表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
22/140

野宿

 俺とバルは2番目の街に到着した。

 既に夜の時間と言っていい時間帯に差し掛かっているので周囲は暗くなり始めている。


「まずは宿の確保が先かのう」


「そうだな」


 街を見回すと、2番目の街は見た感じでは始まりの街との大差はないように見えた。

 建物は中世ヨーロッパ風で街が外壁で四角に囲まれている。

 ただ2番目の街を遠くから観察した時、始まりの街より総面積は若干小さいっぽいように感じた。


 まあいいか。詳しくはちゃんと休んでからだ。

 流石に1日中動きっぱなしで疲れた。


 そうして俺らは街の中へと入って宿を探し始めた。



「何? うちに泊まりたい? 悪いが今客は満杯でよ、他当たってくれや」


「申し訳ございません。只今満室となっております」


「さっきまでなら空いてたんですがねぇ……」


 全滅だった。


 少しこの街に来るのが遅すぎたようだ。

 この街の全部の宿が満室という状態だった。


「ふうむ。困ったのう」


「このままだと最悪野宿になっちまうな」


「わしは最初の1週間で野宿には抵抗がなくなったんじゃが、お主の方はどうじゃ?」


「まあどうしようもないなら俺だって野宿だってできるさ」


「なら問題はなさそうじゃの」


 ……つか今までそこまで気にしてなかったが、こいつ最初の1週間野宿だったんだよな。

 確かにあの時は金欠だったからそうせざるを得なかったんだろうが、こんなちびっこいのが野宿していたと改めて聞かされると不憫に思えてくる。


「……野宿するにしてもテント張るとかしてそれなりの準備はしようぜ。それと街の中でな」


「うむ、そうじゃの」


 俺らは早速街の中でテントを張れそうな場所を探す。


 実のところ始まりの街でもテントを張ったり木材を集めてほったて小屋を作ってそこで眠るというプレイヤー及び住民は結構見かけた。

 だからここでもそういう風にして眠る場所があるんじゃないかと思ってはいた。


 もちろん街の中でHPを保護されること以外の事でのトラブルは自己責任となるわけだが。

 まあ見張りを立てればいい話なんだが、2人パーティーの俺らじゃちときついな。


 と、そんな事を考えているうちに俺らは街の中でテントがいくつもある一画を発見した。


「この辺か、じゃあテント建てようぜ」


「うむ」


 俺はアイテムボックスからテントを取り出す。

 ちなみにこのテントも始まりの街で買ったものだ。

 初心者でもワリと簡単に張れるタイプで多少値は張ったが、外で野宿する可能性も考慮して購入していた物だ。

 備えあれば憂い無し、俺のアイテムボックスで持ち運べる限界も全然見えないしな。


「うっし、大体こんなもんか」


 俺らはテントを張り終えて、テントの中の様子を探る。


「ふむふむ、思っていたより中は広いのう。それになかなか寝心地も悪くなさそうじゃの」


「そうだな」


 俺は中の様子を見るとテントの外に出てシートを敷く。


「じゃあ先に俺がここで見張ってるからバルは先に寝ろよ」


「よいのか?」


「おう。それなりに時間が経ったら交代な」


「うむ、わかった。では先に寝させてもらうとするかのう」


「交代のときに起きなかったらいつかの時みたいに起こしてやるから覚悟しろよ」


「そんなことせんでも起こされれば起きるわい。わしは目覚めがいいんじゃ」


「へーそうかい。そんじゃお休み」


「うむ。お休み」


 そうしてバルはテントの中からテントの入り口を閉じた。

 俺は空を見上げて深夜に輝く星を眺める。


 この光景も元の世界じゃ見れない代物だな。

 俺が住んでたところだと夜に星が見えることなんてなかったもんな。

 探せば星座とかもあったりすんのかねえ。


 俺はそんな事を思いつつ空を眺め続けた。

 結局星座の知識に疎かった俺に星座を見つけることはできなかったが、ただ星をぼんやり眺めている時間というのもいいもんだなと思ったりしてした。


「君達も宿からあぶれたクチかい?」


「んあ?」


 俺が空を眺め続けてどれくらいの時間が経ったか、深夜という時間帯にふさわしくなった頃、すぐ近くにテントを張っていたプレイヤーらしき男が俺に話しかけてきた。

 年は高校生くらいか。俺やユウと同じくらいに見える。


「ああ、まあな」


「やっぱり、俺達も今まで泊まっていた宿に今日も泊まるってことを伝え忘れちゃってね、仕方なくこうしてテントで寝ようって事になったんだ」


「へー。今までってことはそっちのパーティーはこの街に来て結構経つのか?」


「そうだね。大体1週間くらいになるかな。後もう少しでレベル15になるから、そうしたら次の街に行こうかなって思ってるけど」


「ふーん」


 レベル15か。

 今俺とバルはレベル12だが、15くらいが次の街に行く目安なのか?


「テントを張る時、少し君達を見てたけど、君達は2人でパーティーを組んでるの?」


「ああ、そうだが?」


「この見張り役にしてもそうだけど、早いうちに7人パーティーになるようメンバーを集めたほうが今後楽だと思うよ」


「あー、確かにそうだな。見張りを7人でローテーションすりゃ一人の負担も大分少ないわな」


「その通り」


「だがなあ、そんなホイホイとメンバー集めて、そんでそいつらを信用していいもんかねえ」


「確かにそういう問題もあるね」


 そうだ。

 いくらパーティーを組んだからといっても所詮は赤の他人同士。

 そいつらを信用していいものかどうかは割と大きな問題だ。


 相手が相手なら、こうやって夜の見張りを任せて眠ったところを襲われるなんて事態だって起こりうる。


「まあその辺で問題になった時は仲間になった奴の人間性を見極められなかった自分自身の問題とも言えるか」


「まあね。……でもいつまでも二人だけで戦えるとは思わないほうがいいよ。敵もだんだん強くなってくるんだしね」


「へいへい」


 なかなかお節介が好きな奴だな。

 そんな事を見ず知らずの俺に向かって言うなんて。


 いやまあただ単に見張りが退屈だからこうして俺と喋ってるだけかもしれないが。


「……俺も最初、知らない奴とパーティー組むのは怖かったんだ」


「でもこんな事言ってくるってことは今じゃてめえらは7人パーティーなんだろ?」


「ああそうだよ」


「今パーティー組んでるそいつらとはどうして組めたんだ?」


 俺がそう質問すると男は星を眺めながら、しかしその目はまるで過去を振り返っているかのように細めつつ言葉を紡ぐ。


「……最初の日、あのゲームマスターとかいう影がいなくなってから俺はどうすればいいのか途方にくれていた。とりあえず始まりの街までは行けても、その後どうすればいいかわからなかったんだ。でも街の中には俺の様に途方にくれているプレイヤーが数多くいた。それを見ていたらなんだか急に俺が戦わなくっちゃって思えてね、その後は街の掲示板にパーティー募集の張り紙を張ったり、一人で外に出て行こうとするプレイヤーに話しかけてパーティーに勧誘したりさ。そうしてる間に今の7人パーティーができていったんだよ」


「ふーん。てめえなかなかやるじゃん」


「どうも」


 俺が褒めると男ははにかむような笑みを返してきた。


「つーことはてめえがそのパーティーのリーダーってことか?」


「うん、一応ね。本当はそんなのやる柄じゃないんだけど。……多分俺のパーティーメンバーもみんなそう思ってるよ」


「いいんだよ。こういうのは一番行動力を見せた奴がリーダーやるべきなんだ。てめえはメンバー集めるために色々頑張ったんだろ?」


「う、うん」


「だったらてめえがリーダーだ。胸を張れよ。じゃねーとせっかく集まってここまで着いてきてくれたメンバーが他所に逃げちまうぞ。てめえはそれでもいいのか?」


「いや、よくない。まだ短いけどここまで苦楽を共にしてきた仲間達と今更分かれるなんて俺はしたくない」


「決まりだな。まあてめえ自身が潰れちまわない程度に頑張れや、リーダーさんよ」


「うん、ありがとう。なんだかやる気が出てきたよ」


「そうか。ならいいんだけどよ」


 コイツはコイツで自分がリーダーでいいのか悩んでたのかもな。

 そんでそれを吐き出す場所を探して見ず知らずの俺に話しかけたと。


 まあいいさ。夜は長い。

 そういう愚痴みたいなことを聞かされるのでも暇つぶしになる。


「そろそろ交代の時間だ。俺はもう寝るね」


「おう」


「俺の名前はエイジ。パーティー『ホワイトソード』のリーダーだ」


「俺はリュウ。パーティー名はまだない」


 そうしてエイジはテントの中に入ってパーティーメンバーと交代した。


 その後出てくるメンバーも、なにやらリーダーと話していたという事がテント内に洩れていたらしく、俺に話しかけてきた。

 俺も暇つぶしをするにはちょうどいいからそいつらの話を聞いたり、少しだけだが俺の話をしたりした。


 エイジのパーティーメンバー、すもも、ポッポ、アン、ピー太、神田、ゆみこの6人は、俺が話をした感じ、結構いい奴らに思えた。

 年も全員近く見えたから、多分このパーティーは話の合う仲がいいパーティーなんだろう。

 俺らも早く7人パーティーになれればいいなとその時思った。



 そんな俺の暇つぶしを続けているうちに、朝日が昇って街を照らし出そうかという頃合いになった。

 そして空気が澄んでいるようなそんなさわやかな朝は、突然後ろから音がし始めてテントをガバッと開けた奴によって終わった。


「すまぬ!!! 寝過ごしてしまったようじゃ!!!!!」


 鳥のさえずりしか聞こえてこないような静まり返った早朝時、テントから飛び出てきたバルは俺に向かって大きな声で謝罪を始めた。


「本当にすまぬ! わし自身が寝起きはいい方だと言ったというのに朝まで寝てしまうとは……!」


「あーいいっていいって。謝る事じゃねーよ」


「しかしじゃな……!」


「だって俺まだ起こしてねーもん」


「……は?」


「俺が起こす前に起きたんならちょうどいいや。んじゃ見張り交代な。あとは頼むぜー」


 俺はバルが飛び出したテントの中に入って入り口を閉めるとすぐに横になった。


「あ、こら! まだわしの話は済んでおらんぞ!」


「うるせーなあ。そんなにでかい声出されてると寝られねーだろうが」


「ぐ、ぐぬぬ……」


「お休みー」


「お、お休み……」


 俺は強引にバルとの会話を終了させる。

 今回はキチンと何時間後に交代するかを決めなかったバルが悪い。

 俺が起こすまでがバルの睡眠時間だ。俺が提示した交代制度ではそうなってる。


 そして俺は速攻で睡眠をとり、周囲の人間が大体起きたと言えるあたりでその音を目覚まし代わりにさっと起きて活動を開始した。

 俺も目覚めはいいからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ