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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
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兄弟の戦い

「なんか凄い勢いで鎮圧させたね……」


「チッ……結局テメエが出ればそれで仕舞いだったじゃねえか……」


 俺とバルの会話が終了した後、ユウと轟がそんなことを言いながら俺らに近づいてきた。

 あっという間の出来事だったためか、2人とも若干顔を引きつらせている。


「おう、轟も大丈夫だったようだな、心配したぜ」


「そんな素振りもなかったように見えたけどな……」


「う……」


 ……確かにさっきはバルのことだけに意識がいっていてコイツらをあんまり気にかけてやれなかった。

 轟達もバルと一緒にブラックドラゴンを抑えていたってのに。轟の意見は尤もだ。


「まあ別にいいんだけどよ……ヤロウに心配されるほど……俺も落ちぶれちゃいねえからな……」


「そうか、なんにせよ無事でよかったぜ」


 まあ一応コイツらは死んでも元の世界に帰るだけだからそこまで心配しなくても良いっちゃ良いんだけどな。


 しかしだからといってこの世界での死が偽者というわけでもない。

 この世界にいるプレイヤーもまた、血の通った本物の人間なんだからな。


「リュウ、ここで落ち着いてはいられないよ」


 と、そこでユウが俺に注意を入れてきた。

 確かに今は立ち話を長々してる場合じゃないか。ユウもここへ来た事だしな。


「ああ、わかってる」


「うん、それじゃあ轟、トト達と一緒に戦後処理を任せてもいいかな?」 


「あ……? テメエら……これから何か用事でもあんのか……?」


「まあな」


 そうだ。

 むしろここからが本番とも言える。

 俺らはこれからシーナ達を助けるために王都へいかないといけないんだからな。


「そうか……まあいいぜ……オレタチに任せな……」


「ありがとう」


「ありがとな」


「? リュウさん。今からどこに行くんですか?」


 あ。

 そういやバルは今シーナ達がどうなってるのかよくわかってないのか。


「バル、俺とユウはこれからシーナ達を助けに王都へ行く」


「え……助けにって……そういえばユウさんはどうしてここに……?」


「……うん、実はね――」


 ユウはバルを視線を受け、ユウ達が王都でどうなったかをバルに手短に話した。

 するとバルの表情がみるみる強張っていく。


「すぐ助けに行きましょう! シーナさん達が危険です!」


「ああ、すぐに行くぞ、ユウ」


「うん、わかってる」


 見るからに慌てた様子になるバルが俺に王都への出発を催促してきたので、俺はユウに声をかけた。


 ユウも俺が何を言いたいのか理解していたようで、ユウは早速例の宝玉を取り出した。

 それを見て俺はバルと右手で手を繋ぎ、ユウの肩に左手を置いた。

 忍達が王都へ行く時もこんな感じで飛んでたからこれで問題は無いはずだ。


「それじゃあいくよ、『テレポート』」


 そして俺らは3人で王都へと飛んだ。






 王都。

 そこはフリーダムオンラインの製作者達だけが住むハリボテの都。

 王都と言いつつ王様も貴族も兵士も住民も、いるはずの人間がいないという不気味な空間。


 俺らは今、王都にある4つの入り口の1つの門前にいる。


「こ、ここが王都ですか。すごい大きいですね」


「王都なんて言っても俺らには意味の無いところだけどな」


 王都自体に俺らは用なんてない。この中に住み着いた修にぃ達にだけ俺らは用がある。

 王様がいたらもしかしたら何かしらのイベントのようなものが起きたのかもしれないが、それもゲームがちゃんとできていたら、という話だ。


「それでシーナ達は今どこにいる?」


「あ、はい。ええっと……」


 俺はバルにシーナ達の居場所を訊ねた。

 するとバルはメニュー画面を開き、視線をさまよわせ始める。


「時計塔だね」


 が、シーナ達の居場所はユウのほうが早く特定したようだ。

 つか今コイツらってパーティー組んでるんだったな。7人で。


 なんかのけ者にされた気分だ。

 いやまあコイツらを置いていって王都に乗り込んだ俺が言うのもなんだが。

 だがあれは厳密には俺の意思とも違うしなぁ。あんま気にしないでおこう。


「時計塔なら俺も行ったことがあるな。それじゃあ行くぞ」


「あ、は、はい」


 俺が2人に声をかけて歩き始めると、バルが駆け足で俺の隣までやってきて腕を絡めてきた。


 な、なんかバルにしては随分大胆な行動だな。

 前に膝の上に乗っけてやったことはあるが、あの時とは俺にとっての意味合いが全然違うし、こんなことされたら俺だって意識しちまう。


「…………」


「あ、アハハ……ごめんね……?」


 ……横目でバルを見ると、バルはムッとした顔でユウを見ていた。

 シーナ達の居場所を先に言われたことに脹れてんのかよ。

 腕を絡められてちょっとうろたえたのが吹き飛んでしまった。


「……てめえらまだ仲良くなかったのか」


 この前和解したと思ったんだが。

 やっぱバルは時々よくわからないな。


 こうして俺らは緩い空気で決戦の場へと向かった。






「よう、龍児。待ちくたびれたぜ」


「修にぃ……」


 時計塔のある大広場に到着すると、修にぃと神楽が待ち構えていた。 

 ……いや、その他にもシーナ達が拘束された状態で開発者連中と一緒に遠くから俺らを見ている。


「リュウ! あんたやっと起きたのね!」


 と、すかさず俺を見たシーナが開口一番に叫んだ。

 あの様子なら、どうやら修にぃ達に何かされたようには見えないな。


「シーナ達は全員無事のようだな、修にぃ」


「ああ、俺の目的はてめえだけだからな。てめえさえここにくればアイツらに手を出すことはねえさ」


「そうかよ」


 修にぃがニヒルな笑みを浮かべながら俺に念押しの言葉を言った。

 やはり修にぃは俺以外の奴らに危害を加える気は無いのか。 


「ジンもいなくなった今、後は大魔王を斃すのみ。さあ修児、今度こそ君の因縁に決着を着ける時だ」


「……ああ」


 そして神楽、この世界の神は修にぃを俺にけしかける。

 もう後は俺と修にぃが戦うだけだと言って。


「……おい、修にぃが俺と決着をつけたがってるのは十分わかったんだけどよ、てめえはなんで俺と修にぃを戦わせたがるんだ、神楽」


 だが俺はその時神楽に訊ねた。


 コイツは一体なんなんだ。

 今までずっと俺と修を戦わせようとしているコイツはなんなんだ。

 俺ら兄弟の間にしゃしゃり出てくるんじゃねえよ。


「あまり気安く声を掛けないでもらいたいな、出来損ない君」


「あ? 出来損ないだと?」


「そうだろう? 君はこんなに優秀な兄の弟だというのに大した結果も残せない愚図だったそうじゃないか。出来損ないと言って何が悪いのかね?」


「…………」


 俺が出来損ない、か。

 まあ確かに俺は出来損ないかもしれないな。


 俺は修にぃのようになりたくて努力しても秀才を域を出なかったし、むしろ修にぃの邪魔ばっかりしていた愚図野朗だったように思う。


「君さえいなければ修児は完璧でいられただろう。君は修児の汚点だよ」


「汚点……か」


「そうさ。ああ……でも君が愚図だったから刑務所で私は修児と出会えたとも言えるのだから、そこだけは君に感謝しないといけないねえ」


 刑務所。

 そういえば夢の中でジンから聞いた話によると、コイツとキル、赤音の3人は修にぃに拾われてジン達とゲーム開発をしてたんだよな。

 つまりその3人は修にぃとムショからつるんでる獄友ということなのか。どういう流れで仲間になったのかは俺の知るところじゃねえけど、知りたくもないし聞きたくもないことだな。


 今はただ、コイツは修にぃの汚点だから俺が許せないと、つまりはそういうことだったというのがわかっていれば、俺は何の問題もない。


「へぇ……なるほど、十分わかったぜ」


 結局のところコイツは俺にとってどうでもいい存在だということだ。

 俺はコイツと相容れる事はできないし、しようとも思わない。


 コイツはただの外野だ。


 だったら……


「こっから先は俺と修にぃだけの時間だ。外野はすっこんでな」


 そうだ。

 ここからは修にぃだけに集中すればいい。

 コイツが俺と修にぃの間に入り込む余地なんてない。


「……口の減らない愚図だな。いい加減――」


「神楽。そろそろ黙れ」


「ぐっ、わかった……」


 どうやら修にぃも俺と同じ気持ちのようだな。

 流石兄弟ってとこか。


「ではそろそろ始めたま――」


「それと最後にもう1つ修にぃに聞きたいことがある」


「なんだ?」


 俺は神楽を無視して修にぃに問いかける。


「修にぃはジンさんを殺して本当によかったのか?」


「……死にたがりに情けを掛けられるほど俺も器用じゃねえんだよ」


「そうかよ」


 つまり修にぃはあの時ジンを殺す気はなかったという事か。

 それだけ聞ければ十分だ。


「ならもういい。そろそろ決着をつけようぜ、修にぃ」


「ああ、俺とてめえ、どっちが強いのかはっきりさせてやるぜ」


 俺と修にぃはそれだけ言うと、互いに睨みあってニヒルな笑みを交わす。


「バルとユウも見ていてくれ。ここから先は俺と修にぃの戦いだからよ」


「……うん、わかった」


「リュウさん……」


 ユウはこうなることを予想していたからか俺の言葉に頷くが、バルの方は若干納得していないような雰囲気だ。


 だがこれから行う戦いは俺一人じゃないと意味がないんだ。

 悪く思うなよ、バル。


「絶対……絶対死なないでくださいね……リュウさん……」


「ああ、わかってる」


 俺は修にぃに殺されるためにここまで来たわけじゃない。

 修にぃと決着を付けるためにここまで来たんだ。


 だから俺はバルに一言言い残し、修にぃへ向けて叫んだ。


 この戦いを終わらせるために。


「さあ! いくぜ修にぃ!」


「こい! 龍児ぃ!」


 そして俺らは駆け出した。

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