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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
139/140

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「なんで……なんでなんだよ……」


「どうしてだよ……修にぃ……」


 気がつくと、俺はあの白い空間にいた。


 もう目の前に修にぃも神楽もいない。

 ここにはもう俺ら2人しかいなかった。


『それを修児が望んだからだろうね』


「……ジン……さん」


 いや、厳密には3人か。

 俺ら2人が打ちひしがれているところへ、ジンの声が静かに響いてくる。


『おめでとう、龍児君。これで君達はゲームクリアだ』


「「…………」」


『……やっぱり喜べないか』


 ジンの言葉を聞いて俺らが何もない空間をキッと睨みつけると、ジンは嘆息しながらそう言った。


 当たり前だ。

 俺にとっては修にぃと和解してからが踏ん張りどころだと思っていたのに、修にぃは自分1人であっさりと決断してしまったんだから。


 そう。

 修にぃは俺を残し、1人で死んでしまった。


「……なあ、なんで修にぃは最後、あんなことをしたんだ?」


 俺らは2人でジンに問いかける。

 ジンならもしかしたら、修にぃが何を考えて死んでいったのかを知っているかもしれないと思ったから。


『修児も迷っていたのさ、君と戦う事をね』


「俺と……?」


『そうさ』


 修にぃが俺と戦うのを迷っていた?

 それは一体どういうことだ?


『修児はね、最初から自分が負けなければこのゲームは終わらないのかもしれないと、ずっと悩んでいたみたいだよ』


「……どういうことだよ、それは」


『神楽の存在さ。修児が勝った場合、プレイヤーが全員元の世界に帰れるシステムは神楽との話し合いで既にこの世界に組み込まれているけれど、こんな事が今回限りで終わるとも思えなかったんだろうね』


「…………」


 ……確かにその通りだ。


 俺が修にぃに負けた場合、俺とジンは消えて修にぃと神楽は残る。

 そして修にぃも元の世界に帰れたんだろうが、その後で神楽が何をするかわかったものじゃない。


 異世界を作り上げる存在なんてものがこのままい続けて、果たして大丈夫なのだろうかという問題ができてしまう。

 もしかしたら神楽は、今回みたいな騒動を再び繰り返すんじゃないか、という懸念が残る。


 いや、アイツならまず間違いなく同じ事を繰り返すだろう。

 アイツは他人を玩具か何かとしか思っていないんだからな。


『だから修児は代理戦争の話が纏まった時から自分が死ぬしかないのだろう、と思っている節があった』


「修にぃが……死ぬと……?」


『そうさ。それに元々彼が私達の下に連れてきた人間だからね。その贖罪であるとも考えていたんだろう』


「な……」


 なんだよ……


 つまり……修にぃは……初めから……


「俺に殺されようとしてたってことかよ……」


『そうなるね。修児がこれまで何度も君を煽るような行為をしたのも、君が修児を手にかけやすくするためだったのかもしれない』


「そんな……」


 修にぃが俺に殺されたがっていただと……?

 冗談も休み休み言えよ……おい……


「なんで……なんでよりにもよって俺だったんだ……」


 修にぃが殺されたがっていた。

 それは俺にとって受け入れたくない可能性だが、結果的に修にぃが自決したところを見ると、おそらくは真実なんだろう。


 だが、なんでよりにもよって俺を敵対させたんだ。

 なんで修にぃは俺と戦いたがったんだ。


 それは、俺にはとても理解できない動きだ。


『もしかしたら修児なりの覚悟の決め方だったのかもしれない。大事な弟を死なせてしまうという状況を作って自らの退路を潰すっていう、ね』


「馬鹿な」


 そんな事があっていいのか。

 そんな、自己犠牲を強いるために修にぃが俺を利用したなんてことが、あっていいのか。


 修にぃは俺が修にぃを殺しても、何も思わないとでも思っていたのか。

 俺が修にぃを殺せば俺はどう思うか、修にぃにはわからなかったのか。


 確かに俺は修にぃに対して酷いことを言った。

 けれどそんなものは俺の本心じゃない。


 でも、修にぃは、それを真に受けてしまったとでもいうのだろうか。


「だったら修にぃが大魔王になった後に俺と戦おうとしてたのは、俺に殺されるためだったってのかよ……」


『それはどうかな。修児は自分が生きることを諦め切れなかったのかもしれないし、不安定だった君を残して死ぬのに気がかりができてしまったからかもしれない』


 そういう考え方もあるにはある、か……

 どんな理由であったにせよ、どれが修にぃの真意をだったかを俺らが知る術はもうない。


「なぁ……それじゃあジンさんはどうして俺に手を貸したんだ? それは修にぃに頼まれたことなのか……?」


『……君に力を貸した理由は様々さ。1つ目は心が君に力を貸したから、2つ目は神楽が解放集会に集まったプレイヤーを使って街の魔王を解き放ち始めたから、そして3つ目に修児がそれを望んだから、なのさ』


「……! ちょっと待て! 今2つ目になんて言った!」


 今聞き捨てならない事をジンは言った。

 ジンの言葉を聞いた俺らは揃って声を荒げていた。


『神楽が君達プレイヤーを煽るために2番目、3番目、4番目の魔王を解き放ったことかい? そういえばこれも君が知らない情報だったね』


 神楽が街の魔王を解き放っただと?

 そんな情報初めて聞いたぞ。


 それに街の魔王を解き放ったのは教主だって忍が……


「まさか……忍もこのことを知って……?」


「知っていたよ。けれど修児がやったと思わせていた方が君も修児と戦いやすくなるという判断から口止めされていたみたいだけれどね」


「…………」


 ……はは、なんだ、そうだったのか。

 結局俺は修にぃに踊らされてたってことなのか。


 思ってみれば、修にぃが街の魔王を解き放ったと断言できるのは5番目の魔王、あの俺らも街の騎士連中も万全の状態になっていた時しかなかった。

 それ以外の魔王については全て敵側から手に入れた情報だ。本当に修にぃがやったと断言できる証拠がない。


『まあ流石の神楽も5番目の魔王が倒されたら大魔王を選定することになるから、そこだけは解き放つのを自重していたようだ。だからあのドラゴンだけはタイミングを見計らって修児が直々に出向いたみたいだね』


 それまでの魔王と違って猶予があったのはそのためか。

 つまり俺は今まで神楽の道楽に振り回され、修にぃの筋書き通りに動いてたってわけか。


「……だったらどうしててめえはこの前俺を庇ったんだよ。修にぃに俺を殺す気はないって、てめえは知ってたんだろ?」


『知ってた、というわけでもないのさ。ここまで君にぶっちゃけている修児の思惑は彼の行動から読み取った私の推測だ。修児が直接私に言った事では無いよ。だから修児が君に対して殺意を持っているかどうかまでは私にもわからなかったのさ』


「……そうかよ」


 つまり修にぃは本気で俺を殺そうとしていた、ていう可能性も否定しきれないのか。

 神楽もジンもこの世界も何も関係なく、ただ俺だけを殺すために、これまで修にぃは動いてきたという可能性もあるってことなのか。


 ……だがあの最後の時だけは、俺と修にぃは和解できていたように思う。

 それだけは俺の中での絶対的な事実だ。


 それまで修にぃが俺をどう思っていようとも、それだけは変わらない。


『でも私は信じたいね。君からどれだけ嫌われようとも、修児は君を大事に思ってたってさ』


「……そうだといいな」


 俺は、俺らは、修にぃに思いを馳せる。


 もう修にぃはいない。

 神楽と一緒に完全な死を迎えてしまったから。


 だから修にぃが一体何を考えていたかなんて、もはや本人に聞く事もできない。


 けれど、それでも俺らは思わずにはいられない。


 修にぃは俺やジン、そして神楽の被害に遭い、今後被害に遭うかもしれない連中全てを救う手段として、自分の死を受け入れたんじゃないか、と。

 修にぃは俺らの事を大切に思ってくれていたんじゃないか、と。


『まあ、たとえ本人にそんなことを聞いてもはぐらかすだけだったろうけれどね、彼はツンデレだから』


「そうだな」


 1人でなんでもできるくせに、1人でなんでも背負い込んで自爆する兄。

 人に対してとことん不器用な接し方しかできない兄。


 俺の兄も案外普通の人間だったんだな。


『……そろそろ選択の時間だ』


「選択?」


『君達プレイヤーが元の世界に帰るか、それともこの世界に留まるか、という選択さ。そして今、プレイヤー全員に対してもこの選択が迫られているよ』


「…………」


 そうか。

 大魔王である修にぃが死んだことで、俺らプレイヤーと開発メンバーはゲームクリアという扱いになったんだったな。


 ゲームクリア。

 それはすなわち元の世界への帰還条件。


 俺は遂に元の世界へ、陽菜の元へと帰ることができるんだ。


「つか、帰らないなんて選択肢も選べるのかよ」


『まあね。ただしこの機会を逃したら元の世界に帰る手段はおそらくないだろうけれどね。だから残るという選択は慎重に』


 慎重に、か。

 だがこの選択肢は、人によってはありがたいかもしれないな。


 プレイヤーの中にはもしかしたら帰還することを諦めて、この世界で所帯を持ったなんてのも探せばいるかもしれない。


 この世界はゲームではなく現実なんだ。

 ありえない話でもないだろう。


『それで、君は、君達はどうする? この世界に残るかい? それとも元の世界に帰るかい?』


 そんなの決まってんだろ。



 俺は当然――

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