俺の流儀
「『ドラゴンロード』!」
「『エンドロード』!」
俺と修にぃは同時にスキルを発動させた。
名称は違えど効果は同じ、ステータスをカンストさせるそのスキルを。
「ハアッ!」
加速する意識の中、俺は修にぃへ向けてまずは一発殴りかかった。
「フッ!」
しかしその拳は修にぃに腕で難なく弾かれ、俺の懐に潜り込んで掌底を放ってくる。
だから俺は弾かれた方とは逆の腕で攻撃をガードし、その状態からヤクザキックを修にぃにお見舞いする。
「チッ!」
けれど修にぃは蹴りがくることを予め予測していたのか、俺から一瞬で距離をとった。
そして俺の蹴りが不発に終わったのを見て再び距離を詰めてくる。
「おらおらどうした! そんなもんじゃねえだろ龍児ぃ!」
「くっ!」
修にぃは拳の雨を降らせながら、余裕のこもった言葉もぶつけてくる。
だが俺はそれに何も答えず、修にぃの拳を捌き続ける。
今の俺に修にぃと話す余裕なんてない。
俺は修にぃと戦うだけで精一杯なんだからな。
「わざわざてめえと対等な戦いをしてやってんだ! 少しはイイとこ見せてみやがれ!」
……対等な戦い、か。
確かに今の修にぃは俺と同じ素手で戦っているし、『エンドロード』以外のスキルも使うような気配がない。
もう俺らの戦いは速度や破壊力、それにHPという概念以外、普通の喧嘩と変わりない。剣や魔法といったゲームの世界とは遠い戦いをしている。
そう、俺と修にぃは今、兄弟で喧嘩をしているんだ。
今までこんな機会はなかったし、もしあっても俺の方からお断りしてただろうけどよ。
けれど今は、俺と修にぃは本気で喧嘩をしているんだ。
その結果どちらが死ぬことになるかもしれないが、それでも俺は修にぃと喧嘩をしている。
あの修にぃとだ。
俺がいつまでも追い続けていたあの修にぃとだ。
修にぃは今、俺と対等に戦っているんだ。
「はっ……」
俺は修にぃからの攻撃が止んだのを見計らい、反撃に出ようとして一歩前に足を出す。
それを見た修にぃがフッと笑う。
「甘いぜ龍児!」
今のはフェイントだったようだ。
修にぃは俺が殴るモーションに入る前に足払いをかけ、俺の体勢が崩れる。
だが俺はそんなのお構いナシに修にぃへ向けて拳を放ち、狙いがずれて修にぃの右肩に当たる。
「そんな力の篭ってないパンチじゃ俺は殺せねえな!」
「くそっ!」
しかも足に力を入れられなかったため、俺の攻撃は修にぃに全然聞いていなかったようだ。
「ぐっ!」
その後再び修にぃは俺に詰め寄り、拳の他に蹴り技も織り交ぜて放ってきた。
修にぃの放つ拳はとても重い。
修にぃの放つ蹴りはとても痛い。
修にぃは俺を殺す気で攻撃しているのだろう。
修にぃは過去の因縁を清算するため俺を排除する気なんだろう。
俺は修にぃに酷いことをした。
いつだって俺のことを思ってくれていた修にぃに、父の魔の手から救おうとしてくれていた修にぃに酷いことを言ってしまった。
修にぃは俺と関わらないほうが良かったんだろう。
修にぃには俺がいないほうが良かったんだろう。
だが俺は違う。
確かに俺は何でもできる修にぃを嫌っていた。
いつも比較される修にぃを憎んでいた。
修にぃが兄じゃなければいいのにとも思った。
修にぃがいなければ家族は壊れずに済んだとも思った。
でも、それでもだ。
俺は――
「…………!」
俺は修にぃが脇腹に放った回し蹴りを受け止め、そのまま足を掴んで地面へ向けて修にぃを叩きつけた。
肉を切らせて骨を絶つ。
脇腹から激痛が襲い掛かるが、修にぃも今ので右肩を強打したらしく、俺から距離をとったところで肩をおさえている。
「……なかなかやるじゃねえか」
「……当たり……前だ」
俺は途切れ途切れになりながらも修にぃへ言葉を返す。
声を出すのも苦しいが、修にぃが褒めた以上、俺も言い返さなきゃだろ。
「大好きな修にぃに……これ以上無様な格好は見せられねえからな!」
俺は修にぃに向けて言い放った。
修にぃが大好きだと、修にぃに無様な姿は見せられないと。
「……てめえは俺の事嫌ってたんじゃなかったか?」
「ああそうさ! 俺は昔から修にぃの事を嫌ってたし憎んでたさ!」
俺にとって修にぃはあまりに高すぎる目標で、眩しすぎる存在だった。
妬み嫉みを持つなんて当然の事だ。
修にぃがいなければいいとも思った。
修にぃが俺の兄なんかじゃなければよかったとも思った。
だが、それでも俺は……
「それでも俺は修にぃが大好きだったさ! 修にぃが兄でいてくれて本当によかったさ!」
そうだ。
俺は修にぃのことを俺は嫌っていても好きだったんだ。
だって兄弟なんだぜ? 家族なんだぜ?
どれだけ憎いと思おうが、どれだけ嫌いだと思おうが、俺が修にぃを好きだと思う気持ちまでは変わらねえ。
それらの気持ちは両立できる思いだったんだ。
俺にとって修にぃは、最低で最高の兄なんだ。
だから俺は修にぃと戦う。
このふざけた戦いを終わらせるために、俺は戦うんだ。
『しょうがねーな。そういうことなら手を貸すぜ』
どこかから声が聞こえた気がした。
その声は俺の声によく似た、けれどどこか舌足らずな声だった。
今のはただの幻聴だったのかもしれない。
アイツの声が起きてる間に聞こえたのは初めてだったからな。
だが、あれはおそらく幻聴じゃなかったんだろう。
現に、今の俺は動きが段違いに良くなったんだからな。
「うるあ!!!」
「グッ!?」
俺の拳が修にぃの腹に入る。
修にぃは今の攻撃を手で弾こうとした。
けれど俺はそんな修にぃに合わせ、拳を作った逆の手で修にぃのガードを弾いていた。
今までの俺とは反応速度も動作の精密さも段違いに違う。
これはおそらく、俺の中にいるもう1人の俺が動きをアシストしてくれているからだろう。
前に俺がシーナとのキスしそうになったのを妨害した事の逆バージョンだ。
今の俺は、俺らは1つの体で2人分の思考、反応、判断を行っているに等しい。
こんなこと普通なら絶対できやしないだろうが、修にぃを真似ていた俺ら2人だからこそできる芸当だ。
俺は今こそ自分のポテンシャルを最大まで引き出している。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「ガッア!!!」
鳩尾に俺の右拳による重たい1発を貰った修にぃが僅かにひるむ。
それを見た俺はすかさず左拳で修にぃの顎にアッパーをかます。
そして修にぃが空に浮いたところを俺は全力で殴り続ける。
空中コンボなんて元の世界じゃ絶対出来なかっただろうが、ステータス補正の効いた俺らにとってこの程度は朝飯前だ。
「うらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
俺はひたすら殴り続ける。
吹き飛ぶ修にぃに追いすがって俺は拳を叩き込み続ける。
修にぃを殴るうち、建物が、都が、地形そのものが崩壊していく。
俺と修にぃが通った跡に瓦礫の山が積み重なる。
そして修にぃを地面に叩きつけ、俺が馬乗りになって修に拳を向けたところで――俺は殴るのを止めた。
「…………」
「……殺れよ」
俺は修にぃが掠れた声を聞きながら、振り上げた拳を解いた。
「……どうした……龍児……さっさと殺れよ……」
「…………」
修にぃは今、俺に殺せと言っている。
修にぃは負け、俺が勝ったのだと修にぃは告げている。
「……さっさとしろ……俺を殺さねえと……てめえは……帰れねえぞ……」
「……るせえ」
「……あ?」
だが俺は修にぃの言葉に耳を貸さない。
自分を殺せと言っている修にぃの命令を俺は無視する。
俺は、腹の底からの怒声を修にぃに、周囲に浴びせかけた。
「うるせえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
「…………」
「なんで俺に人殺しさせようとしてんだよ!!! なんで俺に修にぃを殺させようとしてんだよ!!! ふざけるなふざけるなふざけるなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「…………」
「俺が殺すわけないだろうが!!!!! 俺は殺し合いが日常な世界の住人じゃねえんだぞ! 平和な日本で生まれた普通の高校生だぞボケ!!! ふざけるな!!!!!」
「……ふざけてるのは……てめえだろ……てめえが俺を殺さなきゃ……このゲームは終わらねえんだぞ……」
「だからふざけたこと言ってんじゃねえぞ修にぃ!!! そんなゲームはどこかのふざけた野郎が勝手に決めたことじゃねえか!!! 俺はそんなものに従う気なんか全くねえぞ!!!!!」
「……だったら……なんでてめえはここに来たんだよ……」
「そんなの決まってんじゃねえか!!!!! 修にぃと戦って修にぃを止めるために俺はきたんだ!!!!!」
「……俺を……だと……?」
そうだ。
俺はここに修にぃを殺すためにきたわけじゃない。
修にぃと戦って、修にぃと決着をつけて、修にぃを止めるために俺はここまできたんだ。
「俺は修にぃを殺さないし、修にぃに俺を殺させない! そのために俺は戦いにきたんだ! 殺し合いをしにきたわけじゃねえ!!!」
俺には今まで修にぃと戦ってきた経験から、どんな攻撃を入れればどれだけHPが減るのかがおおよそ推測できていた。
今の俺のHP残量は3割強といったところだが、修にぃはもう1割を切ったあたりだろう。
そしてそれだけのダメージを受けたら、肉体的にもう立ち上がることさえままならないだろうということも、かつての経験から十分理解できている。
俺は元々修にぃがこの段階までダメージを蓄積したら拳を収めるつもりだった。
つまり俺は最初から修にぃを殺す気で戦っていたわけではないということだ。
「……なんでだよ……てめえは俺のこと憎んでただろ……」
「ああ憎んでたさ! 嫌ってたさ! だがそれでも俺は修にぃのことを兄として愛していたし尊敬してたんだ!」
嫌うことと好きなことは両立する。
それに俺は元々、修にぃを殺してやりたいと思うほど嫌っていたわけでもない。
だから俺には修にぃを殺す動機はない。だから俺は修にぃを殺したくない。
たとえプレイヤー連中やこの世界に住む人間が修にぃを糾弾しようとも、だ。
「俺は修にぃを殺さないし殺させない! プレイヤーのために修にぃを殺せと言われても、この世界の人間に罪を償って修にぃを断罪しろと言われても、俺は修にぃを絶対に殺さない!」
確かにここで修にぃを殺せば全て丸く収まるんだろう。
プレイヤーは元の世界に帰還する事ができるし、この世界を騒がせた『解放集会』のトップが死んだと知れば被害にあった街の住民の怒りも少しは治まるだろう。
「……だから、ここからは、俺と修にぃで、2人一緒に考えていこうぜ。俺らは兄弟、家族なんだからよ」
けれど俺はそれをしない。
家族として責任を取らせるという考え方も世の中にはあるだろうが、俺は家族だからこそ一緒に悩む道を模索していきたい。
誰かを殺すことが最適解なんて俺は認めない。
命をもって償うなんてことも俺は認めない。
だって俺は修にぃじゃないんだからな。
俺は修にぃじゃないし、修にぃになれない。
俺は人を殺す事もできないし、命がかかった状況でさえ女を殴れない甘ちゃんだ。
そのせいで俺の仲間にはいらない苦労をかけた。たくさんの迷惑をかけた。
だが、だからといって、それで俺のあり方を簡単に変えられるわけでもなかった。
なぜならそういった俺のあり方は、今まで俺が歩んだ人生そのものなんだから。
そしてそんな俺のあり方で、仲間を危険に晒したり上手く事が運ばなかったとしたら、それは俺の力不足に問題がある。
俺が俺を貫くには、誰も殺さない方法を模索し、女と戦うこともないような立ち回りが要求されたということなんだ。
しかし俺はそれをしようとせず、安易に自分を曲げようとした。
だから俺は今まで自分を肯定できず、もう1人の俺に自分を任せようとまで思うようになってしまった。
けれど今はそうじゃない。
俺は俺であり続けるために戦うと決めたから起きることができた。
起き上がって、修にぃと全力で戦えるまでに至った。
ああ、そうだ。
俺は俺らしくあるために戦い、努力すればよかったんだ。
『あなたと陽菜は今まで修児に守られてきたけれど、今度は龍児が陽菜を守りなさい。そして龍児は修児じゃないわ。無理に自分を偽って、修児のように振舞うことはないの。――だからあなたは、龍児らしく生きなさい。あなた達は、兄弟妹仲良く暮らしなさい』
それが、母さんが俺のために、最後に残してくれた言葉だったんだ。
俺はもう忘れない。
街であてもなくさまよい続けていた俺を心配して探し出し、泣いていた俺のために母さんが言ってくれたその言葉を、これから先、絶対に忘れたりなんてしない。
俺は、母さんが残してくれたその言葉を胸に秘め、俺らしくあるべく努力することを誓った。
だがこの先どうすればいいのかなんて、今の俺にはわからない。
陽菜の元に帰るのがその分遅くなっちまうが、それもしょうがない。
でもよ、遅くなった分、俺らの家族を1人連れて帰れたら陽菜もきっと喜んでくれるよな。
それが俺の望む結末だし、母さんが望んでいたことでもあるのだから。
「修にぃが帰ってきたら陽菜も喜ぶぞ! これから先は3人で家族だ!」
そうして俺はニヒルな笑みではなく、満面の笑みを修にぃに向けた。
「……なんだよ。そんな顔もできたんじゃねえか」
「うるせえ。こんな顔すんのもたまには良いと思っただけだ」
「……そうかよ」
修にぃはそう言うと額に手を置き、フッとニヒルな笑みを浮かべて空の方に目をやった。
「俺を殺さないとか……とんだアマッタレだな。龍児」
「うるせえ。俺はもう決めたんだ。これからは手段を選べるよう頑張るってのが俺の流儀だ」
「……俺の流儀……か」
何か修にぃのツボに入ったのだろうか。
修にぃは俺の言葉を聞くと、くつくつと笑い始めた。
「何がおかしいんだよ、修にぃ」
「……いやな、そういえばそれがてめえの昔っからの口癖だったなって思ってよ」
「俺の?」
「俺の流儀ってヤツだよ」
「……ああ」
……そういえばそうだった。
俺はことある毎に俺の流儀、という口癖を使っていたけれど、それは修にぃの真似じゃなく、俺自身の口癖だったんだ。
なんだよ。
案外こんなところにも俺らしさってものがあったんじゃねえか。
「はは、なんだ、そうだったのか」
「……なんだよ。てめえも笑ってんじゃねえか」
「うるせえ。俺のはちょっと嬉しくなったから笑ってるだけだ」
「……そうかよ……ってこの流れ二度目かよ」
「まあいいんじゃねえか?」
こうして俺と修にぃは2人で静かに笑い続ける。
どうやら修にぃも俺と和解してくれたようだ。
これで俺は修にぃと2人、一緒になってこの先どうすればいいかを考えていける。
俺はその時、心の底からそう思っていた。
「私は認めないぞ! 佐藤龍児!」
「「…………」」
だがあの男、神楽は俺らが和解することを望まなかった。
神楽は俺らのところまでやってきて、俺へ向けて怒鳴り声を上げていた。
「修児は私と同じ、神に選ばれた存在なのだ! 修児が負けるなんてことがあってはならない!」
「……チッ、だから俺とてめえは同類じゃねえっつってんだろ」
「そんなはずはない! 君の類稀な資質は神に愛されたものでなければ説明がつかない! 君は私と同類なのだ! 神から力を授かった仲間なのだ!」
「…………」
……なるほどな。
つまりコイツは自分に神的な力を持っている存在と対等な立場として、神がかり的なポテンシャルを秘めた修にぃを見出していたわけか。
ふざけた奴だな。
自分が本物の神からちょっとチートめいたものを貰ったからといって神に選ばれたと勘違いし、あまつさえ修にぃをてめえみたいのと同じように考えやがって。
俺は神楽にガンを飛ばして文句を言う。
「おい神楽、ウチの兄貴をてめえみたいな狂人と同列に見てんじゃねえよ、ぶっ飛ばすぞ」
「うるさい! 貴様などと語る事など、もはや何もありはしない! 貴様にはここで死んでもらう! 『マスターコマンド、スタン』! 『マスターコマンド、オールヒール』!」
「「!?」」
だが神楽は俺の言葉を受けてもへこたれず、俺と修にぃにそれぞれ魔法のようなものをかけてきた。
その結果、俺の体は全く動かなくなってしまった。
「ぐっ……てめえ、何しやがった?」
「管理者権限で君を麻痺状態にさせてもらった。これで貴様は動く事もできまい!」
「な……」
管理者権限だと……?
そんなものを持ち出してくるなんて、コイツももうなりふり構っていなさすぎだろ。
「……大魔王同士の戦いに神側は不干渉でいるんじゃなかったのか?」
「そんなものはあの女が破った次点でもはや意味などない!」
「……そうかよ」
そして修にぃの方にはどうやら完全回復をかけたようで、修にぃがその場から立ち上がりつつ神楽とそんな会話をしていた。
「さあ修児! 今こそ君の因縁に終止符を打つ時だ! あの身の程もわきまえない弟を君の手で葬り去るのだ!」
「…………」
どうやら神楽は余程俺の存在が気に食わないらしい。
これはもう本人が修にぃによかれと思ってやっているというレベルじゃない。
神楽は修にぃの気持ちとは関係なく、修にぃの汚点となっている俺を自分勝手に排除したいだけなんだろう。
俺はそのことを理解し、そして修にぃも俺と同じ気持ちだったのか、2人揃ってため息を吐いていた。
だがこの状態はあまりよくない。
俺はどうすればこの状況を打開できるのか必死に考え始めた。
……が、どうやら修にぃの方が俺より早く結論を出したらしく、修にぃは神楽へ声をかけていた。
「あー……、わりいな、神楽」
「…………?」
「今までてめえに言ってなかった事なんだけどよ」
修にぃは神楽の方を向き、すぅっと息を吸い込んで――
「俺、実はブラコンだったんだ」
修にぃは……神楽に向けて、はっきりとそう言い放った。
それを聞いた神楽は驚愕といった表情を顔に滲ませる。
「な、何を言って……」
「それと龍児。てめえにも一つだけ言っておいてやる」
修にぃは次に俺の方を見た。
俺は修にぃが懐から豪華な装飾の施されたナイフのようなものを取り出すのを見ながらその場で息を呑む。
「俺は手段を選ばない男だ。だからよ……てめえは俺みたいになるんじゃねえぞ」
そうして修にぃはそのナイフを――
「『エンドロード解除』、『オーバーフロー・ハイエンド』」
自分の胸元へ向けて、勢いよく突き刺していた。




