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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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 目を開けるとそこは何もない真っ白な世界だった。

 しばらくして意識がはっきりし始めると、どこからともなく女の声が聞こえてきた。


『ようこそフリーダムオンラインへ。ここではあなたが操作するキャラクターの作成を行っていただきます』


 キャラ作りのアナウンスか。


 そういやこういったゲームではロールプレイっつって作ったキャラになりきる遊びもあるんだっけか。

 まあ俺はやる気しねぇけどな。素の自分で遊ばせてもらおう。

 友也もロールプレイよりも効率とか考えて遊ぶ派だって言ってたしな。


『まず初めにあなたが操作するキャラクターの名前を登録してください』


 女の声がそう言うと、目の前に光でできたキーボードと画面が表示された。

 俺はそれに『リュウ』と打ち込んだ。まあ本名が龍児だしな。

 友也にもこの名前で行くと伝えてあるしこれでいいだろう。


『次にキャラクターの才能値を割り振っていただきます。フリーダムオンラインでは最初に与えられた才能値を元にしてキャラクターを成長させていくことができます。才能値は合計100、割り振れる才能はHP、MP、STR、VIT、DEX、AGI、INT、MND、LUKの9種類となります』


 ……な、なんだって? DEX? MND?


 HPはヒットポイントでMPはマジックポイント、LUKもおそらく幸運値のことだろう、それらはわかる。だがそれ以外はてんでわからん。


 いや、まて。そういえばステータスの略称だか何だかを友也が言っていた記憶がある。

 たしかSTRは筋力、INTは知力だったか?

 だめだうろ覚えだ……クソっこんなところで躓くとは。


 できる限りゲームの知識は入れずにまっさらな状態でプレイしたいと思っていたが……思わぬ落とし穴がありやがった。


 まあいいか、なんか問題あれば後で作り直しすりゃいいだろ。

 とりあえず今はアタッカーということでSTRに全部振っときゃ間違いねえだろうな。


  HP 0

  MP 0

  STR 100

  VIT 0

  DEX 0

  AGI 0

  INT 0

  MND 0

  LUK 0


 よし、完璧だ。

 これでとりあえず友也に宣言した通りアタッカーにはなれるだろう。

 記入した後、本当にこれでいいのかという確認がきてそれもOKを出した。

 そしてそのタイミングで俺は重要なことに気づいた。


 ……HP0じゃねえか。

 これって大丈夫なのか?


 ゲームスタートした瞬間死亡とかギャグにしかならねえ。

 だがこの振り方でも通ったんだから多分問題ないだろう。


『お疲れ様でした。これでキャラクター作成は終了しました』


 ……あれ? なんか早くね?

 なんか重要なもんが抜けている気がするんだが、なんだったかな?


『それではあなたを自由の世界へ転送します。心行くまでフリーダムオンラインをお楽しみくださいませ』


 俺が首をかしげている間にまた意識が遠のき、そして途絶えた。






「ここは……」


 目が覚めると俺は草原の上に横になっていた。


 草原は見渡す限りどこまでも続いており、どこか幻想的な雰囲気さえ感じられる。

 まあただの気分だけどな。


 けれど、そよそよと顔をなでる風の感触が心地いい。

 VRMMOはこんなところも再現できるのか。


 それによく見るとここにいるのはどうやら俺だけはないらしく、ぽつりぽつりと人が横になっていた。

 更によく観察すると、男と女で若干の違いはあるが皆同じ服を着ている。そして自分の体もよく見ると、どうやら俺も他の奴らと同じ格好らしいことがわかった。

 腰に剣が装備されていることを除けば中世ファンタジーなゲームにでてくる村人Aっていうような服装だ。


 多分ここにいるのは俺と同じくプレイヤーなのだろう。

 こうやって見ている間にも光の粒子が集まり、そこから人が生成されていく光景がちらほらと見える。


 この中に友也もいるのかね。

 たしか『ユウ』で登録するとか言ってたっけか。

 よし、ちょっくら呼んでみっか。


「おーーーーーーーい!!!!!! ユウーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」


 俺がその場で三回大きな声でユウの名前を叫ぶと後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。


「おっ来たかユウ」


「はぁっはぁっ……いや、来たかじゃないよリュウ。そんないきなり大声で呼ばれたら恥ずかしいじゃないか」


「なはは、まあいいじゃねえかどうせゲームの中なんだし……よ」


 友也の見慣れた顔を見て、俺はようやくキャラクター作成時の違和感に気がついた。


「ようイケメン。俺の顔見てどう思うよ?」


「いつもどおりの仏頂面だよ。リュウはもう少し笑顔を人に見せられるようにしないとね」


「うるへー、こういうときは君も僕に負けず劣らずイケメンだよ、くらいのこと言え……つかなんでリアルの顔なんだ?」


 そうだ、こういったMMOでは外見のキャラクターメイキングが命なのだと友也は俺に語っていた。

 ゲームバランスやらゲーム内でできることやら色々他にも重要なことはあるが、外見をどれだけかっこよく、かわいくできるかというのもプレイヤーを引き付けてやまない要素なのだとか。


 だというのになんで顔が現実世界と同じになってんだ?


「つかどうやって俺の顔模写したんだ?」


「多分ヘッドギアが自動的にスキャンしたんだろうね。体格も大まかなところは再現されているみたいだし」


「マジか、あのヘルメットそんなこともできるのか……つかなんかてめえずいぶん落ちついてんのな」


「いやそんなことはないよ……僕も内心びっくりしてるけど。多分運営のミスだと思うからいったんログアウトしてキャラを作り直そう」


 ユウはそう言うと、体の前で右手をサッと振って指をさまよわせ始めた。

 なんだ?と思って同じように右手を振って真似したらメニュー画面が開かれた。

 ふーん、メニューはこうやって出すのか。


 ここにログアウトボタンがあるのかなと思い、俺も探し始めた。

 ……が、それらしき項目はどこにもなかった。


「なあユウ。ログアウトってどうやってするんだ?」


「……ない。どうしてだ……普通ならここにあるはずなのに」


 ……ユウが目に見えて動揺し始めた。

 な、なんだ? なんかマズイ事でも起きてんのか?


「いや……ホームページの説明でも確かにここにログアウトボタンがあったはず……GMコールすらもできないなんて……」


「……あー、まあ見つかんねえならまたあとでゆっくり見てもいいんじゃね? 落ち着いてよく見りゃ見つかるかもしんねえしよ」


「そ、そうだね。アニメやラノベみたいにここから出られないなんてことある訳ないしね……」


「うげ、そんなのがあんのかよ」


「……創作物内での話だけどね。ゲームの世界から出られなくなった主人公が仲間とともに現実世界に返るためにゲームクリアを目指すっていうね」


「ふーん。でもそれはリアルの話じゃねえんだろ?」


「当たり前だよ。そういった拉致事件が起こらないように何重にも対策が打ってあるんだから……」


 ユウはそう言いつつも言葉尻は小さくなって、やがて俯いてしまった。


「……ならいずれ出られっだろ。今は運営が侘びいれてくんのを待とうぜ」


「う、うんわかったよ」


「ほれ、深呼吸深呼吸」


「スーはぁーー、スーはぁーー、……てここヴァーチャルだから呼吸なんて意味ないんだけど」


「うるへー、こういうのは気分の問題だ。それにちゃんと落ち着いてきたろ?」


「あ……本当だ」


 ったく、こいつは予想外なことが起こるとすぐにテンパる。


 コイツが取り乱した時に俺が落ち着かせるのは、なんていうか俺らの昔っからのやり取りだ。

 まあそのかわり俺がキレたときに落ち着かせるのは友也の役目だったりするんだが。


「今はテキトーにだべってようぜ。ほれ、ちょっと横になってみな。風が気持ちいいぞ」


「風? ……あ、本当だ。凄いな、よく見ると草も本物みたいな再現度だ」


「へー、やっぱすげえのか」


「かつてないリアリティとそれによる自由度を売りにしたゲームだからね。ある程度は予想してたけど、まさかここまでとは……」


 ユウは再現度に感動してるのか、地面に寝転がり草と土を触ってその度に驚いている。

 まあ俺も寝転がって風の感触を楽しんでるけどな。


 そうして、俺らがそんな風にマッタリ寛いでいると突然一人の女が話しかけてきた。


「あのっすいません。あなたの名前はユウっていうんですか?」


 誰だコイツ。ユウって友也のことだよな?

 ユウに何か用なのか?


「え、僕? う、うん。そうだけど……」


「……『クロクロ』でもその名前でプレイしていたりしてます?」


「えっ、もしかしてマキちゃんか静さん?」


 友也がそう言うと俺らの前にいる女は目を大きく見開いてはしゃぎだした。


「キャーっ! さっきユウさんの名前を呼ぶ声が聞こえたからもしかしてと思って来てみたんですけどやっぱりそうだぁ! 私はマキですよぅ!」


「ああマキちゃんだったか。こっちの世界でもよろしくね」


「こちらこそよろしくお願いしますっ!」


 ……ユウの知り合いか?

 話の内容から察すると別のゲームの遊び友達って感じか。

 にしても友也が普通に話せる女友達とか珍しいな。


 まだトラウマ引きずってるかと思ってたがこいつも日々成長してるってことか?


「ああ紹介がまだだったね。リュウ、こちら『クロスクロニクルオンライン』っていうゲームで僕と同じギルドに所属しているマキちゃん」


「あ、ああよろしく。俺はリュウ、こいつとはリアルでの腐れ縁の仲だ」


「あ、はい! マキです! よろしくお願いします!」


 俺が軽く会釈をするとマキと名乗る女はこちらに向かってぺこりと頭を下げた。


「あの~ユウさん。この人が例の一緒にパーティを組む予定って言ってた人ですか?」


「うん、そうだよ」


「んあ? なんだ、こいつとも組むのか?」


 なんだ、てっきり俺とユウのペアで行くのかと思ってたぞ。

 まあ人数が増えるのは別に構わねえけどな。


「そうだよ。他にもギルド内で当選した4人と待ち合わせしていたんだけど……どうも運営がトラブってるみたいだから今はちょっとね……」


「えー? みんな呼んじゃいましょうよー。今のユウさん見せたら皆驚いちゃいますよ! クロクロでは地味目のアバターだったのに今はすっごいカッコイイじゃないですかっ! 何か心境の変化でもあったんですか?」


「ええっと……」


 ん? なんか話の中に違和感があるような気が……。


「リュウさんもすっごく怖いですねっ! 人一人くらい殺してそう!」


「あぁっ?! なんだとゴラァ! もういっぺん言ってみろや!!」


 こいつ毒舌家か!? いきなりとんでもないこと口走りやがった!

 目つき悪くて脅えられたりすることはしょっちゅうあるが、普通そんな事を面と向かって言うかよって…… 


 あ。


 そうか、こいつ俺とユウの外見を作り物と勘違いしてんのか。

 外見がリアルと同じになってるだなんて普通は鏡でも見なきゃわからねえよな。


「あー……マキ、だったか? ちょっとそこの湖行って自分の顔確認して来い」


「? なんでですか?」


「いいからちょっと行って来い」


 とりあえず近くに湖があったので、そこまで俺らは移動して湖の水に自分の顔を映してみた。

 言ってから気づいたがこの世界でもちゃんと水に映るのかとか少し心配したが、どうやら問題はなさそうだった。


 ……やっぱり湖には普段見慣れたリアルの俺の顔が映し出されていた。

 隣を見るとマキは口に両手を当てて驚いていた。


「えっなんで! これってどういうこと!?」


「どうもこうもあるかよ。今ここじゃあリアルのまんまの外見になってるらしいぜ?」


 俺がそう言うとマキは露骨にユウを見つめ始めた。


「えっと、もしかしてユウさんも今現実と同じ顔だったりします?」


「……うん」


「キャー!!! ユウさんすっごくかっこいいじゃないですかーっ! 最初見たときキャラメイクすっごい頑張ったんだなって勘違いしちゃったじゃないですかもう!!!!!」


 マキはそう言うとユウの胸をポカポカと殴り始めた。


 ……まあユウの見た目は相当いい部類だからな。

 マキの言葉には賛同するが、なんつーかうざい匂いが漂い始めた気がしてきた。


 ユウが苦笑いをこちらに向けてきた。

 そんな顔されても俺にはどうすることもできねえよ。


「そんなにカッコイイならギルドのオフ会にも来てくれればよかったのに~!」


「ははは……まあリアルとゲームは分けていこうと思ってね……」


「オフ会ってなんだ?」


「ネットで知り合った人たちとリアルで会うことだよ」


「ふーん」


 それじゃあ友也は行くわけねえわな。


 こいつは若干人見知りの傾向がある上に女性恐怖症一歩手前の状態だ。

 いくらネットでの知り合いといっても、女が参加する場には行く気にならんだろ。


 多分友也はネット上で誰も自身を知らないという環境下で姿を変えて人間関係を築くことを望んでたんだろうしな。

 だとすると今はコイツにとってはやばい状況か。


「……ま、つーわけで他の4人に会うのは後にしとこうぜ」


「えーっ! こんなおいしい状況見逃せないですよう! というわけでもう個チャ送っちゃいました!!」


「……個チャ?」


「個人チャットの略だよ。つまりもう連絡取っちゃったってことだね……」


「そういうことでーす。まあここへの移動中にちゃちゃっと済ましちゃってたんですけどね!」


 このアマ……。勝手な真似しやがって。


「ん? つーかお前は自分の顔、他の奴にばれてもいいのか?」


「あ、私とほかの4人はもうオフ会で顔会わしてるし平気だよん!」


 うん、やっぱこいつうぜえな。お近づきになりたくねえタイプだわ。

 ユウはユウでなんかもう諦めた顔してやがるし。


 一応念のためにひっそりユウに訊ねてみるか。


「おいユウ、てめえ本当にいいのかよ?」


「まあ……しょうがないんじゃないかな。ゲーム内限定とはいえ知らない中でもないから何とかなると思うよ」


「……てめえがそれでいいなら俺はもう何も言わねえけどよ」


「うん、心配してくれてありがとう」


「ちっ、そんなんじゃねえよ。ただちょっと気になっただけだ」


「ふふ、そうだね。でも僕は本当に大丈夫だから」


「おう」


 まあ本人がそう言うならとりあえず見守ってやるか。

 変なチャチャ入れてユウの交友関係壊すもアレだしな。


 そんな訳で俺たちは他のメンバーであるという4人が来るのを待つことにした。


 ……つーかこの女、俺のツラに対する謝罪なしかよ。

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