかと思ったが、残念だ」
男は肩をすくめるようにしてそう言った。
「それならばここにいる門下生に教えてもらうがいい」
「おう。わかった」
全身筋肉な男はそう言い残してその場を去っていった。
「さて、それじゃあ誰に聞くか……」
「オス! スキルの習得方法についてなら自分が教えるッス!」
俺が周りをキョロキョロ見ていると、門下生の中から一人俺に話しかけてきた奴がいた。
そいつは頭を丸坊主にしていて、俺と同じくらいの身長の、まだまだ門下生見習いといった感じの男だった。
「ああ。そんじゃよろしく頼む」
「いえ! 此方こそよろしくッス! これも修行の一環ッス!」
「へえ」
人に教えるのも勉強のうちだって言うしな。
自分の持つ知識を相手に伝えることで、その知識を整理してより理解を深めるみたいなそんなんか。
「それでは今からあなたたちには○×クイズをしてもらうッス! 問題は全部で10問! これに全て答えられたらスキル習得が可能になるッス!」
クイズだと聞いていたが○×クイズだったか。
普通のクイズより当てやすいならそのほうがいいけどな。
「おういいぜ。早くクイズを出しな」
「オス!」
さて、どんなクイズが出てくるかねえ。
あんま勉強とか得意じゃねえから簡単な問題の方がいいんだが。
「では第一問! スキルにはパッシブスキルとアクティブスキルの二種類がありますが、自動的に発動するのはパッシブスキルである。○か×か」
……なるほど。
クイズってスキルに関するクイズなのか。
まあスキル道場だしな。ある意味当然か。
んでパッシブスキルが自動的に発動するかどうかだっけ?
パッシブってどういう意味だったか。たしか受動的とか消極的って意味だよな?
それにアクティブは能動的、積極的とかいう意味だったはず。
受動的なスキル? 消極的なスキル?
どういうことだ?
よくわからんな。だったらアクティブスキルの方から逆説的に考えてみるか。
アクティブスキルは能動的なスキル。
つまりは能動的に使用することでスキルが発動するということか?
だとしたらアクティブスキルは自動的には発動しないと言える。
だったらパッシブスキルは……。
「まる……?」
「正解ッス!」
「おお!」
良かった合ってた!
最初っから間違ってたんじゃ話にならねえしホントに良かった。
「続けて第二問! スキルの所有数にはレベルに応じて限界がある。○か×か」
……スキルの所有数?
ダメだ。これはわからん。
つかこんなのってゲームの設定次第じゃねえか。
くそっ。第二問目でもう勘に頼るのかよ。
……だがあいつは今レベルに応じてという一文を入れたな。
この問題が×ならわざわざそんな一文を入れるか?
引っかけという線もありうるがここは……
「……まる?」
「正解ッス! ちなみにスキルの所有数はスキルスロットの数と言い換えることができるッス!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
俺は勝った! 賭けに勝ったぞ!
ざまあみさらせ! 俺がそんな問題で引っかかるかよ!
「よっしゃ次いけ次!」
「オッス! 第三問! 一度スキルを使用して再び同じスキルを使用するためには一定の冷却期間を置かなくてはなりませんが、その冷却期間の名前はアイスタイムである。○か×か」
へえ。
それってあれか。俺の持つ弓の武器スキルが短い時間に連続で使用できないこともそれだよな?
思わぬところで名称が判明した。なるほどアイスタイムか。
……てまてまて。
その冷却期間がアイスタイムで合っているかってのが問題だよな?
どうなんだ? アイスって冷たいって意味だろ? それじゃあ合ってるだろ。
「まる?」
「不正解ッス」
「なん……だと……」
しかもこいつヤケに平坦に不正解とか言いやがったな。
あれか? こんなところで間違えた俺が悪いのか!?
「正解は×ッス。スキルの冷却期間は正しくはクールタイムと呼ぶッス」
「ぐっ!」
そっちかー、アイスじゃなくてクールのほうだったかー。
あーもー言われればすぐ気付くわー、こんな問題次からは余裕で解けるわー。
「どうやら間違ったようじゃの」
バルが俺の肩にポンと手を乗せる。
うるせえ、慰めてんじゃねえよ。
「それじゃあ次はわしがクイズに挑戦してもよいかのう?」
「……好きにしろよ」
「じゃあそうさせてもらうとするかの」
「お、オス! よろしくお願いしますッス!」
「うむ、此方こそよろしく頼むぞい」
さっき脅えられたことを引きずっているのか男の声が若干震えたが、クイズをする事に支障はなさそうだ。
そうしてバルは門下生見習い(仮)の出すクイズに答え始めた。
ちなみに俺はそんなバルを遠くから見守っている。
近くにいてクイズの答えを聞くのは嫌だからな。
昨日は事前に情報を仕入れなかったことでバルから呆れられていたが、俺は基本的にそういったネタバレ要素とかを知識として極力いれたくないタイプだ。
ネタバレ厳禁。安易にネタバレしてくる奴は死ね。
それが俺の流儀だ。
俺はガキの頃、友也からとあるゲームを借りる瞬間に『○○○○は中盤で死ぬからパーティーから外しといて』とかそんな事を言われたことがある。
そしてゲームを始めてからしばらくして、例の中盤で死ぬというキャラが出てきた瞬間「あ、こいつ死ぬんだ」と思っちまって、その後の物語の激動の展開を見ても「でもこいつ死んじゃうんでしょ? 主人公といい感じだけど死んじゃうんでしょ?」と別のところに意識が向いて、そしてようやく中盤に差し掛かって例の中盤で死ぬキャラが死んだ瞬間は「あ、やっと死んだ」というあっけない感想しか持てなかった。
いやまあ確かにそのキャラが死ぬまでゲームの中では盛り上げてくれたよ。主人公と良い仲になったと思ったら敵に攫われて、それを主人公と仲間が協力して助けに行くんだとか。それでやっと主人公が例の死ぬキャラを助けて抱き合おうとする瞬間に敵キャラが背中からグサリとか、ネタバレがなければあの場面はホントに悲しくて良い場面だったんだろうなと思うと腹が立ってきた。
そのことを後日友哉にぶん殴りながら話すと、『で、でもこれは効率的にゲームを進めるには事前に知っておくべき情報だったんだ!』と泣きながら俺に訴えかけていたっけか。
そんなこと知るかボケと言ってやったさ。なにが効率的にだ。それでゲームが楽しめなくなったら本末転倒じゃねえか。
本人は良かれと思っての行動だったのかもしれんが、その良かれと思っての行動がホントにその人のためになるとは限らないと気付いたのはその時だった。
普段ゲームなんてあんましないのにますます俺がゲームから遠のいた原因の一つでもあるエピソードだ。
と、そんな事を考えているうちにバルが此方に駆け寄ってきた。
「リュウ。わしは全問一発正解してきたぞい!」
バルはそんなことを俺に自慢してきた。
「へー良かったじゃねえかーバルは頭いいなー」
「ふふん! そうじゃろうそうじゃろう!」
つってもてめえ、ネタバレありだろうが。
なんでこんなドヤッとした態度なんだよ。
「んじゃあ俺はもう1回クイズしてくるぜ」
「うむ! 頑張ってくるがよい!」
「へいへい」
俺は再びクイズを始めた。
その後も俺は3回間違えたが、ムキになって意地でもバルから渡されたネタバレの紙は見ずに、クイズを10問正解した。
所要時間は精々十数分。これくらいの寄り道はしたって構わないだろ。
そうして俺ら二人は無事、スキル習得方法を教えてもらうのだった。