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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
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エピローグ

「おーいリュウー! 早くしないと置いてかれるわよー!」


「わかってるっつの! 『ドラゴンロード』!」


 俺らは今、2番目の大陸、ツヴァイス大陸と名づけた大地から出る船に乗るため、街の中を走っている。


 次の出航は1ヵ月後だ。

 これを逃すと面倒なことになる。


「こんな日に限ってなんで寝坊すんのよ! 信じらんない!」


「それはてめえが昨日の夜なかなか寝かしてくれなかったからだろ!」


「人聞きの悪いこと大声で言わないでくんない!?」


「本当のことだろ! 俺がこれ以上は明日に差し障るって言ったのにシーナが『だめぇ……もっとぉ……』って――」


「だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!! 言ってない! 私はそんなこと言ってないから!」


 俺は全速力で走りながら、こうなった責任をシーナになすりつける。


 本当はじゃれあいの一環でシーナにマッサージをしたってだけの話だが、聞きようによっては卑猥だからシーナはこんなに怒ってるんだろう。

 だが今の俺らはマッハの速度で移動しているから周りの人間に聞かれる心配はない。

 まあ疾風の如く過ぎ去る俺らに目を丸くしているようだが、今は気にしない。


『やれやれ、君達もまだまだ子供だねえ。気が気じゃなくてお姉さんも目が離せないよ』


 そしてそんな時、俺らの頭の中にジンの声が響いてきた。


「見てたんなら起こしてくれよ! ジンさん!」


『朝起きるのを誰かに頼るのはいただけないなあ。朝早く起きたかったら夜更かししない。これ基本だよ』


「……そう言われちゃうと反論できないわね」


 俺とシーナは揃って苦い顔をする。

 ジンの言うことは尤もだった。


『それに神を目覚まし代わりに使おうとするなんて、とんでもない不届き者もいたもんだね。そんな態度だと天罰が下っちゃうかもしれないよ』


「あーもーわかったわかったわかりました! こうなったのは全部俺らが悪うございました! ごめんなさいー!」


 こんな事で天罰という名の教育(ジンが前にそう言ってた)なんて貰いたくは無い。

 俺とシーナは走りながら平謝りを繰り返した。


『おっと、そんなこんなでもう港か。やはり早いね君達は』


「……おう、まあな」


 スキル込みでの俺とシーナはステータス補正で誰よりも早く走ることができるからな。

 そんなことは今更ジンから言われるまでの事でもない。


「あ! あったわよリュウ! あれがドライアード大陸行きの船よ!」


「! やべえぞもうテープ投げてんじゃん! 早く乗り込むぞシーナ!」


 俺らは見物に来た人ごみを掻い潜り、見送りテープもスルーして、若干無理矢理にではあったが何とか乗船する事に成功した。


『ギリギリセーフだったようだね』


「ホント危なかったわ……」


「そうだな」


 だがこうして間に合ったのだから結果オーライだ。

 俺らは「ふぅっ」と一つ息をついて港の方を振り向く。


「思えばここに半年もいたのね」


「ってことはあれからもう半年経ったのか」


『早いもんだねえ』


 半年。

 半年経ったのだ。

 俺らが修にぃと戦い、ゲームクリアとなったあの日から既に半年という月日が経過していた。


 あの時俺らはジンに望めばその段階で元の世界に帰ることができたはずだった。

 けれどこうして俺らがここにいるってことは、つまり俺らがここにいることを望んだからということだ。


 あの時、ジンに元の世界に帰還するかと問われた時、俺ともう1人の俺……龍児は異なる選択をした。

 確証があったわけじゃないが、もしかしたらできるかもしれないと思ったからこその英断だったがなんとか成功した。



 そう。

 俺と龍児の切り離しという荒業は無事成功した。



 龍児は元の世界に帰り、俺はこの世界に残った。

 そうすることで俺の抱える複雑な状態を何とか解消できないかとあの場で閃かなければ、今の俺はこうしてシーナと2人旅をすることもなかっただろう。


 俺がここに残るという発想を閃いた時、俺はジンにお願いしてシーナと話す機会を設けてもらった。

 そしてシーナに俺の考えを伝えると「だったら私も残ってあげるわ」とあっさり言ってくれた。


 普通元の世界に未練があるとかでもっと悩むかと思ったんだが、どうやら前にシーナが語ってくれたのは本当の事だったようだ。

 だが俺はその時、俺のためにシーナが見せた男気(シーナに言ったら殴られた)に感動して泣いてしまったわけだが。


「みんな元気かしらね……」


「……元気だといいな」


 まあ未練が無いとはいっても、それはあの時点でという話ではあるのか。

 俺とシーナは残っても、バルやヒョウ、みぞれ、クリス、それにユウや攻略組の殆どは元の世界へと帰っていった。


 それはつまり俺らとアイツらのお別れを意味している。

 もしかしたら今後、元の世界と交流する手段が出来るかもしれないが、ジン曰く今のところ不可能だとか。


 だから俺らはもうアイツらとは一生会えないのかもしれない。

 そう考えると寂しく思う。


「なんか湿っぽくなっちゃったわね。ごめんなさい」


 シーナはそう言うと俺の傍に寄り添ってきた。

 俺はシーナの温かさを感じながら、さっきまでの寂しさを吹き飛ばした。


「まあ、俺にはシーナがいるし? 全然寂しいとか思ってねーし?」


「そうね、私にもリュウがいるものね」


「お、おう」


 俺が冗談めかして言ったのにシーナはそんなデレッデレ発言で返してきた。


 たまにこういうことを言うからシーナは侮れない。

 俺は頬を掻き、熱くなった顔をシーナに見られないよう海の方を向いた。


『おやおや、お熱いねえ。これ以上見ていると爆発させたくなっちゃうからお姉さんはそろそろ他の子の様子を見に行くよ』


 ジンがさらっと物騒なことを言いながら、俺とシーナの意識から消えていった。

 爆発は多分ふざけて言ったんだろうが(そうだよな? そうだよな?)、別の子っていうのは俺らと同じ『冒険者』連中のことだろう。


 神楽がいなくなったため権限が繰り上がり、幽霊からクラスチェンジを果たした暫定神ことジンにとって、世界中に散らばった俺らの意識に潜り込むくらいのことは朝飯前だ。

 アイツも本当なら元の世界に帰れたらしいが、そうするとこの世界から神がいなくなってしまうということと、俺らみたいな奴らを残していくのは心配だからということでここに残ったらしい。


 そして『冒険者』。

 それは元の世界に戻らなかった俺らのようなプレイヤー、及びプレイヤーが所属する組織の事を指す。

 この世界で生きることを決めた俺らは、この世界に元から住んでいる人間と共存できるよう統率され、プレイヤーのみの組織が結成された。


 また、プレイヤーは無駄に強い。

 なので俺らが組織として動いて何ができるのだろうという話し合いをした時、俺はつい言ってしまった。


 今俺らがいる大陸以外にも人っているんだったよな?ってな。


 前にジンがそんなことを言っていたことを思い出した俺は、プレイヤーのポテンシャルを使ってこの世界の探索を進めるという案を出した。

 つまり正真正銘の冒険者だ。かつて俺らのことをそう呼んだ単語が息を吹き返した。


 だから俺らは今、世界中を冒険している。

 俺らが見聞きした情報はジンによって統合され、その情報は俺ら全員で共有できるようジンがメニュー画面を改変した。


 言ってしまえばネットだな。

 チャット機能も復旧しているし、今や俺ら『冒険者』はこの世界で一番情報が早い集団として人々から頼られている。

 通信魔法なるものが発展、普及すれば俺らと競争する奴らも出てくるかもしれないけどな。



 まあそんなわけで俺とシーナは半年かけ、ツヴァイス大陸を大まかに探索した。

 俺とシーナはスピードを生かした先行隊だ。細かな探索は後続部隊に任せている。


 そして今度はドライアード大陸だ。

 俺らはこの先に待つ冒険に心躍らせながら海を見つめる。


「次の大陸では何があるかしらね」


「ジンが大雑把に見たところによると緑に満ちた大陸らしいな、耳の長いエルフなんかもいるそうだぜ」


「……エルフ?」


「ああ、しかも見た目スッゲーキレイな種族らしいぞ。今から会うのが楽しみだな」


「へー、そういうこと言っちゃうんだ」


 なんかシーナがむくれてる。


 お? どうしたどうした? 嫉妬かヤキモチか?

 いいぞもっとやれ。


 俺はそんなシーナの可愛らしい反応に満足の笑みを漏らしていた。


「だったら私にも考えがあるわ」


「ん? どうしたシーナ」


 するとシーナは俺の手を掴んで船内へと進む。


「前に私、何も残せず人生を終えたくないって言ったことあったわよね?」


「? 確かにそんなこと言ってた気がするな」


「私の知り合いの『冒険者』の子、少し前に同じパーティーの人と結ばれて結婚したそうよ」


「へえ、それはめでたいな」


「しかもその後、見事子供を身ごもったそうよ」


「……ほお、それも良いことだな」


「……つまりこの世界でもやればできんのよね」


「…………」



 …………



 ……………………



 ………………………………















 えっ



























 俺達が元の世界に帰還してから1週間程が経過した。

 今俺は陽菜と一緒にとある駅前に立っている。


 何をしているのかと訊ねられれば、人を待っていると俺は答える。

 俺らがここで10分程度待っていると、改札口から待ち人達が現れた。


「よおバル、みんな。待ってたぜ」


「リュウさん!」


「1週間ぶりだな、リュウ」


「おひさー」


「お待たせしました~」


 俺らが待っていた相手のバル、ヒョウ、みぞれ、クリスは俺の顔を見るとすぐに此方へとやってきた。

 特にバルは、俺の方へと駆け寄ってくるとそのまま俺に向かって飛び込んできた。


 そんなバルを俺は後ろに2、3歩下がりつつも受け止める。


「うおっ……と。バル、ここじゃあ俺も前みたいな馬鹿力もないんだから加減しろよ」


「す、すいません……」


「まあいいんだけどよ」


 俺は抱え込んだバルを地面へと下ろし、背後からの視線を感じて振り返った。


「えっと……その子が龍にぃの言ってたバルちゃん……?」


「そ、そうだが……?」


「ふーん、そうなんだ」


 陽菜が俺らを少し気に食わないという様子で見ていた。

 この世界に帰ってきてから陽菜には向こうの世界でのことを色々話したから、一目見てバルだとわかっただろうが、何が気になっているんだ?


「なーんか龍にぃの話とはちょっと違うような気がするんだけど?」


 ま、まあ俺が陽菜に伝えたバル像に若干の補正が入っていたかもしれない事は否定しないけどよ。

 もうちょっとこう、おしとやかだったり、物怖じしていたりだとかな。


「しかもこんな可愛い子に好かれちゃってさ、龍にぃって目を離すとすぐこうなんだから」


「おいちょっと待て陽菜。まるで俺がタラシみたいな言い方じゃねえか。俺そんなことした覚えなんてねえぞ」


 目を離すとすぐこうなるとか、まるで前にもこんなことがあったみたいな言い方じゃねえか。

 そんなことないぞ俺には。無いったら無い。絶対に無い。 


「龍児君!」


「ほわ!?」


 と、俺らがそんな話をしていると、いつのまにか来ていた忍が俺の死角から飛び込んできた。

 俺はまたしてもよろめくも、体勢を立て直して忍を引き剥がす。


「てめえ何いきなり抱きついてんだ! ぶっ飛ばすぞ!」


「バルちゃんと対応すごい違うんですが!?」


 当たり前だ。

 いくら幼馴染とはいえ、異性として好きでもない男に抱きつくのはコイツのためにはならない。

 流石にぶっ飛ばしはしないが、忍の貞操観念を気遣い、俺は心(コイツの名前に引っ掛けたギャグではない)を鬼にする。


「忍。こういうことをするのは人を選べ。だから俺相手に金輪際抱きつくな。いいな?」


「え!? は、はい……」


「…………」


 ……ちょっと言い過ぎたか?

 俺が叱りつけると忍は涙目になって下を向き、滅茶苦茶落ち込んでいるような様子になってしまった。


「……ちょっとくらい良いんじゃないの? 龍にぃ」


「う……わ、わかった……陽菜がそういうなら――」


「龍児君!」


 陽菜の言葉を聞いてクワッと顔を上げた忍が俺に再び抱きついてきた。


「リュウさん!」


「なんで!?」


 そしてバルも忍とは逆のほうから俺に抱きついてきた。


 一体なんなんだコイツらは!

 くそっ! 身動きがとれねえ!


「リュウー」


「お前も!?」


 そんな俺に向かって真正面からみぞれがダイブしてきた!

 猛アタックを仕掛けるバルや幼馴染として友愛精神溢れる忍はわからんでもないが、なんでここでみぞれまで飛び込んでくるんだよ! 



 しかもみぞれは俺の顔を見つめ、そっと顔を近づけて――



「…………!」


「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」」


「……んぅ……ゴチになりました」


 みぞれは俺の唇に自分の唇を軽く重ねた。

 そしてみぞれは僅かに頬を赤らめ、俺らから離れていく。


「は、早く洗浄を!」


「う、上書き! 上書きしましょうリュウさん!」


「ちょ、て、てめえらやめろ! マジ離れろコラ!」


 俺に向かってバルと忍の顔が詰め寄ってくる。

 それを俺は必死になって手で食い止めていた。


「やってしまったな……みぞれ……」


「てへ」


「あらあら~」


 そんな俺らの様子をヒョウ、みぞれ、クリスが他人事のように見ていた。


「つかみぞれ! てめえ何我関せずってツラでそっちに行ってんだ! コイツらをどうにかしろ!」


「いいの?」


「いいの?って何がだ! いいからさっさとなんとかしろよ!」


「いえっさー」


 俺が怒り口調でみぞれに命令を下すと、みぞれは俺に引っ付いたバルと忍の肩を叩く。


「なんですかっ……ん!?!?!?」


「み、みぞ……っんぐ…………!」



 そしてみぞれは振り向いた2人にも順番に口同士のキスをした。



 バルと忍はみぞれからの不意打ちをくらってへなへなと崩れ落ちる。

 それを見て俺はみぞれの頭を手でガッと掴む。


「おい、何してんだみぞれ」


「こ、これでみんな仲良し」


「余計に事態がこんがらがっただけだろ!? どう収拾つけんだ!」


 バルと忍が地べたに手を付いている。


 しかも2人から「は、初キッスが……」とか「今のは無し今のは無し今のは無し……」とかそんな声が聞こえてくる。

 確認するまでもなく重傷だった。


「オレは知らん……オレはもう知らんぞ……」


「みぞれちゃんの行動には時々驚かされますね~」


 もはやヒョウやクリスにもこの事態を収拾させる気はないらしい。

 俺はそれを理解し、深いため息をついた。


「ええっと……何かあったのかな……?」


 そして俺らのところへ友也もやってきた。

 友也はうなだれるバルと忍を見て首を傾げている。


「なんでもねえよ……それよりそっちの方は準備できたのか?」


「ああ、うん。こっちはもう皆集まってていつでも始められるよ。後は龍児達がくるだけだ」


「そうか。それじゃああんま待たせるわけにもいかねえな。いくぞ、みんな」


 俺はその場にいる全員に声をかけて歩き出す。

 これから1つの喫茶店を貸しきって、ゲームクリアを祝う打ち上げを行うために。


 いわゆるオフ会だな。 

 前に一度聞いたことのあった催しだが、まさか俺がそれに参加することになるとは思わなかった。


 俺らは友也に連れられて移動を開始した。


「……本当はシーナもオレ達と一緒に打ち上げをするはずだったんだがな」


「まあ……な」


 ヒョウがシーナのことを言うと、俺らは若干気を落とす。


 俺らの中ではシーナだけは帰ってこなかったからな。

 まああの世界に残ったプレイヤーはそれなりにいるっぽいが。


 それにシーナの隣にはアイツ……リュウもいる。

 だからアイツらも多分向こうで楽しくやってるだろうさ。


「それがシーナの選んだ道だ。俺らが落ち込むことじゃねえよ。それにまだ1週間しか立ってないのに寂しがってるなんて知られたらアイツに笑われちまうよ」


「そうか……そうだな」


「そうですよ~。ワタシ達が暗くなっちゃシーナさんに申し訳ないですよ~」


 クリスの言う通りだ。

 シーナがいないからといって俺らが暗くなっちゃいけねえよな。


「……つか、まだあの世界から帰って1週間程度しか経ってないんだよな」


「でも向こうでは半年近くが経過してるはずだよ」


 友也が俺の呟きに反応して、そんな言葉を返してきた。


 確かに俺らが目を覚ました日も含めると大体8日だから、×24をすると半年くらいになる。


 これは俺らが帰ってきたからわかったことだが、こっちの世界と向こうの世界では時間の進みが違っていた。

 俺らは向こうの世界で数ヶ月を過ごしたが、実際にこっちで経過した時間は5日間程度だった。


 こっちの世界では一斉に1万人近くの人間が昏睡状態になったとして一時期少し話題になったようだが、それもあっという間に収束した。

 1週間にも満たない期間であったものの、1万人近くが意識不明になる大事件だったはずなのになんでこんな騒がれていないんだろうと不思議に感じたが、前にジンが言っていた存在が薄くなるとかいうのが関わっているのだろうと俺らは判断することにした。


 はっきりとしない解釈ではあるが俺らにはそう考えるしかないし、実際のところそれは事実なんだろうと思えた。

 なぜなら公式な機関が発表した意識不明者、及び意識を取り戻した人間の数は、俺らが知る数よりも明らかに少なかったからだ。


 また、意識不明となったそもそもの原因であるフリーダムオンライン自体がなかった事になっていた。

 これに加え、ジンさんや神楽、修にぃといったゲーム開発者も初めからいなかったということになっている。

 それらを踏まえると、おそらく向こうの世界に留まったり、修にぃのように帰れなかった奴らは全員、こっちの世界では存在そのものが抹消されたんだろう。


 だからあの世界から帰らなかったアイツらのことは、もはや俺らの記憶の中にしか存在しない。

 アイツらがこっち世界でちゃんと生きていたという証拠を、俺らは何一つ持っていない。

 大本のゲーム自体がなくなったのだから、あの世界に行く術ももはや存在しない。


 けれど、それでも俺は、アイツらのことを忘れない。あの世界があったことを、俺らが忘れることはない。


 そして俺には修にぃという兄がいたことも、俺は絶対に忘れない。


「とりあえず今日は明るくいこうぜ。なんてったってこれから祝いをするんだからな」


「そうだね」


 俺らがそう結論付けたところでバル達の方を振り向く。


「てめえらいつまで落ち込んでんだよ。俺はもう吹っ切れたってのによ」


「は、はい……」


「うぅ……リュウさん……」


「それと俺の名前はリュウじゃなくて龍児な」


「そ、それを言うならリュ……龍児さんだって私をまだバルって呼んでるじゃないですか。その名称も正確には違いますし」


「そういえばそうです! 私も未だ忍呼びですし! 昔のようにシンって呼んでくれてもいいんですよ! 私の方も正確にはこころですが!」


「そういえばそうだったな」


 何気に俺は友也以外の全員をあの世界で使っていた名で呼んでいたな。

 もう俺がこっちの世界ではリュウという名前じゃないように、コイツらもちゃんとこっちの世界の名前で呼ばないとだよな。


「そういえば、バルの本名って結局なんていうんだ?」


 俺はバルに訊ねる。


「いいですか龍児さん? 私の本当の名前は――」



 そして俺らは前へと進んでゆく。






最後まで読んでくださり誠にありがとうございました!


面白かったと感じていただけましたら是非ご感想の方をいただけるとありがたいです。

また、1月30日の活動報告にて「それでも俺は」の裏話と連載中作品の報告、そして異世界物の新作予告を載せてありますので、興味のある方はその記事も呼んでいただけると嬉しく思います。

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[一言] お疲れさまでした。 楽しませてもらいました。 ありがとうございました。
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