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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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情報収集

「さっきまでの事はまだわしは忘れてはおらんからの」


「へいへい」


 朝起きてからその場で朝メシを軽く済ませてその後テントをしまっている時、そんなことをバルから言われた。

 確かに俺は大して寝てないが、1日くらいでそこまで気にすることでもないというのに。


 そしてその後今日の夜に泊まる宿を探し、無事宿を確保できてから中途半端な時間を外で狩りの時間に当て、昼少し前になったあたりで街に戻ってメシを食う店を探して街を歩いた。


「お主本当に平気かのう? 少ししか寝られなかったではないか。今からでも宿で休まぬか?」


「別にいいってのこんくらい。その気になれば三徹くらいできんだからよう」


「むう」


 朝からバルはずっとこんな感じだ。

 どうもバルは俺を過保護に扱いたいらしい。自分はあまり過保護にされたくないという行動をしているのに、人には過保護にしたいとはどういうことか。


 まあなんだ。多分バルは元の世界では守られる側だったから誰かを守りたいという欲求でもあったんだろう。そうするとVIT全振りもそういうことを意識してやったことなのか?

 とりあえず今考えることじゃないか。


「それよりさっさとメシにすっぞ。あそこなんてどうだ? 洋風パスタだってよ。この世界で洋風とか訳わかんねーけど」


「ハァ……じゃあそこ行くかの」


 ようやく折れたのかバルはそんな気のない返事をしてきた。

 そして俺らはそのパスタ屋で注文を頼んだ。


「それで、これからの予定は考えておるのかのう?」


「ああ、まあな。ひとまず午後はこの街で情報収集をしようと思う」


「情報収集?」


「この辺に出てくるモンスターの種類や分布、脅威度についてが最優先。その次にここのプレイヤーの様子とか最前線プレイヤーの情報とかな。後は魔王がこの辺にいるかとかか」


「ふむ、なるほどのう。しかしあれじゃな。この街に来たのならもう一つ重要な情報も仕入れるほうがよいのではないかのう?」


「? なんだよその重要な情報って」


「スキルについてじゃよ」


「スキル?」


 スキルってあれか、技だよな。

 何かコマンドを入力すると特殊な攻撃ができるみたいな。


「フリーダムオンラインの先行情報では2番目の街でスキルが習得できるようになるらしいんじゃよ。知らんかったのか?」


「全然」


「ちなみに3番目の街ではクラスというシステムも追加されるぞい。これもお主は知らなかったのかの?」


「全然」


「……お主、説明書とか読まない派じゃろ」


「よくわかったな。まさかてめえ、エスパーか」


「いやエスパーじゃなくてもわかるぞい……」


「……だろうな」


 俺は基本読まない派だが、今回に限っては事前に調べておけばよかったと思う。なんてったって命がけなんだからな。


 こんなことを聞かれると俺のテンションは地に落ちていく。

 弱い返事しか出せなくなってもしょうがない。


 そんな俺の様子を見てかバルは深くため息をすると、俺に説明を始める。


「フリーダムオンラインでは始まりの街とその周辺はあくまで動作を確かめるための場所という考えが事前情報でされていたんじゃ。そしてある程度慣れてきたら次は2番目の街でスキルの概念を教わって、よりゲームを楽しめるようにしているというのが一般的な見解じゃの」


「へー……」


「じゃからここへ着たら真っ先にスキルについての情報を集めるのかと思っておったぞ」


「……ごめんなそんな事も知らないバカで」


「……お主やはり一度寝たほうがいいのではないかのう。いつものお主ではないぞい」


 変なテンションのまま俺らの元にパスタがやってきて俺らはパスタを食い始めた。

 見た目はアレだがイカスミパスタって案外イケルんだな。






「じゃあここからは二手に分かれるぞい。その方が効率は良いからのう」


「おう」


 気分を入れ替えて俺らは早速情報収集に取り掛かることにした。

 今回は誘拐事件の時のように一緒には行動しない。


 あの時はコイツが攫われる危険があったし、プレイヤー相手への情報収集ならあの兜でもそこまで怪しまれないだろ。

 今の服装は村人Aみたいなのじゃなくて全身鎧装備だし、小柄なのがややネックだが前までのと比べるとそこまでギャップは生じていない。


「一応誘拐事件の時の反省を踏まえて常にパーティーは組んだ状態にしてあるからお互いの位置は特定できるが、絶対に知らない奴についていくなよ」


「言われずともわかっておるわい」


「…………」


「な、なんじゃその目は!?」


 何だその目はと言われても困るな。

 コイツには見知らぬ人についていった前科がある。俺という前科が。

 ぶっちゃけ本当に今の言葉を信じていいのか考え物だ。


「お主はそんなにわしの事が信用できんのか!」


「ああ」


「!?」


 まあ、つってもいつまでも俺が付き添うんじゃコイツの教育にはならないか。

 しょうがねえ。信じてやるか。


「もし追い剥ぎに絡まれたところを助けられて三日間メシを食っていなかったところにメシを奢ってやるとか言われてあまつさえ一週間野宿していたところにタダで宿に泊めてやるとか言われても絶対についていくんじゃねーぞ」


「やけに細かいの?! というかそれってお主の事ではないか!!!」


「そうだよ。そんなホイホイついていくな。食われるぞ」


「食われる? 何を言っておる。わしはVIT特化じゃからそんじょそこらのモンスターにわしの体を引きちぎることなどできんよ」


「いや、そういうことじゃねーんだが……まあいいや。5時間後にあそこにあるオブジェの前に集合な」


「? よくわからんがまた5時間後に会おうぞ」


 バルはその場を後にする。

 なんっつーか不安だな。食われるって言われても何のことかわからん位には天然素材だし。


 だがまああいつの言っていたVIT特化というのも的外れではなく結構頼りになるのは確かだ。

 それで一度誘拐犯の襲撃を無傷でやり過ごした実績がある。その時は代わりにレイナが攫われちまったが。


「まっ、信じてみるか」


 俺はバルの進んだ道とは逆の方向へ進み、情報収集を開始した。


 実のところ、バルと分かれて情報収集するのは俺にとって好都合だったかもしれない。

 この街に着たらすぐに知りたいことが俺にはあった。

 それは『ユウの所在』だ。


 あいつのことだからちゃんと死なずにこの街までは着けたはずだ。

 だがその後あいつがどうするのかは全然わからねえ。

 この街を拠点にしてレベル上げをしている?

 より先へ進むためにすぐさま次の街に向かう?

 バルが言っていたスキルを覚えて戦い方を習熟している?


 とりあえずはユウたちがこの街にいるかどうかだ。

 それはこの辺のモンスターについてを聞き込むついでにプレイヤー達に聞いてみよう。






 5時間後、俺は待ち合わせ場所のナゾのオブジェの前にいた。


 ナゾのオブジェはナゾのオブジェだ。形容しがたく説明ができないがとにかくナゾのオブジェだ。

 なんでこんなもんの前で待ち合わせしちまったかな。まあこのオブジェの周りには人が寄り付かないからバルが俺を探すのに便利だろうけどな。


 つかだれも寄り付きたくないオブジェなんか建てるなよ。


 そしてこの5時間で調べてわかったことだが、ユウは既に次の街目指して、この街を1週間前には出発していってしまったらしい。

 そんな事がわかったのは、ユウ達6人パーティーが物凄い速さでレベル上げを行っていて、その時点でここらじゃ最高レベルのレベル15に最速で到達したとこの街のプレイヤー間では広く知られていたからだ。


 まあつまりあいつはまだまだ俺らの一歩も二歩も先にいるって事だ、悔しいことに。


 だがいずれ追いついてやる。

 俺らもなるべく早くレベル15になって次の街を目指そう。


「おーい、わしはここにおるぞー」


 ふと、バルのそんな声が遠くから聞こえた。

 何で遠くから呼んでるんだよ。

 俺はバルの方に歩み寄った。


「てめえなんでオブジェの前に来ねーんだよ」


「だってあのオブジェの周りは全員人が避けておるのじゃぞ? それを見るとなんか行きたくなくなっての。わしもあれはどうかと思うし。お主はよく一人であそこに立てたのう」


「うっせ。あのオブジェもなあ、よく見りゃ愛嬌とかあんだよ。バカにすんじゃねーよ」


「そ、そうか」


 まあ俺もあのオブジェはよくわかんねーけどな。

 ただただ形容しがたい何かだ。


「んじゃとりあえず情報収集の成果を互いに出すか」


「そうじゃな」


「だがその話は宿に戻ってから話すか、もう疲れちまったし」


「……それなら待ち合わせ場所は宿の方が良かったのではないかのう?」


「……そうだな」


 俺は行動の無駄を指摘されてただただ頷くしかない。


 やっぱ寝不足で頭回ってなかったのか。

 わけのわからんオブジェの前に一人で立っていたのも愛嬌があると思ったのも多分そのせいだ。

 さらばナゾのオブジェよ。俺はてめえの事、一瞬で忘れるよ。


 そうして俺らは宿へと戻っていった。

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