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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
最終章 王都
132/140

vsキル

シーナ視点

「次こそは本当に大丈夫なんでしょうね!」


「は、はい! 大丈夫です! 多分!」


「多分ってなによ!?」


 私は今、忍と並走して王城内部を走っていた。

 はるか後方にはユウもいるけど、やっぱりAGI特化の私達には追いつけないみたい。


 それで肝心の目的地、リュウの兄とかいう男がいる場所は、忍によるとこのドでかいお城の中であるらしい。

 昼間なら時計塔の大広間、夜中なら無人の玉座で1人ボーっとしていることが多いのだとか。


 リュウのお兄さんって人嫌いだったりするの?

 どうでもいいけど。


「にしても……リュウのお兄さんねぇ……」


 リュウのお兄さんっていうなら、本当なら挨拶の一つでもするべきところなんだろうけど、そのお兄さんを今から殺しに行くとか世も末だわ。

 兄弟同士で殺し合いをさせようとする神楽っていうのもジンっていうのも性格悪いんじゃないの?


 それにそんな殺し合いを積極的に行おうとするリュウのお兄さんも、何を考えているのか全然わかんない。


 でもリュウをお兄さんが殺すっていうなら私は容赦しない。

 たとえリュウが止めたとしても、私は躊躇わない。

 私はもう大事な人達が死ぬのを見たくは無いから。


「次の角は右です!」


「わかったわ!」


 私達は誰もいない王宮内部を怒涛の勢いで突き進む。

 もう後ろを向いてもユウは見えないけど、マップ表示で私達の居場所は把握できるはずだからいずれ追いつくでしょ。


 だから私達は速度を緩めることなく、無駄に広々とした通路を右に曲がった。


「…………ッ!」


「なっ!?」


 けれど曲がった先にあった床が崩れ、私は勢い余ってそこにできた巨大な落とし穴に落っこちてしまった。


「し、シーナさん!」 


「くっ……『アクシデントフェイカー』!」


 落とし穴の地面が見えた時、私は1秒だけスキルを発動させ、落下による衝撃を無効化した。

 どうやら落とし穴と言っても、下に剣山があったり蛇の群れがあるようなものではなかった。


「ありゃぁ、何だよ、引っかかったのはあんただけかぁ?」


「!」


 しかしその落とし穴の中には1人の女性が待ち構えていた。


「赤音から連絡があったから待機してたんだけどよぉ、ここで待ってりゃあ絶対何人かは落っこちてくると思ったのになぁ?」


「……私だけ引っかかったんじゃ不満? キル」


 私は目の前いる女性、キルに声をかけた。


「別にいいさぁ。1人ずつ倒していきゃ良いって話だからなぁ! ギャハハ!」


「……そう。こんな子供だましのトラップなんて作って、しかもその中で待ち構えているだなんて随分暇なのね」


「ギャハハ! 引っかからなかった時はそれまでさぁ。それにそんなことは引っかかった奴が言うセリフでもねぇんだよぉ!」


 ……前々から思ってたけど、この人って物凄く適当に生きているわね。

 落とし穴に引っかかった私が言うことでもないのは確かだけど、もし誰も引っかからなかったら凄いマヌケなことになってたわよこの人。


「忍! あんたはユウのところに引き返して別のルートを進みなさい!」


「は、はい!」


 でも私と一対一で戦う羽目になったのは運が悪いとしか言いようが無いわね。

 あんたが出てきた場合、相手をするのは私だってあらかじめ決めてたんだから。


 私は腰に帯刀していた金色の剣を鞘から引き抜いて臨戦態勢をとった。


「へぇ、『エクスカリバー』かぁ。それはリュウの装備品じゃなかったかぁ?」


「そうだったけど今は私のよ」


 どういう心境の変化か私にはわからないけど、リュウはもう剣を使わないらしい。

 だからこの剣は近接戦闘が可能な私が使うという事になった。


「それとこの剣はもっと長ったらしい名前よ。誰がこんな名前つけたのか知らないけど随分イカれたネーミングセンスね」


「ああそれかぁ……それは大将に言ってやってくれぇ」


「そ、そう」


 よりにもよってリュウのお兄さんが名づけたのね……

 ってそんなことはどうでもいいわ。


「とにかく、今の私はちゃんとした攻撃ができる近接アタッカーよ。こんな狭い空間で戦うことを後悔しなさい!」


「ギャハハ! だったらやられる前に先制攻撃といくかぁ!!!」


 私がキルに向けて走り出そうとすると、キルはポケットからサイコロのような物を取り出し、周囲にばら撒き始めた。


「これが何かわかるかぁ?」


「……ええ、爆弾、でしょ?」


「あったりぃ~」


 そして落とし穴の内部は強烈な爆風が吹き荒れた。


 なるほど。

 キルはこの狭い空間で敵の逃げ場をなくし、爆撃で敵を殲滅するという作戦があったようね。


「でもそんなの私には効かないわよ」


「ぐがッ!」


 爆風の中平然としているキルに向けて、私は剣を振り下ろした。


 私には合計10秒間、あらゆる攻撃を完全に無効化するスキル『アクシデントフェイカー』がある。

 これを使えば爆風の中でも私は全く問題なく行動することができる。


 それに加えて今の私の右手にはリュウの右手から借りた必中のグローブがある。

 本当はクリスがリュウの使っていたグローブを使う予定だったけど、クリスにお願いして私がリュウのグローブを、そしてクリスは私が使っていたグローブを装着するという工程を踏んだ。


 そのことでクリスから微笑ましいものでも見るような顔で私を見られたけど、今の私は気にしない。

 バルには申し訳ないけど、私は積極的に動くタイプだったみたい。

 私は欲しいと思ったものを手放したりなんて絶対しない。


 だから私は戦い続ける。

 リュウが私のそばからいなくならないように。


「まだまだぁ!」


 私は自分が持つ思いを力に変えて、目の前にいる敵に怒涛の連撃を与える。

 思いの1つはリュウへの思い、そしてもう1つは私の内にある怒りの思い。


 私は今、とても怒っている。

 私があれほど言ったのに、何故リュウは勝手に王都へ行ってお兄さんと戦ったのだろうか。

 リュウ自身はお兄さんと戦いたくないと思っているようなそぶりだったのに。


 時々リュウは私に理解できない行動をする時があるけれど、今回のは本当にわからない。

 これは私がまだリュウのことを全然知らないからわからないことなの?

 リュウの過去を知ればリュウの行動原理を知ることができるの?


 いずれにしても、仲間を置いて1人突っ走るようなリュウにはきつくお灸をすえる必要があるのは確かよね。

 リュウに振り回されることに悪くないと感じ始めた私でも、今回の事をそう簡単に許す気は無い。


 リュウが起きたら皆で盛大になじり回してやる。

 そのために私は剣を振り続ける。


「調子に……のるなぁ!!!」


「!?」


 私が剣で十数回は斬ったはずなのに、キルは未だ倒れるそぶりも無く花火玉を手に持った。

 そしてその花火玉を私目掛けていくつも投げてくる。


「あなたホントタフね! とってもメンドクサイわ!」


「うるせぇ! それはこっちのセリフだぁ! ちょこまかと逃げるんじゃねぇよぉ!!!」


 でも私の速度にキルがついてこれるはずもなく、キルが投げる花火玉は悉く私が通った後で綺麗な虹色の光を発している。


 キルの攻撃は私に当たらない。

 それは忍の話を聞いてすぐにわかったことだ。


 キルは基本、広範囲爆撃のサイコロと至近距離から投擲する花火玉の2種類の攻撃パターンしか使わない。

 というよりも、攻撃系のスキルを一切持っていないキルはレア同様、戦闘では道具の性能を駆使して戦うしかないらしい。

 そしてキルの使うサイコロは、6の目が出るのなら投擲武器の中で最も攻撃力の高い代物のようで、攻撃範囲も広いことからこれ以上の武器もないとのこと。


 でも攻撃のパターンが大体決まっているのならこちらも対応しやすい。

 さっきは周囲を壁で囲まれていて爆撃攻撃を避けられなかったからアクシデントフェイカーを使ったけれど、今は爆撃のおかげで大分広々とした空間になっている。


 この分なら上まで普通に駆け上がって忍達と合流することもできそうだけど……


「……先にあんたを倒してからにしといたほうがいいかしらね」


 この人は何をしでかすかわからない。

 私達がリュウのお兄さんと対峙している時に変な横槍を入れられたらたまったもんじゃないわ。


「悪いけどそろそろ終わりにしましょ。私も暇じゃないんだから」


「ギャハハ! 同感だぁ。そろそろケリつけて侵入者を排除しないと、後で赤音から何言われるかわかんねぇからなぁ」


 どうやら向こうのほうも早期決着を望んでいるらしく、キルは大きく息を吸って最終手段のスキルを発動させてきた。


「『デットオアアライブ』!」


「……きたわね」


 忍から伝えられていたキルのスキル。

 LUKに全振りしない限り手に入れる事はできないという、使用者がキル以外にいるのかどうかもわからないようなトンデモスキル。


 『デットオアアライブ』

 そのスキルは使用すると1分間、使用者の攻撃と受けるダメージは全て即死ダメージ攻撃かミス攻撃になる。

 そしてその即死ダメージ攻撃かミス攻撃、どちらの結果になるかは二分の一の確率で決まるらしい。


 正真正銘の博打スキル。

 積極的に使おうという気にはならないネタスキル。


 しかもこのスキルは検証不足だったらしく、1つのバグが存在する。

 そのバグとは、街中でもこのスキルを使えば二分の一の確率でHPを全損させることが可能であるというもの。


 ある意味、似たようなバグがある花火玉を使うキルにはお似合いのスキルだわ。 


「でも、使ったからには手加減なんてしないわよ! 『ファントム』!」


 私はキルがスキルを使ったのを確認し、『ファントム』を発動させる。

 そして私の分身4体が出現し、そのまま全員でキルへと襲い掛かった。


 今のキルならどんな攻撃でも当てさえすれば倒すことができる。

 だったらこちらは数を用意してタコ殴りすれば勝てるはず。


「こすいマネしてんじゃねぇよぉ!」


「!?」


 けれどキルは懐から一際大きなサイコロを取り出してきた。

 そしてその巨大サイコロを地面に転がす。


 6の目がでた巨大サイコロは大爆発を起こし、私たちを爆風で吹き飛ばした。


 ……あんなものがあるなんて聞いてないわね。

 私はアクシデントフェイカーを使用し、その爆風から難を逃れた。


 でもこれでアクシデントフェイカーは10秒使い切った。

 次からは十分な回避運動を取る必要がある。


「これはレアに特注で作ってもらったアイテムさぁ! あたしにとって攻撃範囲は大きければ大きいほどいいからなぁ!」


「…………」


 そして案の定というべきか、キルは二分の一で即死という爆撃を受けても平然とその場に立っていた。


 私は『解放集会』メンバーが死んだ場合。自動蘇生で勝手に生き返るという事を知っている。

 だからキル自身が命を投げ捨てるかのような蛮行をするのも私は驚かずに見ることができる。


 けれど、さっきまでの私の剣撃を受けても笑い続けるその精神から察するに、たとえ命がかかっていてもキルは平然と同じような行動を取れるんじゃないかという恐怖を抱かせた。


「……あんたは死ぬのが怖くないの? 死にそうな目にあっても痛いと思わないの?」


 だから私はキルに問いかけていた。

 この相容れない思想の持ち主が、どんな死生観を持つのかを知りたくなってしまった。


「怖いぃ? ははぁ! 人間なんざ死ぬときゃ死ぬんだよぉ! 死ぬのを怖がってんじゃねぇ! 死ななければラッキー! 死んだらそれで終了! それだけわかってりゃ十分なのさぁ!」


「……そう」


 しかし、それは全くの無意味だった。


 やっぱり私はこの人とは相容れない。

 こんな自分の命すら軽いものだと考えている人とは、私は語り合う事などできない。


 だから私は忍の作戦通り、キルとはまともに戦わないという方法をとることにした。


「ならもうあんたと話す事は無いわ。じゃあね」


「……なッ!」


 私は分身を一気に26体追加で生み出し、キル目掛けて前進させた。


 総勢30体にも及ぶ分身体を完璧に操作しきる事は私には不可能。

 それに分身体を出現させただけで脳がオーバーヒートしたかのように頭痛が起こり始める。

 けれど全員単一の動作をさせる程度ならなんとかできる。


 私は分身体をキルへと向かわせ……そして本体である自分はその場に残る。


 キルにとって私は天敵と言っても良いのかもしれない。

 各種生存能力に長けたスキルを持ち合わせている私は、キルが持つ一撃必殺の攻撃を完全に無効化できる。


 キルは自分1人を軽く犠牲にする事ができるのかもしれないけれど、今の私はやろうと思えば99人の分身体を犠牲にする事だってできる。


 残機の数が違う。


 命を投げ捨てる戦術がお得意なら、その戦術を真っ向から押し潰す。

 私の分身体は次々爆風で消え去るものの、キルへの進軍を止めはしない。


「くそがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


 物量に負けてタコ殴りにされるキルを、本体の私は冷めた目で見つめる。


 こうなることは当然の事だった。

 いくら二分の一で当たる爆風で分身体を吹き飛ばそうとも、確率的に全てを吹き飛ばす前にキルのほうが自爆する。

 それにそもそもキルがそれだけの数の攻撃をするよりも、私の分身体がキルを攻撃するほうが断然早い。


 結果として、キルは遠く離れた本体の私に攻撃する事もできず、自らのスキルによってHPを全損させていた。


 そしてキルはその場に倒れる。


「今のうちにっと」


 それを確認した私は、キルに自動蘇生がかかる前に自分のアイテムボックス内へキルを放り込む。

 自動蘇生には死んでから10秒ほどのタイムラグがあるということも、忍から聞いていて知っていた。

 それに厄介な相手はこうしてアイテムボックス内に入れて無力化させてしまうというのも、ここへくる前に行った話し合いで決めていた事だったりする。


「はぁ……結構しんどかったわね」


 私はそこで一度ため息をつきつつ、忍たちのいる方角へと走り出す。


「私がこんな苦労をしてるのはあんたのせいなんだからね……まったく」


 そして私は、今ここにいないリュウへと愚痴をこぼしていた。

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