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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
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数の力

 噴水広場にいた俺らの前に、遂にブラックゴーレムが姿を現した。

 あのデカブツが通った後には瓦礫が積まれ、俺らが撤退した後ここまで来るまでにかなりの建物が壊されたようだ。

 勿論被害者だって少なくない。あのデカブツ自体の動きはトロいが、逃げ遅れた奴がゴーレムの攻撃で建物を壊されて生き埋めになったというような血のあとが見えたりしている。怪我人も相当な数が運ばれていくのを俺は黙って見ていた。


 だがてめえの進攻もここまでだ。

 ここから先へはいかせねえ。


 今いるこの噴水広場がてめえの墓場だ。


「おし! 準備はいいかてめえらアアアアア!!!」


「うむ!」


「おお!」


「いつでもオッケー!」


 俺が最後の確認をその場にいる連中にすると、それぞれが問題ない事を俺に伝えてくる。


 俺はそれを聞き終えると、息を吸って声を張り上げた。


「今てめえらがすることはあのデカブツの足止めだ! てめえら自身が死なねえ程度にあいつの足元で踊ってこい!!! そうしてりゃ俺が注文した例のブツが届き次第、あのデカブツにでかいのをぶちかましてやる! わかったらさっさといってこいや!!!」


「「「了解!!!」」」


 俺の言葉にバルを含めた数十人という連中が大きく返事をしてブラックゴーレムの足元に走っていった。


 バルが先陣を切ってブラックゴーレムの足にしがみつく。

 そしてその後に7人パーティーが二組続き、ゴーレムの動きを制限している。さらにその後方から十数人というプレイヤーが魔法や矢を飛ばしている。

 それによってダメージらしいダメージは与えられていないが、それでもブラックゴーレムの進攻を防いでいる。

 ブラックゴーレムのすぐ真下で戦っているパーティーの一方は俺の知らない最高装備のプレイヤー集団だったが、もう一方は俺の指示に従うと言ったあの追い剥ぎ軍団だった。


 俺は奴らに『あのデカブツの動きを無理のない程度でいいから邪魔して来い』と指示した。

 そんな俺の指示に奴らは反対したが、俺が説明するとしぶしぶといった様子だったが命令に従った。


 あのゴーレムの攻撃はそれなりの防御力があれば一撃死はまずない。

 さっきまでの戦いでもこの街の最高装備を着込んだプレイヤーがあのデカブツの腕で豪快に吹っ飛ばされたが、その時くらったダメージ量は精々4割だったという話を、バルが回復している時に聞いてきていた。


 つまりはHPが半分を切らないよううまく立ち回ればまず死なないということだ。

 だから俺は無理のない程度という言葉をつけて奴らに余裕を持たせることにした。


 そうすればここらではそれなりに高いレベルで、しかも最高装備のあいつら7人ならなんとか持ち堪える事ができるだろう。

 守り重視で動けばそうそうやばいことにはならないだろうしな。

 無理に攻撃をしてもダメージは通らないというのも重々承知してるはずだ。


 それにあのデカブツのすぐ近くで戦っているのはそいつら15人だけじゃない。

 第2陣として奴らに続くようにソロや2、3人で組んだパーティーのプレイヤーが数十人ゴーレムの傍に迫る。

 あいつらは全員才能値をHPやVITに振ったタンクか回復役のヒーラーだ。

 一応無理はしなくていいと言ってあるから大丈夫だろう。

 とりあえずはそれだけの人数で上手くカバーしあえば、長時間被害無しで奴の進攻を食い止められるはずだ。


 ちなみに街の住民はこの戦闘には参加させていない。

 どうもさっきまでの戦闘を見た限りでは街の住民とプレイヤーの間にはかなりの戦力差があるようで、ぶっちゃけかなり弱いという印象を受けた。戦闘での死者も大体があの騎士団風の連中だったし。だから街の住民を戦闘に出せない。

 だがそのかわりに石袋の製作にかなりの住民が参加しているようだ。


「うおおおおおおおおおおお!! これ以上先にはわしが絶対進ませんわい!!!」


 それにしてもバルはバルですげえ奮闘ぶりだな。

 メインの2パーティがゴーレムから若干距離をとって牽制して動きを阻害しているのに対してバルは一人ゴーレムに完全密着して動きを止めようとしている。

 ゴーレムの膝辺りに密着して間接部分が動かなくしているのが遠目からでも分かる。


 HPのほうもまだ9割以上残していて全然問題なさそうだ。

 多分初期装備から一転してこの街最高の防御力を誇る鋼装備に変わったのも効いてるんだろうな。

 回復薬もあるといっていたし、この様子ならまだまだ余裕で戦えそうだ。

 誰だかは知らないが、あの装備をバルに譲ってくれたプレイヤーには感謝しないとな。


 それに追い剥ぎ軍団とは違って俺の知らない方の7人パーティーも結構善戦している。

 タンクがゴーレムの攻撃を受け流し、アタッカーが周りを走って攻撃対象をばらつかせ、ダメージを受けたらすぐさま回復魔法が飛んでいる。

 あのパーティーには二人ヒーラーがいるっぽく。片方のヒーラーが追い剥ぎ軍団やバルに向かって回復魔法をかけている様子がちょくちょく見られる。


 これならかなりの時間が稼げる。

 俺はそんなことを遠くでボケっとしながら思っていた。


 今の俺は待機中だ。

 別にサボってるわけじゃねえ。

 俺はブツが出来上がるまで体力を温存して待っているだけだ。


 俺まで作るのに参加してブツを渡す段取りを混乱させるのもアレだしな。

 投げる時は全力で投げたいし、だから今の俺はこうしているしかない。


 そうして十数分といったくらいの時間が流れ、俺に一人の伝令が姿を現した。


「リュウさん! ご要望の品物を持ってまいりました!」


 忍者風の服を纏った女プレイヤー、この場合はくのいちか、くのいちはそう言ってアイテムボックスから例のブツを出現させる。

 伝令じゃなく運び人だったか。


「今はまだこれだけですが、急ピッチで量産を急いでおりますので!」


「ああ、わかった。ご苦労さん。それじゃあ出来次第じゃんじゃん持ってきてくれ」


「はい! では私はこれで!」


 そう言うとくのいちプレイヤーは俺の元から凄い速さで走り去っていった。

 きっとあいつはAGIよりの才能値なんだろうな。

 あんまり量は運べなくともこういう時は便利だな。


「さてと。それじゃぼちぼち反撃開始といくか」


 俺は足元に置かれた例のブツ達を持ち上げて自分のアイテムボックスに入れ、一つだけを手に持った。

 それは今までよりさらにでかく、重かった。


 俺が注文した石3000個入り超大玉石袋を両手で抱え、俺はブラックゴーレムを睨みすえる。


 そしてニヒルな笑みを意識して作り出す。


「見てろよデカブツ。これが数の力だオラアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」


 俺は渾身の力を込めて、超大玉石袋をブラックゴーレムにぶん投げた。

 狙いは今までどおり奴の腹部、徹底的に腹パンしてやる。


 俺の投げた玉は狙い通りゴーレムの腹部へと行き、そして見事命中して奴の腹がまたもや削れた。


「よっしゃ次ィ!!!」


 命中したのを確認し、ダメージが入ったのを見て周りの連中が歓声を挙げる中、俺はアイテムボックスから次の玉を取り出して再びゴーレムにぶん投げる。


「まだまだぁ!!」


 2発目も命中し、俺は3発目を投げた。

 そしてその玉もゴーレムの腹に命中し、3連続で腹に攻撃をくらったゴーレムが若干よろけた。


 その光景を目にした周囲に活気が出てくる。


「は、はは。おい、勝てるぞこれ」


「お、俺達もあの玉作るの手伝いに行こうぜ!」


「お、おお!」


 周りで見てるだけだった連中が俺の攻撃を見てそんな事を言って走り出している。


『我ガ眠リヲ妨ゲル者ニ死ヲ』


 だがゴーレムも自身を攻撃している俺を脅威と見なしたのか、俺に向かってこようとしてくる。


「させぬ! ここから先へは行かせぬぞ!!」


 そんなゴーレムの足をバルは必死に止めている。


「俺達もいることを忘れるな!」


 そんなバルを目にして追い剥ぎ共もゴーレムのもう片方の足に纏わりつく。

 へえ、あいつらもやればできんじゃねえか。


 そんな足元の攻防にブラックゴーレムの進撃が止まり、足に群がるプレイヤー目掛けて岩の拳を振り上げる。


「一時撤退!」


 拳が落ちてくるその前に、バルたちは足元から離れ、そして拳が空振るとすぐさま足元に密着する。

 なんだかんだでなかなかいい動きしてるな。


 その後もブラックゴーレムは足元にプレイヤーが群がるたびに腕を振り回すが、その攻撃をバル達は的確な動きでかわし続けて翻弄し続ける。

 あの腕を振り回す攻撃はモーションがでかすぎて、くるとわかっていればすぐに避けられるようだ。


「よっしゃどんどん次の玉もってこいやあああああああ!!!」


 俺は手持ちの玉を使い切り、周りに聞こえるようにそう叫んだ。

 デカブツの足元にいる連中に負けてたまるか。

 俺は俺でできることを全力でやるんだ。


 そしてタイミング良く例のくのいちが俺のところに走ってきた。


「遅くなりました! 第二弾持ってまいりました!」


「おう! この調子で持ってこい!!!」


「了解しました!」


 俺は礼もそこそこにして、受け取った玉を次々とゴーレムに投げつけた。


 そうした攻防が続いていき、10発、20発、30発と超大玉石袋をどんどん投げていくうちに、気がつくとゴーレムの腹は半分近くえぐれていた。

 もはやアイテムボックスから玉を取り出すのもわずらわしい。俺は地面にアイテムボックスを置いてアイテムボックス内の玉を全て投げつけた後、次々に玉を例のくのいちから手渡してもらってそれを直接投げつけている。


 時々大玉が命中しないという事もあったが、それこそ数の力で強引にここまでやってくることができた。

 それに稀にだったが2連続ヒットしたのか、一つの玉で2回ゴーレムの腹に玉が当たる音がしたりした。

 まあ約3000個入りだからな。そういうこともあるだろうよ。


『我ガ……眠リヲ……妨ゲル者ニ……死ヲ』


 もはやゴーレムは上半身を支えるので精一杯なのか、腕を振り回す攻撃もしてこない。

 動きもさらに鈍くなり、それを見て足元で戦っていた奴らが総出で足にしがみついて動きを止める。


 こうなったらあのデカブツはただのでかい的だ!


「おらさっさとくたばれやあ!!!」


 俺は休みなく玉を投げつける。

 玉の量産もスピーディーになってきたのか投げても投げても球は尽きない。


 そして俺はもはやどれだけ玉を投げたのか数えるのも止めて、今手にした玉を全力で投げる事十数分。


 遂にブラックゴーレムの腹部が砕け散り、上半身と下半身が真っ二つになった。



 ゴーレムは完全に動きを止め、俺の頭の中でレベルアップしたことを示すファンファーレが立て続けに鳴り響いた。



「た……倒した……?」


「も、もう動かないよな……?」


 動かなくなったゴーレムに周囲の奴らは警戒しつつもそんな事を言っている。

 だが俺にはもうこのデカブツを倒したという確認は不要だった。

 だって経験値が入ってきたんだからな。


 俺は天に向かって拳を突き上げた。



「勝った……。勝ったぞオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」


 俺は高らかに吼えた。

 それに続いて周囲からも喜びの歓声が広がっていく。


「勝った! 俺達は勝ったんだ!」


「まさか本当に倒しちまうなんてな……俺夢でも見てんじゃねえのか?」


「やったぞ! これでこの街は守られたんだ!!!」


「そうよ! 私達の街は守られたのよ!!」


 元々いた街の住民も、突然街にやって来たプレイヤー達も、今この瞬間一緒になって喜びを分かち合っていた。


 と、その時俺に向かって例のくのいちが抱きついてきた。


「……! な、なんだてめえ! こら! 離れやがれ!!!」


「す、すみません! 嬉しくなってつい……」


「お、おう。まあなんだ、抱きつくなら誰か他をあたれ。とりあえずてめえもご苦労さん」


「あ、は、はい!」


 俺はそのくのいちから離れて再び勝利の余韻に浸り続ける。

 なんだったんだあいつは。


「お疲れ様じゃの、リュウ」


 そして俺の近くにバルが来て、俺をねぎらう言葉をかけてきた。


「ん? ああ、そっちもご苦労さん。てめえ一番ゴーレムの邪魔してたな。よく見えてたぜ」


「それを言うならお主が玉を投げるたびに大声をあげていたのをわしはよく聞いておったぞ」


「そうかい。つうか喉がガラガラだ。もうそんなに声出せねえよ」


「ふふっ。そうか。それじゃあとりあえず休むとするかの。宿屋に戻って朝食じゃ」


「おう。つってももう昼だけどな」


 こうして俺らは興奮冷めやまぬ人々が騒ぎ続けているその場をあとにするのだった。


 宿に戻っても街の非常事態が原因でメシはできてなかったけどな。

 まあこんな事もあるさ。

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