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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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旅路(始まりの街~2番目の街)

 始まりの街を出発して1時間が経過した。

 出発してからの俺らはずっと北東方向に進んでいる。


 そして今、俺とバルはマップ的にはフリーダムオンラインゲーム開始直後にいた始まりの草原に入るところまで来ていた。


「あんまここも久しぶりって気はしねえな」


「まあそうじゃろ。わしらがこの世界に着てからまだ2週間程度しか経過しておらんのじゃからのう」


「まだそれくらいだったか」


 体感的には1ヶ月以上は経っていたような気分だ。

 まあこの2週間いろいろあったしな。


 たった2週間かと思うが、しかしされども2週間だ。

 ここで2週間経ったということは元の世界でも2週間経ったということになる。

 きっと陽菜も不安に思っていることだろう。


 それにこれだけの時間が過ぎたというのに外部から何のアプローチもないということは、現実世界の警察も案外役に立ってないということになる。

 外からの助けが見込めない以上、やはり俺らプレイヤーが大魔王を倒して自力で脱出するしか方法はなさそうだな。


「とりあえず先を急ぐか。ここにいつまでもいても意味ねえし」


「うむ」


 俺らは北東方向に進む。

 その先に俺が最初に目指し、ユウ達が向かった2番目の街がある。

 

 俺らは草原の草を踏みしめて、草の臭いが混じった風を感じながら歩き続けた。






 始まりの草原を抜けて、俺らは荒野へと足を踏み入れた。


「……ちっ」 


「? どうしたのじゃ?」


「いや別に。ちっと嫌な事思い出しちまってな」


「ふむ? そうか」


 そうだ。

 ゲーム開始初日、俺は2番目の街に行く途中この荒野にやってきて……ブタ公にボロ負けしてユウ達に助けられて始まりの街に運ばれたんだっけか。

 運ばれている最中、俺は気絶していたからわからないが、きっとユウのパーティーメンバーはさぞ俺に呆れたことだろう。


 なんていうかそう考えると無性にその時の自分を殴り飛ばしてやりたくなる。

 なんでもっと慎重に行かなかったんだと。

 とは思いつつも、そう言われてあの時の俺が引き下がるとは思えねえが。


「まっ、過去の話だ。今は今できることをやるまでさ」


「?」


 そうさ。

 今は今できることをやる。

 それに今の俺はあの時の俺とは違う。


 今の俺には戦う力があるし頼りになる仲間も一人だけだがいる。

 もしあの時みたいにモンスターに襲われても今の俺なら瞬殺だ。



 っと、そんな事を考えていたからか、遠くの岩陰からモンスターが飛び出てきた。

 そのモンスターは例によってあのブタだった。


 残念だったなブタ公。

 今の俺はあの時無様に体当たりを食らっていた俺とは一味も二味も違うんだよ。

 それを今この荒野で証明してやる。


「くらえやオラア!」


 過去を払拭するために俺は弓を引く。

 掛け声をして多少矢の向かう先がずれても修正してくれる武器スキルが便利だ。

 俺が30メートルは先に居るブタに木製の矢を飛ばすと、矢は若干カーブの軌道をとってブタを打ち抜いた。


「っシャア!!!」


 俺はその場でガッツポーズをした。


「……なんか今のお主は妙にテンション高いのう」


 バルがそんなツッコミを俺にしてくるが今の俺は気にしない。


 いいだろ別に今くらい。

 これで俺の中で一つ過去の苦い思い出を清算できたんだからよ。

 命中したのはたまたま手に入ったこの弓のおかげではあるが、石袋を使っても結果は変わらねえんだからここは素直に喜んでおいていいさ。


 そしてその後もモンスターが出てき次第、俺は弓を引いてモンスターを屠り続けた。

 どんなモンスターでもここいらじゃ俺の攻撃に耐えられず、どいつもこいつも一撃どころか貫通して絶命する有り様だった。


 そんな俺の後ろをバルはトボトボと歩いていた。


「わしもういなくていいんじゃないかのう……」


 荒野に入ってから5匹目のモンスターを射抜いた後、バルは後ろからそんな事を呟いていた、


 まあ確かにさっきまで近接戦闘は始まりの街を出てから1回もしていないしな。

 戦闘というよりそのまんまの意味で狩りと呼んだほうが正しいのかもしれない。


 たまたま手に入ったこの弓で俺は遠距離から敵を確実に倒せるようになったため、石袋を使う必要が殆どなくなった結果、バルが敵を抑えている必要も無くなった。

 まあ相手が複数匹の場合は弓の武器スキルの関係上連射ができないからバルにも活躍の場面が出てくるとは思うが、今は特にそんな事態にも会っていない。


 そしてそんな狩りの間中、盾役のバルはすることがなくて、ただただパーティーとして加算されていく経験値と金を眺めるだけだ。

 モンスターの素材剥ぎも全部俺がやっているせいで、今のバルは完全に空気だ。


 素材剥ぎをコイツにやらせるという手もあるが、この作業は血や内臓を真近で見ないといけないから精神的にかなりしんどい。

 俺はもう慣れたところがあるからそんなでもないが、小中学生位の子供にやらせるには厳しい仕事だ。

 やらせてくれとも言ってこないから多分バルもやりたくないと思っているんだろう。

 だったら無理にやらせることもないだろう。


「まあ楽できる時は楽しとけ。どうせいつまでもこんなポンポン死んでくれる敵ばかりじゃなくなるだろうしよ」


「むぅ。でものう……」


「それに俺が安心して弓を撃てるのは傍でバルが待機しているからなんだぜ?」


「そ、そうなのか?」


「そうそう。バルが周囲を警戒していてくれるおかげで俺は敵を倒すことだけに集中できるんだよ。だからそんなテンション下げんな」


「う、うむ! そうか! お主はわしの事をそんなにも頼っておるのじゃな!」


「おう、頼りにしてるぜ、『鉄壁』さんよお」


「うむ! お主はどんと大船に乗ったつもりでわしに守られるがよいぞ!!」


 バルは途端に元気になって周りをキョロキョロと監視し始めた。


 うん。やっぱこいつチョロいな。

 咄嗟に出た言葉だったが、どうやらバルはお気に召したらしい。

 まあさっき言った言葉に嘘は入ってないんだけどよ。

 とりあえずは元気になったようだからいいか。


 そんなこんなで俺らは荒野を進む。

 この先にある2番目の街を目指して。


「っと、その前にここらで昼メシにしようぜ。そろそろ腹が減った」


「ふむ。確かに時間的にも昼食時じゃのう」


 俺らは昼メシにすることに決め、近くにあった大岩の傍にシートを敷いて準備を始めた。

 基本的なサバイバル用品も始まりの街を出る前に調達済みで、俺はアイテムボックスから次々と物を取り出していく。

 皿やフォーク、ナイフにスプーン、鍋やフライパンにマッチ、固形燃料なんてのも雑貨屋には売っていた。

 俺はその他にも調理器具や調味料、調理食材を取り出し、バルが包丁を持って肉や野菜を切り始めた。


 一応料理に関してはSTRやDEXといったものがなくてもできるようで、街を出るときにSTR特化の俺が荷物運びをするならと、バルが外での料理を買って出た。

 だから俺はコイツが料理をするところを黙って待っている。

 俺もそれなりに料理はできるのだが、わざわざやらせてくれと張り切って言ってくる奴から仕事をとるのも気が引けるしな。


 ちなみに調理食材の中には元がモンスターだったものも多く含まれている。

 何気に俺とよく戦うあのブタも、肉料理にすると結構美味かったりする。

 とはいってもここではそんな手の込んだ料理はできないけどな。精々今バルがフライパンで作ってるように肉野菜炒めとかそんなんだ。しかも炒めるための火力があんま足りてない。

 次の街に着いたらもっと火力のでる器具がほしいな。


 しばらく空を眺めていること数十分、メシの用意ができたとバルは俺を呼んだので、俺は座っていた岩の上から飛び降りた。


「待たせてしまってすまんのう。しかし出来はなかなかの物じゃと自負しておるゆえ、じゃんじゃん食すがよいぞ!」


「おう。そんじゃあいただきますっと」


 俺はまずさっき倒したブタの入った肉野菜炒めを箸で掴んで口の中に放り込む。

 すると肉の柔らかみと野菜のシャキシャキ感がいい感じに口の中を満たしていった。


「へえ、結構うめえじゃねえか」


「そうじゃろうそうじゃろう」


 割と予想の斜め上をいかれたその味に俺は素直に驚いた。


 つか肉とかって現実世界の知識では、取れたて新鮮だとむしろ硬いらしいんだけどな。

 だがこの世界の肉は取れたてでもちゃんと料理すればちゃんと美味い。

 なにか違いでもあんのかねえ。


「元の世界では毎日料理をしておったからの。これくらいできて当然じゃ」


「……ふうん」


 俺はスープを飲んでパン屋から貰ったパンを齧りつつ、そんな気のない返事をした。


 ……そういえばコイツも両親いないんだっけか。

 働いている兄と二人暮らしなら料理の腕が上がるのも当然か。

 あんまこの辺の話を掘り下げるのはしない方向でいこう。


「つかバルもそろそろ食えよ。折角自分で作ったのに冷めちまうぞ」


「おっと、そうじゃったの」


 俺がそう話をずらすとバルはやっとメシに手をつけるべく、兜を外した。

 兜の中から真っ白な髪がさらさらと滑り落ちてくる。


「……いただきます」


 手を合わせながら小さな声でそう言うと、バルは自分で作った肉野菜炒めを黙々と食べ始めた。

 そうして俺らはしばらく無言でメシを食い続けた。


 …………。


「やっぱ俺の前だとさっきのレイナみたいにはっきりとは喋りづらいか?」


「……! ゴフッゴフッ!」


 やべっ


 食べてる最中に話しかけたせいでバルがむせちまった。

 俺はコップに注いだ水をバルに手渡してやり、そのコップをバルは両手で持ってごくごくと音をたてて中身を飲み干す。


「はぁ……コフッ……すみませんでした……」


「いや、俺も話しかけるタイミングが悪かった」


 俺らは二人して頭を下げあう。

 そしてバルはさっきの話の続きをし始める。


「そう……ですね。レイナとはもう親友なのでそれ程緊張せずに話せるのですが……リュウさんとは……面と向かってはまだちょっと……恥ずかしいですし……」


 バルはささやくような声で俺にそう答えを返してきた。


 まだ無理そうか。

 まあコイツと会ってからまだ一週間程度なんだから仕方ないか。


 って、レイナも俺と同じくらいの期間しか会ってねえじゃねえか。

 これが親友補正か。別にいいけどよ。


「……そういやさっきレイナと話してた時てめえ、レイナの事一番の友達って言ってたよな。そんなにアイツの事大切に思っちまったのか?」


「は、はい……レイナは……その……私の唯一の友達でしたから……今は親友ですが……」


「お、おう」


 ……今ちょっと聞かなきゃ良かった内容が含まれていたぞ。

 コイツ、兜なしだと引っ込み思案な性格してるから友達少ないかもしれねえと思ってはいたが、まさかのゼロだったか……。


 つかその状態で一番の友達と言っちゃうのはなんか詐欺みてえだな。バル自身はそんなこと考えて言ったわけじゃねえと思うが。


 なんだかさっき見た感動のお別れに水を差すような話だ。この話は聞かなかった事にしよう。うん。


「なんだったら俺も友達だと思ってくれていいんだぜ。そうすりゃてめえもちゃんと話せるだろ?」


「え……えと……リュウさんは……その……友達とは……その……違いますし……」


「そ……そうか……」


 ……あれ、もしかして俺コイツに嫌われてる?


 いやまあ今ので嫌われてるとか過剰な反応かもだが、じゃあコイツにとって俺はなんだ?

 リュウにぃと呼べと言っても考えさせてと言われ、友達と思えと言えば拒否られる。

 もしかしてただの他人?


 あ、なんかへこんできた……



「……まあ……いいんだけどよ。兜被ってりゃ普通に話せるんだし……」


 あれが普通なのかという問題は未だにあったりするんだけどな。


「……いずれ兜無しでもはっきり話せるようになれるといいな」


「……はい」


 そうして俺らはその後黙々と目の前のメシを平らげていった。

 とりあえずその間に俺のテンションもなんとか持ち直すことができた。


 バルとは仲間だ。それでいいじゃねえか。

 きっとバルもそう思っているはずだ。


「ごっそさん。メシあんがとな、美味かったぜ」


 俺はメシを作ってくれたバルに感謝して料理の腕を褒めた。


「あ、ありがとうございます……。また……食べてくださいね、リュウさん」


 バルは俯きつつも上目遣いで俺にそう言ってきた。

 美味かったと言われたのが嬉しかったのか、顔を若干赤らめて微笑んでいる。


「おう」


 ニヒルな笑みを意識して作りつつ、俺は一言そう言い返した。


 とりあえずメシはこれだけ美味いならこれからも任せて平気だろう。

 だけど俺もたまには作らないと勘が鈍っちまうか。

 そのへん俺がたまに作るようにバルと相談でもしてみるかね。


 こうして俺らは昼メシを終わらせる。

 後片付けもバルがやると言っていたが、美味いメシを食わせてもらって後片付けまでやらせるのも気が引けたので俺も手伝った。

 とは言っても近くに川があるわけでもないから食器類は拭く程度に留めてだけどな。

 本格的に綺麗にするのは次の街に着いてからだ。


 俺らは荒野を再び歩く。


 何度か途中で休憩を挟みつつ、時々モンスターの襲撃を撃退しつつ、北東に向かって歩き続ける。


 そして数時間が経過して空が夕焼け空になり、やがてその夕日も遠くに見える山脈に隠れていき、そろそろ夜と言ってもいい頃合いになったという時、遂に俺らは2番目の街に辿り着いた。

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